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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第314話 コロネ、試食の用意をする

「あれ? シスターカミュ、いつの間にいらしてたんですか?」


「おいおい、コロネに引き続いて、リリックまでかよ。あたしがここにやって来ちゃいかんのか? ちょっとドワーフの件で進展があったんで、オサムと話してたんだよ」


 そうなのだ。

 保管庫から戻る途中で、ジルバとオサムを呼びに行ったら、なぜかカミュもいたというか。

 どうも、それでオサムはこっちを見に来なかったらしい。

 食事の時には、料理を作る時は見に来るとか言っていたのに。

 で、お酒のソルベの試食と聞いたら、この人が黙っているわけがないって感じだよね。

 酔いどれシスターのカミュさん。

 まあ、確かに、普段から浴びるように飲んでる人の方が、味のチェックとかが的確な気もするしねえ。

 さすがに、コロネも、薬草酒というか、錬金術で作ったお酒なんて、料理で使ったことはないし。

 あ、でも、養命のお酒とかかな?

 あっち系は分量を調節すると、フルーツケーキなんかによく合ったりするんだよね。

 火を通すことで、独特な風味とか緩和されて、普通のブランデーみたいな感じに仕上がるのだ。

 意外と言っては意外だけど。

 だから、案外、薬草酒ってお菓子作りに使えるかも、なんだよね。


 というか、だ。


「あれ、カミュさん。ドワーフの件だったんですか? 子供たちの話じゃなくて」


 今、一緒に歩いて来た時はそんな話だった気がするんだけど。

 ドワーフの件ってのは、中央大陸の西側のごたごたにドワーフの本拠地が巻き込まれてて、辟易しているってやつだよね?

 教会もちょっと相談に乗ってるって感じだったらしいし。

 というか、ここ最近やってきた、教会の子供たちって、そっちの国の戦災孤児らしいから、そっちも無関係じゃないのか。

 相変わらず、世の中ってのは一筋縄じゃあいかないねえ。


「ああ。あっちの責任者とかとも話をしてな。あと、教会の本部の連中が渋ってたのが、ようやく折れたというか、結論を出したって言うかな。そんなわけで、ドワーフ連中の件、本腰入れて動いていいってことになったってわけさ」


「へえ、そうなんですか」


 カミュの話だと、ドワーフたちも、もういいかげん、今の住みかだと、らちが明かないので、もし適した環境があれば、一部機能を新しい場所へと移したいってところまで覚悟を決めていたのだそうだ。

 で、教会の方も、カミュとかは、そっちに協力していい、って派閥らしくて、それに消極的な方を説得というか、まあ、色々やって、方針転換させたというか何というか。

 下手に関わると、教会も今戦争をしてる三国から恨まれるんじゃないか、ってのが、消極派の意見で、カミュの方はと言えば、何を今更って感じらしい。


「てか、孤児とか難民の問題で、もうすでに教会は連中には手伝ってるだろうが。何をいけしゃあしゃあと、ドワーフの件では抗議するってんだよ。んなこと言ってくるような輩は、こっちが配慮しようがしまいがおんなじことだよ」


 カミュが少し吐き捨てるように言って。


「大体なあ、ゲルドニアのバカ空軍のやつらのおかげで、周辺に軒並み面倒が広がってるんだぞ? もちろん、連中には連中の事情ってやつがあるんだろうが、んなこと、好き勝手やる理由にはならないだろうが。あんまり調子に乗ってると、教会の恐ろしさってやつを見せてやるぞ? まあ、マギーたち『空賊』の方でも、色々と考えがあるらしいから、そっちを立てる形で、積極的な介入はしないが」


「いや、あの、シスターカミュ、さすがに言ってることが物騒ですよ?」


「あん? 何を今更言ってるんだよ、リリック。教会なんだから、物騒に決まってるだろが。今は下手に動くと被害が拡大するから、様子見てるだけだぞ。あのな、いざという時、魔族連中とも事構えようって組織が物騒じゃないわけないだろ。平和ボケだぞ」


「いや、シスターって、平和に寄与する存在じゃないんですか?」


「寄与してるだろ。強権とか、力づくで」


 平和ってのはそういうもんだ、とカミュ。

 相変わらず、シスターっぽくないというか、ちょっと過激なカミュさん節だねえ。

 というか、相変わらず、カミュの教会内での立ち位置がよくわからない。

 話を聞いてる感じだと、ここの町の所属って感じじゃないけど、かと言って、教会本部の人ってわけじゃないんだよね?

 前に、カウベルさんがこの町の責任者代行って聞いたし。

 一応は、客分って感じなのかな。

 それにしては、カウベルさんよりも偉そうにしているし、王都とか、西側諸国とか、そっちまで足を伸ばしている感じも受けるし。

 何というか、不思議な人だよね。


 まあ、いいや。

 今はそんな話を聞きたいわけじゃないしね。


「まあまあ、カミュさん。それよりも、ほら、見てくださいよ。白い小麦を使った新しいパンが焼きあがったんですよ。で、こっちのがアイスのバリエーションの一種で、ソルベですね。いちごとぶどうと、お酒のアイスです」


「おっ! すごいな! てか、このパンの数は多すぎないか?」


 今、食べるのか? とカミュが聞いてきた。

 いや、確かにそれはコロネも思ってはいたんだよね。

 試しで作ったはいいけど、さすがに夕食の後だし、コロネとかも実はけっこうおなかいっぱいだったりするんだよね。

 でも、短縮製法の方はピーニャに教えないといけなかったし。

 うーん。

 言われて気付いたけど、このパンどうしようか。

 せっかくだから、おいしいうちに食べたいし。


「あら、カミュちゃん。それなら、余った分を教会に持って行ったら? 子供たちも喜ぶと思うけど」


 横からジルバが不思議そうにたずねる。

 というか、ジルバって、カミュのことも普通にちゃん付けなんだ。

 なんか、コロネとかが話してると、カミュって、子供扱いされるのって嫌いな気がするんだけど。

 見た目は、明らかにコロネより小さいんだけどね。

 ただ、カミュはカミュで気にした様子もなく。


「いや、ジルバ、それはさすがにあたしが好き勝手していい話じゃないだろ、まったく。てか、そもそも、もうガキども寝る時間だぞ? 今から食わせるわけにもいかんし、せっかくの焼きたてのパンを明日の朝まで置いておくなんて、罰当たりなことはできんだろ。それこそ、もったいない」


 あー、なるほどねえ。

 まあ、とりあえずは、ここにいるみんなで味見して、残りはどうしようかって感じか。

 と、そんなことを話していると、オサムが後から色々な食材を持って現れた。

 ハムとかチーズとか、野菜とか。

 あと、何かよくわからない容器とか。


「おーい、バゲットが焼きあがったっていうから、それに合うもんを色々見繕ってきたぜ……って、何、話してるんだ、お前さんたち?」


「いや、コロネたちが随分いっぱいパンを焼いたなって話だよ、オサム。ここにいる者だけじゃ食えんだろってな」


「はい。私もオサムさんのごはんを頂いたばかりですし。コロネ先生も、ピーニャさんも、マリィたちもそんな感じみたいですよ?」


「そうですね。まあ、ショコラは食べる気満々みたいですけど」


「ぷるるーん!」


 新しい料理に興奮気味なのは、ショコラくらいかな。

 後は、カミュがお酒のソルベに興味を持っているくらいで、コロネを始め、ほとんどはさっきハンバーグを食べたばっかりで、味見程度くらいしかできないみたい。


「なるほどな。まあ、そういうことなら、食えるやつに声をかけるか? あいつなら、すぐやってくるだろうし。いいか、コロネ?」


「はい、大丈夫ですよ」


 というか、誰を呼ぶんだろ?

 そんな感じでオサムの方を見ていたんだけど。


「ふわわー、いつもの伝達頼む。『今日はコロネの新しいパンが余ってる』ってな……って、おい、もう来たのかよ?」


 オサムが中空に、というか、塔そのものになっているふわわに頼み事をしている最中、というか、話が終わるか終らないかのタイミングで、玄関の鈴が鳴った。


「ん、新しいパンはどこ?」


 やってきたのはリディアだ。

 というか、どこから来たのさ、リディアさん。

 確かに『大食い』って二つ名のある冒険者さんだけどさ。

 オサムさんも呆れてたけど、今の早さって、どう考えても、プリムさんの転移みたいな何かでもしないと、やって来れないでしょ。

 本当に底知れない人だなあ。


「まあ、少し落ち着けリディア。まだ、試食の準備中だよ。というか、お前さん随分早かったが、どこにいたんだよ?」


「ん、コロネに頼む甘いものを採りに行った帰り。また、南東部」


 そう言って、テーブルの上の空いているスペースに、前にも持ってきてくれた大きなバナナと、それにバナナよりは小さめだけど、ちょっと大きめのパイナップルのようなもの、っていうか、パイナップルだ。

 それらが並べられていく。

 どうやら、また、太陽の日用の食材を採ってきてくれたらしい。


「はい、コロネ、食材。また、お願い」


「ありがとうございます、リディアさん」


 うわ、でもうれしいね。

 バナナは貴重だって言ってたし。

 普通に、採ってきてくれるリディアの存在に感謝だ。

 というか、そこで、ふと思う。


「ところで、リディアさん。このバナナってどこに生えているんですか?」


「うん? 南東部」


「あー、そうだな。今いる連中なら大丈夫か。コロネ、野生のバナナが生えているのは、東大陸の南東部だよ。ちょうど、その辺に、さとうきびの栽培もやってくれている港町があってな。リビアの町って言うんだが」


「リビアの町ですか?」


 へえ、つまりは『魔王領』の港町ってことか。

 なるほど。

 以前、オサムが呆れていたのを思い出す。

 今もそうだけど、確かに、食材を求めて、わざわざ大陸を渡って、反対側の海岸まで行くってのはすごいよね。

 それも、コロネが何か甘いものがいいです、って言っただけで。


「ああ。ブラックゴブリンというか、南国ゴブリンというか。連中が、農園でさとうきびを育ててくれているんだよ。まあ、コロネともそのうち、足を運んだりするようになるだろうな」


 オサムの言葉に大いに頷く。

 野生のバナナとかだけじゃなくて、お砂糖の生産地でもあるのか。

 その、リビアの町って。

 これは、うれしい情報だよ、うん。

 お砂糖関係の話に心を躍らせつつ。

 そんなこんなで、ちょっと賑やかな試食会は続く。

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