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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第175話 コロネ、同調魔法について相談する

「そういえば、カミュさんって、『同調』の付与ができるんですよね?」


「まあな。コロネは『同調』に興味があるのか?」


「はい。もちろんですよ」


 話すことは話したから、と帰ろうとしていたカミュに聞いてみた。

 ジーナにやってもらった意識共有にせよ、教会の子供たちがやっていた能力の借り受けにせよ、いざという時には役に立ちそうな感じがしたからだ。

 カミュが付与魔法を使えるのなら、ぜひお願いしたいところだ


「ふーん、まあ、別にいいが、今度時間がある時にでもな。『同調』の付与にはちょっとしたリスクがあるからな」


「リスク、ですか?」


 そうなんだ。

 身体強化とかとは、ちょっと違うのかな。

 付与魔法って一口に言っても、色々とパターンがあるらしい。

 だから、難しいんだけどな、とカミュが笑う。


「まあな、リスクと言っても、術師がっていうより、かけられる側が、だ。『同調』の付与の場合、相手に意識を乗っ取られることが必要だからな」


「え!? 意識を? どういうことですか?」


「いや、そのまんまの意味だよ。今、あたしらが『同調』と呼んでいるものは、相手と意識をつなげる魔法だろ? だから、その付与の条件は、一度、術師が意識を乗っ取る必要があるんだよ。リスクってのは、一度でも、一瞬でも、自分の身体の支配権を奪われてもいいのか、ってこと。少なくとも、信頼できるやつが付与しないと、どっかの誰かの操り人形になるかもしれない、ってな」


 あ、なるほど。

 カミュによると、意識が反発することによって、乗っ取られる前なら抵抗することができるらしいが、それだと、『同調』を覚えることができないのだそうだ。

 必ず、術にかかること。

 それが条件だという。

 だからこそ、カミュの場合、最初に説明して、相手に覚悟を問うているらしい。


「でも、カミュさんの場合、信頼できるから大丈夫なんじゃないんですか?」


「おいおい、あたしとしてはうれしいが、あっさりと人を信頼しすぎるなよ、コロネ。いや、別にあたしが実は悪意を持ってるって話じゃないぞ。だが、例えそうでないとしても、人間、ちょっとだけでも自分に都合のよい方向へと持っていこうとしたりもするだろ。そこに、悪意とか騙そうとする意思とかは関係ない。たとえ、親しい間柄でも、こうなったらいいのにな、という感情はあるだろ? もうちょっとよく考えた方がいいぞ」


 いや、そうかもしれないけど、そもそもカミュはサイナにも『同調』を施しているんだよね?

 だから、聞いてみただけなんだけど。

 そこまで自分を悪者っぽくしなくてもいいと思うんだよ。


「ははっ、おい、コロネをあんまりいじめるなよ、カミュ」


「あたしが言ってんのは一般論だ。人を信じるってのは大事なことだが、深く考えず、何となく流されるのはやめとけって、説法だよ。ま、一度こう言っとけば、ちょっとは真剣に考えるだろ? ほいほいって、願いをかなえてやるのは、教会の人間のすべきことじゃないからな」


 それがあたしらの存在意義なんじゃね?

 そう、カミュが皮肉っぽく笑う。

 本心では、そういうことは微塵にも考えていないような顔だ。

 相変わらず、シスターにしては、教会そのものにあんまり良い感情を持っていない感じなんだよね、カミュって。


「まあ、いいや。で、コロネは『同調』を覚えたいんだな?」


「はい。まあ、そうですよね。わたしが言っているのも都合のいいお願いですよね」


 物事には対価ってものが必要。

 カミュが言っているのは、そういうことでもあるのかな。

 何となく、そう理解する。

 まあ、ちょっと違うか、世の中ただより高いものはない、ってことか。


「いや? そもそも、今のコロネは教会に貸しを作っている状態だからな。あたしが『同調』を教えることにも何の問題もない。そもそも、教会ってのは迷えるものに手を差し伸べる存在だぞ。まあ、コロネの場合、オサムが手を差し伸べちゃってるから、純粋にそうだとは言い難いんだが、普通の迷い人の場合、そのくらいのことは無条件でやってやるから、特に問題はないのさ」


 サイナの件とかみたいにな、とカミュが笑う。


「ま、いいぜ。明日……は無理か。明後日の午前中にでも、教会に来な。『同調』の付与をやってやるから」


「ほんとですか? ありがとうございます」


 良かった。何とか、大丈夫そうみたい。

 カミュによれば、ちょっとだけ準備が必要だから、今はダメらしい。

 準備ってなんなのかわからないけど、そういうことなら、明後日、月の日の午前中に教会に行ってみるとしよう。


「やれやれ。まったく、話が長いよな。一言、『いいぜ』って言ってやればいいじゃねえか」


「はん、これもあたしのお役目だ。そういうお仕事なんだからしょうがないさ。あたしだって、こんなまどろっこしいことは嫌いだよ。でも、もうすっかり悪い癖になってるんだよな。ったく、忌々しいったらありゃしない」


「ほんと、教会嫌いのシスターさんがいたもんだよね」


 そういうのは、子供たちにも移るから、あんまり良くないんじゃない? とアノンが苦笑する。

 だが、カミュはそんな正論もどこ吹く風という感じで。


「まあ、仕方ない。元は純朴なシスターだったかも知れないが、そんなのは色々あってやさぐれる前の話だしな。今のあたしは、神なんざ、威張るほどのもんかいって、感じだし。ま、別段、ありがたがるようなもんじゃないのは事実だよ」


 はあ、何だかすごいなあ。

 でも、カミュもそう言いながら、教会のことを否定しているわけでもないんだよね。

 その辺は、色々と複雑な感情があるのかな。

 たぶん、行動という意味では、かなりシスターらしい気もするんだけど。


「それじゃ、あたしは帰るぞ。まだ色々とやることが残ってるんだよ。まったく、あの馬鹿神父のおかげで、とんだタイムロスだ」


「あ、ちょっと待ってくれ、カミュ。お前さんに頼まれてた冷蔵庫を用意したから、ついでにそっちも持って行ってくれよ。ほら、この袋に入ってるからさ」


「お!? 悪いな、オサム。クーラーボックスといい、助かるぜ。これで、何とかなりそうだな。まあ、教会としても、しばらくはアイスについては、内部で処理って感じになりそうだけどな」


「あれ? そうなんですか?」


 オサムから冷蔵庫入りのアイテム袋受け取ってほくそ笑むカミュ。

 その言葉にちょっと驚いて、聞いてしまう。

 あれ、アイスの販売をすぐ始めるわけじゃないのか。


「ああ。というか、最初は教会内で食べる分を作りながら、味を固めていくって感じだな。売り物にするんなら、商品の質が整ってからの方がいいだろ。失敗作でも、ガキどもが喜んで食べるだろうし。何より、明日から新しいやつらを連れてくるからな。西側から第一陣って感じさ。数十人とはいえ、各国にまたがっているからなあ。一筋縄じゃいかないっていうか、けっこう最初は大変なんだぜ?」


 あ、もう明日から、新しい孤児を受け入れるんだ。

 カウベルたちも言っていたけど、カミュって行動が素早いね。

 そのテンポについていくのも大変だよ。


「なるほどな。戦争してる国同士の子供が一緒に、か。そりゃ、大変だ」


「まったくだ。だが、教会に来るのを望んだ以上は、四の五の言わせないさ。せいぜい、自分の感情に折り合いをつけてもらわないとな」


 そう言って、カミュが皮肉っぽく笑う。

 そういう意味では、その手のことに関しては、彼女もなかなかの経験があるようだ。


「それじゃ、オサムにコロネ、ついでにアノンも。邪魔したな」


 そう言って、カミュは教会へと帰って行った。

 何というか、それほど時間は経っていないはずなんだけど、カミュが来て帰っただけでずいぶんと慌ただしい感じがするね。


「そっか……アイスの販売はしばらくはしないのかあ」


 そうなると、塔の営業日だけって感じかな。

 もちろん、周りからの声が大きくなれば、カミュとかも動くかもしれないけど。

 いや、あのカミュのことだ。笑って、受け流しそうな気もするね。


「あれ? コロネにとっては都合がいいんじゃないの? だって、しばらくはアイスについてもコロネしか販売しないってことだものね」


「いや、アノンさん。それで、こっちに全部しわ寄せが来そうなんですけど」


 そもそも、アイスに関して、作り方を広めたのも、その方がお菓子の認識を広げるのにちょうどよかったからだ。

 まあ、ボーマンさんとかに言わせると、商機を逃しているって感じになるんだろうけど、何でもかんでもひとりでやろうとしても、パンクしちゃうし。

 他のお菓子作りにも進んでいけないしね。


「じゃあ、どうする? コロネが毎日アイスを作って売るのか? 一応、パン工房の営業とか利用すれば、何とかなるだろうけどな」


「わたしとしても、しばらくは毎日アイスを作る予定でしたよ? アルルさんやウルルさんへの支払いの件もありますし。ただ、大っぴらに販売するとなれば、量が足りませんので、しばらくは様子見ですね。新しいパンのインパクトもぼけちゃいますし」


 リリックの制服を頼んだ件について、オサムにも伝える。

 結局、お金じゃなくて、アイスで支払うことになったと。

 まあ、アイスの販売はやめておこう。

 せっかく、パン工房が新しいパンを売りにしているのに、アイスも置いたら、そっちに迷惑がかかってしまうし。

 いや、売りがいっぱいあるのは悪いことじゃないけど、一度にやりすぎると収拾がつかなくなることもあるのだ。


「なるほどな。今は、白パンをメインって感じだな」


「はい。せっかく、ピーニャたちが頑張ってますし、わたしも新しいパン作りのお手伝いをしたいですしね」


「はは、わかったぜ。じゃあ、そういう方向で。あと、リリックの制服の件か。ま、給仕の方の服については、俺の方からも何とかしておくよ。もうちょっとだけ待ってくれ。『あめつちの手』の連中と調整に入るから」


「わかりました。リリックにもそう伝えますね」


 制服の方も、何とか問題なさそうだね。

 もうじき、リリックも帰ってくるだろうし。


 それにしても、とコロネは思う。

 夜の時間もいそがしくなってきたなあ、と。

 色々な人たちがそれぞれ頑張っている姿を見つつ、自分も頑張ろうと思うコロネなのだった。

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