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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第191話 コロネ、お菓子作りに取り掛かる

「オサムさん、大体こっちは配り終わりましたよ」


「こっちもです。まだ、大分スープは残ってますね」


「それでいいのよ、リリックちゃん。まだまだ、これからお客さんが来るんだから。上手に配分しないとよね。まだ、大きい寸胴にはスープが入っているから、大丈夫だと思うけど」


 コンソメスープ配りを手伝っていた三人が、オサムのところに戻って来た。

 やっぱり、お客さんみんなからも評判が良かったみたいだね。

 何というか、振り返ると、フロア全体が、どこかほんわかした感じになっているし。

 まあ、リディアは相変わらずかな。

 ゆっくりとオサムの定食を延々と食べ続けているし。


「ようし、三人ともお疲れだったな。ありがとな。ひとまず、午前の分のスープ配りはこれでひと段落としておこうぜ。後は、まだ飲んでいない連中には、こっちまで来てもらうようにするから、これで大丈夫だ。ま、サプライズは終わったし、ここからはゆっくりって感じか」


 もっとも、サプライズのお試しメニューこそ終わったけど、オサムの営業はここからが本番なんだよね。

 今のリディアみたいに、事前に注文されたものとか、食材に応じて、オサムがメニューを作っていく感じになるから。

 朝定食が終わってしまうと、普段の塔の営業に近くなるのかな。

 ふと、厨房を見ると、ガゼルとラズリーが料理を手伝っていた。

 あ、もうやって来てくれていたんだね。

 ふたりの場合、他のコーナーを持つわけじゃないから、オサムのヘルプに回ってくれるのだそうだ。後は、頼りになるアノンだけど、アノンも密着取材があるから、コロネとオサムのところを交互にって感じになりそうとのこと。

 うわ、ちょっと大変そうだね。


「というか、アノンさん。今日みたいな営業の時のって、密着取材としてどうなんですか? 普段の姿とは違いますよね?」


「いや、これはこれで、面白いじゃない。コロネが初めて、きちんと料理を作るのが、このタイミングってのはどうかと思うけど、絶対に、読者が食いつくだろうし」


 これなら、ボクが頑張る意味がある、とアノンが微笑む。

 大変というよりも、楽しそうという感じだ。

 お祭りを手伝って、盛り上げているってのもあるしね。


「ほんとはね、『分け身』とか使えればいいんだけど、あれ、けっこう危ないから、今のボクだと手に余るんだよね。とりあえず、身体ひとつで頑張るよ」


 あ、ミケ長老の『分け身』スキルか。

 分身の術というか、妖怪の驚きスキルというか。

 やっぱり、あれ難しいんだね。

 ミケ長老は何事もなく使っていたけど、よく考えれば、あれもドロシーの操作技と同じようなものだしね。

 そうそう、ドロシーと言えば、今、ドロシーが操っているルナルの人形は三体になっていた。それで、オサムのお店の給仕とかも手伝っているんだって。

 いや、一体でもすごいと思ったけど、今度は三体もか。

 これでもまだ限界じゃないみたいだけど、本気になったドロシーってすごいね。

 コロネなんか傍から見ているだけで、頭がおかしくなりそうだけど。


「それにしても、大分、料理人の人も増えてきましたね」


 あっちではミーアとイグナシアスの魚料理のお店も始まったし、その更に向こうでは、ムサシが和食御膳のお店を始めたみたいだし。

 今日の営業の時は、それぞれのお店の常連の人も、この塔の集まってくるので、料理人さんたちも早めに店じまいができるんだって。

 朝営業だけ、それぞれのお店で済ませて、ここからは一緒に昼夜の営業って感じだ。

 というか、それに合わせて、お客さんも少しずつ増えてきてない?

 普段だと食べ終わったら、帰る人もいるんだけど、今日は増える一方の気がするよ。

 そう、オサムに聞いてみると。


「はは、そりゃあ、あれだ。コロネが原因だろ」


「えっ!? わたしですか?」


「ああ。お前さんの新メニューな、あれを待ってるんだろうぜ。だから、こっちの手伝いはひとまずいいさ。お菓子の方に集中してくれよ。今のところは、他のメニューを食べながらまったりという感じだが、しばらくしたら、空気が変わるかも知れないしな」


 そうなったら、俺もどうなるかわからない、とオサムが笑う。

 いや、笑ってる場合じゃない気がするんだけど。

 ただ、それもそうか。

 一応、二階の厨房には、アイスとか、フレンチトーストとか、そういった材料は運び込んであるんだよね。リディアとか、アルルたちに作ってから、それ以降は、パン工房で注文を受ける感じにしようかな。

 たぶん、コロネが独立して、お店を構えてもリリックとふたりじゃ破綻するだけだし、そもそもフレンチトーストはパン工房用のメニューでもあるしね。

 朝の白パンラッシュがひと段落すれば、パン工房もちょっと余裕が出てくるだろうし、ピーニャたちにも手伝ってもらおう。


「わかりました。よし! 頑張ろう! それじゃ、リリック、手伝って!」


「はい! 頑張ります!」


「ボクも行くよー」


 そんなこんなで、フレンチトースト作りへと向かうコロネたちなのだった。





「一応、リディアさんにはバナナ尽くしを、アルルさん、ウルルさん、シモーヌさんにはサンベリー尽くしを、って感じかな。リディアさんへのメニューはバナナのフレンチトーストにバナナチップス。後は、バナナのフルーツグラタンね。『あめつちの手』の三人には、フレンチトーストサンベリーソース、白パンを使ったフルーツサンドね。で、それプラス三色アイスって感じかな」


 一応、リディア、『あめつちの手』双方から、それぞれの食材を他に使ってもいいという許可は取ってあるので、三色アイスはどっちにも、って感じだ。

 リディアの方がよく食べるのと、アクセントとして、薄切りにしてオーブンで焼いただけのバナナチップスも、朝、隙を見て用意してある。

 ただ、向こうのバナナと違って、薄切りの大きさがかなり太めなので、大きめのおせんべいみたいな感じにはなってるけどね。

 あくまでリディア用って感じだ。

 下手をすると一枚でお腹いっぱいになっちゃうし。


「あれっ!? コロネ先生、フレンチトーストとアイスだけじゃないんですか?」


 フルーツグラタンとか、フルーツサンドは聞いてませんけど、とリリックが驚く。

 まあねえ、言ってなかったし。


「そうだね。わたしとしては、やっぱり食材を持ち込んでくれた人には、お礼の意味も込めて、何か作りたいなあって思ってたからね。ほら、フレンチトーストやアイスは残った分を他の人にも売り出すでしょ? その辺はやっぱり、おまけじゃないけど、サプライズみたいなものがあった方がいいと思うし」


「なるほどね、それで、コロネは白パンを確保していたってわけか」


 アノンが、納得したように頷く。

 たぶん、アノンはフルーツグラタンもフルーツサンドもわかっているよね。

 今日のところは、白パンを利用した簡易的な作り方だし、どっちかと言えば、フルーツグラタンというより、パンプディングという感じになるのかな。

 なんちゃってクラフティとも言う。


「ええ。まあ、おまけみたいなものだから、ひとつひとつの作り方は、あんまり難しくないものを選んでいるよ? バナナチップスは薄切りにして、オーブンで焼いて、後は冷ますだけだし、各種のフレンチトーストも、普通にフレンチトーストを作って、それぞれの食材をアレンジするだけだしね」


 バナナの場合、焼いたバナナを添えて、バナナで作ったジャムをソース代わりにして、完成だし、サンベリーの方は、生のサンベリーを添えて、こちらもソースをかけるだけだし。

 まだ、リリックは普通のフレンチトーストは焼いたことはないだろうけど、そっちはぐるぐるフレンチトーストと大きく変わらないし、教えながらで問題ないだろう。


「コロネ、フルーツグラタンはどういう作り方をするの?」


「食べやすい大きさに切ったバナナと白パンに、やまぶどうをグラタン皿に入れて、その上からフレンチトーストのフラン生地の残りをかけて、オーブンで焼くって感じですね。ここのオーブンでしたら、それほど時間はかかりませんしね」


「ああ、なるほどね。フレンチトーストの卵液を流用って感じか。やまぶどうと白パンとバナナを交互にって感じだね?」


「はい、そんな感じです。あ、リリック。もちろん、作る前にやってみせるから、大丈夫だからね。というか、これに関しては、そんなに難しくないし」


 食パンを使って、簡単に作れる家庭料理って感じかな。

 まあ、最初はこのくらいからでいいかなあ、と。

 ハードルを上げ過ぎると後々大変になるからね。

 タルト生地とか作れるようになってから、もうちょっと発展させていこう。


「はい、わかりました! と言いますか、コロネ先生、バナナチップスなんて、いつの間に……? そういう時はぜひ見せてくださいよ」


「ごめんごめん、今日の朝ってバタバタしてたからね。色々リリックに説明するとパンクしちゃうと思って。もっと余裕がある時に、しっかり教えるから」


 まあ、さすがにプリン作りとか、アイスの復習に集中しているところで、新しい料理の説明をするのは悪いしねえ。

 色々と散漫になっちゃうのもまずいし。

 優先順位としては、アイスとプリンの作り方をしっかりマスターして欲しかったしね。


「はい、お願いしますね。それで、コロネ先生。最後のフルーツサンドですが、これって普通のサンドイッチってことですか?」


「まあ、そうだね。白パンの耳を切って、生クリームとフルーツをはさんだメニューだね。シンプルだけど、このサンベリーと組み合わせるとなかなかなんだよ。作るのも簡単だし。バナナも一緒に入れて、リディアさんに出すのも手だよね」


 サンベリーの味見をして思ったのが、やっぱりこの実はひとつでもフルーツミックスっぽい感じの味なのだ。ひとつの果物で複数の味を楽しめるというか。

 それなら、生クリームとサンドしてってのはアリだろう。

 これなら、まず失敗しないしね。

 バナナと違って、新しい未知の食材だと、加熱とかの調理法でどうなるか、色々試してみないとおっかなくて。結局、無難な感じに収まったというところかな。


「生クリームを使うところが、普通のジャムサンドと違うところかな。果物の風味を生クリームの甘さで包み込むって感じね」


「あ、それは聞いているだけでも美味しそうですね。甘い生クリームって、それだけでも美味しいんですよね」


「あ、そういえば、プリンとかアイスとかだけだから、生クリームをそのまま味わう料理って、これが初めてなんじゃない? うん、ケーキの一歩手前って感じだね」


「ええ。作り方も簡単ですしね。それじゃあ、どんどん作っていきましょうか」


「はい、コロネ先生!」「それじゃ、ボクはフレンチトーストの量産を頑張るね」


 そんなこんなで、コロネたちは本日のメニュー作りに取り掛かるのだった。

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