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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第166話 コロネ、雨具の話を聞く

「やれやれ、すっかり遅くなっちまったな。悪い悪い」


「あ、オサムさん、お帰りなさい」


 酵母作りもひと段落して、まったりしているところにオサムが帰って来た。

 もうすっかり日も落ちて、夜って感じの時刻だ。

 雨の方は、まだ少し降り続いているのかな。

 オサムも雨具のようなものを脱いで、その手に持っている。

 あ、一応、雨具みたいなものもあるんだ。てっきり、魔法か何かで、みんな雨を何とかしているのかな、と思っていたし。オサムはそういうのは使っていないんだね。

 ちなみに、朝が早いという理由で、ピーニャはもうすでに休んでいる。


「オサム、ボクも来てるよー」


「げっ!? 一瞬、誰かと思ったじゃねえか、アノンかよ」


「そうだけど……会って早々、『げっ!?』ってのは無いんじゃない? さすがにちょっと失礼だよ」


「いやいや、すまんすまん。つい、な。というか、お前さんが事あるごとに俺のことをからかうから悪いんだぜ。こっちも、多少はいたずらを警戒してるって言うかな。つーか、知らないやつに変化してるなら、まず名乗れよ。こっちもいちいち、看破しなきゃいけねえのは大変なんだよ」


「まったく、人間種ってのは不便だよね。色自体は近しいんだから、一目見たらわかりそうなものなんだけど」


「無茶言うな。そういうのが得意なのは精霊だろうが。そもそも、人間の場合、若返ったりしないし、ガラッと外見が変わるやつもいるんだ。けっこう、わからないぞ。まあ、その姿はコロネのか、多少は面影があるな」


「あ、わかりますか、オサムさん」


 いや、コロネ自身も多少は昔とは変わった気がするので、当の本人でも、気付きにくかったくらいなんだけど。

 まあ、それは、こっちがうっかりしてただけか。

 それにしても、オサムとアノンはやっぱり親しそうだ。

 一緒のパーティーで旅をしていたのは、伊達じゃないみたいだね。


「まあ、さすがにふたり並んでればな。雰囲気が近い。昔の方が髪が短くて、今よりもちょっと痩せっぽちって感じだがな」


 おお、鋭い。

 当時はもっと今よりも食が細かったからねえ。

 おかげで、燃費性能はすごくいいんだけど、料理人としてはちょっと、という感じだったしね、今思うと。

 初めて、向こうの店長に会った時に言われたのが、『モデルでも目指してたのか?』みたいな感じだったし。せめて、筋肉でもいいから、もう少し肉を付けろと言われて、せっせと修行したら、今みたいな感じになった、というか。

 ふふ、今言われたら、単なるセクハラかも。

 だけど、『子供が遠慮するな。しっかり食べないと仕事中に倒れる。パティシエの仕事量を甘く見るな』って感じだったから、結局は、子供扱いだったのかなとも思う。

 いや、実際、しっかり食べないともたないのも事実だったけど。


「そうですよ。パティシエの修行でたくましくなったんですよ、これでも」


 まあ、胸は成長しなかったけどね。

 それは、どうでもいい話か。


「なるほどな。それで、アノンが来てるってことは、新聞がらみか?」


「そだよ。次の特集記事の企画で、コロネに密着するんだ。しばらく、塔の部屋で厄介になるからね。どうせ、まだ空いてるでしょ?」


「まあ、別に構わないが、一言ぐらい言っとけよな。ちょうど今、リリックとかも受け入れることになったから、こっちも色々あるんだからな」


「あ! そうですよ、オサムさんも一言ぐらい言っておいてくださいよね。リリックから聞いて初めて知りましたよ。塔で一緒に暮らすって」


 てっきり、教会から通いになるのだとばかり思っていたもの。

 アノンに苦言を呈するなら、自分のそういうところも治してもらいたいものだ。


「あれ? 俺言ってなかったか?」


「はい、ピーニャも一切聞いていないって言ってましたよ」


「あー、そいつはすまなかったな。まあ、ぶっちゃけ団体さんがやってきても大丈夫なくらいは、部屋に余裕があるからな。基本は飛び込みもオーケーだし、割とそういうのは適当なんだよ。ま、次からは気を付けるさ」


 そう言いながら、屈託のない笑みを浮かべるオサム。

 あ、これは、気をつける気がない顔だ。

 オサム必殺、謝ったふりして明後日の方向を向く、って感じだよ。

 まあ、仕方ない。そういう人だしね。


「ははは、やーい、オサム、怒られた」


「やかましいわ、まったく……まあ、それはさておき、ちょっと遅くなったのは、あちこちに顔を出してたからだ。ま、そのおかげで、色々と話が進んだって感じか。まず、コロネ、教会の冷蔵庫の件は、そういうものを置いている倉庫の方から持ってきた。ま、明日にでも持っていくとするか。今は、まだ雨が降っているしな。さすがにそこまで焦るもんでもないだろ」


「あ、ありがとうございます。塔の外に倉庫があるんですか?」


 てっきり、塔の保管庫とかで事足りていると思ったんだけど、町の外にもそういうものがあるんだね。知らなかったよ。


「まあな、貴重品のたぐいは、色々とリスク分散してるって感じか。何ヶ所かに分けて、倉庫を置いているんだ。もしかして、コロネも話は聞いたか? こっちの世界だと、空間が詰まったり、広がったりするんだと。まだ、俺もあんまりお目にかかったわけじゃないが、大きいものだと、空間ごと持っていかれることもあるらしいな。ま、めったに起こらないだろうが、念のため、だ」


 あ、なるほど。

 確か『空間変動』だっけ。

 オサム曰く、それとは別に、この町に色々と集中させすぎると、ロクなことにならないから、って理由もあるらしい。

 詳しくは教えてもらえなかったけど、各地に秘密基地みたいなものもあるのかな。

 何だか、そういうのって、オサムが死んだあとで、謎のダンジョン化しそうだよね。


「ま、オサムの倉庫って、この町から結構離れているからね。いちいち取りに行くのは面倒だと思うけどね」


「今日のところは、遠出する連中に便乗させてもらったから、そんなに大したことにはならなかったけどな。まあ、雨が降って来たのは予想外か。こういう時、水魔法とか色々工夫できるやつらはいいよな」


「あ、水魔法で、雨を防ぐことができるんですか」


 さっき、メイデンがやっていたのも、そんな感じなのかな。

 案外、雨を弾いたりする魔法とかもあるのかも知れない。


「そだね。一般的な生活魔法としては、水魔法が主流かな。水の結界か、障壁を身体から薄皮一枚隔てて、発生させることで水を弾いたりすることができるんだよ。ちょっと応用すると、水中に入る時に濡れなくて済んだりとか、水の中を歩いたりとか、そういう使い方も可能っちゃ可能だよね」


「その辺は、少し工夫しないといけないけどな。まあ、ずぶ濡れになっても、すぐ乾かせばいいって考え方もあるな。もちろん、こういう雨具、レインコートみたいなものや、傘とかもあるぞ。水棲のモンスターから、水を弾く素材とかも手に入れられるからな」


 なるほどね。

 やはり、魔法を駆使した方法は、あんまり普及されてないみたいだ。

 雨具にしたところで、防水加工自体は、なかなか難しいらしく、オサムが言ったようにモンスター素材を使うか、定期的に生活魔法を服にかけるなどの方法があるらしい。

 普通は、やっぱり傘が多いとのこと。

 どうも、化学繊維のたぐいはあんまり作られていないって感じかな。

 それにしても、前にドロシーから聞いたことがあったけど、生活魔法ってやっぱり便利そうだ。言葉の響きとは違って、なかなかに難易度が高いらしいけど。


「そうだな、他にもひとりひとり違うやり方をしているって感じか。得意な魔法をうまく使って、工夫すれば、雨とかは対策は取れるぜ。ピーニャとかなら、火魔法弱めに展開で、雨そのものを即座に蒸発とかな。まあ、このやり方だと、一歩間違うと周囲に燃え広がることがあるから、コントロールに自信がなければ、禁止だけどな」


「え、ピーニャがコントロールですか?」


 いや、普段から時々燃えている気がするんだけど。

 あんまり、火魔法のコントロールが上手ってイメージがないよね。


「いやいや、コロネ、ピーニャはああ見えて、火魔法に関してはなかなかなんだよ。あれにしたところで、一見暴走状態だけど、触れたものを燃やさないでしょ? パン作りに関しては興奮状態になりやすいってのもあるけど、それ以上に、制御が難しい火魔法の使い手って感じなんだよ。あの程度で済んでいるのは、本当にすごいと思うもの」


 そうなんだ。

 そっか、普段はのほほんとしているピーニャしか見たことがなかったけど、ああ見えて、オサムと一緒に旅していたんだものね。それなりには実力者ってことなんだろう。

 そもそも、このサイファートの町の外へもひとりで行けるみたいだし。

 つまりは、そういうことなのか。


「まあ、ピーニャも場合、ハーフだから、特性が化けているところがあるんだよ。ま、あんまり気にする必要はないが、人に歴史ありってやつだな。前にコロネたちが、俺のことをクセ者とか言ってただろうが、基本、この町にいるような連中は、クセの強いのが多いのさ」


 俺なんか、かわいい方さ、とオサムが笑う。

 いやいや、それに関してはさすがに頷けないんですけど。


「まったく、どの口で、そういうことを言うかな、この男は。いわゆる典型的な、お前が言うな、って感じだよね」


「いや、アノン、お前さんにだけは言われたくないぞ。このひとりパーフェクト超人が。どう考えても、お前さんの場合、壊れ性能だろうが」


「何言ってるのさ。オサムの『包丁人』の方が、ひどいじゃない。ああいうのを壊れ性能って言うんだよ」


 何だか、横で聞いていると、どっちもどっちって感じだよね。

 まあ、コロネはひとり一般人として、普通に頑張ることにしよう。


「そういえば、オサムさんには紹介しましたっけ? こっちがわたしの召喚獣のショコラです。種族は不明ですけど、たぶん、チョコレートモンスターじゃないかって」


「ぷるるーん!」


 朝はちょっとすれ違い気味になっちゃったから、オサムには紹介できていなかったと思うんだけど。

 改めて、ショコラの紹介だ。


「おっ!? 朝、何となくそれっぽいのがいるなあ、とは思っていたんだよ。やっぱり、召喚獣で間違いないのか。というか、チョコのフードモンスターかよ」


「はい。ぷにぷにしてて、触り心地がすごいいいんですよ、ショコラ」


「どれどれ……ははは! すごいな、この感触は。抱き枕よりふかふかしているじゃねえか。それにしても、あれだな。チョコ魔法に、チョコレートの召喚獣か。ある意味、コロネのスキルは一貫しているよな。さすがはパティシエってところか」


「どうなんでしょうね? やっぱり、他の迷い人の場合も、それまでの経験とかが影響しているんですか?」


 それについては、少し気になる。

 オサムの場合は、料理人だから『包丁人』か。

 他のケースはどうなっているんだろう。


「まあ、例が少なすぎて何とも言えないな。確かにそういう傾向はあるみたいだが。だとすれば、こっちの世界で生まれた人間の場合ってのが、よくわからないぜ?」


「あー、そうですよね」


「まあ、ちょっと得したなくらいに思っているといいさ。最初からユニークに目覚めているのはめずらしいみたいだしな。精々、使えるものは鍛えておけって、そんな感じだな」


「わかりました」


 そうだよね。

 まだ、コロネにしても、チョコ魔法のスタートラインに立ったばかりだ。

 この能力と上手に付き合っていけるよう、頑張ろう。

 そう思った。

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