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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第318話 コロネ、魔法医にソルベを届ける

「こんばんはー、メルさーん……ありゃ、寝てる」


「ぷるるーん?」


 せっかくだから、メルにも『ベネの酒』のソルベを食べてもらおうと、地下にある家まで行ってみると、ポーションを作りながら、その横の床でぐぅぐぅと眠っているラミアの姿があった。

 あられもない寝姿と言ったら語弊があるけど。

 下半身が蛇状になっていて、それでとぐろを巻いているというか。

 そういえば、コロネもメルが蛇人の形態をとっているところは初めてみた気がする。

 前の方がちょっと乱れた白衣の下から、蛇の下半身がこんにちは、という感じだ。


 結局、あの後すぐに、リディアがバゲットとか、オサムが持ってきた食材を食べつくしてしまったので、それで試食会はお開きとなった。

 まあ、見た感じとか、感想を聞いた感じだと、特に大きな問題はなかったかな。

 一応、『ベネの酒』に関しては、取扱いについて厳重に注意する、ってことで、話をつけて。

 後は、教会の方からも、乳製品の供与追加ってことで、カミュからも言われた。

 なので、チーズの増産に関する相談とか、それプラス、ヨーグルトなんかの話についても聞いてみた。


『ヨーグルト? ああ、そういや、ザンかどっかで、ユッキーの乳を使って、そういうのを作っているって聞いたな』


 さすがにカミュから、そう言われた時は、なんですと? とか思ったけど。

 どうも、ザンって思っていた以上に食材がありそうだよ。

 その辺は、迷い人の女性がいるってのと関係がありそうだけど。

 また、機会があったら行ってみたいよね。

 今度は、前の時みたいに不意打ちじゃなくて。

 とりあえず、カミュからも、調べておくって言葉はもらっているので、ヨーグルトの件もゆっくりと進めていくとして。

 後はまあ、ピーニャは、少しだけ明日のチェックをしてから寝るって言ってたかな。

 ジルバとリディアは、カミュと一緒にドムさんのお店へと向かったけど。


『ちょっと、文句言ってくる』


 とか何とか。

 ドムさんに、『ベネの酒』の使い方について、カミュが酒飲みがてら、苦情を言いに行くついでに、リディアたちもお酒とか料理目当てで、ついて行くのだとか。

 そういう組み合わせで飲んだりとかするんだね、とは思った。

 あんまり、女子会って感じの雰囲気じゃないけど。

 後は、本日分のお仕事も終わったので、マリィたちは宿の方に帰ってるし、リリックも今日のところは、温泉に行くって言ってたし。

 せっかくなので、洗濯ものとかはクリーニングに持って行ってもらうのはお願いしちゃったし。


 で、コロネとショコラで、エレベーターが使えるかどうかのチェックも兼ねて、ふたりだけで、地下一階まで降りてきたというわけだ。

 一応、オサムからも、塔の中にはいるから、困った時はふわわに助けを呼べ、とは言われている。

 そうすれば、ふわわ経由で、地下まで来てくれるそうだ。

 何だか、情報伝達に関しては、ふわわって便利だよね。

 ふわわヘルプサービス、って感じだ。


 それはさておき。

 改めて、メルの倉庫兼ポーションの工房までやってきたんだけど、住居というか、たぶん、こっちが寝泊まりしている母屋だろうなって方は、本とか、色々な書類のようなものとか、何に使うのかよくわからない素材とかが散乱していて、かなり散らかっていて、そっちにはまったく人気がなかったので、前にオサムと一緒にやってきた、倉庫の方、その奥にある工房っぽいところまでやってきたんだけど。

 そこで、すやすやと眠るメルを発見したわけだ。

 いや、床に寝てるのもどうかと思うけど、それ以上に気になるのが、メルの横とかに、火にかけられた、中身が何なのかよくわからないビンとか、ドロシーのお店で見かけたような、魔女の釜みたいなものがグツグツと煮られていたりしている点だ。

 これ、作業中に寝てるよね?

 おっかないなあ、メルさん。


 と、思っていたら、ぐぅぐぅといびきをかいたまま、メルの尻尾が動いたかと思うと、その先っぽを伸ばして、近くにあった草をちょっと磨りつぶしたようなものを、包まれた紙ごと、鍋の中へと入れてしまった。

 ……もしかして、起きてるの?

 ちょっと、起こしたら悪いかな、とか思って、どうしようかと悩んでいたんだけど、まあ、この状態でポーション作りとかやってても危ないだろうから、声をかけることにした。


「メルさん、メルさん、大丈夫ですか?」


「ぐぅ……」


 あ、やっぱり、寝てるのかな?

 というか、今、草を入れた方の鍋が噴きこぼれそうになってるんだけど。


「メルさん! 起きてください! お鍋が! ……ってあれ?」


 もう一度、尻尾が動いたかと思うと、火が小さくなって、鍋の状態が落ち着いて。


「ぐぅ……うん? あれぇ……? コロネ? あー、ちょっと待ってねぇ、今、ちょっと調合中だからぁ」


 そう言って、メルが目の前にあるビンを火からおろして、その中身を、お鍋の方へと入れていく。

 あれ、熱くないのかな?

 今の今まで火にかけていたビンを素手で持ってるんだけど。

 まあ、手の方もきれいな手のままだし、大丈夫なのかな?

 もしかすると、耐熱とかそっち系のものなのかも知れない。


「はい、大丈夫だよぅ。ごめんねえ。というか、コロネどうしたのー? 今って、そろそろ日が暮れるくらいの時間だよねぇ? まだ、お夕飯には早いと思うんだけど?」


「いやいや、メルさん。もう夕食は終わって、すっかり夜ですよ」


「あれぇ? そうだっけ? うーん……このポーションの進行状況から見るに、まだお昼ぐらいだと思っていたんだけどー」


 おかしいなぁ、とメルが首をひねる。

 というか、いつもこんな感じなのかな、メルさんって。

 そりゃあ、寝る時は、一週間くらい寝ちゃうかも、だよね。

 それよりも、だ。


「あの、メルさん、今、ポーション作りながら、寝てましたよね?」


「うん、眠ってたよぅ。時間がかかるものを作る時はいつもこんな感じだねえ。まどろんでながら、寝たり起きたりって感じかなぁ」


「いや、それで失敗したりしないんですか?」


「あはは、まあ、たまに爆発したりするけどねえ。大丈夫大丈夫ぅ、この家も丈夫に作ってるし、そういうのに備えて、この家に近くには、あんまりおうちを建てないようにしてもらってるから」


 あっはっは、と屈託のない笑顔を浮かべるメル。

 いやいや、それ笑い事じゃないと思うんだけど。

 一応、メルによれば、ポーションを保管している区画は、厳重に結界が張られているらしく、もし建物が壊れるレベルの爆発とかでも、そこだけは安定するように仕込んでいるのだそうだ。

 だから、大丈夫って話でもないけど。


「かれこれ、この倉庫も四代目だしねぇ。よくあること、よくあること」


 だから気にしないって感じらしい。

 というか、むしろ、そんなのに巻き込まれて、よく無事だよね。

 その辺は、寝ていても、無意識で身体が反応しているって感じなのかな。


「まあ、わたしの場合、『冬眠』スキルを常時発動してるからねぇ。それの副作用もあったりするんだよぅ? ただねぇ、この眠っちゃいけないんだけど、ふわふわーっと浮いている感じで、うとうととしちゃうのが気持ちいいんだよぅ。そういうのに身を任せていると幸せって感じだしねぇ」


「それでしたら、ポーションを作らない時にそうすればいいじゃないですか」


「うーん、まあ、そうなんだけどねぇ。わたしの場合、四六時中なにかの仕込みはやってるから、まあ、そういうのに慣れちゃったかな?」


 そう言いながら、今度は、奥の方の棚に並べられていた器材、たぶん、何かの薬品の抽出をしているんだろう、そこに置かれていたビーカーを新しいものと交換しつつ、透明な液体が溜まっているビーカーを別の場所へと持って行って。

 色のついた器に移し替えて、しっかりとふたをした後、おそらく何らかの魔法を使ったのかな?

 メルの指先が光ったかと思うと、その器の表面によくわからない文字というか、模様のようなものが浮かび上がる。

 前に、コロネがもらった親書にも似たような紋様があったから、たぶん、封か何かなんだろうね。

 で、その後も、いくつかの作業を行なった後、ようやく、メルがコロネの前まで戻って来た。

 それにしても、蛇の足でも、普通に歩けるんだね。

 横で見ていると、それだけでも不思議な光景なんだけど。


「それで、コロネはどうしたのぉ? オサムからのおつかいか何か? あれぇ? そういえば、コロネだけで、地下まで来たの?」


 この前は、ひとりでエレベーターを使えなかったよねぇ? とメル。


「はい。ショコラの手を借りて、ですけど、エレベーターで地下まで来られるようになりましたよ。それで、ここに来た理由ですけど、新しいお菓子の試作品ができましたので、メルさんに持ってきたんですよ。ソルベって言いまして、新しいアイスですね」


 そう言って、持ってきたソルベをメルに渡す。

 いちごとぶどうと、『ベネの酒』のソルベだ。

 というか、地下一階だから、すぐだろうと思ったけど、あんまりだらだらしてると、溶けちゃうよね。

 危ない危ない。


「あー、ありがとう、コロネ。ちょうどおなかが空いてたから、ちょうど良かったよぅ。それじゃあ、いただくねえ」


 まだ半分覚醒していない、ふわふわした感じで、メルが笑って。

 その場に腰を下ろして、ソルベを食べ始めた。

 どうも、メルって、床に座るのもあんまり気にしないみたいだね。

 その辺は、下半身が蛇ってのも理由なのかな?

 これだと、普通の椅子の方が座りにくいものね。


「うわあっ! いちごだ、いちごだ、いちごだよぅ! 美味しいねえ、これ」


 いちごのソルベを口にした瞬間、めずらしく、メルがハイテンションになった。

 コロネがびっくりするくらいに。

 実は、いちごが好物だったみたいだね。

 さっきまでの眠気もどこへやら、目がぱっちりとしているし。


「いやあ、いちご美味しいねえ。ぶどうも美味しいけど、やっぱりいちごだよぅ。あー、幸せぇ」


 うん、まあ、喜んでもらえて何よりかな。

 メルには、訓練の時のマジックポーションとかでお世話になっているし。

 ようやく、お菓子を食べてもらえたしね。

 と、さっきのカミュと同様に、『ベネの酒』のソルベを口にした途端、メルの動きがぴたりと止まる。


「あー、これって……お薬ぃ?」


「あ、はい。ドムさんから譲って頂いたお酒で作ったソルベです。『ベネの酒』って言うんですけど、薬草酒みたいですね」


「あー、やっぱりねぇ。ふんふん、なるほどねぇ……」


 何やら、ぶつぶつと言いながら、考え込むメルを見ながら。

 もしかして、持って来たらまずかったかな、とちょっとだけ不安になるコロネなのだった。

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