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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第196話 コロネ、召喚獣の行方をたずねる

「よーし、終わったよ。これで、注文分は完了でいいの?」


「なのです。コロネさん、お疲れ様なのです」


 頼まれていたフレンチトーストの最後の十枚分をパン工房へと運び入れる。

 それをピーニャたちが受け取って、全員で待っているお客さんへと提供して。

 ひとまず、ここまでのお仕事完了って感じかな。

 もうすでに、パン工房の区画には、『お昼の営業は終了しました』の札が建てられている。というか、こういうのも普通に用意されているんだね。

 ちょっとびっくりだ。


「でも、評判が良くて、良かったよね、フレンチトースト」


「そうだ、ね。一応、お代わりについては、控えてもらったけど、それでもかなりの数の注文があったか、な」


 ドロシーとメイデンが注文票のチェックをしつつ、さっきまでの嵐を振り返っている。コロネは残念ながら、その光景を遠巻きにしか見ていないんだけど、お客さんたちが、本当にうれしそうに、フレンチトーストとアイスを食べていたのだそうだ。

 なお、リディアのお代わり用に用意しておいた分は、すべて、食べられてしまったとのこと。

 一応、バナナアイスについては、少し残してくれたのかな。

 ただ、ほとんど残っていないから、やっぱり、他の人へ提供するって感じじゃないねえ。後で、普通番のみんなにでも食べてもらおうかな。

 今日はかなりお世話になっているし。


「本当に美味しそうでしたねー。やっぱり、持っていくだけでも、良い匂いがして、お腹が空いてきちゃいましたよー」


「以前食べた、『ぐるぐる』とはまた違った感じだしね。僕も食べたいなあ。材料が余ったら、作ってよ、コロネ」


「はい。今、作っちゃいますか?」


 ナズナとアズは、仕事中も『ふわふわ』フレンチトーストに興味津々だったらしい。

 そういうことなら、まだまだ数に余裕があるから、作っても大丈夫だけど。


「あ、コロネさん、それは夜の営業が終わってからなのです。やはり、というか、注文をストップした後も、頼みたそうなお客さんがけっこういたのですよ。夜しか、お店に来られない人のことを考えると、まだスタッフの分は後に回した方がいいのですよ」


 あっさりと、ピーニャの方からストップがかかる。

 その辺は、さすがはパン工房の責任者だよね。

 まあ、それはそうか。

 お客さんも売り切れは許してくれても、スタッフが美味しくいただきました、となれば、さすがに許してはくれないだろうしね。


「ま、身内は一番最後、ってことだよん。普段は、お試しで色んな料理を食べる機会があるんだから、こういう時はがまんがまん」


「そうだ、よ。営業中はお客さんが一番、ね。役得は終わってからの話だ、よ」


「はい、すみませんでした」


「まあ、オサムが定食を用意してくれてるしね。って言うか、これ、食べても大丈夫なの?」


 ひとつのカートの上には、人数分のハンバーグ定食が乗せられていた。

 あれ、ハンバーグ定食って、あれだよね。

 リディアの大好きな定食じゃなかったっけ?


「問題ないのです。そもそも、ハンバーグに関しては、リディアさんの分を半分確保して、という感じなのです。これについては、オサムさんの営業日のお約束みたいなものですので、基本、余裕があるのですよ。余っても、残りをすべて、リディアさんが食べてくれるので、数を計算する必要がないのです」


「あ、なるほど。パン工房にとってのプリムさんみたいな感じだね」


「なのです。ほら、コロネさん。今回はちゃんとショコラの分も用意しているのですよ」


 ちょっと小さ目のハンバーグ定食がひとつ。

 あ、これがショコラ用か。

 わざわざ、用意してくれて、本当にありがたいよ。


「ありがとう、ピーニャ……って、あれ? そういえば、肝心のショコラは?」


 確か、ちょっと前まで、パン工房のテーブルの上で踊っているって聞いていたんだけど。どこ行ったんだろ?


「あ、そういえば、さっき、ピエロがショコラと話をしてたよ。もしかしたら、そっちについていったんじゃない?」


「えっ!? ピエロさんが? って、ピエロさん、ショコラの言葉がわかるの?」


 いや、ショコラを連れて行ったのもびっくりだけど、そもそも、ピエロはショコラと意思疎通が取れるんだろうか。

 一応、この十字架のブローチの翻訳機能でもわからなかったんだけど。

 というか、気付いていたなら、教えてよ、ドロシー。

 ああ、でも、ドロシーの場合、人形の方に集中していたのか。

 さっき、油断しているとブラックアウトになっちゃうって言っていたし。


「コロネ、ピエロの場合、言葉以外の通訳方法もあるみたいだから、そっちじゃないのか、な。ただ、ちょっと気になるのは、このタイミングでショコラと話をしていたってことだけど、ね」


「あー、メイ姉もそう思う? たぶん、あれだね。スカウトってやつかも」


「えっ、スカウト?」


 スカウトって、その、サーカスにってこと?

 いや、ショコラと通じる方法があるってのもすごいけど、何だか、コロネがいないうちに色々と事が起こっていないかな。

 ウーヴさんへの弟子入りもそうだけど、ショコラって意外と、何でもやろうとする傾向があるのかな。

 まったく、誰に似たんだか。


「まあ、ピエロさんなら心配ないのですよ、コロネさん。スカウトと言っても、別にどこかに連れていかれるというわけでもないですし、たぶん、今日のサーカスのお手伝いを頼まれている感じなのですよ。そうでなければ、さすがにコロネさんに断りを入れるはずなのです」


「そうだね、ピエロの場合、人を驚かせるのが好きだもんね。ふふ、これはなおさら、コロネは、ちゃんとサーカスを見ておかないとねー。案外、ショコラの晴れ舞台かもしれないよん」


 ちょっとずつだけど、ショコラのことは町の人にも浸透していたみたい。

 まあ、さすがにチョコレートのフードモンスターであることは内緒だけど、粘性種というか、スライムとして、コロネの家族になったってことは、昨日のクエスト以来、知れ渡っているみたいだし。

 その辺、噂ネットワークのすごさだ。

 いや、ピエロとは、ショコラも会ったことがあったから、その時に、何か感じるものがあったのかな。


「ああ見えて、ピエロって根は真面目なんだよ。だから、サーカスでも副団長を務めているんだしね。特に、モンスター相手のことに関しては、たぶん、この町の誰よりも真摯な対応をしているはずだよ。僕らも、そういう意味で、モンスター関連の問題については、アランとピエロのふたりを頼りにしているからね」


 アズが、ギルド『三羽烏』側からの話を教えてくれた。

 ウーヴの包囲網をかわして、町へと近づいてきたモンスターを相手に、上手に和解して、住みやすいエリアへと誘導したこともあるのだそうだ。

 そう言う意味では、ギルド『竜の牙』は対モンスターのスペシャリストと言ってもいいらしい。

 友好的なモンスターに関しては言うまでもない、とのこと。


「それじゃあ、ショコラについては心配しなくてもいいってことですか?」


「うん、たぶん、サーカスがらみだと思うし。どっちかと言えば、ショコラの空腹の方を心配した方がいいかも、だけど。ほら、コンソメスープは飲んでたけど、それも大分前だしねえ」


 そう言って、ハンバーグ定食を指差すアズ。

 実は、ショコラって、けっこうごはんを食べるからねえ。

 確かに、そういう意味では心配かな。

 自分の身体と同じくらいの量は、普通に食べられるみたいだし。


「コロネ先生、心配でしたら、早めにごはんを食べて、探しに行ってみてはどうですか? もしかしたら、準備中のピエロさんとかに会えるかもしれませんよ」


「それにコロネさん、いざとなれば、ほら、あそこにアランさんたちがいるのですよ。そちらに聞いてみればいいのです。でも……できれば、ごはんは食べて行ってほしいのですよ。せっかくの料理が冷めてしまうのです」


 ショコラを探してきてからごはんを食べるか、ごはんを食べてからショコラを探すか、それが問題だ。

 いや、冗談言ってる場合じゃないけど、うーん、どうしようか。

 みんなの話を聞いている限り、あんまり危機的な状況じゃなさそうだし、たぶん、サーカスがらみだってことはわかっているから、先にごはんを食べてもいいのかな。

 ええい、考えている時間がもったいないよ。


「よし、わかった! さっさとごはんを食べて、探しに行くよ!」


「ふふ、それでいいんじゃない、コロネ。それじゃ、私たちもごはんにしちゃおう。メイ姉も、もう、チェックは済んだんでしょ? 今、休んでおかないと、まだ、今日は先が長いからねー」


「うん、そうだ、ね。あ、それと、アズとナズナは、夜の営業は大丈夫だから、ね。夜は、パン工房の区画は閉めて、私たちもオサムさんのところに合流するから。コロネの料理も、調理場を使っているし、そっちから提供する感じか、な」


 だから、ふたりはゆっくりとお店を楽しんでいい、とメイデン。

 ここから先は、パン工房はお開きって感じらしい。

 だから、新米アルバイトさんたちは、ひとまずお仕事完了でいいのだとか。


「あれ、ということは、お客さんになれば、コロネのフレンチトーストも食べていいのかな?」


「なのです。夜の営業の時に注文すれば、大丈夫なのですよ。それなら、アルバイト代からフレンチトーストの分を引いておくのです」


 今日の場合は特別手当も出るので、その辺は問題ないらしい。

 ぷらす、こっそりとだけど、アルバイトさん向けの特別料金にしておこうかな。

 これで、今後も人手が増えてくれるとうれしいし。


「ええと……夜はお仕事を手伝わなくても大丈夫ですかー?」


「うん、そうだよ、ナズナちゃん。ぶっちゃけ、オサムさんから給仕の手伝いを頼まれていたのって、私とメイ姉とピーニャだけだから、むしろ今日からアルバイトに来てくれて、ここまで手伝ってくれただけで十分なんだよん。ふふふ、初日から無茶振りに付き合ってくれて、本当にありがとね」


「いえ、こちらこそ、ですー。やっぱり、お客さんの皆さんが喜んでくださるのってうれしいですよー。アルバイトを始めて、良かったです」


 最初は緊張でガチガチだったナズナが、今は笑顔を浮かべている。

 やっぱり、そういうのってうれしいよね。

 接客をやっていると、色々なお客さんがやってくるけど、やっぱり、自分のお仕事が誰かの笑顔につながっていると思うと、すごくやりがいになるんだよね。

 誰かの幸せが、自分の幸せ。

 うん、シンプルだけど、大切なことだと思う。


「では、ごはんを食べましょうなのです。とりあえず、これで、パン工房のお仕事については終わりにするのですよ。お疲れ様なのです。そして、いただきますなのです」


 ピーニャの言葉にみんなが頷きつつ。

 いただきます、とそれぞれがゆっくりと食事に手を伸ばす。

 そんなこんなで、本日のお昼の営業は終了となったのだった。

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