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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第174話 コロネ、外への目標ができる

「と言ってもな、『迷い人』って話以上のことはあんまりないぞ。まあ、しいて言えば、ちと厄介なタイプって感じだけどな」


「厄介なタイプですか?」


 カミュが少し、いや、かなり面倒くさそうな感じでぼやいている。

 どうも、今回のその『迷い人』の子はかなり、困ったことになっているらしい。


「ああ。いわゆる、どこから来たのか、かなり分かりづらいタイプだ。記憶の一部、いや、一部というか、かなりの部分だな、そっちに欠損があるらしい。元からなのか、こっちの世界に飛ばされたからなのか、あるいは、やってきた直後の事故が原因なのか、その辺ははっきりしないが、あんまりよろしくない状態だな」


「なるほどな。ちなみに、カミュ。どの辺で、『迷い人』だと判断したんだ?」


 記憶が喪失してるケースだと、見定めが難しいだろ、とオサム。

 けっこう記憶障害の場合は難しいのだそうだ。

 そもそも、それがどのあたりの記憶まで失っているかによっても、症状が変わってくるとのこと。

 都合よく、基礎記憶が残っていればいいが、欠落がひどい場合は、赤ちゃんと変わらないし、そもそも言葉が通じないから、意志疎通が取れないのだとか。


「まあ、あたしがって言うより、最初に神父が、で、結論として、あたしも確定を出したって感じだな。まあ、まず、言語の問題で、こっちの言葉を使っていない。それで『迷い人』は決まりだろ。ほら、オサムは知ってるだろうが、コロネは知らないかもしんないから、あえて説明するが、スキルで言語翻訳がなされている場合、あたしらとかならわかるからな。今のコロネみたいに二重言語状態だ」


「あ、そうなんですか」


 ちょっと驚いた。

 そういうのって、わかるんだね。

 コロネとしては、頭の中に自然と浮かんでくるから、こっちの言葉を話しているような感じだったんだけど。

 これでも、二重言語っていう状態なんだ。


「ああ。もっとも、普通は気付きにくいけどな。その辺は、教会の巡礼シスターを舐めんなって感じか。孤児の場合、『迷い人』ってケースも少なくないから、そういうノウハウはきっちりと蓄積されてるんだ。本部には、どこから来たのかっていう分類とかも集積したものもあるしな」


 話を続けるぞ、とカミュ。


「一応、普通に生活を送る分には、問題なさそうだな。むしろ、こっちの同世代の基準よりも頭がいいくらいだ。その辺は、オサムやコロネと同じだな。元のとこがどんなとこかは知らないが、まったく大したもんだ。ただ、まあ、そもそも自分がどうして、ここにいるのかはさっぱりみたいだな」


「ちなみに、年齢とか、名前とかはわかってるのか?」


「ああ。カードに登録させて、確認済みだ。幸いと言うか、本人は覚えていなかったが、名前もステータスで読み取れたから、記憶も欠損というよりも、一時的に思い出せなくなっていると見ていいだろう。近いうちに徐々に記憶も戻ってくるんじゃないか? それがいつになるかって聞かれると難しいが」


 名前が刻まれているってことはそういうことだ、とカミュ。

 本人がわざと記憶喪失を装っているケースもあるらしいが、さすがに今回の場合は、年が幼いから、そういう感じでもなさそうとのこと。

 疑ってかかったらキリがないけど。


「名前はサイナ……コイデ・サイナ、だな。年齢は十一歳。レベルは2だな」


 そこまで聞いて、ちょっと驚く。

 あ、レベルは2なんだ。

 コロネはいまだにレベル1なんだよね。

 訓練で対人戦闘をやってないせいかも知れないけど。


「ふむ、まあ、名前の響きから、日本人っぽくはあるな。ちなみに、レベルの方は、ベアードのやつが保護した時には、もう2になってたのか?」


「ああ。そうだとは聞いている。だから、おそらく、倒れている前に何かあったと見ていいだろうな。そっちについても思い出せないらしい。案外、モンスターか何かと遭遇した可能性もある」


 ベアードっていうのは、孤児院の神父さんの名前なんだそうだ。

 その響きの通り、獣人種で、熊の獣人とのこと。

 それにしても、その子もこっちの世界に飛ばされて早々に、何かあったってことか。

 今は無事だってことだから、命があって良かったよね。


「外見は黒髪長髪で、背格好はあたしとおんなじくらいか、ちょっと小さいって感じか。服装は、ほら、鬼人種がよく着てる感じのやつだ。何て言うか、和装か? あたしも詳しいことはよくわからんが」


「和装って、着物か? そいつは妙だな……まあ、日本人っぽいって感じではあるが。まあ、それについては、今は気にしても仕方ないな。ちなみに、スキルについても、調べてあるのか?」


「まあな。それが教会流だからな。スキルはふたつ、『色』スキルと『自動翻訳』って感じだな」


「『自動翻訳』はともかく、もうひとつはなんだそりゃ? 随分と漠然としたスキルだな。カミュ、お前さんに聞き覚えは?」


「ないな。まあ、似たようなスキル持ちはいないでもないが、『色』ってスキルは初めて見たぞ。これもユニークスキルの一種だろ。これについては、詳細がよくわからないよな。サイナ自身が使っていかないと、どうしようもない」


 何だか、本当に漠然としたスキルだよね。

 『色』か。

 それだけなのかな?

 魔法とも、何とも説明がないっていうのは、困ったもんだね。


「まあ、後は、それに加えて、『身体強化』と『同調』は仕込んである。身体を動かせるようになってから、あんまり経ってないらしいから、練習とかは、もう少し体調が回復してからだな。オサムの関係者ってんなら、こっちに連れてくるが、しばらく待ってくれないか? さすがに病み上がりの状態で移動させたくない。つーか、こっちの都合もあって、今、ハチミツの作業を手伝ってもらってるんだが、今の状態で連れ帰るとエリが泣く」


「おいおい……そっちが本音じゃないだろうな? 病み上がりの人間にあんまり無理させるなよな」


「その辺は仕方ない。身体が動かせるようになった以上は、教会の方針に従ってもらうまでだ。『働かざる者食うべからず』。それに、できる範囲で身体動かしてもらうのもリハビリを兼ねてるからな。まあ、悪い話じゃないだろ。エリとかと一緒に仕事してれば、こっちの世界がどういうとこなのか、よくわかるだろうしな」


 エリってのは、ハチミツ作りの責任者だったっけ。

 カミュ曰く、孤児院のハチミツへの需要が大分高まっているおかげで、孤児院の方がてんてこ舞いなのだそうだ。

 やむを得ず、こっちの教会にいた孤児たちも、ヘルプで仕事を手伝わせたりしているのだとか。

 ええと、それって、原因は、当然、パン工房とかコロネのせいだよね?


「カミュさん、何だかすみません」


「あん? 別にコロネが謝る必要はないだろ。こっちとしても、予想外の収入源で、うはうはって感じだしな。ははっ、ガキどもにしたところで、自分たちが必要とされたり、期待されたりしてるのが、はっきりわかるのは嬉しいのさ。忙しいのは事実だが、人はパンのみに生きるにあらずってな。やりがいってのは大事なんだよ」


 それにな、とカミュが続ける。


「こちらとしては、コロネには感謝しかないぞ。アイスの件といい、あと、プリンとかに関してもカウベルから聞いた。直後にプリムからもな。おかげで、新しいやつらの受け入れが整った感じだな。相変わらず、バタバタだが、一歩前進ってとこさ。ああ、そうそう、遅くなったが、教会でも、孤児院でも、ガキどもがアイス食って喜んでたぞ。直接会った時に、改めてお礼を言わせるが、今はあたしの方から、ガキどもに変わって、礼を言っておくよ。ありがとうな」


「いえ、喜んでもらえて何よりです。あ、それじゃあ、カミュさんは孤児院まで、アイスを溶かさずに持って行けたんですね」


「まあな。さすがにクーラーボックスは使わせてもらったぞ。まあ、孤児院くらいなら、使わなくても何とか間に合いそうだけどな」


 子供たちだけじゃなくて、神父さんや、そのエリさんにも評判は良かったとのこと。

 ハチミツが使われているから、なおのこと嬉しいみたいだ。


「そんな感じだから、サイナについては、もう少し落ち着いてから、改めてって感じでいいか? いや、半分は孤児院側の都合で悪いんだが。少しずつではあるが、こっちでの生活にも馴染んできているみたいだし、まあ、焦らない方がいいだろ」


「そういうことなら仕方ないな。案外、記憶の方も戻ってくるかもしれないしな。じゃあ、どうする? 移動は別にして、俺の方から行ってみようと思ったんだが、それもやめておいた方がいいのか?」


「そうだな……なら、その役目、コロネに任せたらどうだ?」


「えっ!? わたしですか?」


 あれ、何だか、ちょっと変な話になってきたような。

 というか、まだ、町の外に出る許可が下りるまで、しばらくかかりそうなんだけど。


「ああ、アイスのお姉さんって感じで、ガキどもにも伝えてあるし、サイナの場合、パティシエって言葉にも反応してたからな。目をキラキラさせてたから、オサムが行くよりも信頼されるんじゃないかって思ってな」


「なるほどな。そういうことなら、俺は引っ込んでいた方が良さそうだな」


「いや、あの、それはそれで嬉しいですけど、わたしまだ、町の外に出る許可が下りてないんですけど」


「だから、好都合だろ? 良かったな、コロネ、はっきりと目的ができて。これで、メイデンとやってる特訓にも身が入るってわけだ。さっさとサイナのやつを連れてこれるように頑張るんだな。ははっ、ま、それも世界様の思し召しってことにしときな」


 どこか面白半分な口調で、カミュが笑う。

 というか、オサムもどこか楽しそうにしてるよね。

 いや、別にいいけど、ということは、もっと本腰入れて頑張らないといけないようだ。

 あんまり待たせるのも、サイナちゃんか、その子にも悪いし。

 うん?

 でも、まあ、記憶も戻ってないし、体調も回復しきってないから、あんまり焦りすぎない方がいいのかな?

 孤児院に馴染んでいるのなら、元の世界うんぬんの不安も、急を要するって感じでもなさそうだし。


「ま、たぶん、コロネが一生懸命やって、ちょうどいい感じだろ。ここ数日は、新規のガキどもとかで、教会もバタバタするから、少し落ち着いた頃でもいいかもな。ただ、この手の忙しさってのは、常に付きまとうもんだから、のんびり構えていると、いつまで経っても話が進まないぜ? 思い立ったら即動きな。結局、それが一番だってな」


「わかりました」


 まあ、こちらとしても、早く町の外へ行きたいしね。

 しっかりと目標も定まった以上は、頑張るよ。

 この件がなかったとしても、どっちみち東の森には行きたかったしね。

 孤児院でハチミツ作りを見て、エミールさんの家と、ウーヴさんのとこに挨拶に行くって感じだ。

 うん、なるべく早くそうできるように精進しないとね。


「まあ、コロネは他にも色々やることがあるだろ? お前さんの場合、あんまり無理しない程度に頑張れよ? 俺が言えた義理じゃないが」


「大丈夫ですよ。やれる範囲で全力を尽くしますから」


 苦笑しつつ励ましてくるオサムに、そう返しながら。

 『目指せ、孤児院!』のコロネなのだった。

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