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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第335話 コロネ、カカオに関する話を聞く

「とりあえず、アキュレスさんがわたしのスキルを使っているのは良いとして」


「あ、いいんだ、コロネ? もうちょっと怒るかもって思ったけど」


 少しだけ茶化すように、アノンが笑う。

 まあ、契約したのはコロネの意志だからねえ。

 というか、そもそも、それを言っているアノンは、好き勝手にコロネのちっちゃいころの姿になってるし。

 そういう意味では、カミュが言っていた、おとぼけ幽霊ってのがピッタリだ。

 本当に確信犯というか。

 悪気も悪意もなく、面白半分って感じだから、どこか憎めないけど。


 ただ、真面目な話、この『チョコ魔法』って、コロネもよくわからないことが多かったんだよね。

 こういう形とは言え、別方向からの検証ができるってのは重要だ。

 うん。

 せっかくだから、うまく使わせてもらおう。


「アキュレスさん、具現化型ってのはどういうことですか? わたしの場合、出したチョコレートは別に消えませんけど?」


「何? そうなのか? いや、食べ物を生み出す魔法って、ことだったから、てっきり、そういうものだと思っていたんだが。何もないところから、ってことは、物質化系の魔法だろ、これ? 魔素を変換するタイプの」


「一応、コロネに補足ね。物質化とか、具現化って系統の魔法は、ほとんどの人が使えないタイプの魔法なんだ。何せ、魔力消費がものすごいから。それに、それだけの魔力を使っても、長時間の維持はできないから、あんまり使い勝手がよくないってイメージが強いかな。この町でも、比較的よく使ってるのって、メルとか魔力量に余裕があるタイプだけだもの」


 なるほど。

 やっぱり、何もないところから何かを作り出すのって、難しいんだね。

 まあ、当たり前のことだけど。

 メルの場合だと、コロネも使うのを見たことがあるかな。

 医療魔法の『魔糸生成』とか『魔刃生成』がそれだね。

 確か、糸は二十四時間くらいで消えちゃうんだっけ?

 それでも、すごいことだって、医者のギンも言っていたけど。


「だからさ、何だ、この意味のない魔法、とは思ったぜ? 食べ物を物質化しても、すぐに消えちまうんだからな。正直、使いどころがよくわからない感じではあった。だが、違うんだな、コロネ? 本家のお前の魔法だと、このチョコってやつが消えないんだな?」


「はい、アキュレスさん。ほら、前に出したチョコレートです。これ、数日前のものですけど、普通に残ってますよね」


 一応、味見用とか、ショコラの栄養補給用として、普段から持ち歩いている分のチョコレートを見せる。

 別に数が減っている感じもなければ、形が変わっているわけでもない。

 普通に、チョコレートとして残っている。


「へえ、なるほどな。これがそうなのか。ちなみに、これ、食えるのか?」


「あ、はい。大丈夫ですよ。あ、そういうことでしたら、ちょっと味見してみます? その代わり、噂ネットワークとかで広めるのは控えてほしいんですけど」


 この場にいて、まだ、コロネのチョコレートを振舞ったことがないのって、アキュレスとプリム、トライとローズかな。

 この辺の人たちなら、色々教えてもらったり、お世話になったりしてるから、チョコレートを食べてもらっても大丈夫だよね。

 そもそも、能力としては、色々と問題があるけど、チョコレート自体は、いつかはカカオを手に入れて、堂々と売り出す計画だし。

 ここにいるみんななら、世界のあちこちについても知っているみたいだし、その力になってくれるかも知れないから。


 とりあえず、持っていたチョコレートを四人に配る。

 ついでに、物欲しげにしていたショコラの口の中にも、ひとつ入れて、だ。

 最近、エレベーターとかで、ショコラも頑張ってくれてるからね。


「へえ、どれどれ……うわ、なんだこりゃ……すげえな」


「やったね! プリン作りを覚える前に、新しいお菓子がもらえるなんて、嬉しいね。うんっ! 美味しい美味しい! こんなちっちゃいのに、満足感がすごいよ、このチョコってお菓子」


「これがチョコなのか!? だったら、俺が出したやつは何だったんだ……?」


「本当ですね。坊ちゃんが出した変な味の物体とは、似て非なるものですね。ですが、とても美味しいです。ふむ……もし、プリンより先に出会っておりましたら、こちらに傾倒していたかもしれませんね」


 今のわたくしにはプリンがありますので、とプリム。

 チョコレートはチョコレートで美味しいけど、やっぱりプリンの最初の衝撃には勝てなかったって感じらしい。

 まあ、何にせよ、四人とも、美味しいって言ってくれたし。

 やっぱり、店長のチョコレートってすごいよね。


「もっとも、プリンと組み合わせても美味しくなりそうですね」


「あ、そういうのもありますよ。チョコプリンとか」


「本当にあるのですか!? その、チョコプリンですか!? コロネ様、そちらを作ったりはできますか?」


「ええと、ごめんなさい。今のところ、チョコレートを魔法を使わずに入手する方法がないので、ちょっと作れませんね。試作くらいでしたら可能ですけど、せめて、元の食材が見つかるまでは待ってもらえませんか」


 試作品は作れるけど、あんまり期待感をあおりたくないし。

 今のところ、お店とかで出せるものでもないからねえ。

 まだ、カカオに関しては、その存在すら、かすりもしていないから。


「残念です……ちなみに、その元の食材について、お聞きしてもよろしいですか?」


「はい、こっちでも同じような感じかはわかりませんけど、カカオって言いまして、一応、種の部分をカカオ豆って言って、それを使う感じです」


 一応、向こうでの、カカオに関する特徴とかを伝えておく。

 どういう温度帯の場所で育てられていたか、とか。

 ただ、こっちだと、必ずしも、その常識が通用するわけじゃなさそうだから、その辺は、あんまり当てにはできないんだけど。


「なるほど、暖かいところ、ですか」


「ええ。向こうでも、最初は森林の奥地で野生種のカカオを発見したってことらしいですから、可能性としては、そういった場所でしょうね」


「うん? ということは、もしかして、『大樹海』じゃない? 疑わしいのは」


「えっ!? 『大樹海』ですか?」


 ローズの言葉にちょっと驚く。

 無限迷宮のひとつ、『大樹海』。

 確か、中央大陸の南西の広範囲に広がっている樹海エリアだよね。

 エルフさんたちの街が側にあるっていう。


「そうよ。だって、オサムも見つけてないってことでしょ? だったら、オサムが行ったことがない場所で、それっぽい森林地帯って言ったら、『大樹海』か、『幻獣島』の一角とかじゃないの? 暖かい場所って言ったらそんな感じだし」


「どっちも無限迷宮なんですね……」


「後は西大陸の方とかな。一応、『魔王領』に関しては、食材になりそうなものは片っ端から調べているから、そっちよりは可能性が高いとは、俺も思うぜ?」


 なるほど。

 オサムとか、アキュレスやプリムたちの手で、東大陸の食材って、かなり発見されているらしいから、明らかにカカオって感じの実があったら、気付いてたってことらしい。

 逆に、『大樹海』とか『幻獣島』、西大陸の方は、まだ未確認って感じみたいだね。

 うーん。

 何にせよ、難易度が高そうだよ。

 そもそも、『大樹海』って、世界樹を目指して、エルフの人たちが、ずっと挑戦し続けているんでしょ?

 にもかかわらず、全然攻略されていないってわけだから。


「わかりました。わたくしたちの方でも、その、カカオという食材については、調査をしてみますね」


「お願いします、プリムさん」


「後は、もうじき、フィナのとこのアルフィンが戻ってくるから、そっちに相談してみるといい。エルフの街と行ったり来たりしてるからな。『大樹海』に関しての情報とかも持ってるはずだ」


「アルフィンさん、ですか」


 トライの話だと、魔法屋のフィナさんの息子さんが行商から帰ってくるのだそうだ。

 サーファちゃんのお兄ちゃんで、アルフィンさん。

 年はコロネとおんなじくらいらしい。


「わかりました。その、アルフィンさんが戻ってきたら、話を聞いてみますね」


「あれ? 『大樹海』だったら、もうちょっと適任がいるでしょ?」


「ダメだ、ローズ。そっちは、コロネが認められてからじゃないとな。そもそも、ここにいる中にも、それを知らないやつがいる。下手なこと言うと見限られるぞ」


「あ、ごめんなさい。そういえば、トライがそのことを知ったのも偶然だったものね」


 うっかりうっかり、とローズがトライに頭を下げる。

 うん?

 もしかして、コロネが会った中で、『大樹海』に詳しい人がいるのかな?

 まあ、それもちょっと込み入った事情がありそうなので、あんまり、踏み込んでは聞けそうにないんだけど。


「ま、気にするな、コロネ。少なくとも、正攻法で、『大樹海』に挑戦しろ。話はそれからだ。最初から、いかさまが許されるわけがない、ってな」


 そう言って、意味ありげにトライが笑う。

 何だかよくわからないけど、とりあえずは、やれることから頑張れってことかな?


「はあ、わかりました」


「それじゃ、カカオの話はそれでいいとして、だ。『チョコ魔法』について、そっちに戻してもいいか、コロネ?」


「あ、はい、アキュレスさん」


「さっき、俺が出したチョコなんだが、これを食ってみてくれよ」


 そう言って、アキュレスが差し出してきたのは、さっきのちょっと歪な感じだなって思ったチョコレートだ。

 うん、コロネも、その味には興味があったしね。

 願ったり叶ったりなので、素直に受け取って。


「はい、わかりました。いただきますね……うわっ!? ものすごく、えぐい味ですね、これ。いや……確かにチョコレートでしょうけど」


 食べた瞬間、口の中に苦みしか残らないというか。

 でも、確かにチョコレートの味でもある。

 ただ、発酵とか、焙煎とか、そっちの工程がひどく雑だったチョコレートって感じだろうか。砂糖とかも加えていないようだし。

 なのに、なぜかチョコレートとして固形になってるし。

 すごい、変な感じのチョコレートだ。


「やっぱりな。薄々感じてはいたんだが、いや、今のコロネのチョコを食べて確信したっていうのかな。この『チョコ魔法』ってやつは、もしかすると、使い手のチョコへの経験とかが影響する魔法なんじゃないか? 俺のチョコが食べ物とも言えないレベルなのは、そもそも、俺がチョコというものが何なのか、さっぱりだからじゃないのか、って」


「あ、なるほど。そういう可能性もありますね」


 何で、コロネの出すチョコレートが、向こうの店長の味なのか。

 たぶん、コロネの中で、チョコレートの完成形というか、自分の求める味の目標が、それだから、なのかもしれない。


「ただ、わたしは、この魔法が召喚系だって思っていましたので、どこかにあるチョコレートを召喚しているとばかり思っていましたから」


 本当にね。

 もしかしたら、世界を越えて、向こうの店長の作ったチョコレートを召喚しているんじゃないか、って。

 そう夢想したこともあるのだ。

 自分は、もう戻れないけど、どこかは向こうの世界と繋がっているんじゃないかって。


「召喚か、なるほどな。だから、消えない……ってことか? ふむ……」


 そう言って、考え込むアキュレスを見ながら。

 コロネもまた、この『チョコ魔法』って何なんだろう、と考えるのだった。

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