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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第192話 コロネ、本格的な営業準備をする

「ほらね。後は、オーブンから取り出せば、フルーツグラタンの完成だよ」


「あ、本当に簡単ですね、コロネ先生。表面がくぷくぷいって、焼き色が付いていて美味しそうですよ」


 まずは、リリックにフルーツグラタンの作り方から伝授だ。

 一応、オサムのお店では、ホワイトソースを使った普通のグラタンもあるんだよね。

 それとは名前が同じだけで、ちょっと中身が違うんだけど、見た感じはかなり近くなると伝えてある。

 今日作ったフルーツグラタンの中身は、やまぶどうことプルーンと、白い小麦粉で作った白パンを一口大に切ったものと、こっちの世界で採れる特大の大きさのバナナを、これまた一口大に切ったものだね。

 いや、こっちのバナナって、コロネの腕よりも太いし、一本あたり一メートルくらいあるし、おまけに種もあるからね。向こうのバナナを切るより大変なんだよね。

 まあ、おかげで、一本あたりでも、いっぱい食べられるけどね。

 味の方は、ほとんど同じかな。

 しっかり熟されていて、バナナ特有の甘味もあるし、とろりとした食感もあるし。

 商業ギルドのおかげで、それなりに貴重ということはわかっているんだけど、リディアがどこから持ってきたかまではわからない、ある意味、まだ謎食材ではあるんだけどね。

 更に大陸の南の方で採れるのかな?

 さとうきびを作っているあたりに近いことは、オサムから聞いている。


 まあ、作り方と言っても、耐熱皿に材料を交互に並べて、その上からフラン生地を流し込んで、オーブンで焼くだけだ。

 香ばしい焼き色が付いたら完成だね。

 ある意味、フレンチトーストのようなひっくり返す作業がないから、オーブンで量産が可能なメニューではあるかな。

 本当は仕上げに粉砂糖とか、振りかけると雪が降ったような感じで、見た目もきれいなんだけど、今日はシンプルイズベストでいこう。


「でも、このバナナってすごいですね。そのまま食べても、十分に甘いですし、ちょっと焼くとさらに香ばしくて、甘くなるんですね」


 私も初めて食べましたよ、とリリックが笑う。

 バナナアイスの時は、バタバタしていたので、フルーツグラタンを作るついでに、焼きバナナの方もちょっとだけ味見してもらったのだ。

 一口大に切ったバナナを焼いて、フレンチトーストの付け合わせに使っている。その上からハチミツをかけて、横にバナナのコンフィチュールを添えて、という風にして、バナナのフレンチトーストの完成だ。

 今、コロネとリリックがせっせと作っているのは、フレンチトーストとフルーツグラタンの二品だ。どちらもリディア用なので、一人前ではなく、少し多めに作ってはある。

 フレンチトーストに関しては、ソースを変えるだけで、ギルド『あめつちの手』の方のサンベリーのフレンチトーストにもなるので、その辺は、という感じかな。


「そうだね。そのままでも、ちょっとだけお菓子っぽいもんね」


「コロネ、こっちの方もそろそろ、フレンチトーストが焼けるよ。とりあえず、三つはサンベリー用でいいんだよね? 後の分は、シンプルにハチミツがけって感じでいいのかな?」


 コロネたちの横では、アノンが複数のフライパンを駆使しして、ふんわりフレンチトーストを作ってくれている。

 いわゆる、コロネがオサムのお店で出す、生クリーム入りの一日がかりのフレンチトーストだね。パンの耳の方が『ぐるぐる』だから、こっちは『ふわふわ』にしておこうか。

 パン工房で提供するのが、パンの耳の『ぐるぐる』と『ノーマル』タイプ。

 まあ、その日焼いたばかりの白パンで、あまり卵液に浸さずに作る二種類だ。

 そして、コロネがお店で出すのが、一日漬け置いた『ふわふわ』。

 これで、メニューの差別化と行こうかな、と考えているのだ。


「そうですね。アルルさんたちの分は取ってもらって、残りのお店で出す『ふわふわ』の方は、シンプルにハチミツだけでいいですよ。それで、銀貨二枚ってところですね。ピーニャの話ですと、パン工房で出す『ノーマル』が単品で銀貨一枚で、ジャムとかソースをつけて、銀貨二枚を予定しているみたいです。『ぐるぐる』の方はちょっと安くして、銅貨五枚ですって」


 整理すると、一番安い『ぐるぐる』が基本、銅貨五枚。それにジャムとかソースが付くと、銀貨一枚。

 そして、『ノーマル』が基本、銀貨一枚で、ソース付きで銀貨二枚。

 で、『ふわふわ』が基本、銀貨二枚で、ソース付きで銀貨三枚。アイス付きで銀貨四枚という感じだ。

 後は、オプションで生クリームを添えたりしてもいいのかな。

 やっぱり、ちょっとお高い感じがするけど、それでも、白パンの価値とか、ジャムとかその他の素材の値段に、手間暇を考えると、このくらいにしないといけないらしい。


「『ノーマル』と『ふわふわ』の場合、付加価値を考慮して、値段に差をつけるみたいですね。まあ、生クリームを使っているのは大きいとは思いますが」


 あと、アイス付きが頼めるのは、コロネがいるお店の営業の時だけって感じだ。

 その辺でも差別化にはなっている。


「まあねえ、コロネのお菓子ってことを考えると、そのくらいで無難だと思うよ。そもそも、白パンを使ってるだけでも、そっちの基本メニューよりは割高にしないとまずいし。ほら、サンドイッチとかね。だから、いいんじゃない? 別にコロネが思うほど、ぼったくってないとは思うよ」


 少なくとも、味がしっかりしていれば、この町の人なら、普通にそのくらいは出せるから心配ない、とアノン。

 ともあれ、フレンチトーストとアイスがセットで、四千円だものね。

 うーん、納得はしているけど、やっぱりちょっと高い気もする。

 いや、適正と言うか、むしろこっちだと安いくらいだってのは承知してるけどさ。


「ま、値段の調整は、他の人も作れるようになってからだよね」


「ですよ、コロネ先生。この町なら、子供たちでも、ちょっとアルバイトを頑張れば、届きますから。心配ないと思いますよ」


「うん、分かってるよ。とりあえず、今日のところは楽しみにしている人も多いみたいだし、お試し価格ってことで、ちょっとだけサービスしようか。アイス付きで、銀貨三枚ね。たぶん、そのセットが一番出そうな気がするし」


 実際、フレンチトーストもそうだけど、アイスのついてもかなりの問い合わせがあったのだ。たぶん、今日、待っていてくれている人は、その両方を頼んでくれるだろうから。

 それなら、セットメニューを調整してみよう。

 アイスも単品だと、銀貨三枚くらいになっちゃうしねえ。

 アルルたちへの報酬も考えると、教会が売り出すまではその相場かな。

 しかもこれ、普通のミルクアイスの値段だから、他のは材料によって上乗せって感じになるし。

 まったく、この手の適正価格ってのは、本当に難しいね。

 頭が痛くなってくるよ。

 仕方ないから、別の方向で、みんなに喜んでもらえるようにサービスを考えよう。


「よし、何はともあれ、バナナのフレンチトーストは完成っと。リリック、そっちはどう?」


「はい、コロネ先生。ふたつ同時に何とか、頑張りました。いえ、コロネ先生とアノンさんの数には敵いませんけど」


「いや、それで十分だよ。見た感じ、どっちも美味しそうに焼けているしね」


 初めてで、これなら上出来だよ。

 十分、商品としても提供できるレベルかな。

 まあ、リリックも『ぐるぐる』については、朝とかにせっせと焼いていたから、そっちの経験もあるんだけどね。

 ちなみに、オサムの二階の厨房はひとつの区画あたりにコンロが、というか、火が出る部分がたくさん用意されているため、そのひとつひとつでフライパン作業が可能という優れものだ。

 これ、お店の営業に対応した作りになっているんだよね。

 たぶん、こんな感じじゃないと、リディアの注文ラッシュとか対応できないもの。

 おかげに、一度に大量にフレンチトーストを焼くこともできるのだ。

 使ってみるとよくわかるんだけど、同じものの量産なら、まあ、普通に対応できるんだけど、それぞれが違うメニューを作るとなると、けっこう、頭を使う感じだよね。

 よくもまあ、オサムは、様々な料理をいっぺんに作れるものだ。

 その辺は、定食屋の時の経験もあるんだろうけど。

 こういうのも並列思考っていうのかな。

 案外、この手の仕事が、魔法とかの訓練にも役立ってくるのかもしれないね。


「ま、ボクとコロネの分を合わせても、フレンチトースト自体も、大分数がそろったしね。これなら、パン工房の方に頼めば、提供がスタートできるかな」


「そうですね、ピーニャたちに話をしてきましょうか」


「その言葉を待っていたのです、コロネさん!」


「そうそう、お客さんが待ってるよん、コロネ!」


「うわっ!? ピーニャに、ドロシー!?」


 いきなり声をかけられたので、慌てて振り返ると、そこにピーニャとドロシーが立っていた。

 いや、複数のフレンチトーストを焼くのに集中していたから気付かなったよ。

 だから、オサムもそうだけど、いきなり後ろから大声出さないでよ。

 びっくりするなあ、もう。


「というか、ふたりして、パン工房の方はもう大丈夫なの?」


「なのです。朝の定食メニューが完売したのですよ。一応、普通のソーザイパンのセットはもう少し残っていたのですが、白パンが売り切れそうになったところで、プリムさんが全部買い占めてしまったのですよ。まあ、時間的にもそろそろ、朝定食は終わりにしようと思っていたので、ちょうど良かったのですが」


 もうお昼なのです、とピーニャが笑う。

 あ、もうそんな時間か。

 いつの間にか、十二時をまわっていたんだね。

 もう、午後の営業ってことか。


「ね、ね、コロネ。アノンも。パン工房で売っても大丈夫なフレンチトーストってどれ? 注文開始なら、そろそろ、そっちの販売も始めようと思うんだけど。あ、これ、コロネの営業のお手伝いね。パン工房の普通番が手伝うから、お任せあれって感じ」


「あー、じゃあ、お願いしちゃったら? コロネとリリックは、リディアとか、アルルとか、そっちの対応をしてるといいよ。フレンチトーストの量産なら、ボクが続けてるからさ」


「あ、お願いできますか、アノンさん。終わり次第、すぐに作るのに戻りますから」


 それはちょっとだけありがたいね。

 さすがに、調理依頼に関しては、コロネが対応したかったし。

 でも、そうなると、普通のメニューの販売が、その後になっちゃうと思っていたからね。アノンがヘルプで入ってくれるなら、安心だ。


「うん、問題ないよ。後は、ピーニャたちも、メニューの確認しておいてね。今日は、コロネのサービスとして、フレンチトーストとアイスのセットを銀貨三枚にするんだって。お客さんから、注文を取る時は、そのことを伝えておいてね」


「なのですか、わかったのです。コロネさん、一応、メニューの確認をいいですか?」


「うん、もちろん。と言っても、朝相談した時とそんなに変わってないけどね」


 さっき、決めた値段とかも含めて、ピーニャにメニューについて一通り伝える。

 アイスは、今のところは三色アイスは販売せず。

 普通の人にはミルクアイスのみで、器は単品の場合は、前回の営業でも使ったもので対応する感じで。フレンチトーストとセットの場合は、同じお皿にトッピングとして提供するように話す。

 後は、セットメニューのサービス価格以外は変わらずだ。


「コロネ、ジャムを添えるのを希望された時は、パン工房のジャムを選んでもらってもいいのかな? そのくらいは対応できるけど」


「あ、ドロシー、お願いできる? それで大丈夫だよ。ありがとう」


「わかったー。ハチミツは基本で、ジャムとアイスは追加トッピングね。それじゃあ、アイスの方もパン工房のコーナーの冷蔵庫まで運んでおくね。そっちで対応した方が、簡単だしねー」


 いや、どんどん、テンポよく進んでありがたいなあ。

 持つべきものは頼りになる友達だよね。


「なのです。では、パン工房はこれより、コロネさんの営業へと移るのです。では、コロネさん、号令の方をお願いなのです」


「号令? うん、それじゃあ、皆さん、ご協力お願いします。これより、お菓子の販売を始めたいと思います。頑張っていきましょう」


 そんなこんなで、コロネにとって、初めての本格的な営業がスタートしたのだった。

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