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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第189話 コロネ、ドワーフたちにスープを振る舞う

「あ、コロネさん、こっちこっち。こっちにもスープお願いー」


『ジーナ、そんなに慌てなくてもスープは逃げないよ』


「いやいや、スープは逃げないけど、売り切れごめんだよ、旦那様」


 リディアと別れて、次のテーブルにいたのは、ドワーフで鍛冶職人のジーナと、その夫で、ミスリルゴーレムのグレーンだ。

 そう言えば、鉱物種の人もコンソメスープは飲めるんだっけ。

 さっき、オサムもそんなことを言っていたし。

 というか、グレーンが、あの丸文字が表示されるボードを持っているのに気付く。


「いらっしゃいませ、ジーナさん、グレーンさん。あの、グレーンさんが持っている、そのボードって」


「そうそう。試作とチェックが終わったから、旦那様の分も作ってもらったの。アビーさんが頼めばいっぱつだったよ。アビーさんが本気で迫ったら、断れる人ってなかなかいないもんね」


『ええ、特にお酒好きに人は、ね。この町でもお酒絡みのことなら、アビーさんだから』


 なるほど。

 アビーが怒ると、お酒を卸してもらえなくなるので、お酒好きの職人さんとかには死活問題なんだとか。いや、作った人がこの町にいるかどうかは知らないけど、話を聞く限りだと、どうも、そっちのお酒の流通に関しても、アビーは力を持っているらしい。

 うん。

 今後のことを考えると、絶対に怒らせてはいけない人だね。

 ラム酒、ラム酒。


「まあ、そんなことより、コロネさん。コンソメスープ、コンソメスープ。ずっと待っていたんだから。旦那様に悪いから、お酒しか飲んでないし」


『別にジーナが気にする必要はないんだけどね』


「わたしが気にするの。いいからいいから、コロネさん、スープスープ」


「はい、わかりました」


 こちらも待たせるはあれなので、すぐにスープ皿に注いで、提供する。


「はい、ハーブ入りのコンソメスープです」


「うわあ、やっぱり、きれいな色だよね。どうやったら、こんなきれいな黄金色になるんだろ。何となく、金属加工の専門職としては、うっとりしちゃうんだよね」


『澄んだ色が特に映えるよね。まじりっ気なしの金属という感じかな。いや、コロネさん、ごめんね。僕らにとっては、立派な褒め言葉なんだけど』


 失言失言、とグレーンが頭を下げてくる。

 グレーンにとっては、金属もれっきとしたごはんなので、そういう認識なのだとか。つまり、鉱物種にとっての美味しそうっていう感じなのかな。

 というか、グレーンのしゃべり方というか、浮かんでくる言葉が、大分砕けてて、ちょっとびっくりではあるかな。見た目、重厚そうなミスリルゴーレムさんで、どっちかと言えば、無口で優しい感じをイメージしていたから、あ、こういう話し方なんだ、と少しだけ違和感があるというか。

 そういえば、今日のグレーンは着流しというか、着物を着ているね。

 普通の服よりも、包み込む感じのものの方が相性がいいのかな。

 その辺は、大柄なお相撲さんとかに近い気がするよ。


「いえ、わたしもきれいな黄金色だと思いますよ。どう感じるかは皆さんの自由ですから」


「そうそう、じゃあ、そういうわけだから、はい、旦那様、あーん」


 おお。ジーナがグレーンにスプーンを差し出した。

 いや、夫婦だから、こういうのは普通なのかな。

 何となく、見ているこっちの方が照れくさいけど、ふたりにとっては当たり前の光景みたい。

 ほんと、仲の良い夫婦だよね。

 ちょっとだけ、うらやましいかな。


『はい、あーん』


 ただ、ちょっと気になったのは、別に口元を意識しているわけじゃないってことかな。グレーンの顔の部分には、口らしきものはあるにはあるんだけど、そこから、ごはんを飲み込むって感じではないみたい。

 触れたスープが、直接皮膚というか、金属部分に触れた瞬間、吸収される感じかな。

 そういえば、鉱物種が食事しているを見るのって、これが初めての気がする。

 アズはあんな感じだし、ジーナの家の時もお酒を口にしているのは見てなかったし。

 ああ、お酒を手のひらに触れさせていたかな。

 いや、あれはやっぱり、あんまり食事って感じじゃないよね。


「どう? 美味しい?」


『そうだね。こっちの身体でも、かなり美味しく感じるね。これはハーブがしっかり染みているのかな。飲んだ瞬間に全身に魔素が満たされるような感じで、幸せかな。まあ、できれば、繁殖期に飲みたかったけどね』


 へえ、やっぱり、形態によって、味覚もちょっと違いがあるんだね。

 グレーンによれば、今の姿の時は、魔素の濃度とかが味に影響してくるのだそうだ。普通のお肉や野菜の味は、あまり影響されないらしい。

 で、繁殖期になると、普通の人間と同じように味を感じられるそうだ。


「でも、良かった。やっぱり、コンソメスープはすごいよね。普通、お酒以外で、鉱物種に美味しいって言わせる料理はあんまりないんだもの」


『最近だったら、ハーブティーはなかなかだね。じゃあ、僕はいいから、ジーナの番ね。はい。あーん』


「あーん……うわっ!? このスープ美味しいね! もしかすると、今までのコンソメスープの中でも一番好きな味かも。あ、確かにハーブの風味が残ってるね。お肉の味のエキスを食べるスープって思っていたけど、さらに一層、味が深い感じかな。すごいなあ、オサムさん」


 まだまだ、進化しているんだね、とジーナが笑う。

 いや、というか、仲良きことは美しきかな、って感じだ。

 うん。

 この空気の中で、コロネはどうしようって感じだけど。


「まあ、そうだよね。そう言えば、オサムさんから聞いたよ? 例のガストロバックが完成したんだってね。あれさ、ジーナも再現がちょっと難しいんじゃないかなあ、と思っていただけにびっくりだよ。たぶん、ジーナのお師さんとかじゃないと、厳しいと思っていたもの」


『実際、機構の方は、かなり複雑とは聞いてたからね。ドワーフのジーナたちに、そう言わせるのは、すごいことだよ』


「まあ、コロネさんのパコジェットもかなりなものだけどねー。あれはあれで、完成までちょっと時間がかかりそうだよね」


 なるほど。

 あ、そうだ。ちょうど良かった。

 近いうちにジーナのところに相談に行こうと思っていたのだ。

 今ちょっとだけなら、時間大丈夫だよね?

 周囲からのプレッシャーとかもなくなってるし。


「あの、ジーナさん、後で相談しようと思っていたことがあるんですけど、今、ちょっといいですか?」


「うん? なになに? 別に話を聞くだけならいくらでも聞くよ? 他ならぬ、コロネさんの頼みだもの。その代わり、後でお菓子ちょうだいってね」


 半分冗談だけど、とジーナが悪戯っぽく笑う。

 いや、もちろん、コロネとしても、お菓子くらいならいくらでも提供する用意があるよ、うん。


「あのですね。先日の生誕祭で、がらくた屋がありましたよね? そこで、わたしがいた世界の道具が売っていたんですよ。ミキサーとかフードプロセッサーとか言って、食べ物を自動で、切り刻んだり、粉々に撹拌する機械なんですけど。あ、一応、魔法の『ワールプール』を再現する感じですかね」


 こっちだと、魔法の方がイメージしやすいかな。

 かき混ぜる、撹拌する、そういうことができるのが『ワールプール』らしいし。


「コロネさん、それって物はあるのかな?」


「はい。ただ、電源……こっちで言うところの魔晶系のアイテムみたいなものがないので、動かせないと思うんですけど。動力を何かに置き換える必要がありますね」


 後は、そもそも、魔晶系のアイテムを組み込むというのが、コロネにはよくわからないのだ。そっちはこの世界のオリジナルの技術だろうし、それについては、ジーナの方が詳しいかなあ、と。

 あ、ジーナは金属加工専門だっけ。

 その辺りはどうなのかな。


「ふむふむ、そうだね。まあ、機構の方はそっちの専門の人に回すとして、あれでしょ? コンセントとか、そういうのでしょ? そっちの部分を変形させたり、壊れている部分の修復とかは、何とかできるかな」


『そうだ、ジーナ。おやっさんから、新しい職人の話があったよね?』


「あっ! そうだね、旦那様。うんうん、コロネさん、案外、いつもの人に回さなくてもうまく行くかもしれないよ? この間ね、新しい職人さんが入植したんだって。エドガーさんが言ってたもの。その人が確か、魔道具技師だって言ってたよ」


「え! そうなんですか!?」


 それはいいかも知れないね。

 この町にも魔道具技師がいるんだね。

 いや、ドロシーも一応は、アイテム袋とか作っているから、魔道具技師なのかも知れないけど、ちょっと毛色が違うみたいだし。

 機構より、魔法寄りの処置って感じだしね。


「まあ、腕については未知数だろうけどね。この町に住めるってことは、そういう意味では基準は満たしていると思うから、ま、だいじょぶなんじゃない?」


『いい機会だから、話をしてみてもいいかもね』


 結果的に、ジーナのお仕事の幅も広がる、とグレーン。

 今のお得意さんというか、付き合いのある魔道具技師さんは腕はいいんだけど、という人らしい。

 いや、それに関しては、コロネもところどころで耳にしている感じだけど。


「まあ、何にせよ、物を見ないと、だね。コロネさんが都合のいい時でいいよ。うちの工房まで持ってきてもらってもいいかな? その時に改めて、話を進めていこ?」


「はい、わかりました。その時でお願いします」


 今は、ふたりとも、スープを楽しむ時間だものね。

 あんまり、コロネが邪魔しても悪いし。

 というか、ずっと見ていると火傷しそうだし。


「ほいほい。まあね、今、ドワーフの谷も色々とバタバタしてるからね。ジーナたちも、こっちはこっちで頑張らないといけないからね。いざとなったら、コロネさんとかオサムさんとかの力も借りたりするかもだから、そっちもよろしくね」


「あ、はい。わたしにできることでしたら。と言っても微力ですけどね」


 ジーナが言っているのは、ドワーフの故郷のトラブルかな。

 できることがあれば、手伝うけど、でも、コロネって、お菓子作り以外はあんまり得意じゃないからねえ、オサムと違って、あんまり力になれない気がする。

 一応、詳しい話は、そのうちって感じらしい。


『ふふ、コロネさんは自分のことをそう思っているんだ。なるほどね』


「ふふふ、ねえ? 旦那様。まあ、わかってないのは無理ないと思うけど」


 うん?

 何だろう、ふたりの言葉に含みがある気がするんだけど。

 どうも、これ以上は説明してくれないみたいだ。

 まあ、いいや。こういう時あんまり気にしないのが、コロネ流だ。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 そんなこんなで、ふたりにお礼を言いつつ。

 残りのコンソメスープを配りに行くコロネなのだった。

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