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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第300話 コロネ、メイドさんと小麦の交渉へと赴く

「コロネ様、いらっしゃいますか?」


 パン工房で、アズやピーニャから、噂ネットワークについての話や、アズたち、領主代行というか、勇者パーティーの話を聞いていると、入り口の方から声がした。

 というか、あの声はプリムの声だ。


「ああ、そう言えば、さっきもパンを買いに来ていた時にも、コロネさんのことを探していたのですよ、プリムさん」


 今は出かけていると伝えたら、出直してくると言っていたのですが、とピーニャ。

 あ、そうなんだ。

 それは悪いことをしちゃったね。

 慌てて、声がした方へと向かう。


「はい、いますよ、プリムさん。すみません、何度も来てもらったみたいで」


「いえ。先程は、本日分のプリンやパンの購入も兼ねておりましたので。今しがた、そちらの件は片付けてまいりましたし。お気になさらずに」


 わたくしも、訪問時間をお伝えしておりませんので、とプリムが笑う。

 そして、その笑顔から、すぐに普段の表情へと戻って。


「ところで、コロネ様。今のお時間はお手すきでしょうか?」


「え? あ、はい。メイデンさんとの訓練までも時間がありますし、今は、果樹園に頼んでおいた果物が届くのを待って、リリックたちに新しいお菓子の作り方を教えようかな、と考えていたところでしたので。まだ、これと言って、いそがしくはないですよ?」


 ちょっと時間ができたので、ここでグラシエに関する、お菓子の製法その二をやってみようかな、くらいに考えてはいたのだ。

 果物を使ったソルベ。

 いわゆるシャーベットの基本形の作り方、だね。

 ただ、果物が届くのがどのくらいになるのかは聞いてなかったので、まだ届いてはいないみたいなので、その場合は、今あるムーサチェリーとか、そういうものを使って、と考えてはいたんだけど。

 たぶん、プリムがやってきたということは、食材か、プリン関係の話だよね?

 それだったら、そっちを優先しても問題ないし。

 そう伝えると、プリムの表情に再び、笑みが浮かんで。


「それは何よりです。でしたら、これより、わたくしにお付き合い頂けませんか? 先だって、お話しておりました、小麦の件で、生産者側へコロネ様との面会の了承を取り付けましたので」


「え!? 本当ですか!?」


 おお! さすが、プリムさん、打つ手が早い!

 もう、軟質小麦の生産者と交渉しちゃったんだ。

 すごいね。

 さすがは、魔王様の序列一位だよ。

 ほんと、この人がその気になれば、『魔王領』でできないことはないんじゃないのかな?

 いや、それに甘えて、色々とコロネが調子に乗るのはよくないけどね。

 うん、自重自重。


「あ、コロネ先生、これからお出かけされるんですか?」


 私たちはどうしましょうか、と横で話を聞いていたリリックがたずねてきた。

 あー、そうだよね。

 お弟子さんとしては、ついてきてもらいたいのは山々だけど、そうなると、プリムの負担が大きくなるだろうから、この件については、コロネだけの方がいいのかな?

 そう、考えていると、横からマリィとムーレイも。


「あのー、リリック先輩。プリム様の移動術ということでしたらぁ、マリィたちはお邪魔しない方がいいと思いますよぉ?」


『ムームー!』


 確か、人数が増えると術師の負担もそうですが、制御の方も難しくなるはず、とマリィ。

 なるほどね。

 確かに、ものが空間を飛ぶ、みたいな感じだものね。

 変なところに飛んじゃっても困るしね。


「はい。マリィの言う通りですね。さすがにリリック様といえども、一緒にお連れするわけには参りませんので。そもそも、こちらの契約につきましては、コロネ様に限ったお話ですから」


 普通は、ここまでわたくしが便宜を図るということはございません、とプリム。

 あくまでも、プリンのお礼とか、プリンのお礼とか、プリンのお礼らしい。

 いや、そこまであからさまだと、いっそ清々しいけど。

 ともあれ、リリックたちとは別行動を取った方が良さそうだね。


「わかりました、プリムさん……それじゃあ、リリック、マリィ、急で申し訳ないけど、ここから、しばらくは自由行動でお願いね。果樹園で、今日買った分の果物が届いたら、また、新しいお菓子の作り方を教えるから」


「はい、コロネ先生。それでしたら、私は、先生が訓練が終わるころの時間までは、教会の方に行ってますね。ちょっとずつですが、新しい子供たちがお仕事を覚えてきてくれたんですよ」


 そう言って、リリックが笑えば、一方のマリィも。


「わかりましたぁ。夕食前の時間まで、ですねぇ? それでしたら、マリィは、ちょっとマジカルハーブに関する相談で、魔法屋さんの方に顔を出してくるのですぅ」


 オサムさんから、ハーブについては、エルフのフィナさんが詳しいと聞いたのですよぅ、と笑顔を浮かべた。

 あ、そっか。

 そういえば、コロネもそのうち話を聞こうと思っていたんだっけ。

 何だか、日々のいそがしさに追われて、色々と後回しにしている気がするよ。

 もうちょっと余裕が出てきたら、魔法屋のフィナさんのところもそうだけど、この町の料理店を巡って行きたいよね。

 ガゼルさんのところとか、ミーアとイグナシアスのお店とか。

 結局、行ったことがあるのって、ドムさんのお店と、コノミさんのうどん屋だけだし。

 まあ、そう考えることができるのも、少し余裕が出てきたってことなのかな。

 とりあえず、ケーキが作れるところまでは突っ走るよ。


 ともあれ。

 そういうことなら、ふたりとも大丈夫そうだね。


「うん、それじゃあ、ここからは夕食前まで別行動ね」


「はい」「はいぃ」


「プリムさん、これで大丈夫です。どこにでもお付き合いしますよ」


「はい、では、早速。場所を移しますよ」


 言うが早いか、プリムが例の黒いものを発動させて。

 それがコロネ、とそしてショコラを包み込んだかと思うと、周囲の状況が一変した。


 って!?


「うわっ!? ちょっと待ってくださいよ!? プリムさん!?」


「ぷるるーん!?」


 ここどこさ!?

 違う違う! 場所もそうだけど、コロネたちの足元が消失してる!?

 いや、そうじゃなくて、ちょっと高いところへと『転移』されたようだ。

 自分の身体が落下しながら、眼下には、ものすごく広大な風景が広がっているんだもの。

 下に見えるのは、草原と言うか、かなりの広さの大平原だ。

 それも普通の平原じゃなくて、上空から見ているから、全容が何となくわかるけど、ものすごく大きなクレーターというのかな?

 確か、カルデラとか言ったっけ?

 その中が大平原やら、林やら、砂漠やら、中央の方には湖やら、とにかく、大自然って感じの環境が広がっているのだ。

 これ、もしかして、大きな隕石が落ちた後の場所かな?

 へえ、こっちの世界でも空から隕石って降ってくるんだねえ。


 ……って!? いや、余裕ぶってる場合じゃなくて!?


「プリムさん!? 落ちてますよ!?」


「あ、はい、ご心配には及びません。『限定付与:浮遊』。これで大丈夫ですよ」


 あ、今、プリムが使ったのって、妖精種の種族スキルだよね。

 『浮遊』スキルだ。

 コロネたちの落下速度がゆっくりになって、ふわふわと降りていく感じへと落ち着いた。

 ふう、何とか大丈夫そうだ。

 なるほど。

 限定付与で、同行者にまで範囲を広げることもできるんだね。

 ということは、ピーニャとかも同じことができるのかな。

 

「たぶん、ピーニャ様はできませんよ。あの方は純粋な妖精種ではありませんし、何より、火の力に特化し過ぎておりますので」


「そうなんですか」


 そういう意味では、一部の力は普通の妖精よりも強いけど、そのバランスがあんまり良くないらしい、ピーニャって。

 まあ、火属性特化で、パン屋としてもメリットが多いから、悪いことばっかりじゃないみたいだけどね。


「ところで、プリムさん、ここって、どこですか?」


「東大陸の北西エリアです。ンゴロ平原と呼ばれている場所ですね。コロネ様も見てお分かりの通り、巨大な穴のような内側に平原が広がっておりますよね? わたくしも、生まれる前のことですので、伝聞でしか聞き及んでおりませんが、こちらは、かなりの昔に、空から降って来た何かが衝突してできた跡、だそうです。そのせいで、周囲の環境とは少し異なるモンスターなどの生息が確認されておりますね」


 プリムによれば、その、空からの飛来物が何かまではわかっていないのだとか。

 もしかすると、何らかの魔法の余波でできた可能性も否定できず、飛来物を何者かが召喚した、あるいは、そもそも、飛来物などはなくて、大規模魔法によって穴がえぐられただけ、という仮説もあって、真相は謎のままとのこと。

 そっか。

 こっちの世界だと、大規模魔法とかもあるんだものね。

 しかも、ここって、『魔王領』だし。

 魔法に長けた何者かが、そういうことをやった可能性も十分あるってことか。

 一応、月とかも存在しているわけだし、そういう意味では、普通に隕石の衝突って可能性も否定できないけどね。


「今、わたくし達が向かっているのは、その平原の中央に位置する湖。そこからほど近い場所にある町です。ンゴロンの町ですね。コロネ様にもわかりやすくご説明しますと、先日のサーカスでやってきておりました、コボルドたちが住む町です」


「あ! そうなんですか!?」


 そっかそっか。

 サーカスで迫力のある歌声を披露してくれていたコボルドさんたちだ。

 見た目は犬頭の人間って感じの人たちだね。

 確か、合唱団の人たちも、フレンチトーストを買っていってくれたんだよね。

 うんうん、確かに、まったく面識がないわけじゃないかな。

 なるほどね、ここがコボルドさんたちの町かあ。

 徐々に高度が下りてきて、町へと近づくにつれて、はっきりとわかる。

 町の規模だ。

 集落としてあるのは、サイファートの町と同じくらいか、少し狭いくらいなんだけど、目を見張るのは、その町の畑の広さだ。

 何かもう、向こうで言うところのアメリカ! って感じの大規模農地が広がっているんだよね。

 これ、この多くが小麦の畑ってこと?

 やっぱり、すごいねえ、『魔王領』って。


 と、コロネが感動していると、少し離れた場所で、ドンという音が響いて。

 気が付けば、何やら、コロネたちに近づいてきてたモンスターらしきものが、地面へと落ちていくのが見えた。

 らしき、っていうのは、もうすでに原型をとどめていないからで。

 どうやら、プリムが何かをやったらしい。

 というか。


「ご心配には及びません。コロネ様はわたくしがお護りいたしますので」


 にっこり笑うメイドさんを見ながら。

 コロネは改めて思うのだった。


 ……やっぱり、すごいねえ、『魔王領』って。

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