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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第1章 はじめての異世界 ~食材探し奔走編
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第34話 コロネ、陶芸家に会う

 ハチミツを買った後、コロネは青空市でウインドーショッピングをしていた。

 もう手持ちのお金はないが、どの商品がいくらぐらいなのか、簡単な物価を把握しておく必要があったからだ。


 主食となりそうなのは、小麦とライ麦、あと、とうもろこしの粉のようなものも見つかった。まあ、小麦やライ麦については、大体の住人がパン工房でパンを買ってしまうらしく、ほとんど売れないのだそうだ。市場で売っている小麦粉も、硬質小麦のようで、どうやら、この町で生産している小麦は一種類のようだ。

 他の町へ行ってみないとわからないが、やはりオサムは別のルートから軟質の小麦を仕入れているので間違いないだろう。

 いや、風の上級魔法とやらで、無理やり作っている可能性もなくはないが。


「やっぱり、他の町から来ている人は、ほとんどいないみたいだね」


 普通の人にとって、魔王領の側というのは怖いのだろう。

 それでも、商魂たくましい人が来てもおかしくはないと思っていたのだが。

 ボーマンと会ったので、そのことも聞いてみると。


『興味本位で、この町に入ろうとしても、門で制限されるからなあ。特に商人はよほどのことがなければ、許可が下りないだろうなあ。他の町の商業ギルドでも、そのことは通達しているぞ。いたずらに近づいても痛い目を見るだけだってなあ。まあ、事情が事情だから、おじさんもしょうがないと思うぞ』


 外の商人イコール面倒事。

 そういう図式が成り立っているのだとか。

 それでも、商業ギルドがお墨付きを与えた商人が出入りすることもあるらしいが、そういうケースはまれで、ほとんどの場合は、町の関係者が商人として外へ行って、物流を担っているのだそうだ。

 門番が問題なし、とした町の人間なら心配ないからだとか。


『まあ、商業ギルドとしても、危ない橋は渡りたくないからなあ。少なくとも、この町のギルドが外の商人を承認することはないぞ。ああ! まずい! 偶然ダジャレだ! おじさん、恥ずかしい!』


 うん。

 それはさておき。

 

 野菜なども売っている。

 町の北東部にある区画には、ブランの家以外にも、何件も農家があるようだ。

 手頃な値段で、朝採りの野菜が売り出されていた。

 面白いのは、自動翻訳スキルが、物によってはぶれていたり、そのまま向こうの名称で見えたりすることだろうか。

 たとえば、トマトやじゃがいもはそのままだ。

 何か意味があるのだろうか。

 後で、覚えていたら、オサムにでも聞いてみよう。

 さすがに、このスキルについてはこっちの人には相談のしようがないし。


「あ、こんなところに陶器のお店がある」


 青空市の中でも外れのところに、その店はあった。

 紺色の作務衣のようなものを着た青年が陶器を売っている。

 歳の頃は、コロネより少し上だろうか。

 ほっそりとして、気が弱そうな印象の男の人だ。


「すみません、ちょっと見せてもらってもいいですか?」


「は、はい。どうぞ。いらっさいませ……じゃない、いらっしゃいませ」


 人見知りなのかな。

 コロネに対して、少し緊張しているようだ。

 これで商売になるのだろうか。


 まあ、いいや。

 とりあえず、売りに出されている商品を見ていく。


「あ、これは、オサムさんのところの茶碗蒸しのやつだ。そっか、ここで買ったんだね」


 プリン用に借りたので、はっきりと覚えていた。

 そっくり同じ文様の陶器がいくつも並んで売り出されていた。


「あ、はい。よく、ご存知で。オサムさんには、ごひいきにしてもらってます、はい」


「それじゃあ、もしかして、塔の食器もあなたが作っているんですか?」


「陶器に関しては、そう……ですね。色々と、発注を受けてます、はい」


 青年は、名前をアストラルというそうだ。

 この町の東側にある職人街で、陶磁器を作る工房を持っているのだとか。


「僕、どんくさい性格で、何をやっても、うまくいかなかったんですが、オサムさんに陶器について教わりまして。何とか、生活できてます、はい」


 この世界で、食器と言えば、金属のものか木のものがほとんどであるため、陶器というのはまだあまりなじみがないのだそうだ。たまにこうして、市場に売りに来るが、ほとんど売れることはないという。


「それでも、オサムさんを始め、料理人の方には好評です、はい。ですので、定期的な受注があります」


「ですね、確かに料理人なら惹かれるものがありますよ。味のある色合いをしてますもの」


 基本は和食などに合いそうだが、パティシエとしても、盛り合わせのデザートなどで、陶器を使うと、飾り盛りがグッと映えるのだ。

 コロネが修行していたお店でも、有名ブランドの食器に加えて、日本製の陶磁器などが使われていたりしたのだ。店長の好みでもあったし。


「あ、もしかして、料理人の方ですか?」


「はい、料理人のコロネと言います。少し前から、オサムさんのところで働かせてもらってます」


「ああ! あのジャムパンの人ですか! 僕も食べましたよ!」


 いや、ジャムパンの人って。

 たぶん、アルバイトの人たちからの情報だろうけど。

 どんどん、自分のイメージがおかしなことになってきているような気がする。


「そんな、すごい人に、興味を持ってもらえるなんて光栄です、はい」


「いえ、そんなすごい人じゃないですから、あんまりかしこまらないでくださいよ。それに今日は、何となく面白そうなお店だから見せてもらっていただけで、また改めて、買いに来たいと思っています。このお店って、いつもやっているんですか?」


 手持ちがあれば、プリン用の陶器は買っていただろう。

 ちょっと残念だが、仕方ない。


「すみません、青空市に来るのは不定期なんです。もしよろしければ、僕の工房まで、足を運んで頂けますか? そちらでしたら、いつでも対応できると思います。個別で、発注も受けられますし、はい」


 工房の方が、色々な作品を置いてあるとのこと。

 確かに、露店で売り買いするよりも、そっちの方が陶器に優しいだろう。

 アストラルの言葉に、コロネも頷く。


「僕の工房は東の職人街でも、南側の外れにあります。『ビゼン』という名前です。店の前に看板がありますので、それでわかると思います、はい」


「『ビゼン』ですか? わかりました。ところで、そのお店の名前って由来は何でしょうか?」


「ああ、この名前は、オサムさんの命名ですよ。何でも、僕に合った陶器の作り方が、その名前にぴったりだったそうです、はい」


 まあ、そうだろうな、とコロネが頷く。

 もしかすると、こっちの世界にも日本に似た地方があるのかと思ったが、そういうわけではないのだろう。いや、ムサシなどはそっち系かも。まだ、よく分からないけど。


「それでは、後日、改めて工房の方におうかがいします。その時はよろしくお願いします」


「こちらこそ、です。お待ちしておりますよ、はい」


 アストラルにお礼を言って、立ち去る。

 それにしても、少しずつ、世界が広がっていくような気がする。

 その感覚が、今は楽しくて仕方がない。


 鼻歌交じりで、塔へと戻るコロネなのだった。

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