第336話 コロネ、チョコ魔法の検証を進める
「ちなみに、コロネはなぜ、この魔法が召喚だと思ったんだ?」
普通、何もないところから、何かが現れたら生成とかそっちを疑うんじゃないのか、とアキュレスが聞いてきた。
確かに、それはそうだよね。
えーと、あれは確か。
「確か、この魔法を使って見せた時、マギーさんから、どこかにあるチョコレートを呼び出しているんじゃないか、って話をされたからですね。後は、ミケ長老から、わたしが召喚系のスキルの資質があるんじゃないかってこととか、その後で、コノミさんに相談して、それで、って感じですね」
今までの流れは、そんな感じだよね。
ふと、傍らで踊っていたショコラを見つめて。
「ほら、この子もそうですし。ここだけの話でお願いしますが、このショコラもわたしの召喚獣なんですよ。これは、たぶん、間違いないと思います。コノミさんに教わった時、確かに、召喚したチョコレートの卵からかえったんですから」
「ぷるるーん!」
「お? そうなのか? だったら、召喚系のスキルで有力か……ふむ」
「ですが、コロネ様。坊ちゃんが使った時は、具現化型の魔法としての使い方で発動したようですよ? わたくしも、その時に生み出されました、そのチョコが、三十分ほどで消えるのを確認しておりますから」
「あっ、そうなんですか」
だとすれば、どういうことなんだろう?
この『チョコ魔法』って、召喚とも、具現化型とも、ちょっと違うってことなのかな?
「あー、ちょっといい、あっくん? 細かい話はコロネのプライベートな能力に直結するから、話せないけど、一個だけ確認ね。あっくんが使える『チョコ魔法』って、そこから基本画面での派生とかって、あったのかな?」
アノンが少しだけ真剣な表情で、アキュレスに尋ねて。
それと一緒に、コロネに、何かを目で合図した。
あ、そっか。
スキルに関してのことか。
カミュからも警告があったものね。
たぶん、派生に関してと、『C』のスキルについて、だ。
別に、ここにいる人たちなら大丈夫だと、コロネも思うけど、他にどこで誰が聞いているかわからない、ってことらしい。
確かに、下のパン屋とかにもお客さんが詰めかけてるしね。
危ない危ない。
スキルに関する相談をするなら、もうちょっと場所を考えた方がいいってことか。
「いや、普通に『チョコ魔法』ってだけだな」
「うん、ありがと。ってことは、それ以外のものは、コロネのユニークスキルって感じだろうね。ボクもそうだったし」
ショコラに関しては、ダメだった、とアノンが苦笑する。
へえ、そうだったんだ。
というか、アノンはアノンで、一応試したりはしていたんだね。
相変わらず、そっちもちゃっかりしてるというか。
「いや、だって、コロネ。この姿が気に入っちゃったんだから、これで何ができるかなあ、って試してみたいってのが人情じゃないの。まあ、検証とかした分については、コロネにもしっかり報告するし、それ以外の人には漏らさないから、あんまり気にしないでよ」
「はあ、まあ、そういうことでしたら」
どうせ、言っても止めないだろうしね。
ただ、やっぱり、ショコラを召喚したのって、コロネにしかできないのかもね。
あれ以降、別の召喚にチャレンジしても、うまくいったためしがないしね。
そういう意味ではショコラが特別な感じかな。
うん。
それはそれで良いんだけどね。
「ともあれ、ショコラの召喚を始め、ボクも召喚って形では、この『魔法』を使うことってできなかったから、たぶん、召喚系のものは、その適性が必要なんじゃないかな? で、ここでちょっとコロネに考えてもらいたいのは、ボクやあっくんみたいに、別の形で、この『魔法』を使うことも可能ってことについてだね」
やっぱり応用が利く魔法みたいだから、とアノン。
なるほど。
つまり、召喚型の『チョコ魔法』もあれば、具現化型での『チョコ魔法』もあるってことか。
それに、アノンは、あの派生分布を目にしてるしね。
だから、そういう可能性についても考慮してくれたってわけだね。
「なるほどな。ふふ、さすがはユニーク。一筋縄じゃ、使わせてもらえないってな」
「うん、その辺は、オサムの『包丁人』も同じでしょ。本人以外は、使いこなせないって意味ではね」
アノンによれば、オサムの『包丁人』もそんな感じなんだって。
簡単な使い方、たとえば、料理の時の食材を切る時に、それを切れやすくする、とかはアノンでもできるけど、もっと難しい使い方はできないんだそうだ。
いや、難しい使い方って、どういうのかさっぱりなんだけど。
「となりますと、坊ちゃんでは、あまり使い道がなさそうですね。一番最初に出した、あの毒のようなチョコでは、食べ物としても使えませんし」
そもそも、三十分で消えてしまいますしね、とプリム。
えーと、毒のチョコ?
「はい。わたくしも一緒に味見をいたしましたが、あれ、間違いなく毒性がありましたよ? 味わった途端に、わずかにダメージを受けましたから。先程のコロネ様の出してくださったチョコを口にするまでは、この魔法は毒の系統のものとばかり思っておりましたので。それで、チョコについて詳しくお聞きするために、先程、坊ちゃんを連れてきたわけです」
「あ、そうだったんですか?」
普通に美味しい食べ物で良かったです、とプリムが笑う。
どうも、コロネも毒が使えるのか少し気になったのだとか。
いや、というか、その毒チョコなんて、そもそも、今まで出したことがないんだけど。
使い手によっては、ものすごく不味いチョコが作れるってことかな。
それこそ、毒みたいなレベルでの。
料理を不味くする才能とでも言うのかな。
「あれ? あ! うん、それ面白いかも! 具現化と毒か……うん、いいね! ねえ、コロネ。今度、ジルバたちと武器を使った訓練に行くんでしょ? ボクも付き合うからね」
「あ、はい。それは構いませんけど」
いや、別にいいけどさ。
何だか、アノンのものすごく楽しそうな表情に、そぞろ不安を催すんだけど。
メイデンさんの良い笑顔と同じような感じというか。
「おい、アノン。いいのかよ? お前さん、料理以外じゃ、あんまり能力を使えないんじゃなかったのか?」
「ああ、うん、大丈夫大丈夫。これは料理に密着したものだから。何せ、早いとこ、コロネが町の外に出れるようになれば、料理の幅が広がるでしょ? だから、これは料理のための使い方だよ」
「いや、前から思ってはいたが、お前さんのこじつけはずるくないか? まあ、結果的に、こっちも助かってるから、それ以上は言いづらいんだが」
「だって、幽霊種だもの」
存在自体がずるみたいなもんだもの、とアノンが笑う。
ついでに、訓練を手伝うから、後でメイデンとジルバにも言っておく、と。
「ま、それはそれとして、この話題はこのくらいにしておこうか。じきに色んなところからお客さんが来るだろうしね」
ほら、とアノンが窓の方を指さして。
って!?
何、あれ!?
空飛ぶドラゴン!? いや、どっちかと言えば恐竜って感じの何者かが、塔の横へと降り立つのが見えた。
いや、あんな人、初めて見たよ?
少し驚いているコロネに、オサムが笑いながら。
「はは、コロネ。ほら、さっき、トヤマにやつに頼んだじゃないか。今日の教室で使う分の追加の果物。それを届けてくれたんだよ。あれが、果樹園の即配便の責任者でもある、亜竜人種のペリーだな」
「え!? あの人がペリーさんですか?」
確かに空便とか言ってたけど。
ちょっとペリーさんって響きとイメージが違う人が来ちゃったと言うか。
だって、あの大きさといい、どう見ても、恐竜って感じだもの。
「つまり、空飛ぶドラゴンさんってことですか?」
「違う違う、コロネ。ペリーさんは飛竜と一緒。亜竜人種のプテラノドンだよ。ええとね、向こうでいう、爬虫類分類が、こっちだと亜竜になるんだよ」
へえ、そうなんだ。
ドラゴンとは別に、亜竜というか、恐竜さんたちもいるんだね。
さすがにプテラノドンとかは聞いたことがあるよ。
うん。
「だからね。竜種と亜竜種を間違えるのだけはやめてよね? いや、まあ、実際に紛らわしいんだけどさ。この町にいる竜種はまだしも、『竜の郷』にいる人たちは、けっこう、嫌な顔をするから。その辺は、ゲルドニアの飛竜部隊のせいでもあるんだけど」
「はい。その辺はサウスさんたちからも言われてましたし。気を付けますよ」
やっぱり、種族ってのは大切なものみたいだしね。
相手の名前を間違えないのとおんなじだよ。
そんなことを思っていると、玄関の鈴の音が鳴って。
「はい、まいど! グリーンリーフの即配便。ペリーさん便だよー!」
言いながら入って来たのは、ものすごく大柄な金髪の女性だ。
筋肉隆々という感じで、どこか野性的な衣装というか。
毛皮のコートみたいな服というか。
そんなものを身に着けているんだけど。
背丈も、少なくとも二メートルはあるんじゃないかな。
そんな大柄な彼女が、それよりも大きな荷物を肩に抱えて、調理場へとやってきたのだ。
というか、この人がペリーさんなの?
まず、女の人というのにびっくりで、次にその迫力の身体にびっくりだよ。
そうこうしているうちに、ペリーさんと目があって。
「おっ! あんたがコロネさん?」
「はっ、はい!」
「いやいや、怯えない怯えない。この度は、果樹園の果物をいっぱいお買い上げありがとうね。とりあえず、あとふたつほど、同じくらいの荷物があるから、ちょっと待っててもらえるかい?」
「はい、こちらこそありがとうございます」
「あっはっは、うん、いいねいいね。可愛いね。あたしの好みのタイプだよ。それじゃ、ちょっと待ってね」
豪快な笑いと、大きめの荷物を残して、また外へと向かうペリーさん。
どうやら、人化状態だと一度に運べない量の果物があるようだ。
まあ、プリムさんとかが、ものすごい量を頼んでたしね。
ともあれ。
何とか、時間までに果物が間に合いそうで、ほっとするコロネなのだった。




