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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第342話 コロネ、お豆腐の産地に驚く

「いやあ、美味しかったっぴね」


「うん! もうおなかいっぱいだよー」


「なかなかのボリュームでしたね。このとうめしセット」


 ひとしきり食べ終えて、みんなが満足そうにしているね。

 もちろん、コロネもとっても美味しいって思ったし。

 ただ、見た目以上に、このとうめし、ボリュームがすごかった気がするよ。ごはんもそうだけど、お豆腐の密度もかな。

 かなり食べごたえがあったもの。

 この量をぺろりと平らげちゃうショコラもすごいと思うけど。

 うん?

 よく見ると、またショコラの身体が一回り大きくなってるよね。

 まあ、自分の身体とそんなに変わらない量を食べて、その程度で済んでる辺りは、大したもんだと思うけど。

 満足そうにぷるぷるしてるけど、いつもより踊りにキレがないし。

 実はかなり満腹なんじゃないかな。


「やはり、このお豆腐はいいですね。美味しいですし、空大豆で作れるというのは魅力的ですし。できれば、作り方を知りたいですね」


「ねえねえ、コロネはお豆腐の作り方って知ってる?」


「え? お豆腐ですか?」


 えーと、お豆腐の作り方ねえ。

 確か、大豆を水に漬けて膨らませておいて、その後でミキサーにかけるんだよね?

 後は煮込んだり、布でこして絞ったり、にがりを入れて、固めたりとか何とか。

 そんな感じだったような気がするけど。

 一応、そう言いながら、はて、と思う。

 にがりってどうやって作るんだろ?


「にがり、ですか? それが、大豆の汁をお豆腐みたいに固めるのに必要ってことですか?」


「はい、確かそんな感じでしたよ。わたしもうろ覚えですけど。ただ、そういえば、にがりってどうやって作るんでしょうね? わたしがいたところですと、普通にお店とかでも売ってましたから」


 さすがに、一からにがりを作ったことはないからねえ。

 お菓子作りで豆腐を使うことはあったけど、それにしたところで、豆腐作りがメインってわけじゃなかったし。

 ヘルシーなお菓子って意味だと、意外と面白い感じではあったけど。

 にがり、にがり、か。


「あら? にがりがどうかしたの?」


 みんなで、そのにがりについて頭をひねっていると、そこにお茶のお代わりを持ってきたスザンヌが現れた。

 あ、ちょうどいいや。

 もしかしたら、スザンヌさんも、この店で使っている食材について、詳しく知ってたりしないかな?


「あ、スザンヌさん。こちらのセイレーンさん……カストリアさんたちが、お豆腐の作り方を知りたいって仰ってまして。それで、わたしの方で把握している部分を思い出していたんですが……。ここのお豆腐ってお店で作っているんですか?」


「そうねえ、メニューによっては、サイくんが手作りしているものもあるわね。大部分は、お豆腐の原料……空大豆ね。それを生産しているところで作ったものを仕入れている感じかしら」


「あ、そうなんですか?」


 へえ、もうすでにできているお豆腐を仕入れているのか。

 このお店の空大豆を仕入れている場所、ね。


「スザンヌさん、ちなみに、その仕入れ先について教えてもらうことってできます? もしかして、西大陸の浮遊群島産とかですか?」


「ええ。今のコロネちゃんなら大丈夫よ。そちらの皆さんもサーカスの人なんでしょ? だったら、別に、魔王都とかにも足を運んでいるでしょうから、もうすでに条件はクリアしてるしね。この店の空大豆というか、お豆腐は、『魔の山』で作っているものよ」


「『魔の山』ですか?」


 また、どこか、迫力のある名前が出てきたねえ。

 たぶん、その名の響きから、『魔王領』のどこかにある場所だろうけど。

 と、ちょっとだけ疑問に思う。


「あれ? スザンヌさん、空大豆って、空の上じゃないと実がならないんじゃなかったんですか?」


 『魔の山』ってことは、山だよね?

 確か、空大豆って、地上だと育ちはするけど、豆が採取できないって聞いていたんだけど。


「ええ。その認識で間違いないわよ。ただ、『魔の山』って、『魔王領』の北側にあるんだけど、その山……というか、山脈ね。その高さが普通じゃないの。中央大陸で一番高い山でも、ようやく雲に届くってくらいなんだけど、その『魔の山』はそれよりもずっとずっと高いんだもの」


「えっ!? そんな山があるんですか!?」


 スザンヌの話だと、前にコロネも行ったことがあるザンとか含む、『霊峰七山』が中央大陸では一番高い山々なのだそうだ。

 で、その『魔の山』はと言えば、その『霊峰七山』の何倍も、何十倍もあるのだとか。

 さすがに直接目にしないと、高さの想像がつかないんだけど。

 一応、レーゼさんを基準にしても、それよりも全然高いのだそうだ。

 たぶん、普通に一万メートルとか越えてそうだねえ。

 さすが異世界。

 ちょっと規模が違う感じだよね。


「要は、空大豆を育てるのに必要な環境って、高度なのよね。だから、オサムさんが『だったら、別に竜の郷とかでなくても、高い山の上でも作れるんじゃねえの?』って、『魔王領』の高山地帯で、空大豆を植えたのが、そこの産地の始まりよね。『魔の山』って、ハイランダーと呼ばれる高地種族が住む山なの。魔族の中でも変わり者が多いエリアって感じかしら」


 そこでお豆腐を作ろうっていうんだから普通の発想じゃないわよね。

 そう、スザンヌも苦笑する。

 何でも、当初はあのアキュレスですら、反対だったそうだ。

 そのくらい、そこに住んでいるのは気難しい種族が多かったらしい。

 それが、なぜか、十年で豆腐の産地になっている、と。

 うん。

 世の中、やってみなくちゃわからない、ってね。

 ここでの教訓は、何事も物は試しってことらしい。


「なるほど、高い山で空大豆を、ですか。勉強になりますね」


「ふうん? その『魔の山』って、浮遊群島より高いのかな? さすがに、そっちは行ったことないしね」


「確か、東大陸の北部と中央部を完全に分断している山だっぴね? 前に神獣様から聞いたことがあるっぴ。てっぺんの辺りは『空間変動』が多発してるから、絶対に近づくなって言われたっぴよ?」


「うわ、そうなんですか!?」


 ブリジットの言葉にちょっと、いや、かなりびっくりだ。

 普通に『空間変動』が起こり続けている場所なんてあるの?

 コロネが今まで聞いた、こっちの世界の災害の中でも、かなりまずいものだって話なんだけど、その『空間変動』って。


「らしいわね。一定高度以上は、立入禁止らしいわ。なので、登頂達成者がゼロっていう曰くつきの山ってね」


 だから、『魔の山』って言うの、とスザンヌが苦笑する。

 別に、正式名称が『魔の山』ではないらしいけど、とりあえず、下を通っているトンネル以外では、その山を通過することは難しいのは間違いないそうだ。

 上空は飛行禁止。

 山越えも厳禁。

 下手をすると、『空間変動』に飲まれて、二度と戻ってこられなくなるから、と。

 そのため、『魔王領』の北部に行くには、トンネルを通るか、横の海路を使う以外は方法がないとのこと。

 いや、すごいけどさ。

 聞けば聞くほど感じるのは。


「……オサムさん、そんなところで大豆を作ってるんですか?」


「まあ、なんだかんだ言っても、お豆腐の製法はそこまで厳しくないけど、調味料類はまだ、秘密のままだしね。そういう意味では都合のいい場所なんじゃない? この町の『塔』以外では、そこでしか大豆産の調味料は作っていないらしいしね」


 あ、なるほど。

 そこも、醤油と味噌の生産拠点のひとつなのか。

 まあ、そもそも、原料の大豆もそこで作ってるわけだしね。

 で、それらを作るのは、魔王様でも手に負えない人たち、と。


「ということは、お味噌の製法は秘密ってことですか?」


「ええ、そうよ、セイレーンさん。というか、お味噌とお醤油は、私やサイくんでも詳しい製法は知らないもの。一応、材料くらいは何となくわかるけど、いざ作ってみるとなると、かなり難しいと思うわ」


「あ、そうなんですか?」


 へえ、けっこう、厳しいんだね。

 基本は、本当にこの町でしか流通させていないのだとか。

 さすがにアキュレスやプリムは知っているだろうけど、それでも、今のところは、魔王都ですら、これらの調味料を市場に流す予定はないとのこと。

 ということは、コロネが知っている作り方も伝えたらまずいってことか。

 もっとも、コロネの場合、知っているだけで作ったことはないから、そう簡単には再現できないだろうけどね。

 発酵のために適した麹菌とか、どこにあるのかわからないし。


「そうですか……残念です」


「まあ、そうがっかりしないで。お豆腐とかだったら、条件次第で製法を教えてもいいってことみたいだし。その辺は、オサムさんに相談した方がいいわね」


「あれ? コロネも作り方知ってるんじゃないの?」


「あ、そうなの、コロネちゃん?」


「えーと、いえ、わたしの場合、にがりの入手方法がわからないので、そこでつまっちゃうんですけど。と言いますか、スザンヌさん。これ、豆腐の製法もオサムさんを通さないとまずいってことですよね?」


 ちょっと余計なことをしちゃったかな、と反省だ。

 オサムにも考えがあるのなら、勝手にそういうことしちゃダメだよね。


「あら、別にいいんじゃないの? オサムさんも、『俺が知っているんだから、他にも知っているやつがいるだろうしな。別にそこまで独占にこだわってるわけじゃないぞ』って言ってたしね」


 スザンヌ曰く、商売上の武器として使うことはあっても、それが仮に広まってしまっても、それはそれで構わないっていうのがオサムのスタンスらしい。

 料理ってのはそういうもんだ、と。

 味の著作権とか言ってる暇があったら、もっと美味いものを作るって。


「ふふ、基本的に、模倣上等、ものまね上等、味を盗むのもまたしかり、ってね。結果的に、その方が味の世界って広がっていくんですって。ただし、何でもかんでも教わったら進歩がないから、その辺は、色々工夫してるみたいだけどね」


「なるほど」


 あー、そういうことなら、コロネもちょっとは考えた方がいいのかな?

 リリックを見ながら、何となくそんなことを考える。

 でも、まあ、基礎は大事だよね。

 うん。

 そこまでは、しっかりと教えようかな。

 お豆腐の話から、なぜか、そんなことを考えるコロネなのだった。

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