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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第338話 コロネ、プリン教室を始める

「はい、これで焼き上がりですので、オーブンから取り出して、冷蔵庫で冷やしたらできあがりですね」


 オーブンから焼きあがったばかりのプリンを取り出すと、周囲から、わあっ、という歓声のようなものがあがった。

 ちなみに、これは、一番最後の作り方を教えた分だ。

 家庭でも比較的作りやすいように、オーブンを使わずに、湯煎でプリンを作る方法で、生クリームが入っているのといないのの二種類。

 そして、今教えたのが、オーブンを使っての、同様の二種類。

 計四パターンのプリンを作ってみたのだ。


 ただ、やっぱり、どうしても冷蔵庫はネックになるかな。

 焼きあがったプリンを冷ます工程だけは、各人の工夫による、という感じになってしまわざるを得ないし。

 湯煎のみの方法にしても、家のかまどとかだと、どうしても加熱温度が上がってしまうだろうから、オーブンを使ったものよりも綺麗に仕上げるのは、かなり難しいし。

 まあ、その辺は、お店のプリンとの差別化ということで勘弁してもらおうか。


 やっぱり、湯煎で参加者の皆さんに作ってもらった分は、どうしても、すが入っちゃってたりしたものが多かったし。

 いや、コロネにしたところで、火加減の調整というか、お湯の温度の見極めがかなり難しいから、ある意味、実践しながらもけっこう緊張したんだけどね。

 失敗したら申し訳ないし。


 ともあれ、見た感じは、同じような手順を四回繰り返したせいか、プリンの大まかな作り方に関しては、わかってもらえたかな。

 器の注意点とか、使う材質によっても、微妙に温度を調節しないといけないとか、そもそもの材料集めの件とか、もちろん、冷蔵庫の問題もね。

 そういう、細かい部分での、不十分な点はあるけど、後は、むしろ、足りない部分を工夫して補ってもらって、新しいプリンの作り方へと、それぞれが進化させてくれれば、むしろ嬉しいかな。

 冷やす工程も、アイちゃんの『氷結結界』みたいな魔法とか活用したりとか。

 こっちならではのプリンの製法とかも生まれるかもしれないし。

 うん、夢が膨らむね。


 後は、手分けして、プリンを冷蔵庫へと運んでもらって。

 ひとまずは、これで、前半の作業は終了だ。

 もうそろそろお昼になるので、ちょっと早いお昼休憩の後、冷やしたプリンを使って、残りの工程をやっていく感じかな。


「皆さん、お疲れ様でした。これで、後はプリンが冷えるのを待って、続きの作業を行ないますので、その間、ちょっと休憩をとりたいと思います。もうじき、お昼ごはんの時間ですし」


「ですね。この時間でしたら、大体のお店が営業しておりますものね。一応、事前にコロネ様より、ご相談を受けておりましたので、一階のパン工房より、ランチのセットも確保いたしておりますが、他のお店のお料理をご希望される方は、ご自由に行っていただいても構いませんよ。あまり、自由にこの町に来られない方もいらっしゃるようですしね」


 プリムがそう、補足してくれた。

 各人、好きなお店に行って、ごはんを食べてくれていいんだけど、その代わり、時間までには戻ってきてほしいって感じだ。

 後は、大体どこのお店でも、一食銀貨一枚前後だから、そっちが厳しい人には、パン工房のランチセットを用意してあるってところだね。

 まあ、そっちはあくまでも念のため、って感じらしい。

 一応、そのくらいは、それぞれが持っているだろうし、なくても、換金するので、ここに来る際は、自分たちの土地の名産品を持ってくるように伝えてあるのだそうだ。

 それを買い取って、お金に替えれば問題なしってことみたい。


「はいはい、それじゃあ、『週刊グルメ新聞』による、食べ歩きマップを配るよー。さすがにどこまで行っても、休憩時間内に戻って来れると思うけどね。あんまり、遠くのお店まで行かないように」


 アノンが説明する横で、リッチーとアンジュがせっせと、食べ歩き情報の載った、一枚のマップを配っている。

 というか、この町からの参加者の人たちも普通に受け取っているんだけど。


「あー、まあ、今日のオススメとかも情報として反映してるからね」


 割とすごいでしょ? そう、アノンが笑う。

 いや、本当にすごいね、『グルメ新聞』。

 前も時間新聞とか配ってたし、実はかなり早く情報を新聞化できるんだね。

 どうやってるのかまでは知らないけど。


 ともあれ。

 地図を受け取った人から、どんどん休憩へと入っているね。

 プリムも、マリィとムーのレイさんを連れて、パン工房の方へと言っちゃったみたいだし。

 今から、パン工房のランチセットの希望者の対応をするらしい。

 コロネやリリックもそっちを手伝った方がいいかなあ、と考えていると、横から声をかけられた。


「コロネさん、リリックさん、先程はありがとうございました」


「あれ、冷えたら食べごろなんだよね? 楽しみー」


「オーブンの方は、難しいっぴ。後は、食材の方も代用が必要そうな感じだっぴ」


 サーカス団員で、西大陸の浮遊群島出身の三人。

 セイレーンのカストリアさんとポーラックさん、それに、ヘヴンスワンのブリジットさんだ。

 亜麻色の長めの髪に、コロネより大分背が高い感じの方がカストリアさんだ。

 薄緑色をした羽衣のような服に、背中からは大きな羽が生えているのが印象的だ。

 近くでよく見ると、天使のようなふんわりしたイメージの羽ではなく、力強く羽ばたくためのものという感じで、どこか野性的な感じも受ける。

 荒鷲とかまではいかないけど、実用的なものというか。

 

 ポーラックさんの方は、コロネと同じくらいの背で、髪は金色のくせっ毛。

 衣装もカストリアさんと同じように羽衣ではあるんだけど、うすピンク色というか、淡くてちょっと温かみのある感じだ。

 よく笑って、よく驚いて、という感じかな。

 感情の起伏がはっきりしているというか。

 話していて楽しくなるタイプだね。


 ブリジットさんは、向こうで言う白鳥の姿にそっくりだ。

 特に、羽ばたいて飛んでいる時は、あまり大きくはないんだけど、なかなかの迫力というか。

 今日もプリン教室では見学しているだけだったんだけど、それでも、かなり色々なところを見てくれているようだ。

 西大陸の方だと、普通にホルスンなどの乳製品を入手するのが難しいそうだ。

 一応、教会経由で、バターやチーズは入って来るけど、そもそも、浮遊群島の上の方には、ホルスンのような牛型モンスターはいないので、別のモンスターの乳などを代用する必要があるのだとか。


「そうですね。たまごでしたら、コッコ種が『上』にもいますので、そちらは問題ないのですけど」


 そう言って、カストリアさんが苦笑して。

 そのまま、表情を改めて、こちらへと向き直って。


「あの、コロネさん、リリックさん。もしよろしければ、お昼のごはんをご一緒しませんか? 私たちは他の方たちと違って、あまりこの町に来られませんので、もう少し、プリンなどに関して、お聞きしたいことがありまして」


「あ、はい。わたしは大丈夫ですよ、カストリアさん。リリックはどう?」


「はい、コロネ先生。私も問題ありません。お付き合いします」


 コロネの言葉に、リリックもにっこり笑って、頷き返す。

 というか、このお誘いは願ったり叶ったりだしね。

 コロネとしても、ちょっと、西大陸がどんなところなのか、聞いてみたいと思っていたし。

 ちょうどいいきっかけというか。


「というわけで、大丈夫そうですね」


「ありがとうございます」


「えーと、一階のパン工房で、ランチセットということでいいんですか?」


「あ! できれば、他のお店がいいかな。ほら、ここのお店! 空の食材を使っている料理が食べられるって言うし!」


 横からポーラックさんが、先程配られた地図を差し出してきた。

 えーと、どれどれ?

 あ、そっかそっか。

 三人が行きたいお店って、サイくんがやっている『おでんの一つ目』だね。

 そう言えば、コロネも本店の方はまだ行ったことがないしね。

 そのうち、顔を出すって言ってたから、これもちょうどいいかな。


「いいですね、おでん屋さん」


「はい。何でも、空大豆を使ったお料理が、ランチメニューの人気だと聞いてます」


「あ、そうなんですね」


 どうやら、この食べ歩きマップを見る以前から、そのことを知っていたらしい。

 噂とかで聞いたのかな?

 というか、サイくんのお店もすごいねえ。

 西大陸の人にも、そういう話が知られているなんて。


「そうだっぴ。とうめしとおでんがセットになっているメニューがあるそうだっぴ。せっかくだから、味を見ていくんだっぴ」


「あ、とうめしとおでんなんですか」


 なるほど。

 おでん屋と言えば、どっちかと言えば、夜の営業ってイメージだったけど、サイくんのところって、午前中やお昼も営業しているんだものね。

 親子連れとかもやってくるって話だし、そういう意味では、その、とうめしセット以外にも、煮物系のランチメニューとかもあるってことか。

 いや、全部、この食べ歩きマップの受け売りだけど。

 リッチーのオススメマークもついているし。

 デフォルメされた、笑顔のリッチーの顔がお店の横に描いてあるしね。


 お店の場所は、職人街の南側かな。

 確か、果樹園と職人街の間くらいにあるって聞いていたし。

 うん、だったら、少し急いだ方がいいかな。

 ここから、ちょっと距離があるしね。


「そういうことでしたら、急ぎましょうか。休憩時間内に戻ってこないといけませんし」


 さすがにコロネが遅刻したら、シャレにならないものね。

 そんなこんなで、みんなで歩いて行こうと思っていたら。


「大丈夫だっぴ! この町でも、道の少し上だったら、免許がなくても、飛んでいいことになってるんだっぴ」


「あんまりスピードを出してはいけませんけどね」


「うんっ! そういうわけだから、コロネ、リリック、表に行こう!」


「あっ、はい」


 えーと、飛ぶ?

 あのあの、もしかしなくても、歩いていくんじゃないんですね?

 何だかんだで、進められるがままに、コロネとリリックも、一緒に階段を下りて、塔の外の道までやってきて。


「行きます……『限定付与:飛翔微速』」


「うわわっ!? すごいですね……って!? 何だか、バランスが難しい!?」


 カストリアさんの言葉と共に、コロネの身体がふわりと浮いたかと思うと、前方へと進みだしたんだけど、これ、『浮遊』とかよりもバランスが難しいんだけど。

 と、思っていると、カストリアさんがコロネの手を取ってくれた。

 それで、姿勢が安定する。

 ふと、横を見ていると、リリックもポーラックさんと手を繋いでいるし、ショコラはと言えば、今、コロネの頭の上を離れて、ブリジットさんに支えられているようだ。


「では、地図を見ながら、ゆっくりと飛びますね」


 そう言いながらも、コロネが走るのよりも少し速いくらいのスピードが出ているんだけど。

 飛ぶ時はこれで、ゆっくりなんだね。

 そんなどうでもいいことに感心しながら。

 サイくんのおでん屋へと向かう一行なのだった。

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