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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第329話 コロネ、プリンクラブについて聞く

「おはようございます、コロネ様。本日はよろしくお願いいたします」


 コロネたちが、三階の調理場の準備を整えていると、メイドのプリムがやってきた。

 ギルド『プリンクラブ』の責任者で、魔王様配下の序列一位。

 最強のメイドさんのおでましだ。

 うーん。

 改めて、そういう表現だと、何かものすごく謎な人って感じだよね。

 どっちかと言えば、こっちの世界にプリンを広めよう協会の代表って感じだし。

 すっかり、無類のプリン好き。

 そんなプリムさんだ。


 まあ、こちらとしても、時間より早くプリムが来てくれたのは助かった。

 色々と相談することがあるのだ。

 そもそも、聞いておきたいこととか。


「おはようございます、プリムさん。良かったです、プリムさんが来てくれて。ちょっと困ったことがあったものですから」


「それは、聞き捨てならないですね。どのようなことでしょうか? もし、プリン教室の邪魔をするかたがおられるのでしたら、わたくしの方で対処いたしますので」


「いや、あの、そんな物騒な話ではなくてですね、今日の参加者について、ちょっとお聞きしたかったんですよ」


 とりあえず、ノリノリで、誰かを排除しに行こうとしているメイドさんを落ち着けて。

 改めて、プリン教室に来られる人たちのこととか、そもそも、『プリンクラブ』ってどのくらいの人が所属しているのか、ってことも含めて確認だ。

 恥ずかしながら、その辺は、あー、プリムさん頑張ってるなあ、ってちょっとだけ他人事だったしねえ。

 結局、コロネにも関わってくるのは避けられないようだし、さすがに少しは細かいところを把握しておかないといけないだろう。

 うん。

 ありがたいのと、ちょっと困った感じなのと半々だね。


「あ、そうでしたか。申し訳ございません。わたくしもギルドが大きくなるのが嬉しくて、ついお話を進めてしまいましたね。まずは、コロネ様へのご報告が必要でした、と反省する次第です」


 あまり、お手をわずらわせても悪かったですし、とプリム。

 その辺は、こちらにも気を遣ってくれていたそうだ。

 そもそも、普段の魔王領でのお仕事も、アキュレスがプリムに丸投げの部分が多くて、結局、事後承諾で、どんどん仕事を進めるのが当たり前になっていたのだとか。

 報告しても右から左なので、その辺も、という感じらしい。

 自由裁量って言えば、聞こえはいいけどね。


「いえ、別にそんな大袈裟な話じゃないんですよ。そもそも、このギルドって、プリムさんが立ち上げたギルドですし、所属されている皆さんもそれでいいって思っているでしょうしね。ただ、今日、プリン教室の準備をするにあたって、規模がどのくらいになるのか、その辺りがまったく想像がつかなかったものですから」


 ギルドの参加人数とか、この町以外の人がどのくらい来るのか、そのくらいは何となくでも知っておいた方がいいんじゃないかと思うのだ。

 そうすれば、今日みたいな時にも対応できるだろうし。


「うん、ボクもちょっと聞いておきたかったんだけど。実際、プリムもかなり積極的に動いてたみたいだけど、この短期間でどのくらい人を増やしたのさ?」


 そういう話なら、『週刊グルメ新聞』でも扱うからね、とアノン。

 この『プリンクラブ』の動向については、少なからず興味があるみたいだね。


「ええ、そうですね。お聞きください、コロネ様、アノン様。この度、わたしくの啓蒙活動と、その他のギルドに参加されている方々のご協力で、規模が大幅に拡大いたしました。すでに、五百人を優に超えて、もうすぐ千人に到達しようかというところですね。この調子ですと、数年後には、教会などと肩を並べられるギルドになれそうです」


「えっ!? もう五百人!? というか、千人ですか!?」


「はい。さすがです。これがプリンの力です」


 いやいやいや。

 こっちが想像していたのと、桁がひとつ違うんだけど。

 どうやったら、こんなわずかな間に、そこまで人が増えるのさ。

 というか、嫌だよ、教会と肩を並べるギルドなんて。

 そこまで、大事になっちゃうと、本当にプリン教みたいになっちゃうじゃない。

 まあ、『プリンが好きですか?』『はい!』って感じで、気軽に参加できるギルドってのが売りみたいだし、プリムが頑張っている以上は、規模が大きくなるのは仕方ないけどさ。

 ファンクラブくらいだったら、シャレで通ったけど、それが教会にも負けませんよ、ってことになると、話が変わって来ちゃうじゃない。

 いや、おそろしいねえ。

 これが、本気になった時のプリムさんか。


「うわあ、すごいねえ……。まあ、コロネも諦めることだね。何せ、ちょっと考えてみればわかるけど、ロンのとこの商隊員が全員参加すれば、それだけでも五千人を超えるからね。『プリンクラブ』に関しては、『魔王領』とか、他の地域からも、興味を持っている人が多いみたいだし」


 うん、もっと増えるだろうね、とアノン。

 というか、言いながら、この幽霊さんは楽しそうだ。

 面白いもの見つけたって感じで。

 むぅ。

 さすがに規模が規模なだけに、コロネとしては、あんまり笑えないんだけど。

 何とか、神さま扱いされるのだけは、避けないとね。


「ちなみに、それ、プリムさんがひとりでまとめているんですか?」


「ええ。とりあえず、魔王都にも支部を作りまして、そちらの方で、わたしくの部下のメイド隊員に体裁をまとめさせているところでございます」


「いや、もう支部があるんですか?」


 というか、メイド隊って。

 一応は、アキュレスの身の周りのお世話をする人たちって感じらしい。

 そんな人たちを私物化して大丈夫かな、って思ったんだけど、どっちかと言えば、アキュレスの部下というより、プリムの私兵って感じらしい。たたき上げの部下っていうか。

 それにしても、いつの間にか支部までできているとは。

 本当に、プリンだけで世界制覇されてしまいそうだ。

 うん。

 その時は、コロネの名前はあんまり出さないでもらいたいかな。


「ちなみに、リリック様や、マリィもすでにギルド員として、登録済みです」


「え!? いや、いつの間に!?」


「コロネ先生が訓練されている時ですね。プリムさんから頼まれましたし、コロネ先生も所属されてますから、断る理由もありませんし」


「ですねぇ。そもそも、わたしは断れませんからぁ。喜んで参加させてもらいましたぁ」


「……全然、知らなかったよ」


 別にいいけど、そういうのは教えてほしかったかも。

 まあ、このふたりの場合、別に参加して不都合とかはないしね。

 あれ?

 確か、教会ってあんまり掛け持ちってよくないんじゃなかったっけ?


「いえ、コロネ先生。むしろ、プリムさんが私を勧誘しに来た時、その場に、シスターカミュも、シスターカウベルもいらしたんですけど、当のシスターカミュが笑いながら、参加してましたから」


「えー……そうなの?」


「はい、コロネ様。さすがに『これ、悪用するなよ』とは注意されましたけど。というわけで、カミュ様もカウベル様もめでたく、『プリンクラブ』の一員というわけです」


 うーん。

 一応、魔族と教会って、食材をめぐってギスギスしてるんだよね?

 こういうのっていいのかな?

 よくわからないんだけど。


「これがプリンの力ですよ、コロネ様。所属とか種族とか、そういうものはプリンの前では一切関係なくなるのです。本当にすばらしいですね」


 わたくしも誇りに思います、とプリムが良い笑顔を浮かべる。

 まあ、当事者がそう言うのなら、別にいいんだけどね。

 こういうのを取り越し苦労っていうのかな。

 ただ、そうなると、別の問題が浮かび上がってくるんだけど。


「それで、プリムさん。今日のプリン教室って、どのくらいの人に声をかけたんですか?」


 さすがに、千人近くとなると、教えるのがちょっと厳しいんだけど。

 というか、すし詰めでも、三階の調理場に入るかどうかも想像がつかないよ。

 いや、ここ、それなりに広いけど、それでも、その規模だとまったく予想できないというか。

 あー、でも、二階を空中仕様にした時は、下手をすればそのくらいはいたかな?

 あれはあれで、ちょっとしたパニックだったから、さすがに、全体で何人いたかは数えていないけど、精霊さんとかも含めたらかなりの数だったはずだ。

 どっちにしても、教えるとなると、材料が全然足りないよ?


「それなりには、人数を控えるようには伝えておりますよ? おそらく、百人もいかないとは思いますが。ですが、少人数ずつではありますが、広く募集は致しましたので、色々な方が見えられるとは思いますが」


「あ、そうなんですね」


 いや、百人でも多いけどさ。

 千人規模を一度想像しちゃうと、ものすごく少なく感じるよね。

 これも数字のマジックか。

 ……というか、その辺も計算して伝えてないよね?

 プリムさんたら。


「はい。幸いと言いますか、サニュエル様にもご協力を頂けましたので、先程より、塔のそばの空き地に術を発動して頂いております。おそらく、あちらの窓から見えると思いますが」


「えっ? サニュエルさん? 術?」


 言われた通り、窓の外を見てみると、建物とか何も建っていないただの空き地に、この間の塔の営業の時に、ステージ上で見かけたような丸くて黒いものがあった。

 あれ、確か『トワイライト・サーカス』だよね?

 相互召喚術の。

 プリム曰く、あの術式って実は、サニュエルさんひとりでも発動できるとのこと。

 だから、今日は、プリン教室への参加希望者のところとだけ、つながるようにしてもらっているのだそうだ。


「サニュエル様ご本人はお見えになりませんが。これで、サーカスの際に、ご参加いただいた皆様にも来て頂けるわけです」


「うわあ、そこまでやるんだ、プリム?」


「もちろんですよ、アノン様。こと、プリンに関しては、わたくし、手を抜くと言うことは一切いたしませんので」


 ちょっと呆れたように言うアノンに言葉に、誇らしげに頷くメイドさん。

 というか、驚くことばっかりで、何というかって感じだ。


 どうなるんだろう、今日のプリン教室。

 ちょっとだけ、そう、不安に思うコロネなのだった。

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