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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第324話 コロネ、紙についての相談をする

「ほら、ショコラ、高い高いー」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


 プルートたちの話と、そば茶に夢中になっていると、いつの間にか、ショコラがカオリの頭と一緒に、お手玉をされて喜んでいた。

 本当に、ショコラがきゃっきゃきゃっきゃしてる感じだけど、あれ、横から見てると、かなりシュールな光景だよね。

 笑顔の頭と一緒に茶色いスライムがお手玉されて、それをやってる張本人は首から上がないし。

 うん。

 まあ、ショコラがうれしそうだからいいけど、ちょっとしたホラーだよね。

 というか、随分とカオリのこと気に入ったみたいだね、ショコラ。

 やっぱり、頭のせいなのかな?


 さておき。


「プルートさん、ここって、色々な紙を作っているんですよね?」


「うん、そうだよ。今、ぼくが手すきで作ってるのは、向こうの魔道具じゃ作れない方の紙だね。レーゼさんの廃棄素材とかはそっち系かな」


「あ、レーゼさんの廃材で、紙も作っているんですね?」


 すごいな、レーゼさん。

 能力に、廃棄素材に、大活躍だ。

 ほんと、この町になくてはならない人だねえ。

 というか、レーゼさん製の紙って、何だかものすごそうだ。

 なにせ、『千年樹』由来の紙だものね。


「いや、実際、すごいんだよ、この紙。何せ、加工次第では、地獄の業火とかにも耐えちゃうからねえ。もうちょっと布っぽくすると、服とかも作れるしね。ほら、今、ぼくが着ている白装束も、実はそれでできているんだよ」


「へえ、そうなんですか?」


「うん。だから、重宝してるんだよね。普通の素材の服だと、冥界だとすぐにボロボロになっちゃうし、下手にそっちに対応した死神の服とかよりも、柔らかいし、着心地もいいしね。この白い色だって、加工次第だと、何色にも染まらないようになるしね。ちょうど、ぼくの好きな色にぴったりだから、これを着ているんだ」


「まったく、冥界由来の素材だと、何というか、おどろおどろしい色の服ばっかりだからなあ。だから、他の死神連中も、たまにここにやってくるんじゃん? あたいとかも、そっちの需要に合わせて、この町の職人街の連中と、色々相談したりしてるし」


 なるほど。

 黒系統以外の服で、冥界でも耐えうる素材ってのは、貴重ってことか。

 というか、実は職人街の人たちってすごいんだね。

 レーゼさんの素材も繊維加工できるのか。


「まあ、後は、そっちのルベロたちの本体が、毛でぼーぼーになった時は、それを刈って、素材にしたりしてるなあ。はは、ヘルハウンドたちの毛とかよりも貴重じゃん? 何せ、一応は、ケルベロスの毛だからな、一応」


「おい、レラ。あんまり、一応を強調するな」


 傷つくだろ、とルベロがちょっとだけいじけて。

 それを見て、レラが笑って。


「まあ、そういうな、馬鹿犬。これはこれで、あたいの愛情表現だよ。こう見えても、この素材と、あんたの絵本に関しては評価しているんだって。どんなに普段は、あーめんどくせえ性格、って思っていてもな。だから、喜んでおけばいいんじゃん?」


「いや……あんまりうれしくないんだが」


 まあねえ。

 今のレラの感じで、喜んでいたら、それこそ、めんどくさい性格だものね。

 ちなみに、ルベロの絵本って、この町とか、魔王都とかでも、出回っているのだそうだ。作者の素性は、本人がこんな感じだから伏せているらしいけど、なかなか、子供たちとか、そのお母様がたにも好評なんだって。

 そっちの出版元もアノンが絡んでいるらしい。

 へえ、『週刊グルメ新聞』だけじゃなんだねえ。

 ということは、こっちの世界の本って、『魔王領』が軸なのかなって思ったら、さすがにそういうわけでもないらしく、アランとかが携わっているモンスター図鑑とかは、教会とかのバックアップで、中央大陸の方で作っているそうだ。

 こっちの王都とか、教会でも、一応、製紙技術はあるようだしね。

 もっとも、さすがに、レーゼさんの紙とかは、この町限定みたいだけど。


「うん、基本、レーゼさんの素材は、この町限定だね。もちろん、装備して、外部に行ったりするのは仕方ないけど、もし横流しとかが発覚したら、厳正に処罰されるからね。コロネちゃんも気を付けてね」


「はい、わかりました」


 その辺は、重要な食材とおんなじ扱いってことだものね。

 というか、腕のいい職人がどんどん集まってきて、素材を集める冒険者も住みだして、貴重素材を生み出せる人たちまでいて、って。

 実情が漏れたら、変な人たちに狙われるんじゃないのかな、この町。

 いや、そのくらいは、力技で跳ね飛ばしちゃうんだっけ?

 聞けば聞くほど、普通の町とは程遠いよね。

 この国の王様が、気を遣っている理由がよくわかるよ。

 一応、バドさんとか、王都から派遣された人たちで作った町だから、この国に属しているってだけで。

 いざとなったら、あっさり、独立とかしそうだものね。

 案外、向こうにしてみれば、胃が痛くなる案件なのかもねえ。


「はは、まあ、その辺は仕方ないよね。この国の王都もなかなかに、歪な構造をしてるからねえ。そういうのは、王妃の痛烈な皮肉って感じなんだろうけど。多くの人間が、この国は人間種が主導になってるって思い込んでいることも含めてね」


 ふふふ、とプルートが意味ありげに笑う。

 細かいことは教えてくれないみたいだけど。

 あれ?

 王都って、人間種以外はちょっと住みにくいんじゃなかったっけ?

 その辺にも、事情があるのかな?

 興味があったら、王都に行ってみろって話らしいけど。

 うーん、まあ、親書の件もあるけど、今は、コロネはどっちかと言えば、新しい食材をゲットして、お店でも出せるようなお菓子を作るのが優先だからねえ。

 孤児院には、あいさつに行くけど、王都の方は後回しでいいや。

 話を聞いてるだけで、面倒くさそうなんだもの。

 ただまあ、王様が何となくいい人なのかなってのは、この町の人の話を聞いていても、それとなくは伝わっては来るけど。


 また、横道にそれちゃったから、話を戻そう。


「それで、プルートさん。ここって、料理で使う紙とかも作ったりしているんですよね?」


 前に、焼きりんご屋で見かけた、保温素材だ。

 耐熱加工で、手で持っても熱くないし、それでいて、中で包まれたものの温度を保つことができる紙。

 あれを包み紙にすると、色々といい感じにできそうなんだよね。

 温かいお菓子のお持ち帰り用とか。


「うん、そうだよ。一応、塔で使ってる料理用の紙とかも、ね。キッチンペーパーとか、クッキングペーパーだったかな? たぶん、コロネちゃんも普通に使っているんじゃないかな」


「あ、はい。そうですね」


 向こうほどじゃないけど、オサムが料理を作る時に、それを使ったりしてるものね。

 もちろん、コロネもお菓子作りの時は使わせてもらったこともあるし。

 あっちのは、保温というより、水を吸収してくれるって感じが強いかな。

 布巾で済むものに関しては、あんまり使わないみたいだけど。

 そっちは、実は、ミドリノモがきれいにしてくれるので、再利用可能なのだ。

 ほんと、妖怪さんの能力って便利だよね。

 ユノハナちゃんの温泉とか。


「後は、オサムに頼まれて、試しに作ったのが紙でできた鍋かな。でも、あれって、そもそも、レーゼさんの素材で作れば、耐炎加工はほとんどいらないし、でも、レーゼさんの紙だと、素材のアクとかあんまり吸収しないからって、結局、ちょっと燃えやすい紙に、耐炎加工を施して、耐水機能を高めてって感じなんだよね。やっぱり、それぞれに適した素材ってのがあるんだよ」


 なるほど。

 何でもかんでも、レーゼさんの、ってわけじゃないってことだね。

 そもそも、単価が馬鹿みたいに高くなっちゃうみたいだし。


「とりあえず、コロネちゃんが欲しいのって、どんな感じの紙なの? それによって、どういう対応になるか大分変わってくるんだけど」


 レーゼさんの紙が欲しければ、さすがに素材持ち込みじゃないとダメって、そんな感じらしい。

 普通に、金銭と交換すると価格がものすごくなっちゃうから、そういうのはできないってことみたいだね。


「ええと、わたしが興味があるのは、やっぱり、以前、プルートさんが焼きりんごを売っていた時の、包み紙ですね。あれを使えば、焼きたてのフレンチトーストを包んで、お届けとかも可能になるかもしれないですし」


 なかなかお店まで来られないんだけど、フレンチトーストを食べたいって人はけっこう多いみたいなんだよね。

 一応、パン工房でも販売するから、可能ならそっちに来てほしいけど、色々と事情がある人って多いみたいだし。

 パン工房の営業時間には間に合わない人とか。


「おっ!? そいつは朗報じゃん? あたいたちもそんな感じだしな。おい、プル。そういうことなら、ぜひ、コロネに協力してやんなよ」


「そうだね。私とかもフレンチトースト食べたいもの。ね? ルベロ。何せ、ハチミツをかけて食べる料理だもの」


「ああ! もちろんだとも! プルート、頼む!」


「まあまあ、みんな少し落ち着いてってば。というか、交渉の前段階でそういうことを言われると、ぼくが困るんだけど? まったく……まあ、仕方ないね。こちらとしても、協力しないと収まらないみたいだしね。ちょっとだけ、条件緩和ね」


 やれやれ、といった感じでプルートが苦笑する。

 本当は、素材を持ってきたら、紙を作るつもりだったんだとか。

 それをちょっとだけ緩和してくれるらしい。

 うん。

 その辺は、レラやカオリたちに感謝だね。

 と、思っていたら、プルートが少し離れたいたところに置いてあった、何やら袋と、箱を持ってきた。


「あの、これは?」


「うん、一応、ここで作っている、そばの粉と、おばけりんごだね。というわけで、コロネちゃんに、ミッションね。このいずれかを使って、お菓子を作ってきてください。ぼくらを納得させるものを持ってきてくれたら、今後、包装紙に関しては、協力を惜しまないから」


 まあ、コロネちゃんのことだから、あんまり心配してないけどね、とプルートが笑う。

 ああ、なるほど。

 これって、コボルドさんの村とおんなじような感じだね。


「えー、プル。別にそんなことしなくても、手伝ってやれよ。何で、そんな面倒くさいことを?」


「うん? だって、そうすれば、コロネちゃんが作った、新しいりんごのお菓子が食べられるでしょ? ぼくとしては、そっちの方が興味があるから」


 焼きりんごの他にも可能性が見たいからね、とプルート。


「ああ、なるほど、そういうことか。意地悪で言ってるわけじゃないんだな」


「もちろん。純粋な食い気だけだよ。悪い?」


 そう言って、屈託のない笑みを浮かべる死神さん。

 うん、そういうことなら、頑張らないとね。


「あ、ちなみに、そば粉の方はおまけね。さすがに、そばを使って甘い料理とか想像できないから、りんごの方だけでいいからね。コロネちゃんがそばにも興味を持っていたから、ってだけだから」


「わかりました。頑張りますね」


 よし、薄力粉を入手したら、りんごを使ったお菓子作りだ。

 包み紙のためにも全力を尽くさないとね。

 そんなこんなで、決意を固めるコロネなのだった。

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