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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第179話 コロネ、白パン作りを手伝う

「うわ……何というか、すごいね」


「コロネ先生、いつも、こんな感じなんですか?」


「いや、普段の三倍くらいの人がいるよ、これ。本気で人を集めようとすると、こんなことになるんだ」


 パン工房へと降りてみて、まず、そこにいたアルバイトの人数に驚いた。

 普段は、十人くらいでまわしていたはずの早番に、かなりに人がやってきてくれたらしい。

 ええと、とりあえず、ピーニャがどこにいるのか探していると、奥の方で、今日新しく来た人たちに、仕事の内容を説明しているらしき姿が確認できた。

 後は、バーニーやマギーなどのアルバイトの常連組もピーニャと手分けして、作業の指導をしているみたいだね。

 その周りでは、アルバイト慣れしている子供たちや、少なくとも、初めてではなさそうな動きをしている面々が、せっせとパン作りをしているという感じだ。

 パン作り、と言っても、あれだ。白パンではないパンを作っているという感じで、まだ白パンのラインの方はほとんど機能していない状態かな。

 ふむ。

 さてどうしようか。

 さすがにこの状況だと、どう手伝っていいのか判断に困るんだけど。

 と、コロネたちが悩んでいるのに気付いたのか、説明の途中で、ピーニャが抜け出して、こちらの方へと飛んできた。


「ちょっと待ってくださいなのです……コロネさん、もしかして手伝いに来てくれたのですか?」


「うん、そうだよ。プリンとアイス作りの合間だからね。リリックとアノンさんもね。リリックはわたしが教えながらになるだろうけど、アノンさんは、そのまま戦力になるって思ってくれればいいかな」


「良かったのです。実は、今日のアルバイト募集で来てくれた人たちは、定期で入ってくださる方ばかりなのですよ。ですので、今日はしっかりと教えておきたいと思っていたのです」


 そうすれば、新体制が見えてくるのです、と少し興奮気味にピーニャが言う。

 ただ、そのためには、ちょっと白パン作業まで手が回りそうもないので、困っていたとのこと。一応は、慣れているメンバーが、ノルマを終了次第、残って手伝ってくれるようにはなっているらしいが、いそがしいことには変わりないのらしい。


「うん、そういうことなら、白パン作りの方はどんどん進めちゃうよ。小麦粉の方は大丈夫なの?」


 昨日の量もそれなりではあったけど、あれはパン工房の分だけだ。

 オサムからも少し白パンを、という要望があっただけに、もう少しないと厳しいかもしれない。

 さて、どうしたものか。


「いえ、実はさっき、ブランさんが小麦粉を届けてくれたのですよ。ですから、量については問題ないのです。とりあえず、新人さんに今までのパンの作り方を教えて、そっちの方に移ってもらうので、ベテランさんたちを白パン作りへと移行してもらう感じなのです。ちなみに、リリックさんも、パン作りは初めてなのですよね?」


「はい。そうですね」


「でしたら、白パン作りはコロネさんとアノンさんにお願いするのです。リリックさんもピーニャについてきて欲しいのです。皆さんと一緒に作り方を説明するのですよ」


 さすがに、白い小麦粉で練習はさせられない、とのこと。

 まあ、それはそうか。

 白パン用の小麦粉って、かなり手間暇がかかっているものね。


「はい、わかりました!」


「じゃあ、ピーニャ。ピーニャには新人さん教育に集中してもらって、こっちはこっちで、白パン作りを頑張るって流れにいいんだよね?」


「なのです。あと、コロネさんには、ベテランさんたちにも白パン作りの簡単なレクチャーの方をお願いするのです。基本は同じなのですが、昨日の分は、ピーニャがほとんど作ってしまったので、そちらがちょっと残っているのですよ」


「わかったよ。何だか、朝からやりがいがありそうだね」


 皮肉ではなく、そう思う。

 本当は前もって、指導する余裕があればよかったんだけど、むしろ、こんな短期間の告知で、この早朝にこんなに人手が集まってくれたことに喜ぶべきだろう。

 うん、白パンの力はすごいねえ。

 これだけのいそがしそうな状況でも、ピーニャの顔もどこかほころんでいるし。


「なのです。ここを乗り切れれば、いい感じになるのですよ。楽しみなのです」


 頑張りましょうなのです、とピーニャはまた飛んで行ってしまった。

 リリックも、慌てて彼女についていくという感じだし。


「ふうん、ちょっと面白くなってきたね?」


「ですね。まずは白パン作りの方から、やっていきましょうか」


 いや、たぶん、ピーニャは考えが追い付いていないのかもしれないけど、コロネにもちょっとした企みのようなものもあるのだ。

 まあ、それもベテラン勢が加わってからの話かな。

 とりあえずは、地道に白パンを作っていくしかないし、そもそも、そのためには、多くの白パンを確保しなくてはいけないだろうし。

 ようし、頑張ろう。


「では、アノンさん、あそこのスペースですね。行きましょうか」


「了解。ちょっとだけ、本気を出すね」


 どこか不敵な笑みを浮かべるアノンと共に、コロネは白パン作りへと取り掛かった。





「コロネの姉ちゃん、こんな感じで大丈夫か?」


「うん、その辺のコツは今までのパンと同じだよ、ラビ君」


 温度と湿度に気を付けるのと、後はこねる時間と仕上がりのタイミング、寝かせ時間の微調整など、くらいだろうか。

 どのポイントも、以前とそれほど大きな違いはないが、みんながやっている作業を見つつ、気付いたところがあったら指摘していく感じで、作業を進める。

 今、コロネとアノンのところに加わってくれたのは、ラビやミキ、それにコロネもまだ名前も聞いていない子供たちが数名だ。それだけではなく、ちょっと驚いたのは、うさぎ商隊からも何人かやってきてくれたことだろうか。

 調理部隊の一班の人たちだ。

 ラクダの獣人で、この間ちょっと仲良くなったチコリを始め、一班の班長でもあるサソリのビスカさんなど、数人が加わってくれていた。その中でも、普段からパン作りに慣れている人たちが、白パンの作業を手伝ってくれたのだ。

 それ以外の人たちは、ピーニャ講座で一緒に講習中という感じかな。


「私たちも白い小麦粉でパンを作ってみたかったのですよ。今日は、コロネさんから直接教わることができてうれしいです。ね、班長?」


「そうじゃの。少なくとも作り方を知っておれば、白パンに関する、一班へのクレームも抑え込むことができるしのう。ふふ、感謝するぞぇ」


「いえ、こちらこそ、助かりますよ。定期的に来てくださるってほんとですか? チコリさん、ビスカさん」


「そうじゃ。まあ、礼には及ばぬ。これはのぅ、調理部隊の方針として決まったことであるからの。ふふ、妾たちも一応は努力しておるところも見せんとな」


「それにですね、コロネさん。私たちも白パンの味を把握しておかないといけなんですよ。そう! これはお仕事なんです! 決して、ただ、白パンが食べたいためじゃないんですよっ!」


「ふふ、チコリよ。力説すると、本音がバレるぞぇ」


 まあ、理由はどうあれ、戦力となる人が増えるのは大歓迎かな。

 というか、ビスカさんとしっかりと話をしたのは、初めてなんだけど、ちょっと不思議な人だよね。見た目は色気があるんだけど、年齢不詳という感じだし。

 いや、髪は艶のある赤茶色で、かなり若々しいんだけど、服装が割烹着っぽい感じの服なんだよね。一応、アルバイト中は業務外になるんだとか。

 だから商隊の制服を着ていないんだね。

 その点では、チコリたちとちょっと立ち位置が違うみたいだ。

 話し方だけ聞いていると、けっとう年上のような気もするけど、その辺りはどうなんだろ。まあ、聞きづらいから聞かないけど。


「ピーニャも言ってましたが、パン作りの人出が増えるのは大歓迎ですよ。今日は白パンが焼きあがった後で、パン工房で出せるメニューのお披露目も予定してますしね」


 パン工房用の、生クリームを使っていない、浅漬けのフレンチトーストだ。

 あと、パンの耳のぐるぐるフレンチトーストも、かな。

 今はちょっとピーニャがいそがしいから、もうちょっと余裕が出てからだけど、パン工房でのイートインメニューの作り方。その伝授について、定期的なアルバイトさんたちには行なっていくという話にはなっていたのだ。

 ちなみに、製法の公開の理由については、仮に広まったところで、白パンがなければ、同じような味まではたどり着けないから、という理由であっさりスルーとなった。

 うさぎ商隊の人たちも、小麦粉がらみでお世話になるので、その辺は、問題なしって感じかな。


「あっ! コロネさん、その新メニューって、フレンチトーストのことですよね。ナズナちゃんから聞きましたよ」


 白パンの作業を続けながらも、ちょっと興奮した感じでミキが尋ねてきた。

 何でも、ナズナが思わず、ミキたち、親しい友達に話しちゃったのだそうだ。

 パンを使った新しい甘い物。

 しかも、ただのパンの耳の部分だけでも、とってもおいしい、といううたい文句で。

 その結果、あっという間に、この町の噂ネットワークへ吸い込まれてしまったらしい。

 あのあの、パン工房のアルバイトが増えたのって、それが原因じゃないよね?

 

「そうだよ。パン工房で出すタイプのフレンチトーストに関しては、白パンを焼く作業と並行してやっちゃって、みんなで朝食で食べようと思って。昨日から仕込んでおいた分もあるしね」


 さすがに太陽の日の営業を考えると、当日分のパンはお店で出す用にした方がいいだろう。一応、作り方の説明のため、試作はするけど、量の確保という意味では、ぐるぐるフレンチトーストの方になっちゃうかな。

 とりあえず、今日来てくれたアルバイトの人たちの分は、余裕で出せるし。


「やっぱり、まだ白パンの量が少ないから、普通のフレンチトーストはお店優先かな。朝食はパンの耳の方だけど、昨日からじっくり仕込んであるから、それはそれで美味しいと思うよ? まあ、どうしてもって言う人は、後で、塔の営業に来てもらえば何とか、出すことができると思うんだ」


「大丈夫だぜ、コロネの姉ちゃん。ナズナの話を聞いたから、そっちもおいしいって知ってるからな。まずは、パンの耳からでいいってことよ」


「そうそう、ぜいたくを言うとバチが当たるもんね」


 ラビの言葉を皮切りに、そうだそうだと子供たちが笑う。

 何だか、ありがたい雰囲気だよ。


「コロネさん、そのパンの耳を使ったフレンチトーストも一緒に作ってもいいですか?」


「あ、はい、大丈夫ですよ、チコリさん。フライパンはいっぱいありますから、みんなで作って、朝ごはんにしちゃいましょう」


 コロネがそう言うのと同時に、周りから、歓声があがった。

 あれ、けっこう、みんな聞き耳を立ててたのかな。

 一瞬、全員の仕事の手が止まって、わあーっ、という感じになったもの。


「なのです。では、朝食を食べるためにも、今のお仕事をテキパキと終わらせましょうなのです。きっとその方が、ごはんがおいしいのですよ」


 そして、ピーニャの号令で、あちこちでパン作りが再開して。

 そんなこんなで、朝のパン工房の時間は過ぎて行った。

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