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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第301話 コロネ、コボルドの長と話をする

「ようこそいらしたな。お客人、歓迎しよう」


 町へと着くなり、どんどん進んでいくプリムについていく形で、いつの間にやら、コロネは、この町の町長さんの家までやってきていた。

 というか、一応、防護柵とか、門とか、簡易的ではあるんだけど、色々とあったんだけど、それが全部フリーパスというか。

 いや、プリムなら当然かもしれないけど。

 一緒にいるコロネとショコラも素通りなんだねえ。

 やっぱり、このメイドさん、改めて、すごい人なんだね。

 ただ、この町長宅まで来る途中で、何人か、すれ違ったコボルドさんたちに頭を下げられた。

 誰が誰なのかまでは、自己紹介とかしてないからわからないけど、サーカスの時に塔までやってきていた人たちみたいだね。

 笑顔だったし、どうやら、悪い印象は持たれていないようだ。


 さておき。

 目の前の町長さんは、名前をボルダさんというらしい。

 サーカスで塔へと来ていたコボルドさんよりも、年嵩というか、ちょっと威厳があって、白くてふさふさしたあごひげがすごくいい感じなんだよね。

 向こうでいうところのサンタクロースさんみたいな感じ?

 犬頭のサンタさんというか、どこかのテーマパークとかのパレードとかに登場しそうな感じの人だ。


「はじめまして、コロネと言います。種族は人間種の、料理人です。どうぞよろしくお願いします」


 中央大陸では、基本、種族名を言わなければ、人間種を指すのだけど、こっちの、東大陸ではそうではないので、自己紹介の時には、人間種であることを伝えるのが基本なのだそうだ。

 一応、コロネもそれに倣っている。

 こっちって、人型のモンスター種族も多いみたいだし。


「ああ、よろしく頼む。お客人のことは、プリムの嬢ちゃん……あ、いや、プリム様からも聞いておるよ」


「言い直さなくても結構ですよ、ボルダ様。ここには、わたくしたちしかおりませんので。公の場所で序列を守って頂ければ、特に問題はございませんので」


「おお、すまんの。わしにとっては、嬢ちゃんは、嬢ちゃんのままなのでな。ふふ、ヴェル様の命で、ぼんの側に一緒におった嬢ちゃんが、立派になったもんじゃよ。まあ、ぼんはぼんで、少しはマシになったようじゃがな。わしが年を取るわけじゃ」


 今では、力でも越えられてしまったのう、とボルダが笑う。

 どうやら、プリムのことは、小さいころから知っているらしい。

 どっちかと言えば、お爺ちゃんと孫って感じだもの。


「そうですね。ヴェルガゴッド様には、申し訳なくも思っておりますが」


「なに。別にヴェル様も気にしてはおらんじゃろ。むしろ頼もしく思っておるはずじゃ。それに、あの方も、重責から解放されて清々しておるわ。この間も、この町までやって来ておったからな」


「だとよろしいのですが……あ、コロネ様。ヴェルガゴッド様というのは、坊ちゃんのお母様です。わたくしにとっては、元々のあるじ様にあたります。先代の魔王様ですね」


 失礼いたしました、とプリム。

 そうなんだ。

 というか、話を聞いて少し驚いたのは、先代の魔王様って、まだ生きているんだね。

 クーデターがどうこうって話だったから、てっきり、そう勘違いしてたけど。


「ふふ、お客人。今のヴェル様は、昔のヴェル様とは似ても似つかぬのでな。わしらのように事情を知っておる者以外には、わからんのよ」


「ええ、コロネ様。新しい人生というものを謳歌されていらっしゃるのですよ」


 それ以上のことはお察しくださいませ、とプリムが苦笑する。

 どうやら、今のコロネにも教えられないことはあるらしい。

 ともあれ、血まみれの革命ってわけではなさそうだ。


「さてな、そんな話をしに来たのではあるまい? プリムの嬢ちゃんや、合唱団の若い衆からも色々と話は聞いておるがな、お客人。あんたは、この町の小麦が欲しいのじゃな? それで間違いないかの」


「一応、こちらに、この町原産の小麦を用意いたしました。いくつかの種類はございますが、コロネ様がお探しの、軟質小麦というのは、こちらの品種と思われますが」


 そう言って、プリムたちが見せてくれたのは、このンゴロンの町産の『ンゴロンの大地』と呼ばれる小麦だ。

 粒を見て、品質を確認させてもらう。

 うん、おそらく、色合いなどから見ても、これが軟質小麦で間違いなさそうだ。


「はい。こちらが、わたしの探していた小麦です」


「ふむ、まあ、そうじゃろうな。こっちのは、あんたの住んどる町を作った、ほれ、オサムのやつにも卸しておるしの。量はそれほど多くないがな」


「コロネ様がやってこられるまで、小麦を粉にするための手段は限られておりましたので。そのため、オサム様も、自分で扱える量だけしか購入しておりませんね。現状ですと、コロネ様が確立された手法で、白い小麦粉の、一定量の生産が見込めますので、そういう意味では、状況が変わったと考えて頂いた方が良さそうです」


「まあ、もっとも、この町で作っている小麦もな、そもそもが『魔王領』内で食べる分を確保するのが最優先での。いざ、譲ってほしいと言われても、簡単に、はいどうぞとは言えない部分があっての。それを曲げるとなれば、きっちりと対価を払ってもらう必要があるかのう」


 そう、真剣な表情で、ボルダが言う。

 当然だろうね。

 ただ、その、対価というのは具体的にはどういうものなんだろうか。


「わかりました。それで、その対価とは何ですか?」


「うむ。それについては、いくつかの選択肢を掲示しようかの。小麦の販売権。これは、今のオサムにも許可しておるものじゃな。それについては、この町流のテストを受けてもらおうかの」


「テスト、ですか?」


 うん?

 ちょっと、話が想像していたのと違うんだけど。

 どういうことなんだろう。


「なに、そう難しいことではないぞ。要するに、じゃ。ここにある小麦一袋をあんたに渡すので、これを使って、後日、この町のみんなに料理を振舞ってほしい、とそれだけの話じゃよ。その場で、大多数のものが、その料理に納得すれば、それで、小麦の販売については、認めよう、とな」


「ああ、なるほど。そういうことですか」


 つまり、小麦の生産者として、満足が行く使い手かを示せってことか。

 確かにこれは、テストだね。

 審査員相手の料理勝負みたいなものかな。

 ただ、ちょっと気になるのは、他に選択肢があるってことだ。


「ちなみに、他の選択肢というのは何ですか?」


「ちょっと難易度が上がるがの、小麦の種もみの譲渡の権利じゃな。早い話が、あんたたちの町でも、うちに小麦を作ってもいいという権利についてじゃ」


「え!? 小麦の生産許可ってことですか!?」


 さすがに、そのボルダさんの提案には驚いた。

 てっきり、『魔王領』限定のものにするとばかり思っていたから。


「無論、あんたのとこの町以外に広めるのは厳禁じゃがな。少なくとも、その程度の話をあげるぐらいには、あんたのとこの町への信頼はあるのでな」


「その辺りの諸問題につきましては、わたくしたちも目を光らせておりますので。そういう意味では、サイファートの町も、ギリギリで『魔王領』ですから」


 あ、そういえば、一応、あの町って、『魔王領』内だったものね。

 こっちから見れば、王都の管轄ってのは認めていないのかもねえ。


「ちなみに、その交換条件は何ですか?」


「ひとつは、お客人、あんたの持っておる、小麦粉の製法について、うちの町にも教えてほしいという点じゃな。それに加えて、もし、あんたがテストの際に作ってくれた料理のレシピを、うちの町限定で解放してくれるのいうのなら、それに応じて、複数の小麦品種を解放する用意がある、とそういうわけじゃよ」


 なるほど。

 つまり、軟質小麦の生産権と小麦粉の製法。

 料理のレシピとその他の小麦品種の解放。

 それが、対応しているって感じか。

 つまり、どこまで交渉を進めるか、ってことが選択肢として掲示されたってわけだね。

 というか、販売権までは、コロネの独断で決められるけど、それ以外については、ちょっと戻って相談が必要かな。

 そもそも、生産権をもらっても、コロネが小麦を育てるってわけじゃないし。

 さすがに、ブラン君たちと相談しないと決められないよね。


「コロネ様、こちらが慌てる案件ではございませんので、ひとまず、販売権についての交渉を進めてはいかがですか? それでしたら、今、小麦を持ち帰って、それで、次に来るときに、料理を作る、というシンプルな形になりますし」


「ふむ。まあ、初手から焦って決断せずとも構わんよ。ただ、販売権を与えると言っても、卸せる量には制約があると思ってもらった方が無難じゃからのう。それで、『魔王領』の小麦が不足しても、まずいじゃろ?」


 確かに。

 販売権だけなら、料理を頑張るってことでいいけど。

 結局、量産するとなると、それだけじゃ不十分ってことだものね。

 無理にたくさんの小麦を流してもらって、その結果、他のところが不足して、そこから恨みを買ったりするってことも考えられるわけだし。


 うん。

 やっぱり、相談は必要だし、プリムが言う通り、販売権の話を勧めつつ、かな。

 小麦を持ち帰って、小麦粉にしてみて、ってのも必要だろうし。


「わかりました。それでしたら、その、テストに挑戦させてもらってもいいですか?」


「うむ。では、その小麦の袋はお客人、あんたに預けようかの。ふふ、わしら好みの美味いものを作ってくれるとうれしいの」


「ちなみに、何かご要望などはありますか?」


「そうじゃの……あんたの得意なものは甘いものじゃったな? ならば、果物を使ったものを頼もうかの。それと、こちらは、要望に過ぎんのじゃが、できれば、この町でも作れるものだとうれしいのう。プリムの嬢ちゃんの能力なら、あんたの町で調理したものでも、簡単に持ってこられるじゃろうが、さすがに、あんな設備は、この町にはないのでな」


 それが、レシピの話ともつながってくるじゃろ、とボルダ。

 なるほど。

 一応、かまどとかはあるみたいだね。

 となると、オーブンなどは使わないお菓子かな。

 レシピを伝えることも考慮するとなると、そんなに難しくなくて、作れるものの方が良いのかもしれないね。

 それについても、考えてみよう。


「わかりました。まずは、料理を頑張りたいと思います」


「大丈夫ですよ、コロネ様。いざとなれば、プリンでも問題ありませんので。いえ! プリンこそが、最強ですから!」


「いや、すごいのう、お客人。このプリムの嬢ちゃんがここまで、感情をあらわにするとはのう。ふむ、あんたの料理、楽しみにしておるぞ」


「はい! よろしくお願いします!」


 そんなこんなで、小麦を受け取って。

 また、プリムと共に、サイファートの町へと戻るコロネなのだった。

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