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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第164話 コロネ、王都の話を聞く

「そういえば、なかなかガゼルさんのお店に行けなくて、すみません」


 せっせとショコラにごはんを食べさせながら、ガゼルに謝る。

 まあ、社交辞令のようなものではあるけど、コロネも王都の宮廷料理には興味はあるのだ。ただ、その前に色々とやることが多いというか、やらなければ、次へと進めないというか、そういうものが山積している状態なんだよね。

 もうちょっと落ち着くまで、ゆっくりと、この町の他のお店巡りとかは難しそうだ。

 だが、そんなコロネに対しても、ガゼルは笑顔で。


「いえ、コロネさんも忙しそうですしね。お話は色々と耳に入ってきますよ。私の方は気にしないでください。王都でドタバタしていた時のオサムよりはマシですが、それにしたところで、ちょっと働きすぎな感じもしますしね」


 何でも、王都にいた時のオサムも似たようなことになっていたのだそうだ。

 いや、今のコロネはある程度、周囲の理解があるけど、その頃のオサムはそうではなかったみたいだし。

 あー、なるほどね。

 オサムも王都で頑張っていた時期もあるんだ。

 そういえば、王都という単語はけっこう耳にするけど、王都そのものがどういうところなのかは、あんまり知らない気がする。

 確か、このサイファートの町からも大分離れているんだよね?

 ロンたちがマッドラビットに乗せてもらっても、半日くらいかかるって聞いている。

 いや、距離にしてどのくらいかまではピンと来ていないんだけど。


「あ、そっか。コロネ、お菓子作りに一生懸命で、他のお店に行けないのか。だったら、どう? 週刊グルメ新聞でも、取ってみる? ちょっと王都限定の情報もあるから、コロネに見せても、問題ないところだけでよければ、だけどね」


「良いんですか? アノンさん」


 それはちょっとありがたいかな。

 週刊グルメ新聞がどういう内容なのかは、ちょっと興味があったし。

 というか、町でも新聞を読んでいる人がけっこういるんだよね。


「うん、まあ、オサムとかには、定期購読してもらってるから、たぶん、塔の上の階に過去の新聞が置いている部屋もあると思うけどね。まあ、そっちについては、ボクも詳しいことは知らないよ。いや、違うか。知っていたとしても、教えられないってところかな」


「なのです。アノンの場合、自分の情報に制限をかけているのですよ。ほら、模写のスキルを深くまで使うと、一部の記憶については共有されてしまうのです。だからこそ、アノンは、コピーした相手が隠したがっている情報については、知らない、というスタンスを貫いているのですよ。そうでないと、人間関係にヒビが入るのです」


 なるほど。

 そもそも、アノンの場合、相手の秘密とかに興味はないのだそうだ。

 模写自体は相手を知る手段として、活用しているけど、だからと言って、それを自分の利になるように活用したい、という欲求はそもそもないのだとか。


「逆に言えば、ボクらはそういう種族だからこそ、このスキルを使いこなせているのかも知れないよね。それでも、たぶん、ボクみたいなのが多かったら、野放しにはされてないだろうけど」


 ドッペルゲンガーとは、すべてを知りうる者、でもあるらしい。

 まあ、当然のことながら、制約はあるけれども、こと個人のことに関しては、本気になれば知れないことはないとのこと。

 問題は、その本気になることがほとんどない、という点だろうか。

 情報の波にぷかぷかと浮いているだけ。

 言ってみれば、そんな実害のない種族でもある、と。


「だからね。新聞作りで能力を使うこともないよ。ほら、コロネに密着取材を頼んだのだって、そういうことだから。相手が望まない情報については、記事にするつもりは毛頭ないよ。その辺の配慮はできるもの。伊達に新聞社の社長をしちゃいないから」


「ですね。オサムが、アノンに新聞作りを提案したのも、そういう意味で、信頼できるからですよ。情報の取り扱いに長けていて、かつ、まとめたりするのも上手で、それでいて、秘密などに固執し過ぎない。そういうバランス感覚も優れていますね」


 ガゼルも、そう教えてくれた。

 そう考えると、ジャーナリストの鑑って感じかな。

 自分の好奇心を満たすわけでもなく、承認欲求があるでもなく。

 今、アノンがグルメ新聞を発行しているのは、それを望む人がいて、必要な情報を必要な分だけ、ターゲットに迷惑をかけずに提供できるから。

 この種の話ではめずらしく、双方にプラスになるようになっているからだそうだ。

 そういう意味での信頼度は高いみたいだね。


「まあ、この辺のことは触れてほしくないってのまで、はっきりわかるからね。隠匿情報については触れないよ。別に、社会正義だっけ? そんなものには興味ないし。ボクのモットーは、『何となく』と『面白半分』だよ」


「それだけ聞くと、ふざけているように聞こえるのですが、こう見えて、アノンは相手がどう思うかの、心理的な蓄積もいっぱいあるのですよ。たぶん、ピーニャたちが思っている以上に、空気を読むのがうまいのです」


「はは、まあ、幽霊種なんて、空気みたいなもんだしね。話を戻すと、ボクの仲間たち……リッチーたちだね。が、定期的に、それぞれのお店に取材に行って、今週のオススメみたいな記事とかも作っているから、そっちの方が中心の記事を、コロネにも届けさせるよ。あー、そうだね、コロネはあっくんとかと交流があるんだっけ?」


「あっくん?」


 あっくん、って誰のことだろ。

 ずいぶんとアノンと親しそうだけど。


「コロネさん、あっくんって、アキュレスさんのことなのですよ」


「あ、そうなんだ。はい、一応、たまごの取引とかさせてもらってますよ。いつも塔に持ってきてくださるのはプリムさんですけど」


「オッケー、オッケー。それなら、大丈夫。後で、あっくんに頼んでおくから、定期的に一緒に届けてもらうようにしておくよ。発行は木の日、コロネに分かりやすく言えば、毎週木曜日にしてる。オサムの営業日が太陽と水の日だからね。ギリギリで水の日の分の情報まで掲載できれば、って感じだね」


「ありがとうございます、アノンさん」


 へえ、木の日に発行なのか。

 それで、大食い大会の時点で、みんながアイスやプリンについて、知っていたんだね。

 というか、リッチーたち、プリンとかを食べたあとで慌てて、新聞を作ったのか。

 そう考えるとすごいねえ。

 生誕祭でも、時間新聞とかやってたし。

 『何となく』とか言っている割には、すごく活動的な感じだよね。

 それにしても、王都、か。

 ちょっと興味があるかな。


「でも、ガゼルさんも、ジルバさんも、皆さんも、元は王都から、何ですよね。わたしはまだよく知らないんですけど、王都ってどういうところなんですか?」


「そうねえ、一言で説明するのが難しいけど、まあ、あたしにとって王都は、生まれ育った大きな町よね。コロネちゃんは、王都がどの辺にあるのか、聞いたことある?」


「いえ、ほとんど聞いてないですね」


 この町が、大陸の東側の外れで、王都が大陸の中央部ってことは聞いているかな。

 でも、そもそも大陸の地図も見たことがないし、何となくイメージでしか、王都については聞いたことがないよ。

 一応、この町を含む、この国の首都ってことだよね?

 そう考えると、その王都から、この町までけっこう大きな国っていう感じもする。


「そうねえ、まあ、ざっくりと説明すると、この町からずーっと西の方に行くと、そこが王都よ。正確にはちょっと北西だけどね。このサイファートの町が、国としての東端かしらね。新しいエリアができるたびに、東に領土を広げてきたから、東西に広い国って感じよね」


「ですね。王都は国の西側です。基本、北の『帝国』を除けば、最も国土が広い国と言ってもいいでしょうね。『帝国』の場合、大陸北部の人が住むのに適さない場所まで、国土を主張してますので、そういう意味では、この大陸の中で、一番繁栄している国という認識で問題ないと思います」


 ジルバの解説を、ガゼルも補足してくれた。

 広さで言えば、『帝国』が一番だが、栄えているというか、大陸でも良い位置を占めているのが、この国なのだそうだ。


「場所的に、どこに行くにも便利だし、交流の中心って感じ? ただ、まあ、今は王都の話だから、そっちについて詳しく話しましょうか。コロネちゃん、弓とか、魔法の練習で使う射的って、知ってる? 中心に点があって、ちょっと大きい円、さらに大きい円ってどんどん、外側に円が広がっていく的のことなんだけど」


「射的ですよね? はい、何となくわかりますけど」


 要するに、ダーツの的ってことだよね。

 それは知っているけど、なぜ、その話になるのか、よくわからない。


「そうそう。その的が王都なのよ」


「え? 的が、ですか?」


「そうなの。イメージとしては、中心の点が王宮ね。その周囲に堀があって、その外側に王宮を護る王城があって、更に、その外側に堀があって……って、そういうのが連なっている感じかしら。大まかに、内側から一、二、三、四って番号が振られた区画があって、中から順に、王城、王族関係のエリア、貴族区、大商人とかの区画、商業区、一般住民区、っていう風に、分かれてるの。まあ、的みたいに、きれいな同心円じゃないけどね」


「一応、区画同士には堀を渡るための橋や道路もありますよ。王城のエリアはほぼ、一本のルートに制限されてますけどね」


 あ、ということは、東京の皇居周辺に近いのかな?

 それの大きい版かな。

 ヨーロッパの水路が走っている城下町っていう感じもするけど。

 まあ、いくつかの区画があって、それが堀で分かれていて、それぞれの区画によって、住んでいる人が違うって感じか。

 なるほどね。


「一応は、交流都市としての名目もあるし、今の王様になってからは、種族による差別とかは撤廃されているわ。ただ、それでも、人間種が多く住む都市っていう状況は、あんまり変わってないけどね」


「そういう風潮が残っているのは、貴族区とかそちら側ですか。王城も陛下の手前、そこまで露骨な感じにはなりにくいですし、商業区や一般区は人間種以外の人も増えてきているみたいですね」


 とは言え、王の目が届かないところでは、という感じらしい。

 ガゼルもその辺りが理由で、宮廷料理人を辞したわけでもあるみたいだし。


「ま、コロネちゃんも、機会があったら、行ってみるといいわ。言葉で説明するよりも、一目見た方が早いもの。王城もきれいな建物だから、一見の価値あり、よ」


 当然のことながら、この塔よりも、ずっと大きいとのこと。

 まあ、それはそうだよね。

 というか、この塔よりちっちゃいお城って、それはそれで微妙な感じだし。


「王都には、色々な食材もあるんですか?」


 どちらかと言えば、そっちの品揃えの方が興味があるかな。

 お砂糖、そう、お砂糖だ。

 王都で、手に入るなら、ぜひ行ってみたいもの。


「もちろん、向こうの特産品とかはいっぱいあるでしょうけどね、大陸西側の方のものとかも。ただ、食事に関しては、どうなのかしらね? たぶん、この町とか、教会本部のあるアニマルヴィレッジの方が、揃えやすいんじゃないかしら」


「ええ、そうですね。この町と比較しますと……という感じですね。もちろん、王都でしか手に入らないものもありますよ? ただ、その辺りは、ロンさんが商隊で確保してますしね」


 あー、そんな感じなのか。

 まあ、それも仕方ないのかな。

 ただ、それはそれとして、一度は行ってみたいかな。

 お城を中心に広がっている城下町かあ。


「それでも、機会があったら、ぜひ行ってみたいですね」


「だったら、その時は、あたしも一緒に行くわ。ちょっとした穴場スポットとか、案内してあげるから」


「はい、お願いします、ジルバさん」


 そのためにも、色々と頑張らないとね。

 ジルバにお礼を言いつつ、気合を入れなおすコロネなのだった。

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