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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第155話 コロネ、基礎訓練を行なう

「では、コロネ。昨日も言っていたけど、この訓練場の機能のひとつを開放する、よ」


「機能のひとつ、ですか?」


 ひとまず、ショコラには、少し離れた場所で待ってもらう感じで、訓練場の中央に、まずはコロネとメイデンのふたりが対峙した。

 ちなみに、ウーヴはショコラの横で、こっちを見ている感じだ。

 まだ、すぐには訓練に加わらないらしい。

 ええと、ところで機能って、何のことだろう。

 ちょっと、覚えてないんだけど。


「そう。不意を突かれないための特訓その一。『訓練中にランダムに襲い掛かってくる魔法を回避すること』。そう、言ったのを覚えてるか、な?」


 あ、そうか。

 そう言えば、色々仕掛けるってメイデンも言ってたものね。

 いや、いきなり魔法とはハードルが高いね。


「覚えてますが、メイデンさん、つまりランダムで攻撃魔法が飛んでくるってことですか?」


「そうだ、よ。この訓練場は、色々と設定することで、様々な練習をすることができるの、ね。まあ、コロネが心配しなくても、今日の設定は初心者向けだ、よ。水の基礎魔法『アクアボール』。それを弱めて、水玉というか、水鉄砲か、な? そういう感じの設定にしてみたから、ね。ふふ、防ぐか、回避しないと、ずぶ濡れになっちゃうから、気を付けて、ね」


 へえ、そういう設定が色々できるのか。

 だから、訓練場って言われているんだね。

 町の人でも、地下に入れるようになった人は、使用許可を取れば、ここを使ってもいいそうだ。設定も訓練によって、自由に選ぶことができるらしく、今みたいに初心者向けのシンプルなものから、不意を突かれないように、訓練中の隙を狙って攻撃してくるパターンとかあるらしい。

 上級者向けは、実践レベルの殺傷能力がある魔法にできたり、もう訓練のクリア不可能なんじゃないかって感じの弾幕だらけみたいな設定も可能は可能とのこと。

 いや、そこまで行くと、シャレにならないんですけど。

 殺傷能力って。


「ふふ、さすがにそれらの設定の時は、医師が同席のもとって、決まってるけど、ね。ほら、ここだと、いざという時でも、メルの家が近いから、何とかできるし、ね」


「いやいや、致命傷を負ったら、まずいでしょう」


『ふん、あの蛇姫なら、心配するだけ無駄だぞ。奴が同席していれば、ここの一番厳しいレベルの設定でも、無力化できるからな。というか、あのバカの基準で、最高レベルが作られたんだぞ。あんなもん、俺でも必死にならんと回避できん。魔法防御か、敏捷性、そのどちらかに特化していなければ、死ぬのが落ちだ。そして、あのバカの世話になる、とそんな感じだぞ』


 才能のあるバカは手に負えん、とウーヴ。

 と言うか、何だかんだ言っても、ウーヴも最高レベルでも対応できるのか。

 やっぱりすごいんだね、ダークウルフって。


『いざとなれば、闇狼のスキルで逃げるからな。いや、逃げるんじゃないな、戦略的撤退というやつか』


「また、うーさんってば、ロンさんみたいなことを言ってる、ね。本当は仲が良いんじゃない、の?」


『ふん、馴れ合いはせん。まあ、向こうが縄張りを侵してこない限りは、こちらからどうこうするつもりはないぞ。俺も大人だからな』


 メイデンによれば、ウーヴとうさぎ商隊は、というか、ロンは馬が合うのだそうだ。

 最初、マッドラビットたちがこの地にやって来た時は、衝突したり、色々あったそうなのだが、何だかんだで良い関係になったとか、ならないとか。

 少なくとも、ウーヴから認めようとはしないみたいだけど。


『それにな、あのうさぎ共は別だが、ロンの奴自身は強くないだろ。俺は弱い者いじめをするつもりはないぞ。あいつの才能は強さとは別の部分にあるからな』


「えっ、そうなんですか?」


 少し意外だ。

 周りの人の話を聞いていると、ロンも強そうなイメージがあるんだけど。

 だって、特殊師団の師団長だよね?


「うーん、その辺りは事情があって、ね。そもそも、ロンさんのスキルって、すごい反面、デメリットも大きいんだ、よ。まあ、うーさん基準で弱いってだけだから、普通の人が見たら、文句なしで十分、個人としても強い人だ、よ」


『ふん、悪かったな。俺から見れば、ほとんどの者は弱いからな』


 なるほど。

 レベルの高い話みたいだね。

 少なくとも、まだレベル1のコロネにとっては、どっちも雲の上の話って感じだ。


「話が逸れちゃった、ね。というわけで、コロネは今日の訓練をしつつ、いつ襲ってくるかわからない水玉をかわすのを目指して、ね。一応障壁などで防ぐのも可だ、よ」


「障壁って、この間のチョコ魔法のやつですよね?」


 チョコレートを溶かして、水魔法で広げて、って感じだ。

 薄いチョコレートの盾ってところかな。

 ただ、あれも、せっかくのチョコレートを消費しちゃうから、どうなんだろ。


「うん。そうだけど、まずはアイテムは使わないようにしよう、か。もちろん、チョコ魔法の習熟も必要だけど、闇雲に使うには、入手条件がわからないから、ね」


「わかりました」


 メイデンの言う通りだ。

 明日になれば、またコロネもチョコ魔法を使えるようになるのか、その辺りがわからないと、ちょっとまずいものね。ショコラの生み出すチョコにも限界があるみたいだし。


「それじゃあ、訓練のレッスンその一。持久力の強化。コロネ、まずは身体強化を使ったまま、走ってもらう、よ。ふふ、水玉もどんどん飛んでくるから、それを避けながら、常時発動で走るって感じか、な」


「はい。いきます、『身体強化』」


「うん、では、スタート、ね」


 そんなこんなで、今日の訓練は、ランニングから始まった。





「ほら、コロネ、後方への意識が不十分だ、よ。また、水玉」


「はい……はあ、はあ、うわっ、と!」


 危ない、今度は何とかかわせたかな。

 というか、この訓練、シンプルだけど、かなりきつい。

 身体強化、周辺警戒、そして、ひたすら走る。水玉が飛んできたら、避ける。

 走っていて驚いたのは、身体強化を全身に使っていると、心肺機能も少し高まっていることだろうか。三十分くらいはこの状態なのだが、普段のコロネだったら、もうとっくに限界に達しているだろう。そう考えると、すごいと言えばすごいのかな。

 まあ、むしろ、体力的な面よりも、魔力的な面の方が問題かな。

 さっきから、『枯渇酔い』の状態になるのが三回。

 倒れそうになったところで、水玉を浴びて、もうすっかりビショビショだ。

 その度に、メイデンが例の失敗作のマジックポーションを飲ませてくれるのだが、これが続くと、回復してるんだか、回復していないんだか、よく分からなくなってくる。

 呼吸が荒くなっていると言うより、頭の根っこの部分に頭痛が残ってきている。『枯渇酔い』の後遺症だ。これによって集中力が落ちて、注意力が散漫になってしまう。

 今、メイデンに注意されたのも、そんな感じだろう。


 なお、どうでもいい話かもしれないが、水玉はランダムに発生するため、メイデンやウーヴ、ショコラの方にも、普通に襲い掛かっているのだが、メイデンとウーヴは、あっさり回避するか、魔法による障壁かな? 防御によって防いで、水が自分にかからないようにしている。


『おい、ちびすけ。お前も少しは避ける努力をしろ。あまり俺に頼るな』


「ぷるるーん? ぷるるっ!」


 ショコラへの水玉は、本当に当たりそうなものに関しては、ウーヴが闇を使って防いでくれているようだ。

 まあ、そっちに気を取られている余裕は、ほとんどないんだけど、ショコラについては心配だったから、仕方ない。


「ほら、コロネ。今度は、頭上からだ、よ」


「えっ!? うわっ、ぷっ!?」


 メイデンの指摘の直後に、降りかかって来た水玉が顔を直撃した。

 ううう、痛いというか、目に入ったよ。

 その直後に本日四度目の『枯渇酔い』の状態に襲われる。


「はい、そこまで、ね。うーん、まだまだだね、コロネ。まあ、今日は実質的に初日だから、こんなものかもしれないけど、ね」


 そう言いながら、膝をついているコロネの元へとやってきた。

 手にはマジックポーションがある。


「一時的に設定を解除した、よ。ちょっと休憩、ね。はい、これを飲んで」


「はぁ、はぁ、ありがとうございます……ふぅ、ふぅ」


 とりあえず、魔力の消耗は少しだけ、回復という感じだ。

 だが、身体の疲労は残ったままになっている。

 メイデン曰く、魔力と体力を同時に鍛えるには、走りながらの身体強化が基本なのだそうだ。ただ、これもあくまで走っているだけなので、魔力や体力が伸びても、レベルへの経験値とは関係ないらしい。

 なるほど。

 それじゃあ、レベルと能力に差が出るわけだよね。


『ふむ、何というか、基礎訓練という感じだな。おい、メイデンよ。この状況で、俺が手を貸すことなどあるのか?』


「もちろん。うーさんみたいに、野生慣れしてるのと違って、人間種の場合、まず、克服しないといけないものがあるから、ね」


『まあ、貴様が言うなら、構わんが、死ぬなよ? 手加減はするが、それでも事故は起こり得るからな』


 コロネの頭越しに会話がなされているんだけど。

 いや、何気に物騒なことを言ってないかな?

 さすがに、今のコロネでは、ダークウルフの攻撃とか、どうしようもない気がするだけど。


「メイデンさん、何をするんですか?」


「別に、うーさんの攻撃を避けるとか、そういう話じゃないから、心配しないで、ね。この休憩が終わったら、うーさんにも手伝ってもらうけど、それはそれで、この町の外に出るための基本的なことだから、ね」


「基本的なこと、ですか?」


 町の外に出るために必要なこと、か。

 何だろう。いつモンスターに襲われるかわからないっていう緊張感かな。


「そう。もう少し、弱いモンスターだけの場所だったら、外に行きつつ、ゆっくりと慣らしていくってこともできるんだけど、ここはサイファートの町だから、ね。この辺りに出るモンスターは、厄介な度合いで言えば、なかなかのものだ、よ。本当の意味での町の周辺は、うーさんたちが護ってくれているから、ほとんどモンスターとは遭遇しないけど、それでも、その警戒網を抜けてくるモンスターがいないとも限らない。そして、そういうケースは、つまり、うーさんたちの隙をつけるってことだから、それなりに強いってことなんだ、よ」


『おい、メイデン。あんまり失礼なことを言うな。俺が、そんな隙を見せるか』


「例えば、今とか、ね。ここにうーさんがいるってことは、今はうーさんの子供たちが周辺警戒をしているってこと。さすがにそうなると、うーさんほどの精度ではないよ、ね?」


『あんまり俺のガキどもを舐めるなよ、と言いたいところだが、そうだな。あいつらも俺ほどではないな。そもそも、縄張りの範囲も広い。端と端で、となれば、俺でも同時は難しい。そのために、家族がいるわけだしな』


「うん。だからね、コロネ、町の近くであっても、強力なモンスターは現れるってことなの、ね。今、これから行なう訓練は、自分より圧倒的に強いモンスターと遭遇してしまった時に備える、そんな感じのものだ、よ」


 だから、町の外に出るためには、必ず克服しなければならない、とのこと。

 基礎ではないが、この町では、それが最低基準だと。


「さて、呼吸が安定してきたか、な。それでは、次の訓練に移る、よ」


 そんなこんなで、メイデンの訓練は続く。

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