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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第4章 パンとサーカス編
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第152話 コロネ、闇狼の話を聞く

「ところで、さっきの黒い靄は一体何だったんですか?」


 ダークウルフが現れる前に、ふわふわと浮いていた靄だ。

 今、天井の方を見ても、影も形もなくなっている。


『あれか? まあ、闇狼の特殊スキルとでも言っておくか。そもそも、俺の場合、この町の中に入るためには、あれを使う必要があるからな』


「許可があれば、門から町の中には自由に入れるんだけど、ね。うーさんの場合、門をくぐるにはちょっと大きい、し。かと言って、塀の上を越えるのは、ちょっと難しいから、ね」


 防犯上の理由なんだけど、とメイデン。

 つまり、ダークウルフさんは、あの靄を使って、この町に入るのだそうだ。

 いや、どういう使い方をするのかは、説明してくれなかったから、よく分からないんだけどね。

 どうやら、闇魔法の一種らしい。

 詳細については、秘密みたいだけど。

 と言うか、空を飛んだり、塀を飛び越えたりすれば、町に入れちゃうと思ったら、実はちょっと仕掛けがあるということに驚きだ。上の方が開いているように見えて、この町を取り囲んでいる塀、というか、防護壁か。それには特殊な何かが施されているとのこと。

 普通は門からしか出入りできないそうだ。

 なるほどね。

 まあ、ダークウルフさんの場合、そのままじゃ、塔にも入れないし、エレベーターに乗れないかな。

 別の方法でもないと、地下まで降りられないよね。


「その能力で、ダークウルフさんはここまで、やって来れたんですね」


『ちょっと待て、さっきから気にはなっていたが、その、ダークウルフさん、というのはやめろ。俺にも名前ぐらいある』


「うん。うーさんっていうんだよ、ね」


『違う! 俺の名はウーヴだ! まったく、いい迷惑だぞ。うーちゃんだの、うーさんだの、俺への畏怖をなくさせるような呼び方は、即刻やめてもらおうか』


 ウーヴの咆哮と共に、辺りに暴風が巻き起こる。

 いや、怒鳴ると、けっこう周りへの影響がすごいよね。

 言葉が通じてないと、これも全部、単なる咆哮にしか聞こえないんでしょ?

 この威圧感で、その吠声だと、やっぱり怖いよね。

 今は、話している内容が内容なだけに、あんまり怖くないけど。


「でも、最初に言ったのって、奥さんだよ、ね? そっちから、お墨付きをもらっているんだけど、わたしたちも」


『まったく余計なことを……』


「今の、奥さんに伝えておこう、か?」


『だからやめろと言っている! わかったわかった! 好きに呼べばいいだろ。ふん、貴様ら人間はいつもそうだ』


 何だろう。

 目の前の大きな狼さんが、何となくかわいく見える。

 実は、怖いのは見た目だけで、意外と付き合いやすい性格なのかもしれないね。


「ウーヴさんって結婚されてるんですね」


「そう、子供たちもいる、よ。この辺一帯の監視とかは、うーさんが家族でやっている感じか、な。一応、うーさんひとりでも、ほとんど事足りるみたいだけど、ね」


『別に大っぴらに言うことでもあるまい。とは言え、この町で取り繕ったところで、俺の威厳云々に関しては今更だしな。ふん、まったく忌々しい話だ』


「ふふ、こう見えて、愛妻家で親バカ」


『だから! そういうことまで言うなと言うのに! コロネよ、貴様はこういう風になるなよ。まったく……』


 最初に会ったときはメイデンも大人しかったのに、とウーヴがぶつぶつ言っている。

 どうも、何かのきっかけで、こんな感じの対応になってしまったらしい。

 そう言えば、メイデンにしては、しっかりと目を合わせて話せてる感じだよね。

 さっきは、アズやナズナ相手でも、ちょっとは逸らしてたのに。

 実は、このふたり仲がいいのかな。

 そう聞くと、メイデンが笑って。


「うん、どっちかと言えば、人間っぽくない方がわたしにとっては話しやすいから、ね。うーさんは普通に接することができる人だ、よ」


『俺にとっては、まったく普通ではないがな。普通は、畏れ半分に、後は好奇心とか、恐怖とか、敵意とか、そういうのが入り混じった感じか。ふん、まあ、俺もこの町ができてから、大分丸くなったもんだ』


「そうなんですか」


 ウーヴがつんつんした性格なのは、基本、対峙した者は倒すことが多かったからなのだそうだ。特に、人間種と遭遇した場合、まず相手が発狂したり、いきなり襲い掛かってくることばかりだったらしく、そうなると、本気を出さざるをえず、倒すしかなかったと苦笑まじりで話してくれた。


『今となっては、話せばわかるやつも多いと思っているがな。ふん、だが、勘違いするなよ。俺にとって、貴様らは護ってやるべき存在にすぎん。あくまでも、俺の穏やかな一面は、契約に則っての仮の姿だと認識しろ。俺以外の闇狼が大人しいわけでもないし、俺とて、無礼があれば容赦はせん。ゆめゆめ、そのことは忘れるな。喰らうぞ』


「はい、気を付けます」


『ふふん、いいぞ。コロネよ。そのくらい素直な反応は少ないから、俺もうれしい』


「でも、うーさんったら、女の子相手に、喰らうぞ、なんていやらしい、よ? まったく、肉食系なんだから」


『誰がそっちの意味で言った!?』


 なんだろう。

 メイデンとウーヴに掛け合いを見ていると、どんどん怖くなくなっていくんだけど。

 確かにダークウルフの威厳もへったくれもないよね。

 メイデンはメイデンで、普段よりもからかい要素が強いみたいだし。もしかすると、素はこんな感じなのかな。ちょっと意外だ。


『おい、どうでもいいが、話が進まんぞ。俺がコロネの訓練に手伝ってもいいと言ったのは、ひとつ借りがあったからだぞ。ふん、俺としたことが、初対面の相手に笑顔を振りまくなど、一生の不覚だ』


「え? 借りですか?」


 何のことだろう。

 ちょっと覚えがないんだけど。


『ほら、コロネよ、貴様あの時、俺に食べ物をくれただろ。最初は毒見のつもりだったのだが、まさかあれほどまで美味いものだとは思わなかったからな。思わず、感情を表に出してしまったんだ。警戒行動中のあの態度は、俺にとっての不覚だからな、それを忘れてくれという話だ。ふん、いや、それと、あれが何なのかは分からなかったが、あの食べ物をくれた礼、という意味でもあるがな』


「あ、チョコレートの話ですか」


『ふむ? チョコレートと言うのか。それは知らない名だな。貴様の料理については、妻からも聞いているが、それについては初耳だ』


 あ、ウーヴが思いのほか、チョコレートに食いついてる。

 というか、奥さんもお菓子については知ってるんだ。

 この町の噂ネットワークってすごいんだね。


「はい。チョコレートに関しては、今のところ、わたしのユニークスキルでしか、作ることができませんので、秘密にしてるんですよ。これに殺到されても、対応できませんし」


 ちょうど、今さっき、ショコラが脱皮した分のチョコレートがあったので、それを見せつつ、説明する。

 一応、ショコラに関しては伏せた方がいいのかな?

 あ、でも、今後も訓練を手伝ってくれるのなら、ここだけの話にして、正直に説明した方がいいのかもしれないけど。

 どうしようか、とメイデンの方を見ると、彼女も頷いて。


「うん。実は、うーさんがあっさり協力してくれたのも、そのチョコレートが原因みたいなんだよ、ね。今日はただで来てくれたけど、今後、訓練に付き合うなら、それを食べさせてもらえるとありがたいって話だ、よ。そうだね、うーさんが今後も手伝ってくれるなら、コロネが外に行くための訓練も、より実戦的になると思う、よ」


『俺もそこそこいそがしい身でな。その対価というやつだ。可能なら、また喰ってみたいとは思ったが、作るのが難しいというのであれば、無理強いするつもりもないがな。ふん、まあ、さっき喰った白パンも美味かったがな』


 別に、美味しければ他の食べ物でも構わないとのこと。

 ふむ、どうしようか。


「ちなみに、ウーヴさん、チョコレートに関しては秘密を守ってもらえます? それでしたら、訓練を手伝っていただく代わりに提供できますけど」


『案ずるな、コロネよ。俺も秘密は守るぞ。話すなと言われれば、妻にも言うつもりはない。ふん、闇狼の誇りに賭けても、だ』


「ふふ、うーさん、奥さんには甘いから、こう言ってるってことはよっぽどだ、よ」


『だから! 真面目な話で、茶化すなと言っている! メイデン、いい加減にしろよ』


 あー、でも秘密は守ってくれるかな。

 だったら、ショコラのことも含めて、話をしてもいいかな。


「わかりました。でしたら、今後もチョコレートをお出ししても大丈夫です。一応、それについて、ショコラのことも説明しておきますね」


『ふむ? そのちびすけが何か関係あるのか?』


「はい。この子、実はわたしの召喚獣なんです。チョコレートモンスターのショコラ。わたしのユニークスキルが『チョコ魔法』って言って、ウーヴさんに以前食べてもらったチョコレートもそれを使って、生み出したんですが、それと同じスキルを応用して、この子を召喚したんですよ」


『ほう、つまり、そのちびすけはチョコレートでできているということか』


「たぶん、今の身体は純粋なチョコレートと違いますから、そのまま食べてもダメだと思いますけどね。ですが、今さっき、ショコラに何かできないか、って聞いたら、脱皮みたいな感じで、チョコレートを作ってくれたんですよ。ほら。今、わたしが手に持っているのが、その時出てきたチョコレートです」


「ぷるるーん!」


 コロネの肩の上で、ショコラも誇らしげに胸を張る。

 ぷるぷると、どこか楽しそうに震えている。


「あ、コロネ。それはわたしも初めて聞いた、よ? ショコラが自分から、チョコレートを生み出したってことな、の?」


「はい。ほら、ショコラも色々とフレンチトーストとか食べていたじゃないですか。それで身体が少し大きくなって、さっきチョコレートを出してくれたら、その分、ショコラの身体もちょっとだけ小さくなったって感じです。まだ、わたしもさっき、エレベーターの前で、初めて見ましたけど、そんな感じですね」


 一応、ショコラ自身の身体も消費しているみたいなので、多用できないこともメイデンたちに説明する。


「なるほど、ね。ということは、コロネもまだショコラの能力については、よくわかっていないってことか、な?」


「はい。もうちょっと検証が必要ですね。わたしのチョコ魔法も含めて」


『ならば、訓練の前に確認してみてはどうだ? 俺も、少し興味があるしな』


「そうだ、ね。それじゃあ、手始めに、コロネとショコラ、ふたりの『チョコ魔法』の検証から始めよう、か」


 そう言って、笑みを浮かべるメイデン。

 そんなこんなで、チョコ魔法の検証を始めるコロネたちなのだった。

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