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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第326話 コロネ、色々と準備する

「コロネ先生ー、今日の分のアイスの仕込みは終わりましたよ」


「ムームー!」


「こっちもですぅ。後は焼きあがったプリンを冷やすだけなのですよぅ」


「ありがとう、リリック、マリィ、それにレイさんもね。レイさん、手は冷たくなかったの?」


「ムー!」


 着ぐるみだから、笑っているのはわかりにくいんだけど、ムーレイが、コロネの声かけに対して、親指を立てて、頷いてくれた。

 あ、こっちでも、それで、ばっちり、ってサインになるんだね。

 まあ、元からこっちの世界にある風習なのかは微妙だけど。


 今、コロネたちがいるのは、早朝の三階厨房の一角だ。

 周囲では、もうすでに、惣菜パンのための具材作りが始まっていて、他のお店の料理人さんたちも慌ただしく動いているね。

 新しく加わった料理人さんとか、教会から調理補助のアルバイトでやってきている子供たちも、ちらほら見受けられるというか。

 まだ、コロネがあいさつをしたことがない人が、けっこういるようだ。

 まあ、その辺はおいおいかな。

 みんな忙しそうだし、そのうちにお話しする機会もあるだろうしね。


 で、コロネたちはと言えば、いつものように、クエストの交換用のアイスなり、プリンなりを仕込んでいたわけだ。

 ちょっとだけ、使える果物が増えたから、今日のアイス類はちょっと豪華だよ。

 昨日の復習で、ソルベも二種類ほど作ったしね。

 これなら、アルルたちも喜んでくれるはずだ。

 ちなみに、今日はリリックの魔法を使って、アイスを仕込んでいる。

 ボウルを押さえてくれているのは、ムーレイさんだ。

 もしかして、着ぐるみってことだから、案外冷たくないのかな? って思って、頼んでみたんだけど、それが大当たりって感じかな。

 ぶっちゃけ、白衣とか着てもらって、その他にも手袋とかで完全装備はしてもらっているけど、どうしても、毛がお菓子に入るリスクがあるから、あんまりお手伝いは頼めなかったんだけど、ピタッと合わせたボウルを押さえるのは、何とかできそうだったしね。

 うん。

 結果、うまく行ったと言っていいだろう。

 元々、あの作業は、他の調理工程とは別枠だったしね。

 とりあえず、リリックの魔力残量と相談しつつ、数を増やしていくってところかな。

 今日は、アイスはミルクといちごとバナナの三種類、ソルベはぶどうとパイナップルの二種類になっている。

 さすがに、アルルたちの報酬とか、昨日、ケイケイやランラン、フェンちゃんたちに渡したお菓子の引換券とかだけだと多すぎるけど、今日は、水の日で、塔の営業日でもあるから、そっちでも食べてもらえるかな、とは思っている。


「でも、コロネ先生。このパイナップルって美味しかったんですね。私、初めて食べましたよ」


「わたしもですぅ。この実のことは聞いたことがありましたが、これって、確か、攻撃系のアイテムだとばっかり思っていたのですよぅ」


 リリックがとっても甘酸っぱくて美味しかったと笑顔を浮かべれば。

 食べられるんですねぇ、とマリィも笑って。

 えーと?

 いや、ちょっと待って?

 今のマリィの言葉は聞き捨てならないんだけど?

 何、その攻撃アイテムって。


「はいですぅ。確か、パイナップルの実って、強い衝撃を与えると爆発するんですよぅ。ですから、その樹の周りを通る時は注意しないといけないって、聞いたことがありますねぇ」


「え!? そうなの!?」


「あー、そうだぜ、コロネ。こっちだと、未熟なパイナップルの実は地面に落ちただけで、破裂するんだよ。まあ、爆発って言うと大袈裟だが、しっかり熟していないと、中の部分にも毒性が残っているからな。一応、アイテムとしても使えるんだよ」


 タイミングよく、ちょっと離れたところを歩いていたオサムが、そう教えてくれた。

 一応、毒入りの炸裂弾という感じらしい。

 えー、いちごもそうだったけど、パイナップルもちょっと違うの?

 ちなみに、完熟した状態だと、逆に外側の皮部分が硬くなるので、収穫や調理には、ちょっとしたコツがいるのだそうだ。

 うん、それは今よくわかったよ。

 まさか、果物の皮をむくのに、身体強化が必要になるとは思わなかったし。

 途中で、何ヶ所かポイントポイントで切りやすいところがあったから、まあ、それほどは、って感じだったけど、無理やり刃をたてたら、ナイフとか包丁の方が折れるんじゃないかな?

 ものすごく皮が硬かったもの。

 このパイナップル。


「でも、食べるとすごく美味しいですよね、このパイナップル。最初に食べようと考えた人はすごいですけど」


「わたしもそう思いますよぅ、リリック先輩。ちょっと割れたら破裂するものが、まさか食べ物だなんて思わないですよぅ。コロネさんは、これが食べ物だって知ってたんですよねぇ?」


「まあ、わたしたちがいたところでは、破裂しなかったしねえ」


 リディアが知ってたってことは、その辺は、オサムからの知識なのかな?

 あー、でも、リディアの場合、自分で色々と試して、食べたりしてそうだし。

 ともあれ、こっちの食べ物こわい。

 ナッツ類とかみたいに、毒があるだけなら、品種の違いって感じだけど、まさか、適切なタイミングで収穫しないと爆発したりするものがあるとは。

 つくづく一筋縄じゃいかないねえ。


「ところで、さっきコロネ先生が作っていた料理って何ですか? たぶん、私たちもまだ教わっていないものですよね?」


「うん、ちょっと、今日の『お試しメニュー』をね。そっちの作り方を実験してたの。これに関しては、一回試しておかないと、うまくできるかどうか、自信がなかったからねえ。なので、作り方を教えるのは、ちょっと待ってね。そもそも、材料の確保の目途が立っていない食材も使ってるし」


「あ、そうなんですか?」


「うん。まあ、溶けるところまでは問題なかったから、後はこれで冷えて固まってくれれば、たぶん、おんなじものだって確信が持てるから。もし、固まらなかったら、失敗作ってことで、今日の『お試しメニュー』は、この後のプリン教室で作ったものに変更するつもりだしね」


 今のままだと、貴重品ってことで、今後の入手が読めないしね。

 量産できるかどうかは、『竜の牙』の皆さんにオサムさんのスープを持って行ってもらって、その結果次第かなあ。

 一応、こっちの世界でも作れるかどうか、ってのは重要だから、そういう意味では、せっかくもらったものを使わない手はないしね。

 そういうわけで、試作はしているんだけど。


「それで、コロネ先生、昨日の夜遅くに、お酒を買いに行っていたんですか?」


「まあね。ちょっと、ワイン入りで作ったものもあった方が、お酒が好きな人は喜ぶと思ってね」


 昨夜、あの後、ドムさんのお店まで行って、購入可能な葡萄酒を譲ってもらったのだ。

 一応、そっちに関しては、アビィさんから許可をもらってたしね。

 余っているワインを少しだけ卸してもらって、という感じだ。

 それを、今の料理でも使ってみたってわけ。

 ワイン入りと、ワイン抜きの二種類だ。

 まあ、ドムさんのお店に顔を出したのって、それだけが理由じゃなくて、『ベネの酒』関連の話がどうなったのか、ちょっと心配だったってのもあったんだけど。

 

 そっちは結局、大事には至らず。

 ドムさんがカミュの愚痴を聞いていただけなんだけど。

 一応、人に譲渡する時は、きちんと説明しておけよ、って感じの忠告で収まったらしい。

 あと、そのついでに、トライさんともお話をしたかったんだけど、昨日の夜は、ちょっとお仕事があって出かけていたらしく、ドムさんのお店では会えなかったのだ。

 トライさんだけじゃなくて、ギルド『三羽烏』の三人とも、だ。

 夜のお仕事って何だろう、って思ったけど、深くは踏み込むのはやめておいた。

 やっぱり、領主代行っていうだけあって、色々とお仕事はあるんだろうな、って。


「後はまあ、バゲットの方は、ピーニャに任せちゃって大丈夫そうだったしね」


 一応、手順はオーバーナイト製法でも、大きくは変わらないので、さっきも時々、一階までのぞきに行ったりもしたけど、特に問題とかはなさそうだったかな。

 念のため、手順についてはメモにしてあるしねえ。

 困った時は呼んでって、ピーニャにも言ってあるし。

 今日は、この後、惣菜パンの調理が終わった後の、この三階の調理場で『プリンクラブ』の人たちに、プリンの作り方を教えないといけないからね。

 そっちの準備とかがあるのだ。


「この後は、プリンの作り方教室なのですねぇ」


「うん。正直、どのくらいの人数が集まるのか、わたしも知らないんだけどね」


 材料は念のため、多めには用意してあるけどね。

 いや、用意してあるっていうか、昨日、プリムがいっぱい置いて行っただけなんだけど。

 ということは、けっこうな人数になるのかな、とは思うけど。


「あれ? コロネ先生もわからないんですか?」


「そうだよ。昨日の時点でも、プリムさんからは、声をかけられるだけ声をかける、としか聞いてないしね。まあ、急な話だったし、ギルドに参加している人もいそがしいだろうから、その辺は、当日にならないと、何とも言えなかったし」


「ちなみに『プリンクラブ』の皆さんって、どのくらいいらっしゃるんですか?」


「えーと……けっこう、いっぱい?」


 一応、クエストの時点で顔を合わせた人だけでも、かなりの数だったしねえ。

 その後、この間の太陽の日の営業とかでも、順調に数が増えていたみたいだし。

 さすがに、百人は行ってないとは思うけど。

 ……行ってないよね?

 

「……あれ? もしかして、ちょっとまずい?」


 自由参加って形になっていれば、別にいいけど、何せあのプリムだもの。

 少なくとも、『魔王領』関係は、強制参加っぽくなってるような。

 いや、無言の圧力と言うか。


「ですねぇ。たぶん、プリム様にお願いされて断れる人って、それほど多くはないと思いますよぉ? 何せ、アキュレス様が頭を下げるくらいですからねぇ」


 きっとアンジュお姉ちゃんも来るでしょうしねぇ、とマリィが苦笑する。

 ふむ。

 そういうことなら、覚悟を決めよう。


「よし、リリック、マリィ。念のため、人がいっぱい来ても大丈夫なように、調理器具とかの準備はしっかりしておこう。今のうちに、オサムさんに断わってから、一階と二階の調理場からも、色々と集めておいた方が良さそうだね」


「はい、わかりました、コロネ先生。それと、私とマリィも、この前のパン教室の時みたいに、先生を補助した方が良いですよね?」


「うん、その方が良さそうだねえ。お願いできるかな? さすがに、この調理場の端から端までだと、説明が届かないかも、だし」


 今度は、調理場の真ん中にコロネがいた方がいいかな。

 まあ、できれば、もうちょっと人手があった方がいいけど、作り方を知ってるピーニャやドロシーたちもパン工房でお仕事の時間だし。

 今いるメンバーでどうにかするしかないか。


「はい、頑張ります!」「わたしもですぅ!」


「それじゃ、プリン教室の準備に取りかかろうか」


 そんなこんなで、いそいそと準備に取り掛かるコロネたちなのだった。

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