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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第343話 コロネ、セイレーンの相談に悩む

「ところでコロネさん、プリンの作り方に関するご相談なんですが」


「はい、なんでしょうか?」


 カスティがプリンについて尋ねてきた。

 あ、そう言えば、そもそも、お昼を一緒に食べに来たのって、プリンの作り方で聞きたいところがあったからだものね。

 コロネはコロネで、西大陸の話に興味があったから、すっかり忘れてたよ。

 ちなみに、スザンヌさんはと言えば、ほうじ茶のお代わりを継ぎ足してくれた後で、他のお客さんのところへと行ってしまった。

 今、お昼時だものね。

 順調に、新しいお客さんとかも増えているみたいだし。

 一応、『ごゆっくりどうぞ』とは言ってくれたけど。


 さておき。

 プリンの話だ。

 というか、プリンの話って何だろう、って感じだけど。


「あのですね、コロネさんはお菓子作りの時は、分量の正確さや、調理温度と時間の管理が重要とご説明されておりましたよね?」


「そうですね。他の普通の料理と比べましても、材料の計量とか、温度調節とか、焼きあがりのタイミングの見極めが大切になってくるとは思いますよ」


 美味しいお菓子を作るのに、あんまりやってはいけないのが目分量と、何となくで調理するということだし。

 そういう意味では、やってることはかなり化学的なんだよね。

 分子料理なんて単語が辞書に載っていたくらいの時代だし、お菓子作りだけじゃなくて、普通の料理自体も科学、化学の要素が重要視されているというか。

 その辺は、向こうの店長の受け売りだけど。

 とは言え、だ。

 そういう部分を突き詰めていくことで、美味しさの深みみたいなものまでたどり着けるのかなあ、とは思っている。

 料理人の勘とかの要素を否定するつもりはないけど、それだけだと、どうすれば美味しくなるのか、って部分がおざなりになっちゃうというか。


「はい。そこで、ご相談なのですが、この温度とかの基準は、私たちの住んでいる浮島でも、適用できるのでしょうか?」


「えっ……? あっ! はいはい、そうですよね。浮遊群島って、かなり高いところにある島ですものね」


 あ、そっかそっか。

 もしかして、地上とは環境が違うのか。

 まあ、そうだよね。

 むこうの世界でも、高所での調理って、気圧とかの影響で、大分条件が変わってきてしまうわけだし。


「カスティさん、その『エルモの巣』の場合、どのくらいの高さに浮いているんですかね?」


「すみません、さすがに高さを計ったことはないと思うのですが……」


「うーん、神獣様だったら、知ってるかもしれないっぴが。そもそも、高さが分かれば、どうにかなるっぴか?」


「あー、そうですよね」


 仮に向こうと同じような条件というか、法則だったとしても、そもそも、そんな場所で料理なんてしたことないものね。

 一応、カスティやブリの話だと、『エルモの巣』自体は神獣さまの結界で包まれているので、完全には『巣』の外側の環境と同じってわけじゃないらしい。

 さすがに、セイレーンとか、その他の神獣さまの眷属さんたちが、住みにくいだろうから、ちょっとは環境をいじってはいるみたいだけど。


「それでも、地上とは大分異なりますよ。今も、私たちは三人とも、こちらの環境に適応するために、スキルを常時使っている状態ですから」


「あ、そうなんですか?」


 へえ、今も使用中ってことなのか。

 というか、環境に適応するスキルとかもあるんだね。

 それはちょっと便利そうだよ。


「そうそう。というかね、コロネ。そのために、神獣様がわたしたちのご先祖を眷属にしたんだからね? さっきも言った『エルモの加護』。それが、適応のためのスキルだから」


「そうだっぴ。今も、目に見えない薄い被膜というか、神獣様の障壁が身体を包み込んでいる状態なんだっぴ」


 なるほど。

 だからこそ、その加護と引き換えに色々やってるってわけか。

 浮島の外。

 浮遊群島の本来の環境にも適応できるように。

 そして、高低差のある地上との行き来を可能にするために。

 そのために、その『エルモの加護』っていうのが必要不可欠ってわけか。

 さっきまで、ちょっといい加減なイメージだった、その神獣さまだけど、やっぱり、そういう意味ではすごい存在なんだねえ。


「おそらく、適応系のスキルは、他の『~の民』と呼ばれる方々も持っているはずですよ? それが人間種から、別種へと進化した証のようなものですから」


「へえ、そうなんですね? ということは人魚さんとかも?」


「あ、コロネ先生。確か、人魚種の『水中呼吸』のスキルが、それと同時に水中環境への適応展開のスキルだったと思いますよ。ずっと前の定期講習会で、そのことが話にあがっていましたから」


 それはすごいね。

 というか、リリックも色々と知っているよね。

 シスターの時の経験もそうなんだろうけど、やっぱり、このサイファートの町で開かれる定期講習会って、かなり踏み込んだ知識とかも研究対象になっているみたいだし。

 スキルに関する検討とかも、そうみたいだしね。


 ともあれ。

 人魚種もその、『加護』みたいなものを持っているんだね。

 だから、海神様の眷属みたいな噂が流れているのかな?

 それに関しては、人魚さんたち本人も知らないみたいだったけど。


「つまり、その適応系のスキルがないと、浮遊群島とか、人魚の村とかって、行くのが難しいってことなんですね?」


「そうですね。ただ、私たちと同行という形でしたら、神獣様のご加護の範囲を広げることも可能ですが。先程、このお店まで移動するのに使いました『限定付与』でも、障壁は発動しますからね」


「あ、そうなんですか!?」


 カスティによれば、適応系のスキルと『限定付与』は相性がいいらしい。

 なので、お客さんという形なら、別に能力を使うことも難しくないのだそうだ。

 そもそも、そのお客にもし害意があれば、能力を切ってしまえば、そのまま、周辺の厳しい環境が襲い掛かってくるので、一石二鳥という感じらしい。

 うん。

 すごいけど、何というか、本当に信頼関係が生まれていないと、どっちかと言えば、生殺与奪を握られているというか、何というか。

 やっぱり、こっちの世界って、そういう部分ではシビアだよね。

 ほのぼのはしてるけど、この町の人を見てても、油断も隙もあったもんじゃないって感じなんだもの。

 まあ、それは向こうでも変わらないかな。


「まあ、そうは言っても、『巣』の結界の中も、地上とは大分違うからねえ。ほら、前に『巣』に地上からの人っぽい、迷い人が飛ばされてきたけど、神獣様のお手伝いがなかったら、息を吸うのも大変だったじゃない?」


「そうだっぴ。『下』の方は、風のかたまりがいっぱいに満ちているっぴが、『上』はそうじゃないっぴ。なので、魔素を風に変換して、身体に取り込んでいるんだっぴ」


 それは『上』で暮らすものの基本だっぴ、とブリが真面目な顔で言う。

 つまり、ここでの『風のかたまり』ってのは、空気とか酸素ってことだよね?

 うわ、浮島って、夢の島って感じだけじゃないんだ。

 実は、けっこう、過酷な環境ってわけなんだねえ。

 ちょっと行ってみたいなあ、って気楽に考えてたけど、決してお手軽に行けるような場所じゃないらしい。

 というか、魔素すごいね。

 何でもありというか。

 どうも、人魚さんの『水中呼吸』も魔素変換で、水中で酸素を生み出して、そのまま取り込んでいるって感じらしいし。

 そっちの話も、後でイグナシアスさんとかに聞いてみようかな。


 ともあれ

 はっきりしていることがひとつ。


「となりますと、地上の分量とかを基準に、色々と試行錯誤するしかなさそうですね。わたしも、高所での料理なんて、向こうでもあんまりやったことがないですし」


 まあ、店長について行って、スイスとかで調理したのが、一番の高所調理かなあ。

 お菓子を作るためにも、砂糖とか、水とか、小麦粉の分量を調整しないといけなかったのは覚えているけど。

 後はオーブンの温度とかも工夫が必要なんだよね。

 パンとか作るなら、発酵手順を少し変えないと、パンが膨らまないし。


 何にせよ、だ。


「わたしが直接行って、料理でもしない限りは最適な分量とか、調理法とかは、ちょっと難しいですかね。かと言いまして、すぐに行けるような場所でもなさそうですしね」


「そうですね。私たちもこの町に来るのに、団長さんのご厚意で、という部分が強いですしね。そもそも、いざ、コロネさんを受け入れるにしても、神獣様や他のみんなとも話をしないといけないですし」


「うん、中央の人間種を怖がっている人とかもいるもんね」


「まあ、その辺は、実情を知らないだけだっぴが、いきなりとなると、混乱することが必至だっぴ。もしそうするにしても、もうちょっと準備が必要だっぴ」


 あ、そうなんだ。

 セイレーンさんにも色々な人がいるようだね。

 というか、こっちの人間種って、本当にあちこちとのトラブル多すぎ。

 たぶん、それで話が進まないことも多いんだもの。


「心配いりませんよ。多くのものは、この町の人への信頼が大きいですから。それも、お料理のおかげですけど。ともあれ、プリンの件は、ちょっと様子見の方が良さそうですね。乳製品の代用の問題もありますし」


 ちょっとだけ、残念そうに頷くカスティ。

 見てるとちょっと申し訳なく思うよ。

 せっかく、プリン教室に来てもらったのに。

 とりあえず、コロネがもし、『エルモの巣』に行けるようになったら、そこでの正しい調理法を改めて、って感じで収まった。


「わかりました。その方向で、わたしも頑張りますね」


「ま、コロネのせいじゃないから大丈夫。プリムさんからも注意されてたしね。『プリンクラブ』に所属していない人に、プリンの製法を勝手に伝えるの厳禁、って」


「ですね。ですので、当分は、こちらの町を訪れた機会にでも、購入させていただければ、という感じですね」


「はい!」


 あー、やっぱり、プリムから注意とかはあったのか。

 あのメイドさんも色々と手を打ってくれているよね。

 ほんと、隙がないよ。


「それじゃあ、そろそろ戻るっぴ。あんまりゆっくりしてると、時間に間に合わないっぴよ」


「そうですね。それでは、プリン教室の続きに戻りましょうか」


 ブリの言葉に、それぞれが身支度を整えて。

 とうめしセットの支払いを済ませて。

 そんなこんなで、塔へと戻るコロネたちなのだった。

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