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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第197話 コロネ、召喚獣を探しに行く

「ようっ、コロネさん。『ふわふわ』フレンチトースト美味かったぞ。あれ、すごいなあ。いや、白パンってだけでも高評価なんだが、こんがりとしたバターとハチミツの甘さな、俺は、そこまで甘党ってわけじゃないんだが、ものすごく良かったぞ」


「そうですね、ぐらうまーな味でしたよ。あれは星三つじゃきかないですねえ。と言いますか、あれ、社長も作ってるって聞きましたけど? さっきチクリと嫌味を言われましたしね」


「うーん、今からでも遅くないから手伝いに行く? リッチー。さすがに後が怖いと言うか、何というか。あ、コロネさん、私もフレンチトーストとアイスは頂きました。すごくおいしかったですよ」


「いやいや、アンジュ。社長は好きでやってるんだから、気にしたら負けですよ。我々は、しっかりと美味しい物を味わって、その味を皆さんに伝える義務があるのです。と言いますか、本当は社長もこっち側のはずなんですがねえ。まあ、料理人側の事情がよくわかるのは社長だけですから、私たちは美味しさをしっかり表現して伝えなくては」


「でも、いいですよね。上に立つ人が真面目な方で。うちのマスターなど、いつも仕事から逃げてばかりですよ。ねえ、コロネさん。コロネさんからもマスターに働くように言っていただけませんか? さもなければ、お菓子は売りませんよ、とか」


「ディーディー姉、飲み過ぎ。ちょっとグチモードになってるよ。うーん、ちょっと今日の新作カクテルが強すぎる気がするなあ」


「何を言ってるんですか、ワーグ。私は酔ってませんよ。ほら、私の目を見てください」


「いや、普通は関係ない人に絡んだりしないじゃない。コロネさんに、冒険者ギルドの問題押し付けてどうすんの。すみません、コロネさん。ディーディー姉、お酒を飲み過ぎるとこんな感じなんですよね。まあ、今はまだ穏やかな方なんですけど。あ、それと、アイスありがとうございました。何でも、ディーディー姉のおかげで、特別なアイスをいただきまして。あれ、私も食べちゃって良かったんですか?」


 おおう。ショコラを探しに、アランのところに聞きに来たら、同じテーブルの人たちから、一斉に声をかけられてしまったよ。

 仲が良いのか、たまたま相席しているのかは知らないけど、アランのテーブルには、『週刊グルメ新聞』のリッチーとアンジュ、それに冒険者ギルドの受付のディーディーとワーグがいた。


「いえ、良かったですよ。皆さんに喜んで頂けて。あ、ワーグさん、アイスの方は気にしないでください。ディーディーさんへ、と言いますか、以前、冒険者ギルドでお世話になったお礼みたいなものですから」


 一応、ピーニャの方に、もしディーディーたちから注文があったら、アイスを三色アイスに変更しておいてほしいと頼んでいたのだ。

 ちょっと、周りから注目されちゃったかもだけど、まあ、リディアとか、アルルたちとかもそうだから、そういうものだと取られているのかな。

 と言うか、普段は凛とした感じのディーディーがちょっとだけへべれけているのが、少しびっくりだよ。


「ああ、そういえば、コロネさんですよね。アイスありがとうございました。甘めのカクテルとよく合いましたよー。うふふふふふ。さすがにこれはマスターも食べてないみたいですしねー。あのはげ親父を羨ましがらせるのですよー、うふふふふ」


「いや、ディーディー姉、ほんとに大丈夫? まったく、普通の酔っ払いと違って、ちょっとわかりづらいからタチが悪いよね」


「ですから、ワーグ、私は酔っておりませんって」


 はいはい、と言いながら、ワーグがディーディーの介抱をしている。

 そういえば、きちんと話をするのはこれが初めてかな。

 一応、両親が冒険者だったので、その関係で、彼女も冒険者ギルドでお仕事をしているのだそうだ。

 ディーディーとは、ワーグの両親が仲が良かったため、その関係で、お姉さんのような感じで慕っているんだって。

 ただ、戦闘とかはあんまり得意じゃないので、主にギルドの事務仕事をしているとのこと。

 年齢はコロネよりひとつ下の十八歳。

 茶髪のツインテールがかわいい女の子だ。

 現在、年下の彼氏を募集中。

 いや、それはどうでもいい情報か。


「でも、意外ですよね。ディーディーさんがここまで人前で酔うとは。確かに噂では聞いていましたけど、普段はもっと抑えているはずなんですがね」


「まあ、それだけ、溜まっているもんがあるってことだろ。つーか、ドラッケンのやつ、仕事以外で色々動いてるからな。肝心の冒険者ギルドのギルマスの方はどうなってんだって話だろ。ディーディーのことを信頼してんのか知らないが、仕事を任せ過ぎだ」


 リッチーが少しだけ興味深げにディーディーを見れば、アランも冒険者ギルドの現状について、少しグチっている。

 ギルド『竜の牙』は割と毎日のように冒険者ギルドを活用しているため、よく、受付でディーディーから話を聞いているのだそうだ。

 たまに、受付が静かな怒りで凍り付いていることがあって、そういう時は、熟練の冒険者といえども、ドキドキするのだとか。


「まあ、特にひどくなったのは、コロネさんが町にやってきてからですけどね。本っ当ーーに、仕事をしてませんもの。ふ、ふふふ、まったく、いい度胸です、マスター。『新しい町のビッグウェーブを監視しなくては』。ええ、まったく、けっこうな話ですよ、マスター。ですが、本音はどうなんですか? さすがに仕事を放って行かれるのは、私としても、我慢の限界というものがあるのですよ、ええ、まったく」


 あー、ダメだこりゃ。

 相当に不満がたまっているみたいだね。


「まあ、仕方ねえなあ。これは、あれだな。ドラッケンの奥さんにひとつ、ガツンと言ってもらわないといけないようだな。ワーグ、どうする? 俺の方から伝えておこうか?」


「ええと、お願いできますか、アランさん。このままですと、ディーディー姉が怒りで何かに進化しちゃいそうですよ。私も嫌ですよ、魔族化したディーディー姉なんて」


「わかった。帰ったら、言っておくぞ」


 アランが神妙な顔で頷く。

 と言うか、魔族化って。

 ディーディーは王都出身の人間種だよね?

 さすがに、言葉のあやだとは思うけど、そういうことって起こるのかな。

 よくわからないや。


「そういえば、ドラッケンさんってご結婚されているんですね?」


 まあ、冒険者ギルドのギルマスだから、当然かな。

 とは言え、そういう情報は知っておいた方がいいだろうから、聞いておく。


「ああ。俺とかが長期滞在に使っている宿屋の女将さんだよ。パープルさんって言うんだ。コロネさんも前を通ったことがないか? たぶん、塔からだと、温泉に向かう途中にあると思うんだが」


「ああ! そう言えば、ホテルっぽい建物がありましたね。へえ、あの宿屋さんをやっているのが、ドラッケンさんの奥さんなんですか」


 うん、そう言われると覚えがあるよ。

 宿屋っていう表現からは立派すぎるけど、確かに旅館風というか、どこか幻想的というか、メルヘンチックなイメージのお宿っていうのかな。

 この世界の雰囲気にはぴったりの感じの建物なんだよね。

 妖精とかが住んでいてもおかしくない感じで。

 いや、まあ、さすがに『夜の森』の木のお家に比べれば、宿屋って感じだけど。


「ああ。飯に関しても、オサムのところから仕入れているし、それとは別に冒険者同士の獲って来た食材とかも並ぶから、他の料理店と比べても、なかなかに食事に関しては充実している宿だな。この町の場合、宿に泊まるか、物件を借りるかだから、家を持っていないやつの多くが、この宿を使っているな。宿屋『翼の夢』。おいしいごはんを食べて、ぐっすり眠りたい人は、ここを使いな、って感じさ」


 ちなみに、『竜の牙』はギルドで家も借りているのだが、アランはそれとは別に、以前からの付き合いで、この宿も借りているのだとか。

 一応、モンスター図鑑の仕事は、こっちでひとりでやっているらしい。

 おお、何だか、本のお仕事って感じだね。

 まあ、『竜の牙』の場合、アイとヨルはギルドハウスにいるけど、ミストは半分くらいはアストラルの工房に泊まってるし、ピエロとソフィアは、いたりいなかったりで、割と冒険の時以外は、バラバラで過ごしているらしい。


「ですね。私やアンジュもたまに利用してますよ。まあ、泊まるのがメインというより、食事を食べるのがメインですけど」


「リッチーはそうかもしれないけど、私は、あのベッドのふかふか感が好きですよ。本当に、柔らかい翼に包まれているような感じですしね」


 あれはよく眠れるんです、とアンジュが笑う。

 そっか。ふたりとも王都の新聞社に勤めてるから、行ったり来たりしているんだものね。この町は主に宿屋暮らしか。

 それにしても、話を聞いていると、本当に良さそうな宿だ。

 まあ、コロネは塔で寝泊まりをしているから、あんまり利用する機会はなさそうだけど。


 って、あれ?

 コロネは何しにここに来たんだっけ。

 あ、そうだそうだ!

 ショコラの行方について聞きに来たんだよね。

 矢継ぎ早に、色々と話をされたおかげで、そういうのが吹っ飛んでしまっていたよ。


「あの、アランさん。ちょっとお聞きしたいんですけど、ピエロさんって今、どちらにいますか?」


「うん? ああ、ピエロなら、もうサーカスの準備に入ってると思うぞ。ほら、今はステージ上には何もないが、裏で色々と整えているはずさ。ピエロがどうかしたのか?」


「実は、ピエロさんが、パン工房で踊っていたショコラを連れて行っちゃったらしいんですよ。あ、ショコラっていうのは、わたしの家族で、茶色い粘性種なんですけど」


「ああ、あのかわいいスライムか。やっぱりコロネさんの子だったんだな。さっき、ピエロが連れているのは見たぞ。何でも、今日のサーカスの友情出演をお願いしたら、快く了承してくれたんだと」


「友情出演ですか?」


 サーカス団へのスカウトってわけじゃないんだね。

 というか、ショコラも了承したんだ。

 本当に、ショコラの意志がはっきりとわかるのなら、その方法をピエロにも教えてもらいたいかな。

 やっぱり、この翻訳ブローチだけじゃ不十分みたいだし。


「ああ。今日は、色々と友情出演がいるみたいだしな。ピエロのスキルはちょっと特殊でな。必ずしも、サーカスの興行に団員がそろう訳じゃなくってなあ。だから、いざという時に備えて、こういう催しの時は、現場で手伝ってくれるやつを探しているってわけさ。ほら、周りを見ても、サーカスの関係者っぽいやつはいないだろ?」


「そうですよね。確かに、そういう人は見かけませんでしたね」


 サーカスっていうことは、けっこう大掛かりなものになるんだろうけど、その関係者の姿はないものね。それこそピエロくらいだろう。


「ま、これから呼ぶからな。それ次第で、サーカスの規模が決まるって感じか。せっかくだから、コロネさんも一緒に見ようぜ。そこの席が空いてるから、座りなよ」


「あ、はい。では失礼しますね」


 アランの言葉に、空いている席に腰をかける。

 というか、これから呼ぶって、どういうことだろう?

 まあ、そろそろ始まりそうだし。そっちを確認してからで大丈夫かな。

 ショコラも、無理やり連れていかれたわけじゃなさそうだし。


 そんなこんなで、サーカスが始まるのを待つコロネなのだった。

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