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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第312話 コロネ、いちごのソルベを作る

「それじゃあ、グラス……氷菓子の部門その二、ソルベの作り方に入るね。今日のところは、果物がいっぱいあるけど、リリックに魔法で手伝ってもらうことも考えて、三種類のソルベにしぼって、それで作っていこうと思うのね」


「コロネ先生、ソルベって、アングレーズを使わないアイスでしたよね?」


 お、リリック、ちゃんと覚えてたね。

 偉い偉い。


「そうそう。マリィと、あ、あの時はピーニャも一緒にいなかったよね? だから、ふたりにも改めて説明すると、ソルベって言うのは果物とかお酒をベースにして、シロップなどを使って甘みをつけて凍らせたものを言うのね。アングレーズを作る時みたいに、たまごとか牛乳に火を入れないで作るから、素材の味をそのまま楽しめる氷菓だね」


 ただし、お酒とかを使う場合は、物によってはアルコールを飛ばすために、ちょっと煮詰めるし、ミルクのソルベを作る時も温めたりもするけどね。

 その場合は、砂糖とか練乳とか水飴とか、そういうのを溶かす感じなので、ぬるくなるまでって感じかな。

 実際、ミルクのアイスと違って、たまごは使わないから、同じミルクを使っても、アイスクリームとソルベだと、大分、味とか食感が違うのだ。

 その辺は、氷菓も奥が深いってところだね。


「コロネさん、そのソルベも、アイスクリームと同様に、果物なら何でもいいのですか?」


「うん、そんな感じだよ、ピーニャ。氷菓子に関しては、基本の作り方さえ覚えちゃえば、あとは素材に合わせて応用するだけだからね。工夫次第で、どんな食材とも合わせることができるし」


 一応、果物とかお酒って言ったけど、野菜メインのソルベも作れるし、ハーブとか山菜のソルベとか、面白いのだと、唐辛子とかオリーブオイルのソルベとかもあるし。

 かなり癖の強いハーブとかでも、ソルベにすると、さわやかな苦みくらいになって、ちゃんと調和してくれるので、作る側としては、色々試せて楽しいのだ。


「なるほどなのです。マジカルハーブでも作れるのですね」


「そうそう。こっちにもあるのかわからないけど、ミント系の味も人気があったからね。チョコレートと合わせると、なかなかいい感じだよ」


 もっとも、ミント系のアイスって、好みが分かれるからね。

 こっちでも人気が出るかは、まだ未知数かな。

 最初のうちは、基本形のものが無難だろうね。


「それでね、今日作るのは、いちごとぶどうと……後は、これね」


「えーとぉ、コロネさん、最後のはお酒……ですかぁ?」


「うん、そうだよ、マリィ。これは、ドムさんからもらったお酒だよ。『ベネの酒』って言うんだって。お酒というか、錬金術とかで作った薬草酒って感じらしいけど」


 せっかくだから、お酒のソルベもと思って、『ベネの酒』を用意した。

 今、コロネが使えるお酒って、これか、ジーナのところで作ってた蜂蜜酒だったから、どっちにしようかな、って思ったけど、こういうタイミングでもないと、使いどころが難しそうだったので、こっちに決めた。

 ケーキとかで、ブランデーみたいな使い方でも良い気がしたけど、ちょっと、お酒好きの人からの反応とかも見たかったしね。

 だったら、甘さの強い蜂蜜酒よりも、こっちでソルベだ。


 後は、いちごは一種類しかないので、品種は『すいーときんぐ』で、ぶどうの方は『シャイニング』を使うことにした。


「それじゃあ、あんまりのんびりしてると、バゲットの方の工程にかかってきちゃうから、さくさく進めようか。まずは、いちごからね」


 材料は、いちごと、水とハチミツから作ったシロップだ。

 本当は、砂糖を使ってシロップを作った方がいいし、それとは別に、レモンの果汁やキルシュも使った方がいいんだけどね。

 あるいはワインとか。

 今はないものねだりだから仕方ないけど、ちょっと酸味を加えることで、味もきりっと締まるし、ソルベの色も鮮やかなままになるのだ。


「いちごはヘタを取って、小さく刻んで、この間、ムーサチェリーのアイスを作った時とおんなじ要領で、しっかり撹拌した後で、とろとろの状態になったら、最後にこしていく感じね」


「「「はい!」」」


 そんなこんなで、いちごをつぶす作業に入る。

 というかさ。

 ムーサチェリーの時にも思ったけど、これ、早々にミキサーは必要だね。

 早いところ、ジーナのところに行かないといけないよ。

 本当は、いちごの場合、ミキサーでピュレ状にしちゃえば、そのまま使えるわけだし。

 なめらかさのために、こしてるけど、ちょっともったいないものね。

 残った部分は、後でいちごジャムとかに活用だ。


「はい、そんな感じね。これで、このいちごにシロップを混ぜるよ。この時のポイントはある程度の甘みに合わせるって感じかな。甘すぎたら水を加えて、甘さが足りなかったら、シロップを少し加えて、ね。そうしないと、ねっとりとした食感で固まらないから」


 糖度が低いと氷のように固くなっちゃうし、糖度が高すぎると甘さが口に残って、後味が悪くなっちゃうのだ。

 その辺は、バランスが難しいんだよね。


「コロネさん、甘さの見極めはどうするのですか?」


「うーん、ごめんね、ピーニャ。そっちはオサムさんに相談しておくよ。糖度を計る機械というか、器具が必要になりそうだし。それまでは、勘だねえ」


 ほんと、教える者としてはもうしわけないんだけど、しばらくは感覚に頼るしかないと思うんだよ。

 まあ、こっちだと、視覚強化とかもあるから、何とか違いを判断できるといいんだけどね。

 とりあえず、リリックとマリィには、アングレーズ作りの時から、意識してもらうように言ってはいる。

 たぶん、糖度計のない時代って、アイスの職人さんの感覚で何とかなっていただろうしね。

 何となくって意味なら、コロネも粘度とかで、ちょっとはわからなくもないし。

 もっとも、果物の場合は個体差があるので、その辺の微調整は難しいけどね。


 ともあれ。

 いちごのアパレイユが完成だ。


「それじゃあ、ちょっと待っててね。冷凍庫から準備しておいたものを取ってくるから」


 三人に断わって、冷凍庫の中でも、冷たい区画に置いておいたボウルをいくつか持ってくる。

 この、マイナス四十度以下で、しっかりと冷やしておいたボウルが今回の製法のポイントだ。


「コロネさん、これは何なのですか?」


「冷凍庫で冷やしておいたボウルだよ。今日は、これを何個かと、リリックの水魔法を使って、ソルベを作っていくの」


「えっ!? そうなんですか、コロネ先生?」


 リリックがちょっとびっくりしたように言う。

 さっき、手伝ってとは言ったけど、詳しい方法については説明してなかったしね。


「うん、そう。あのね、わたしのいたところでは、アイスクリームとかソルベとかを簡単に作る機械があったの。というか、今も、オサムさんに頼んで、そっちの方も開発中なんだけど。その機械の簡単な理屈ってのが、『機械で冷たい状態を保って、撹拌する』とか、『食材を凍結させておいて、特殊な刃で粉砕して撹拌する』ってものなのね」


 ソルベマシンとか、パコジェットって、基本的な機能って、そんな感じだし。

 だったら、魔法とかを使って、同じ状況を再現できないかな、って。


「ここでのポイントは、『冷やす』ってのと『撹拌』ね。このボウルが冷却されたシリンダーの代用、そしてリリックの水の『ワールプール』が撹拌の代用、ってね」


 ソルベマシンのように、シリンダーを冷やし続けることができないのであれば、そのシリンダーの代わりになるように、いくつかボウルを順番に使えばいい。

 そして、撹拌の機能は、魔法で代用する。

 これで、機械と同じことができると思うのだ。


「つまり、この中に、今作ったいちごのソルベの元を入れて、魔法で撹拌ってことですね?」


「そうだよ、リリック。理屈としてはそんな感じね」


 問題があるとすれば、コロネがリリックの魔法を一度も見たことがないってことだよね。

 その『ワールプール』の撹拌がどんな感じなのかは、想像でしかないから。

 ただ、まあ、バター作りでもやってるってことは、ボウルの内側で撹拌ってこともできると思うんだよね。

 あっ、そうだ。


「ちなみに、リリック。ボウルを二つ合わせた内側でも魔法って使えるの?」


「あ、できますよ、コロネ先生。この魔法って、別に接している必要をありませんし。もっとも、生き物の内側とか、障壁があるところに関してはできませんけどね」


 へえ、そうなんだ。

 ボウルの場合は、特に問題ないって感じなんだ。

 だったら、球体になったボウルの内側で、撹拌してもらおう。

 そっちの方が、はみ出したりしないように、注意する必要がないものね。


 だったら早速準備だ。

 片方のボウルに、今のいちごシロップを入れて。

 もうひとつを合わせる感じで、しっかりと固定して、と。


「それじゃあ、リリックお願いね」


「はい! では行きますよ……『ワールプール』!」


 おっ! すごいすごい!

 今、球体のボウルを、手袋をしたコロネとマリィで押さえているけど、中でシロップが回転したり、混ざり合っているのがわかるよ。

 思ったより激しい感じかな。


「すごいね、けっこう勢いがあるんだね」


「そうですね。この状態ですと、制御しやすいですからね。真ん丸ですし」


 だから、遠慮なく力を維持できる、とのこと。

 なるほどね。

 確かに、押さえてるのが大変だもの。

 でも、始めて、少し経っただけで、中からシャリシャリって音が聞こえてきたから、ちょっとずつ凍り始めているのがわかる。


「ちなみに、コロネ先生。これはどのくらい続けたらいいんですか?」


「一応、十五分から二十分くらいを考えていたんだけど、下手すると十分かからないかもね。うん、中のシロップが動かなくなったら終了にしよう」


「わかりました」


 量が少ないせいもあるんだろうけど、意外とボウルふたつで何とかなりそうだ。

 そんなこんなで、十分経つか経たないかくらいで、完全に中の物が動かなくなったので。


「うん、リリック、魔法止めて大丈夫だよ。お疲れ様」


「はい……解除しました。でも、思っていたよりも固まるのが早かったですね。それで、どうですか? 中身の方は」


「ゆっくり開けてみるよ……おおっ! やったやった! ちゃんと凍ってるね!」


 ボウルを開けてみると、しっかりとこびりついた感じで、いちごのソルベができあがっていた。

 いい感じで、ねっとりしてるし。

 でも、すごいね、水魔法の『ワールプール』。

 正直、水系統だったから、固まった後は大丈夫かなって思っていたんだけど、しっかりとソルベになっていたよ。


「やったね、リリック! これ、成功だよ! 新しい製法って感じだね!」


「あ、良かった……うれしいですよ、お役に立てまして」


「なのです! すごいのですね! これもアイスの一種なのですよね? それが、こんなにあっという間にできるなんて、驚きなのです!」


「うん。アイスクリームでも同じことができるからね。ほら、一時間おきに混ぜる作業があったでしょ? あれを凍らせるのと同時にやってる感じだから。もちろん、魔法を使っているから、限界はあるけど、アイスクリームの時間短縮の製法だよね」


 アイスの場合は、もうちょっとかかるかも知れないけどね。

 ふふ、でも、これで選択肢が増えたねえ。

 パコジェットができる前に、これができたのは大きいよ。


 できあがったソルベを味見するのも忘れて。

 盛り上がるコロネたちなのだった。

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