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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第316話 コロネ、ソルベを食べる

「何でもこれ、『ワールプール』を使って作ったんだってな?」


「はい。パコジェットができるまでは、何か方法を考えないと、ですから。塩と氷と身体強化ってのも考えましたけどね」


 幸いと言うか、リリックの水魔法と、キンキンに冷やしたボウルだけで、何とか事足りたんだけどね。

 ただ、これにしても、色々と改善の余地はあるよ。

 ボウルにしても、冷たい容器を押さえるのって、けっこう大変だから、もうちょっと工夫したいしね。

 中が見える透明な容器で、ふた付きのものとか。

 それで、冷たい状態を維持できるものだと最高だよね。


 ……うん?

 あれ? 考えていて思ったんだけど、スライムの土素材で作れないかな?

 あっ、思い付きだけど、これ案外、いいかもしれない。

 今度、職人街に行った時にでも、アストラルに相談してみよう。

 そもそも、ジーナの工房にも、ミキサーを持っていかないといけなかったしね。

 ミキサーと並行して、『ワールプール』用の器具も、って感じだ。

 そうすれば、色々できそうだし。


「ねえねえ、コロネちゃん。早速、いちごのアイスからいただくわね……うわっ! これ、美味しいわね! 採れたてのいちごを食べてるっていうか、むせ返るようないちごの香りが鮮烈よ! へえ、普通に食べるよりも風味が強くなるのね?」


「ええ。ソルベってそういうお菓子ですからね。フレッシュでも十分に美味しい素材を使う以上は、素材そのままで食べるよりも、鮮やかな旬を感じさせないといけないんですって。そう、店長から教わりましたから」


 さすがに、冒険者だけに、ジルバも野生のいちごを食べたことがあるそうだ。

 というか、王都の近くの森の奥にも、秘密の場所があったりするらしい。

 へえ、そういうのは興味あるかな。

 果樹園で売っている、この『すいーときんぐ』とは別の品種かもしれないし。

 コロネもこの『すいーときんぐ』のソルベを味見したけど、やっぱり、いちご本来の甘みがちょっと強すぎる品種だったかな。

 もうちょっと自然の酸味が多いほうが、ソルベ向きなんだよね。

 もちろん、これはこれで美味しいし、甘いのが好きに人には喜ばれるだろうけど。

 実は、ソルベの場合、フルーツのほのかな酸味って重要な要素なんだよね。


「甘くてさわやかなのです! 普通のアイスよりも、このソルベって、口の中にじんわりと残る感じなのですね! でも、このゆっくり溶ける感じも美味しいのです!」


「いちごのつぶつぶ感とかもしっかり生きているしな。美味いぜ、これ。下手に、ミキサーで作るより、これはこれで、食感に良いアクセントって感じもするけどな」


 なるほど。

 確かにそういうのはあるかもね。

 いちごをこした時も、ちょっと果肉を残すために、目の粗いものでこしてるし。

 機械いっぺんとうで、品質の安定もいいけど、こういうちょっとした手作り感ってのも、実は意外と好かれたりするんだよね。

 教会とかで、子供たちが作る時は、そっちを売りにした方がいいのかもね。


「うん! 美味い美味い! これが果物を使ったアイスか!」


「はい、カミュさん。アイス関係に関しては、リリック経由で、製法伝達で大丈夫ですので、こっちも教会で作って大丈夫ですよ。ただ、もうちょっと、器具とかに関しては、工夫したいところですけど」


「おっ!? 本当か? そいつはありがたいぜ、コロネ。感謝する。じゃあ、酒を使ったアイス以外はそれで頼むわ」


「あれ? カミュさん、お酒のアイスはいいんですか?」


 ちょっと、いや、ものすごく意外だ。

 カミュのことだから、お酒のアイスとかもしっかりと教会で作ろうとすると思っていたんだけど。

 そう尋ねると、ちょっとだけ苦笑いのカミュ。


「ああ、それな。カウベルからくぎを刺されたよ。子供たちにそんなことはさせられないってな。無理やり導入したら、あいつがマジ切れするから、やめておくよ。そういうわけで、この町の教会としては、酒に関するお菓子作りは中止だな」


 あたしとしては残念なんだが、とカミュが少しだけため息をつく。

 まあ、そうは言っても、カウベルと揉めるつもりはないらしい。

 というか、あの、カウベルさんでもマジ切れすることってあるんだ。

 正直、そっちの方がイメージできないんだけど。


「あん? いや、さすがに怒らないやつなんていないぜ? なあ、リリック」


「はい。シスターカウベルも穏やかな方ですが、あの方もこの町でシスターをしているくらいですからね。つまりはそういうことですよ」


 いや、どういうことなのかさっぱりなんだけど。

 まあ、言わんとすることはわかるけどさ。

 

「ま、そういうわけだから、お酒関係のお菓子は、コロネのとこで、頑張って作ってくれると助かる。あたしも大っぴらに買いに来れるからな。さすがに、ここのガキどもとか孤児院のやつらを使って、量産ってのは、あんまりよろしくないもんでな」


「わかりました」


 ただ、そうは言っても、本当はこのソルベを作るのにも、けっこうお酒とか使った方が美味しくなるレシピが多いんだけどね。

 アルコールを飛ばす製法ではあるけど。

 そうなると、子供たちに関しては、そっちも禁止ってわけか。

 ふむ。

 その辺は注意しておかないと。


「リリック、アイス作りで、ワインとかキルシュを使うものは、今後作り方を教えたとしても、リリックでストップしてね。わたしもカウベルさんに怒られるのは嫌だし」


「はい、わかりました、コロネ先生。と言いますか、アイス作りでも、そんなにお酒を使うものがいっぱいあるんですか? あんまり、そんな感じもしないんですけど」


 今まで作ったものでも十分美味しいですよね? とリリックが尋ねてくる。

 うん、まあ、今までのはそうだよね。

 そもそも、コロネ自身が、使えるお酒がまだまだ少ないってのもあるけど。

 ようやく、さとうきびの情報も得られたし、それで、やっと、ラム酒作りへの挑戦ができるって感じだし。


「まあ、わたしのいたところでもお酒のアイスって人気だったんだよ? お酒の風味っていうのかな? 干したぶどうを、さとうきびで作ったお酒に浸して漬け込んだものを使うアイスね。ラムレーズンって言うんだけど」


「ラムレーズン、ですか?」


「へえ、そんなもんもあるのか?」


「はは、カミュ、ラムレーズンのアイスは美味いぜ? たぶん、コロネだったら、もうちょっとで作れるようになるかもだしな。まったく、最低でもあと数か月はかかると思ったんだが、大したもんだよ」


「そいつは楽しみだな、ふふふ」


 いや、さすがに、お酒を一からってなると、すぐには無理だと思いますよ、オサムさん?

 まあ、ともあれ、ラム酒に関しては、道が見えてきているしね。

 そうそう、遠くない将来は作れるようになるかな。

 後は、桃とかのリキュールとか、甘口のワインとか、コニャックのソルベとか。

 お酒のアイス系は、果実酒以外だと、コーヒーのグラニテとかと組み合わせると、グッと味が引き立つんだよね。

 盛り合わせアイスの基本と言うか。

 あ、そういえば、コーヒーって、こっちの世界にもあるのかな?

 まだ、あんまり聞いたことないんだけど。


「そういえば、オサムさん、コーヒーってこっちにもあるんですか?」


「あるにはあるぞ。まあ、例によって、入手が難しい食材のひとつではあるんだが」


 オサムが苦笑しながら、カミュの方を向いた。

 おや? もしかして、コーヒーって、教会関係と言うか、アニマルヴィレッジとかで栽培しているものだったりするのかな?


「はあ……やっぱり、コロネも知ってるのかよ。まあ、サーカスとかでも、そっちのやつらは来てたしな。コロネなら、そのうちたどり着くのも時間の問題かも知れないがな。オサムたちがコーヒーって言ってるのはあれだろ? 『神々の豆』って言われてる、食材のことだな?」


「えっ!? 『神々の豆』ですか?」


 何か、ものすごく仰々しい感じなんだけど。

 いや、まあ、向こうでも、最初のコーヒーの扱いって、そんな感じだったっけ?

 その辺は、カカオも近いみたいだけど。


「はは、どうも、原産地は西大陸の浮遊群島の一角、らしいぜ? 俺も、あっちには足を伸ばしたことはないからな。伝聞だが」


「ああ。教会本部にも、まあ、色々と伝手があってな。少しは入ってくるんだが……だが、基本はあの豆って、中央大陸では、栽培禁止だぞ? 神族連中の嗜好品だから、下手なことをすると、かなり面倒な代物だからな」


「そうなんですか?」


 ありゃ。

 こっちはこっちで、紅茶とは別に難易度が高そうだね。

 お茶の葉っぱは、ドロシーを経由して入手可能だろうけど、そうなると、コーヒーはかなり難易度が高いのかもしれないねえ。

 今のところ、西大陸で知り合った人って、サーカスの副団長のピースさんくらいだし。

 いや、まあ、アキュレスたちのように、いつの間にか知り合ってるかも知れないけどさ。

 そこまでは、わからないし。


「とにかくだな。教会の上層部にも、ご意見番というか、めんどくさい連中がいやがるんだが、そいつらの何人かは、神族とのつながりがあるのさ。まあ、別に、神族が教会を裏でどうこうって話じゃないんだが、魔族側の侵攻に備えて、色々やった経緯があってな。そういうわけで、少しはコーヒーに関してもあることはあるが、ほとんど、連中が隠しちまうからなあ……『三賢人』って、言うんだが、聞いたことはあるか?」


「いえ、まったく」


 さすがに、『三賢人』って言葉には覚えがないね。

 そもそも、教会に関する話って、カミュ以外からは、ほとんど教えてもらってないし。

 まあ、すぐにコロネに関わってくるわけじゃなさそうだから、棚上げしていたってのはあるかな。

 いざとなれば、リリックとかに聞いても良かったしね。


「コロネ先生、『三賢人』というのは、教会の知恵袋という存在らしいですよ。私もまだお会いしたことはありませんが、素晴らしい方々らしいです。そう、シスターカウベルから聞きました」


「うーん、まあ、知恵袋っつーか、無駄に長生きしてるだけっつーか。まあ、カウベルにとってはそうかもな。あたしにとっては、いけ好かない奴らなんだけどさ。ったく、忌々しいったら、ありゃしない」


「そうなんですか?」


 どうも、カミュにとっては、あんまり会いたくない人たちらしい。

 でも、『三賢人』ねえ。

 白いおひげのお爺さんたちってイメージが浮かんでくるよ。


「まあ、実際、連中がいないと、教会ももうちょっとまずいことになってたかも知れないからな。そこまで毛嫌いするつもりもないが、あたしにとっては、会うと説教って感じの、うへぇってやつらなのさ。まあ、それはどうでもいいんだが。中央でコーヒーが欲しければ、それこそ教会本部に行くしかないな。後は、コロネが直接、西大陸に行くか。そのふたつにひとつってところだ。一応、言っとくが、プリムの転移にも制約があるからな。東大陸とは違って、中央とか西とか『幻獣島』だと、同じことができないって思っておきな。あいつ、自分からはコロネに対して、そういうことは語らないだろうしな」


 転移は万能じゃない、とカミュ。

 もし行くのなら、西大陸は自力で目指せってことらしい。

 へえ、というか、カミュもすごいね。

 本当に色々な事情を知っているんだね。


「はい、気を付けます」


 当然、コロネも頑張らないといけないものね。

 とにかく、この町の周囲くらいは何とかしたいなあ。

 そう、強く思うコロネなのだった。

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