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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第352話 コロネ、職人さんたちとあいさつする

「うわ、こっちの緑色の方、美味しいわね! コロネ、ありがとう!」


「あー、こっちはやっぱりお酒だよー。シモーヌ、取り替えてー」


「はいはい。だから、言ったじゃないの、ウルル。お酒弱いのに、どうして、そっちを選ぶのかしらね」


「えー、やっぱり、こういうのは挑戦が大事だからねー……あ、ほんとだ、やっぱり、こっちの方が美味しいねー。シモーヌありがとう。あ、もちろんコロネもねー」


「ふふ、でも、こっちの赤いのも、そんなにお酒強くないじゃない。私もあんまり強くないけど、それでも美味しいもの」


 いちごの風味が美味しいわ、とシモーヌが笑う。


「ありがとうね、コロネ」


「いいえ。では、ごゆっくりどうぞ」


 『あめつちの手』の三人が満足そうにしているのを見届けて、このまま、次のテーブルへと向かう。

 けっこう、ゼリーの方を配ったけど、お客さんからの評価はまずまずかな。

 まあ、さっき、リディアから言われたように、『どっちかだけ?』って、不満はちょっとあったみたいだけどね。

 すみません、皆さん。

 今ある、『粘粉』というか、ゼラチンはほとんど使い果たしちゃったんです。

 お一人様あたり、二種類を提供してしまうと、あんまり配れなくなっちゃいますから。


 まあ、ゼリー自体に関しては、プリンに食感が似ていたせいか、別段、忌避感みたいなものはなかったかな。

 もしかすると、スライムを食べているみたい、とか思われるのが心配だったんだけど、そういう意見はあんまり聞かなかったし。

 これも、プリンが浸透してきたおかげかな。

 そういう意味では、プリムの布教活動には感謝なんだけど。


 と、次のテーブルは、知ってる顔と知らない顔が混じっているというか。

 塔にやってくるのがめずらしいな、って人もいた。


「よう、コロネの嬢ちゃん。久しぶりだな」


「コロネさん、いつもお世話になってます、はい」


「びーーー!」


「いらっしゃいませ、エドガーさんに、アストラルさん、ヴィヴィさん。随分と盛り上がってますね」


 大きめなテーブルで盛り上がっていたのは、職人街の顔役でもあるエドガーさんに、プリンの容器を作ってくれているアストラルさん、それに、そのアストラルさんの家族でもある、ちっちゃな火の鳥のヴィヴィだ。

 今日も、ヴィヴィは羽ばたいていないのに、空中に浮いているって感じの謎仕様だけど、相変わらず、何の生物なのか、謎なんだよね、この子。

 その辺はショコラとおんなじだ。

 というか、初対面のはずなんだけど、どこかシンパシーを感じたのか、ショコラもぴょんぴょんと頭の上で飛び跳ねているし。

 いや、さすがに気になるんだけど、ショコラ。


 まあ、それはそれとして。

 同じテーブルに同席した人の多くは、初対面の人だ。

 いや、一応、どこかですれ違ったりはしてるかも、だけど。

 このお店で接客をした記憶はあんまりないかな。

 それは、エドガーさんとかもそうなんだけど。

 だから、何となくぴーんと来た。

 もしかすると、皆さん、職人街に住んでいる人たちかな?

 種族とかも見た感じ、色々だしね。

 そう、エドガーさんに尋ねると。


「ああ。俺の工房で働いているやつらと、職人街でも、パスタが好きな連中に声をかけてな。親睦会みたいなものを開いてたのさ。ちょうど、今やってる仕事の方もひと段落したしな」


「終了」


 あ、やっぱりそうなんだ。

 というか、エドガーさんの後に続いて、ぽつりと一言話したのは隣に座っている女の人だ。

 こちらも初めて会う人だよね。

 年齢は、見た目なら、コロネより少し年上かな。

 グレイの長めの髪をした、きれいな女の人だ。


「お? そういえば、フェイレイが、コロネの嬢ちゃんの前で姿を見せるのは初めてだったか?」


「お初」


「はい、そうですね。他の方も初対面の方が多いですよ」


「そうね、私も直接話をしたことはなかったわね」


「俺も俺も!」


「でも、パン工房とかで、パンとか、フレンチトーストとかは、買いに来たことはあるんだよ? コロネ、有名だもん」


「はは、そうかそうか。そういうことなら、軽く一通り紹介していこうか」


 コロネや、他の皆さんの声に、エドガーさんが笑顔で答える。

 一応、ここにいる人の多くは、エドガーさんの工房の人たちらしい。

 それプラス、アストラルさんたちのように、ご近所の工房の人も一緒に、って感じではあるようだ。

 ここ、けっこう人数がいるからね。


「まず、俺の横にいる、こっちの女の幽霊がフェイレイだ」


「えっ!? 幽霊さん……なんですか?」


 いやいや、まずそこから、びっくりなんだけど。

 というか、ふわわとかアノンとかもそうだけど、けっこう幽霊って多いのかな?

 皆さん、成仏とかしていらっしゃらないみたいだけど。


「よろ」


「はは、よろしく、ってな。まあ、俺と長年一緒にいる、家族って感じだな。口下手なのは勘弁してくれ。これでも、幽霊になった当初よりはしゃべるようになったんだ。少なくとも、俺を始め、工房の人間なら、フェイレイの通訳みたいなことはできるしな」


「うん」


 へえ、そうなんだ。

 エドガーさんによると、このフェイレイさんとは、幽霊になる前からの付き合いなのだそうだ。

 というか、エドガーさんに憑りついている、って聞いて少しびっくりしたけど。

 そういう意味では、同じ幽霊種とは言っても、アノンとかとは少し違うらしい。

 ふわわも幽霊種の中では若い方みたいだけど、それよりも、幽霊になりたてって感じで。


「だから、他のやつらとは違って、常軌を逸したようなことはできないぞ。その辺の人と同化したり、姿を消したりとか、そのくらいだな」


 人の身体の中に隠れたりもできるそうだ。

 いや、それはそれですごいような気もするけど。

 今は、エドガーさんが宿主みたいになっているので、それで、つかず離れずって感じらしいけど。

 同化みたいなことが得意な幽霊さんってところか。

 実体化している時は、普通に足があるみたいだけど。


「まあ、こう見えて、フェイレイは頭がいいからな。うちの工房の金庫番をやってるのもフェイレイだ。というか、『開かずの金庫』に出入りできるのは、こいつだけだから、帳簿も任せているって感じだな」


 いざとなれば、俺も同化して、計算とかチェックできるし、とエドガーさんが笑う。

 というか、『開かずの金庫』って。

 何でも、魔道具化の実験に失敗して、誰も開けられなくなってしまった金庫らしいんだけど、強度とは、安全面では申し分が無いので、エドガーさんの工房で引き取って使っているのだとか。

 そもそも、幽霊の状態で、物を持って壁をすり抜けたりもできるんだ?

 そういうのも種族特性ってやつらしい。

 まあ、そう言えば、前に、うさぎ商隊のブリッツが『精霊化』というか『雷化』した時もアイテム袋は持っていけてたから、そういうものではあるらしい。

 確かに、そうでないと、元に戻った時の服とかどうなってるのか、って話でもあるしね。


「何せ、アイテム袋への収納も拒む仕様になってるからな。巨人種の手を借りて、ようやく運び込んだって代物だ。魔法とかでも壊れないし。そういう意味では金庫としては、なかなかのもんだ」


「一応、工房のスタッフでも、開錠できないか、色々試してるのよ? そっちもちょっとしたトレーニングみたいなものね。もし開けられるようになったら、そっちの技術とかも応用できるでしょうしね」


「なるほど、そうなんですね。ええと……」


「あ、ごめんなさいね。私はララアよ。エドガー親方の工房で働いているスタッフのひとりね。種族は虫人種のアラクネ。蜘蛛の虫人よ」


 繊維素材の生成とか、機織りとかが専門ね、とララアさんが微笑む。

 見た目は、黒髪のショートで、ほっそりとした感じの人だ。

 蜘蛛の人ってのがびっくりだけど、自分でも糸を生み出したり、その糸をつむいだりするのも可能だそうだ。

 そういう意味では、便利な能力だよね。

 看護師のクリスさんもそうだったけど、実は虫人の人って、かなり、有効なスキルを持っているよね。


「で、こっちに座っているのも、私の同僚。同じく蜘蛛だけど、蜘蛛は蜘蛛でも、妖怪種の鬼蜘蛛よ。ツナやんって言うの」


「いや、ララアさん、ツナやんじゃなくて、ツナですってば! あ、失礼しました。コロネさんのことは、妖怪通信で、色々と目にしてますよ。僕は鬼蜘蛛のツナって言います。属性は『ドウジキリ』です。工房では、裁断工程とか、強靭素材の加工とかがメインですね」


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」


 へえ、妖怪さんも職人街で働いているんだね。

 見た目はコロネより少し上か、同じくらいの男の人だ。

 まあ、ツナさんも妖怪だから、年齢不詳ではあるけどね。

 鬼蜘蛛かあ。

 でも、鬼蜘蛛なんて妖怪、あんまり聞いたことがない気がするんだけど。

 属性も何だかよくわからない響きだし。

 『ドウジキリ』って何さ?

 うん、やっぱり、妖怪さんって、色々な人がいるんだねえ。


「一応、糸とかも作れますよ? 蜘蛛ですから。でも、そっちはララアさんの方が得意なものでして。服素材として、適した糸を作れるのも、アラクネの種族特性ですしね」


 なるほど。

 そういえば、向こうでも、アラクネって、元は機織りの職人だものね。

 神様にケンカ売ったって、伝承もあるくらいだし。

 どっちかと言えば、ツナさんは、強力な糸を出せるので、防刃素材とかを任されることが多いのだとか。

 というか、防刃素材とかも作れるんだね。

 鬼蜘蛛の糸で作った鎧とかって、コトノハの衛士さんとかでも正式採用されているのだとか。

 へえ、すごいなあ。


 そんなこんなで、感心しつつ、職人さんたちの話は続く。

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