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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第344話 コロネ、プリンアラモードを作る

「はい、これでプリンができましたよ」


 冷蔵庫で冷やしたプリンを手分けして、各テーブルの上に並べていく。

 その度に起こるのは、ちょっとした歓声や、おおっ、という感じの感嘆の声だ。

 それが何となく嬉しい。


 お昼休憩も終わって、プリン教室も後半戦スタートというわけで、もう十分に冷えたプリンがお目見えしたわけだけど、やっぱり、前に食べたことがある人たちでも、自分でプリンを作ったってことへの喜びは大きいらしい。

 ローズとか、めずらしく目をキラキラさせているし。

 そんな光景には、こちらもほんわかしてしまう。

 元聖女さまって聞いた後だから、なおさらだ。


「一応、皆さんの前には、四種類のプリンが並んでいると思います。基本のプリンがふたつ、生クリームを使ったものがふたつ。それぞれ、湯煎とオーブンで作ったものですね。たぶん、味だけを見れば、あまり変わらないかもしれませんが、ちょっと比較してみてもらってもいいですか?」


 せっかくなので、湯煎とオーブンを使った場合の差について説明しておこうかな。

 ちょっと比べればわかるけど、湯煎のみの場合は、どうしても、『す』が立ってしまうというか、プリンがきれいに仕上がりにくいのだ。


「わかりましたか? オーブンで作った方が、きれいなプリンになっていますよね? これは、どうしても、湯煎だけの場合ですと、煮る際に、温度変化が大きくなってしまうためです。プリンを上手に作るコツは、急激に熱し過ぎないことです。オーブンを使う場合でも、直接に火が当たらないようにしてくださいね。オーブンを使って焼く場合も、湯煎を行なうのは、それが理由です」


「コロネ様、火が当たりますと、プリンに穴が開いてしまうのですね?」


「はい、そうです、プリムさん。部分的に高温になってしまって、それで、その部分が『す』が立ってしまうわけですね。この『す』という現象は、見た目だけではなく、味の面にも影響してしまうんです。特に、舌触りですね。ざらりとした感じの舌触りが混じってしまって、せっかくのプリンの、ぷるんとした食感とか、ふわっとした食感が台無しになってしまうんですよ。実は、温度を安定させるのは、かなり重要な要素なんです」


「なるほど……となりますと、美味しいプリンを作るためには、オーブンか、あるいは、直火による加熱方法以外の、安定した加熱手段を講じる必要がある、というわけですね。冷蔵庫の問題と同様、各自、プリンクラブの会員自ら、色々考えた方が良さそうです」


 納得したように頷くプリム。

 というか、さすがというべきか、それとなく、参加しているみんなにも、いい方法を考えなさい、って促している感じだよね。

 周りにいた人たちも、真剣な表情で話を聞いているし。

 うん。

 できるメイドさんってすごいよね。

 ただ、真面目な話、どこでも簡単に、塔にあるオーブンみたいな設備とか、冷蔵庫みたいなアイテムって、作ったり入手したりできないだろうから、たぶん、それ以外の工夫ってのは大事になっていくとは思う。

 魔法だったり、スキルだったり、周辺環境だったりね。

 ザンの場合、山の中腹の氷室かな? 天然の冷蔵庫を使っているし、そういう意味では、冷蔵庫の代用なんかもアイデア次第では何とかできるかも知れないし。


 直火以外の加熱手段とか、ってことは、そういうのもあるのかな?

 ちょっと、そういうのは興味があるんだけど。


「ですが、そちらは、このプリン教室が終わってからの話ですね。すみません、コロネ様、説明の途中で割り込んでしまいまして」


「いえ、こちらも助かりますよ。えーと、では、話を戻しますね。今日作って頂いたプリンのうち、オーブンで作った基本のプリン以外の三種類は、これで完成ですので、皆さんで、持ち帰って食べてみてください」


 別に、ここで食べていっても構わないとも伝えておく。

 生クリーム入りのふわとろプリン二種と、湯煎で作った基本のプリンは、ここからはご自由にどうぞ、って感じなんだよね。

 ここからの工程で使うのは、オーブンで作った基本のプリンのみ、だ。

 これを基本に、果物や生クリームと一緒に盛り付けていくのだ。


「今までの工程で、プリンを作って頂きました。それで、お菓子作りの面白さを体験して頂ければ、と考えてましたのでね」


 思ったよりも、お菓子って難しくないって思ってもらえたかな?

 それとも、食材とかを考えると、やっぱり今もなお難しいと思われているのかな?

 前者だったら嬉しいんだけど。


 さておき。

 プリン作りを通して、お菓子作りへの関心を持ってもらったなら、今度は次のステップにも挑戦だ。

 まあ、最初だし、うまくいくかどうかはわからないけど。


「今のプリン作りが、お菓子の基本系です。プリンという料理、これは単体ですね。この、ひとつのお菓子で構成されている料理のことを、シンプルデザートと言います。お菓子作りにとっては、このシンプルデザートが基本になるわけです。ここまではよろしいでしょうか?」


「あの、コロネ先生。ひとつのお菓子ということは、アイスとかもそうなんですか?」


「うん、良い質問だね、リリック。もちろん、そうだよ。アイスも、フレンチトーストも、メレンゲクッキーもそう。これらはシンプルデザートね。もちろん、食べてもらったらわかると思うけど、この単体のお菓子だけでも十分に美味しいよね?」


 ちょうど、リリックが質問を投げかけてくれたので、それに乗っかることにする。

 単なる説明よりも、誰かの疑問に答える方がわかりやすくなるからね。


「はい。プリンもアイスもとっても美味しいです」


 そう言いながら、ちょっと不思議そうな表情を浮かべるリリック。

 リリックの言葉に、プリンとか、今までお菓子を食べたことがある人たちも、一様に、美味しかったという感じで言ってくれているしね。

 それで十分じゃないか、って。

 うん。

 シンプルデザートでも十分に美味しいのも事実。

 ひとつひとつ、工程を工夫することで、素晴らしい料理にすることもできるから。

 でも、お菓子作りの楽しさって、それだけじゃないってことも分かってほしいのだ。

 パティシエの作るお菓子。

 その、無限の可能性について、だ。


「もちろん、シンプルデザートは美味しいよ? シンプルであるがゆえに、みんなから親しまれて、美味しく食べてもらえるのも、シンプルデザートの強みだね、うん。でも、ここで、興味を持ってもらいたいのは、シンプルデザートへのプラスアルファ。つまり、足し算であったり、シンプルデザート同士を掛け合わせることによって、新しい味を生み出すということについて、だね」


 たとえば、ケーキ。

 プチガトーって言ってもいいけど。

 ひとつのケーキを作るのに、複数の生地を組み合わせたりしているのは、意外と気づかれていないんじゃないのかな?

 パティスリーで作られているケーキには、ジュレであったり、クッキー生地であったり、メレンゲであったり、複数のクリームであったり。

 たったひとつのケーキの中に、様々なデザートを組み合わせて、それを複雑ながらも、ひとつの世界として、作り上げる。

 たった一個のケーキ。

 幾重にも積み上げられた味を、きれいにデコレーションして、一見すると、シンプルなケーキに見えるかもしれない。

 食べた時に、気付かれない味もあるかもしれない。

 それでも、だ。

 その、味のバリエーションは、気付かれずとも、深みとなって残るから。


『ああ、美味しかった』


 その言葉だけで十分だから。

 その美味しさを積み重ねるために、パティシエは日々努力しているから。

 少なくとも、コロネは向こうで店長に、努力の重要性については、痛いくらいに教わったから。

 味の組み合わせには限りがなく。

 だからこそ、お菓子作りは奥が深く。

 そして、楽しいのだ。

 もしかしたら、明日の自分は、更に新しい味を生み出せるかもしれないから。


 まあ、ここはプリン教室だから、あんまり深くではなくて、純粋に、お菓子作りって面白い、って感じてもらいたいだけだから。

 そのための題材として、プリン・ア・ラ・モードを選んだって感じかな。

 シンプルデザートに果物とクリームを足し算して。

 用意した果物の中から、自由に組み合わせて、自分の好きな飾りつけをしてもらって。

 プリン、プラスアルファの料理を楽しんでもらおう、って。


「というわけで、肩の力を抜いて、お皿にプリンや果物を盛り付けて、好きに楽しんで料理をしましょう、という感じですね。盛り付けに使う果物は、各種それぞれのテーブルに用意されてますしね。では、一応、わたしが見本を見せますね」


 そう言って、まず、白いお皿の上にプリンを乗せる。

 スプーンを使って、きれいにプリンをひっくり返すと、その段階だけで、少しびっくりしたような声があがった。


「へえ、プリンって、そういう風にもできるんですね」


「あの、甘にがいのが一番上に来るんだな。知らなかったぜ」


「お皿に乗せても、形が崩れないんですねー」


「はい。ただ、生クリーム入りの方は、ちょっとひしゃげちゃうと思いますけどね。ぷるぷるしているタイプのプリンでしたら大丈夫ですよ」


 柔らかすぎるプリンだと、さすがにこの盛り付けは向かないからねえ。

 ともあれ、このプリンを軸に、果物を盛り付けていく。

 いちごにキウイとぶどう。

 生クリームを飾りつけに使って、最後にムーサチェリーをプリンに載せて。


「はい、こんな感じですね。プリン・ア・ラ・モード。プリンに果物と生クリームの要素を加えた料理です。こちらを皆さんに作って頂いて、それを試食して、本日のプリン教室は終了となります」


 プリンだけの試食よりも、こっちの方が面白いからね。

 それに、テーブルに用意した果物を自由に盛り付けるってのも、参加している子供たちにとっても楽しいだろうし。


「では、始めてみてください。わたしは各テーブルを回りますので、何かわからないことがありましたら、聞いてください」


『『『はーい!』』』


 調理場中から、いい返事が返ってきて。

 参加者のみんなが、自分のプリンを使って、盛り付けを始めたようだ。

 あー、やっぱり、バナナとかに興味がある人が多いねえ。

 いちごとかキウイも色合い的に悪くないから、けっこう人気があるみたいだし。

 せっかくだから、リリックとマリィにも、一緒に参加してもらっている。

 どういう風に、飾りつけするかちょっと楽しみだしね。


「って、リリック。いちごとバナナばっかりじゃないの、これ」


「はい、コロネ先生。味見した中で、好きなものを載せてみました。好きに飾りつけしていいんですよね?」


「うん、まあ、そうだね」


 プリンの周りがいちごとバナナで囲まれてて、その外側に生クリームで一周しているんだよね、リリックの盛り付けたプリン・ア・ラ・モード。

 まあ、これはこれでありなのかなあ。

 見た目としては、けっこう面白いし。

 ふふ、これは色々な飾りつけが見られそうだねえ。


 そんなこんなで、みんなが一生懸命飾りつけしているのを見て回るコロネなのだった。

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