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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第307話 コロネ、召喚獣に驚く

「……って、あれ?」


「ぷるるーん!」


 ふと気が付くと、ショコラが何かをもぐもぐと食べていた。

 って!?

 いやいや!

 ショコラが食べてるのって、フェンちゃんが出した、黒い狼のお肉だよね!?

 生肉って言っちゃうとリアルで嫌なんだけど、まあ、焼いたりとかしていない、狼の肉というか、魔素でできた『影狼』のなんちゃってな身体というか。

 えーと、これって食べられるの?


「ちょっと、ショコラ。ダメだよ、勝手に食べちゃあ」


「ぷるるっ? ……ぷるるぅぅ」


 申し訳なさそうに、ちょっとしょげた感じでごくんと飲み込むショコラ。

 というか、それでも飲み込んじゃうんだ?

 いやいや、そもそも、これって食べても大丈夫なの?


「ありゃりゃ、ショコラ、食べちゃったんですね? でも、今の状態だと、あんまり美味しくないでしょ?」


「ぷるるっ!」


 フェンちゃんがちょっと呆れたように言うと、そんなことはないっ! って感じで、ぷるぷるとショコラが首を横に振る。

 首というか、頭というか。

 うーん、スライムのその手の動作って、説明が難しいねえ。

 いやいや。

 そもそも、この影の狼さんって、食べても大丈夫なの?


「ねえ、フェンちゃん。このお肉って、食べても大丈夫なの?」


「はい。まあ、一応は、魔素でできてますから、一部の魔法食材とおんなじようなものですよね。フェンが出し入れできるのも、自分の操作が届くところまでですから、今のショコラが消化しちゃった分は、もう消せませんけど」


「え? 魔法食材?」


 そうなんだ?

 魔法食材の中には、魔素そのものが変質してできたものもあるらしい。

 へえ、それじゃあ、この『影狼』って、食材にもなるんだ。

 すごいね、フェンちゃん。

 それだったら、魔素がある限り、食材を何もないところから生み出せるってことだものね。

 そう言うと、フェンが苦笑して。


「いえいえ、長い時間をかけて、蓄積されて生まれたものなら別ですけど、今のフェンのやつですと、ただの魔素の集合体ってだけですよ? 味とかもありませんし、栄養もありませんし、何より食べた気がするってだけで、満足感もあんまりですし。純粋な魔素だけの食材って、基本、味がないものが多いですもの」


「ほら、コロネ。確か、ピンク色のパンの素の時に、『竜のエキス』の話があったと思うけど、あのエキスもそっち系統だ、よ。無味の食材というか、ね」


「あ、なるほど。そういうことなんですね」


 例のピンクの酵母。

 マジカルベーキングパウダーを作るのに使った『竜のエキス』だ。

 なるほどね。

 あれも、この『影狼』みたいに、魔素でできているんだね。

 確か、オサムさんも触媒がどうとかって言ってたっけ。

 『竜のエキス』単体だと、味がしないから、あんまり料理には使えないって。

 へえ、それじゃあ、こっちだと、魔素も食材になるんだね。

 何となく、魔法を食べるって感じだけど。


「すごいねえ、ショコラ。魔法を食べちゃったんだ?」


「ぷるるーん!」


「いや、コロネさん、今の状態でしたら、フェンたちでも食べられますよ? もっとも、お肉のようになってるのは、再現のためで、お肉と同じような性質をしてるのかは、フェンも知りませんけど」


 さすがに、これを使って料理とかしたことないですから、とフェン。

 まあ、そうだよね。

 何となく、共食いって感じだし、そもそもが取り立てて、味もしないらしいから、わざわざ料理して、ってものでもなさそうだものね。

 実際、ダークウルフさんたちだったら、いくらでも、ごはんが食べられそうだものね。

 とっても強いし。


「あれ、フェンちゃん? シャーリーさんとかもやったことはないの?」


「あー、お母さんは人狼種ですからねえ。これができるのって、お父さんとフェンと、後はお姉ちゃんくらいなんですよ。お姉ちゃんも闇狼の変化とか苦手なので、どっちかと言えば、人型になっちゃいますし。ですから、たぶん、試してないですよ?」


 何でも、フェンの兄妹って、純粋な闇狼じゃないから、それぞれで、得意分野がちょっとずつ違っているらしい。

 フェンが言ったお姉ちゃんってのは、フィオナって言って、兄妹の中では、闇魔法が得意な感じなんだとか。

 姿見については、シャーリーさん寄りで、人間に形態の方がとりやすいとかどうとか。

 ちなみに、フェンちゃんは闇狼寄りで、お父さん似とのこと。

 へえ、そんな兄弟でも違うんだね。

 おんなじ狼種って感じもするけど、人狼と闇狼でもちょっとは違うのか。

 そうなると、異種族での婚姻って、大変だね。

 そういうことも色々と違うってことだし。


「まあ、影を使った応急処置とかは、みんなできますけど、こんなに出したり引っ込めたりできるのって、フェンくらいですもん」


 えっへん、と胸を張るフェン。

 だからこそ、ウーヴもフェンちゃんがサーカスに入るのに猛反発だったんだって。

 一番、闇狼種の血が濃いのに、一番、人間とかに懐いちゃってるから。

 なるほど、色々あるんだねえ。


「確かに、さばくためには、良い教材だとは思ったけど、ね。まさか、そのままショコラが食べるなんて、ちょっと予想外か、な。まあ、別に毒ってわけじゃないだろうし、コロネもあんまり気にしなくてもいいと思う、よ?」


「わかりました。でも、ダメだよ、ショコラ? 勝手に、その辺のものを食べちゃ。持ち主がいるかもしれないんだからね?」


「ぷるるっ!」


 気を付ける! って感じで、ショコラが頷く。

 まったくもって、ショコラもいよいよグルメスライムって感じだものね。

 本当に、放っておいたら、何でも食べそうだ。

 そんなことを考えながら、やれやれ、とショコラを見ていたんだけど。


 不意に、ショコラがぷるぷると踊り出して。


「ぷるるーん!」


「えっ!? ショコラ、これって……」


 ショコラの横に、ちょっと小さめの、ショコラと同じ形をした黒いスライムが現れた。

 いやいや、ちょっと待って!

 これって、もしかして。


「うわ、すごいね、ショコラ。もしかして、これってフェンのを真似したってこと?」


「ぷるるっ!」


 さすがに、ちょっと驚きつつも、感心したように笑うフェン。

 それに頷き返しながら、ぷるぷると震えるショコラ。

 ショコラの横では、黒い小さめのスライムも同じように、ぷるぷるとしているし。


「なるほど、ね。もしかして、これって、『影狼』を食べたせいか、な? それとも……さっきまでのフェンの力の使い方をよく見ていたから、かもしれないけど、ね」


 メイデンも興味深げに、ショコラと黒いスライムを見つめる。

 と、しばらくすると、黒いスライムが消えて、ちょっとだけ疲れた感じのショコラだけが残った。

 それに気付いて、メイデンがマジックポーションをショコラに飲ませる。


「でも、すごいねえ、ショコラ。これって、フェンたちでもちょっとは難しいんだよ? 冗談じゃなくて、本当にお父さんに特訓してもらったら、すごいことになるかも、ショコラって」


 闇属性の適性はありそうだ、とフェンが笑いながら、ショコラを抱きかかえて、ぷにぷにする。

 ショコラはショコラで、そんなフェンに触られてうれしそうにしてるし。


「本当に、ショコラって、何なんでしょうね? 普通のスライムさんって、こういうことはできるんですか?」


「うーん、粘性種の生態そのものが、あんまりわかっていないから、ね。少なくとも、擬態というか、形状を変えるのは得意だってのは聞いている、よ? 竜種ほどではないけど、粘性種も、そういう性質持ちだから、ね。もっとも、そういう意味で真似が得意なのか、もっと深い意味で、そういうことが得意なのか、となると……詳しいことは、粘性種の人に直接聞いた方がいいかも、ね」


「あ、そう言えば、この町の近くにもスライムの村があるんですものね」


 そうそう、『竜の牙』の人たちがよく立ち寄ってるんだよね。

 もっとも、町から近くって言っても、『最果てのダンジョン』の中にあるらしいから、まだ、コロネが気軽に行ける場所じゃないんだけど。

 まあ、直接スライムさんたちに会うのは大変かも知れないけど、とりあえずは、アランさんやピエロさんとかに聞いてみよう。

 今度、スライムの村に行く時は、オサムさんの作ったコラーゲンスープも持って行ってくれることになってるし。


「まあ、はっきりしているのは、コロネの召喚獣ってことだから、ね。だから、コロネもあんまり不安にならないで、きちんと接してあげることが大事だと思う、よ。そういう意味では、家族なんだから」


「はい、もちろんですよ」


 そうだよね。

 何だかんだ言って、ショコラって、かわいいし。

 ショコラの物怖じしないというか、人懐っこいというか、そういう性格には、コロネも救われているところがあるのだ。

 まあ、ショコラもすくすくと成長している、って、そんな感じでいいよね?

 ふふ、細かいことは気にしないのが一番だよ。


「それじゃあ、もう外はそろそろ日も暮れてるだろうし、ね。今日の訓練は終了としようか、な。次は明後日、ね」


 明日は『塔』の営業があるから、とメイデン。

 ショコラを抱えながら、フェンちゃんも。


「でしたら、次もフェンが来ますね。たぶん、コロネさんなら、あともう少し、さばき続ければ、慣れると思いますので」


「うん、そうだ、ね。次も今日と同じことをひたすらやって、って感じか、な。後は、コロネも身体強化とか、そっちの自主練は忘れないように、ね」


「はい、わかりました! 今日はありがとうございました!」


 そんなこんなで、ふたりにお礼を言って。

 一緒に上の階へと戻るコロネたちなのだった。

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