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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第138話 コロネ、遠足の約束をする

「お待たー! チャトランにプリンを食わせてきたぞー」


 ピカッと光ったかと思うと、ブリッツが元の位置に戻って来た。

 うわ、さすがに早いね。

 ギンが経営する病院って、温泉の側だったよね、確か町の南側だ。

 ブランの家は町の北東部にあるから、ほとんど町を縦断している感じなんだけど、それでも数分といったところかな。

 さすが雷。あっという間だねえ。


「ほい、器。とっても美味しかったってさ。あと、皆さんにはご迷惑かけてすみません、だとよ。くくく、こういう時はちょっと優しくしてやって、きっちり自省を促してやるぜ。これで調子に乗るようなら、次の訓練、覚悟しとけって感じだぞ」


 あ、ブリッツが鬼教官の顔になってる。

 まあ、見た目と違って、コロネとかよりも大分年上なんだろうね。

 ほんと、精霊種の年齢はよくわからないよ。

 ともあれ、空になった器を受け取る。


「ありがとうございます。そういえば、わたしもまだ病院は行ったことがないんですよね。温泉の近くだとは聞いているんですけど」


「結構、うちの連中は利用しているぞ。後は、そうだな。年配の爺さん婆さんとか、部位欠損で長期治療が必要なケースとか、メルの手にも余るような病気持ちが入院している感じか。身体が魔素を受け付けなくなる病気とかだと、メルの治療法とは相性が悪いからな。そっちは、ギンによる治療でゆっくり治していく必要があるんだぞ」


「あ、そうなんですか」


 何でも、完全に腕とかを失った場合、メルの『魔糸』による代替でも、最低数か月はかかるのだそうだ。臓器の場合、緊急を要するから、即座に手術をするけど、欠損部位はゆっくりと再生していかないと、それぞれの部位に回復させるのが困難なのだとか。

 特に神経系は。

 ある程度は代替できても、いざ腕を戻しても、動きが鈍くなってしまっては意味がないとのこと。だから、前に門番のダンテが言っていたように、欠損部位も残しておく必要があるのだとか。

 それと、そういうのとは別に、こっちの世界特有の病気とかも色々あるらしい。

 魔素を受け付けなくなるのも、そのひとつなのだとか。

 早い話が魔法の効果に身体が反発してしまうため、魔法による治療ができなくなってしまうそうだ。そうなると、一部の特殊ポーションや、ギンの持つ、特殊スキルなどでしか対処ができないので、どうしても回復には時間がかかるらしい。

 まあ、あれだね。

 未だに、できないことはいっぱいあるってことだろうね。

 結局、魔法も万能ではなく、使い方次第という感じか。


「まあ、それだけじゃなくて、老化現象とかも防ぎようがないしな。オサムがアンチエイジングとか何とか言ってたけど、海神とかでも転生型みたいだし、そういうのは難しいんじゃないかとは思うぞ」


 一部の種族では転生みたいなことができるものもいるらしい。

 と言っても、完全な転生かどうかは、ちょっと怪しいとのこと。

 記憶の引き継ぎはなされているらしいけど。


「まあ、一度、病院に行ってみるのもいいと思うぞ。元気だっていうなら、健康診断だけでもやっておきな。緊急事態の時、ギンたちが情報を持っていると、治療がスムーズにいくから、その辺りは抜かりなく、だぞ」


「わかりました」


 この町の人は、一通り健康診断を受けているのだそうだ。

 それも、チェック機構のひとつらしい。

 能力次第では、身体の中に危ない物を隠し持っている可能性も否定はできないから。


「そうだ、ブリッツ。小麦粉の件は一応、俺から話しておいた。とりあえず、コロネの嬢ちゃんとブランの返事待ちだ。もうしばらく、白パンについては待つように、伝達しておいてくれ」


「了解、了解。それじゃ、第五班の件も、もうちょっと様子見でいいな、ギムのおやじさん。どっちみち今、隊長はいないから、その辺りは保留にしておこう。まあ、部隊長権限で話進めるなら、止めはしないが、他の料理人とか、教会とかと揉めないようにしてくれよ。えーと、コロネ、お菓子に絡んでるのって、オサムのとこと教会と、他にどこかあるか?」


「後は、そうですね……孤児院は教会ですものね。あ、ちょうど向こうにいるプリムさんとか、アキュレスさんからもたまごを調達してますね。プリンとかは食材と交換で渡してますよ。後、今後は果樹園の方にも相談に行こうかと思ってます」


 とりあえずはそんな感じかな。

 果樹園については、まだ未知数だけど、交渉次第でどういう感じになるかわからないから、念のためだ。

 というか、アキュレスと聞いた途端、ブリッツが渋い顔をしている。


「あー、アキュレスんとこか。まあ、そうだろうな。食材がらみであそこが関係ないわけないよなあ。さすがにそっち関係は隊長が直でやらないとどうしようもないぞ。おやじさん、前言撤回。隊長が戻るまで、第五班の件は保留で」


「わかっとる。というか、ブリッツ、おめえが先走っただけで、俺は最初から急いで進めるつもりはねえぞ。別に、町に来れば入手手段がゼロじゃねえんだから、しばらくはコロネの嬢ちゃんの顔を立てておけよ。そっちについても全部隊に伝達しとけよ」


「はいはい。となると、しばらくは休暇で町に来たがる連中が増えるな。そっちも対処する必要があるって感じか……面倒くさいな。何か、わたし、いつまで経っても働いてばっかなんだけど。精霊を酷使し過ぎだぞ」


「仕方ねえだろ、隊長補佐。それが嫌なら、きっちり人材を育てやがれ。好きで隊長にくっついてるんだから、贅沢言うな」


「えー、結局、育てるので、仕事が増えるぞ。ったく、何にも変わりやしない」


 うんざりしたように愚痴るブリッツ。

 まあ、色々と大変だよね。

 偉くなったら偉くなったで、仕事は増えるし。


「そういえば、ロンさんは今いないんですか?」


 なかなか、直にお目にかかれない気がする。

 町の中でも姿をほとんど見かけないものね。


「ああ、隊長は今、王都に行ってるよ。ドムの爺さんからの依頼だな。それとは別にやることも色々あるから、そっちもって感じだが」


「あ、そう言えば、ドムさんもそんなことを言ってましたね」


 だから、明日は営業がお休みなんだよね。

 あれ? もう出かけたってことは今日の夜も営業しないのかな。

 その辺りはよくわからないや。


「まあ、行くだけなら、半日かからないんだが、ドムの爺さんの場合、一度戻ると、後進への指導やら、報告やらで、一晩はかかるんだ。いつものことだな。その間に、隊長も王都での仕事を片付けるって感じだぞ」


「店の方は、夜に関しては他にもやってる店があるからな。朝方、酒を出す店がほとんどないから、いつも太陽の日に合わせて、オサムに任せてるってわけだ。俺たちもたまに朝、仕事あがりのときがあるからな。その点ではありがたい配慮だぜ」


 なるほどね。

 定期的に、ドムが王都への報告に行っているらしい。

 その時は、いつもロンが護衛を引き受けている感じなのだとか。

 隊長という割にはフットワークが軽いよね。

 さすがは『神出鬼没』って感じだ。


「ま、戻ってきた時にでも、隊長に伝えておくよ。コロネがあいさつしたいって言ってたってな。こちらとしても、コロネとの関係は大事にしたいとこだから、そういうのはきっちりさせておくぞ。ま、もうちょっと待ってな」


「はい、よろしくお願いします」


 これで、そのうち、ロンさんとも会えそうだ。

 良かった良かった。

 あ、それとは別に聞いておくことがあったよね。


「あの、それとは別件なんですけど、うさぎ商隊の方で『遠足』とかも主催しているんですよね? そちらに参加するのってどうすればいいんですか?」


「お? コロネ、『遠足』に参加したいのか? あれ、あくまでもこの町の子供向けだぞ? 簡易戦闘訓練というか、ゲームを通じてサバイバルって感じだぞ」


「はい。わたしも経験的には、子供たちと変わりませんから。いえ、たぶん、わたしの方が不慣れですか。そもそも、こっちの世界についても、あまりよくわかってませんし」


 身体強化ひとつとっても、ラビたちにも後れを取っているしね。

 メイデンとの訓練を始めたのも昨日だし、色々と出遅れているのだ。

 迷い人だから仕方ないって言っても、やれる努力はしていきたいものだよ。


「まあ、いいじゃねえか、ブリッツ。嬢ちゃんも参加させてやれよ。何だったら、俺たちの訓練でもいいぞ。お客さんレベルにしておくから、町の外への護衛付きで経験を積むって感じか。ちょっとでも、小麦粉の交渉条件を上乗せしておかないとな」


「別にコロネが望むなら、構わないぞ。ただ、先に『遠足』に参加してもらってからだな。お客さんレベルと言ったって、軽くカルチャーショックを受けるようなことになるかも知れないし。おやじさんの基準で素人さんを考えるなよ」


「はっはっは。ま、言ってみただけよ。まずは『遠足』だな。そっちなら気軽に参加できるはずだぜ」


 うーん、何となく、色々と話が進んじゃってるけど、やっぱり、本格的な軍隊の、あ、元軍隊かな。その訓練となると、ちょっと怖いよね。

 まあ、今、メイデンとやっているのも、そっち系の要素はあるみたいだけど、もうちょっとそれで慣れてからかな、うん。


「できれば、『遠足』からでお願いします。まず、町の外に出てみたいです」


「わかった。そういうことなら、次の『遠足』に参加ってことで。細かい日程については、詳細が決まったら伝えるぞ。ま、前日にいきなりってこともあるから、その辺は注意か。まあ、日程が合わなかった、次の機会って感じだぞ」


「料理人ってことは、そのうち、自分で食材を調達できるようにならないとな。採取などについても、色々と教えてやろう。そっちは俺たちの得意分野だ」


「はい! お願いします!」


 周りを見れば、他の隊員さんたちも笑顔で頷いてくれた。

 これは心強いね。こうして、こっちの世界の料理人として頑張っていこう。

 目標はバニラの入手だ。


「よーし、大体、食べ終わったみたいだな。お前たち、食べ終わった器を回収。コロネに渡してやれ。あんまり長居すると、色々と迷惑かかるからな。ちゃっちゃと動いて、即撤収だ。いいな!」


『『『はい!』』』


 ブリッツの号令と共に、瞬く間にプリンの空の容器が集まっていく。

 うわあ、すごいね。さすがは統制がしっかりしているって感じだ。

 あっという間に、食べた全員分の片づけが完了した。

 ちなみに、小麦粉についても、所定の位置まで運んでくれるとのこと。


「ま、飛び立つ竜、跡を濁さずってな。敵に情報を残すのは厳禁だから、その手の処理をきっちりやるのがわたしらの基本だぞ」


 ブリッツがちょっとだけ誇らしげに言う。

 いや、掃除ひとつにもそういうことを言われると、ちょっと重いんですが。

 考え方が軍人さんだなあ。


「じゃあ、コロネも引き続き、仕事頑張れよ。こっちはさっさと撤収するからな。あと、『遠足』の件が確定したら、塔の方にも行くぞ。そんな感じだな」


「はい。本日はありがとうございました」


 ブリッツたちのおかげで、小麦粉がいっぱい確保できたし。

 そんなこんなで、彼女たちにお礼を言って。

 コロネは次のところへと向かった。

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