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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第137話 コロネ、うさぎ商隊から相談を受ける

「はい、小麦粉の方は、全員分終わってますね。ありがとうございます。今、回った時、引換券で構わない方の分は、引換券でお渡ししますね」


 たまうさぎ商隊から参加してくれたうちの半数ほどが、後日引き換えを希望してくれた。ちょっとだけ助かるよ。これでちょっとでもプリンに余裕が出てくれるといいね。

 それぞれに、プリンだったり、引換券だったりを渡していく。

 その間に、何人かは名前や所属などを聞くことができた。

 今の商隊内の部隊は、かつての師団と時とは少し内容が違っているそうなのだ。

 郵便部隊だったり、護衛部隊だったり。

 輜重のための部隊が、それらと運搬部隊に分けられているそうだ。

 まあ、コロネもあんまりそっちは詳しくなかったんだけど、輜重っていうのは生活必需品や武器などの補給部隊ってことらしい。

 後は営業部隊かな。

 さすがに、軍隊の営業のお仕事ってあんまりイメージがないし。

 あ、でも広報さんとはいるのかな。少なくとも、ロンさんの師団には広報はなかったみたいだけどね。一応、新設部署とのこと。

 後は、調理部隊とか、在庫管理のための部署とか、戦闘に関する部隊とか色々あるらしいけど、全部はいっぺんに覚えきれなかったので、割愛ね。


 とりあえずは、今いるメンバーの多くは調理部隊の人たちらしい。

 総料理長のギムネムに、全四班ある班から、それぞれ数名参加してくれたとのこと。

 一班がパンなど、穀物やそれから作られる主食を取り扱う部門。

 二班が肉料理で、三班が魚料理、四班が野菜や果物を担当しているそうだ。

 そして、今回のコロネのお菓子がきっかけで、今後は五班も新設するかもしれない、というか、そういう話も検討されているらしい。


「真面目な話、たまたま、アイスを口にした隊員もいてな。そっちから調理部隊に要望が上がったんだ。ったく、この町の料理に関しては、けっこうなアンタッチャブルだって、知ってるくせに、そういう話が加熱するんだから、今回のお菓子の一件はよっぽどだぞ」


 少しだけ、呆れながらもブリッツが教えてくれた。

 というか、コロネにとっては迷惑かもしれないからすまん、と謝られた。

 いや、それは別にいいけど、この間の営業の時に、うさぎ商隊の人たちもけっこう来ていたんだね。制服を着ていないとまったくわからないや。

 とりあえず、五班新設の件は、コロネやオサムの反応を見てからの話で、ひとまずは保留とのこと。

 うーん、結局、プリンとアイスだけで、知らないうちに大事になってる気がするよ。


「あのですね、コロネさん。お菓子の件はさておき、こっちの小麦粉の方ですよ。こっちはどうなんでしょう? こちらは一班としては看過できないのですが」


 そう言ってきたのは、調理部隊一班所属のチコリだ。ラクダの獣人さんで、かなりの巨乳さんである。背はちっちゃくてぽっちゃり系。いわゆる幼顔の巨乳さんだね。

 ちょっとだけ、うらやましい。

 いや、そういう話じゃなくて。


「小麦粉ですか?」


「はい。こちら、クエストって名目ですが、王都でもほとんど出回っていない、白い小麦粉ですよね? これ、大っぴらにクエスト化して大丈夫ですか? 私たちも何となく製法を把握しちゃいましたけど」


「おい、チコリ! まあ、おめえの心配はわからねえこともないが、その辺は、オサムと俺たちの間で調整済みだ。基本、町の中で情報を留める分には問題ないそうだ。この小麦粉も他の食材同様、他の町への持ち出し禁止。その代わり、商隊内で使う分には問題ないってな。ただし、小麦粉の購入に関しては、オサムの管轄外だとさ。コロネの嬢ちゃんやバドんとこのブランが責任者だから、改めて、そっちと交渉してくれって言われてる。だから、俺も今日、クエストに来たんだよ」


「あ、そうだったんですか?」


 今、ギムネムが言ったことはコロネも初耳だ。

 どうやら、小麦粉の件で、オサムがうさぎ商隊とやり取りをしていてくれたらしい。

 というか、チコリの指摘で気付いたけど、この小麦粉作りの製法って、王都に知れるとかなりまずい話ってことだよね。

 そういうこともあり、ちょっと前の時点でオサムが動いていてくれたらしい。

 ああ、何というか、自分の脇の甘さに反省することしきりだよ。


「すみません、おやじさん。さすがにちょっと心配でしたので」


 チコリがペコリと頭を下げる。

 そんな部下の姿にギムネムを苦笑しつつ。


「まあな、その辺はオサムも似たようなことを言ってたぞ。コロネの嬢ちゃんは、お菓子作りとか、そっち系は大したもんだが、まだまだ、この手の駆け引きについては経験不足だってな」


「あう……何だか、すみません」


「はっはっは、そう落ち込むんじゃねえよ。少なくとも、この町なら、オサムを始め、その手のことに関してはしっかり見張ってくれてる連中がいっぱいいるからな。うちの隊長もそのひとりだ。だから、うちの商隊がその手のことで先走ることはないから、安心しろ。何だかんだで、他国と対抗できるだけの戦力があっても、この町相手だと、まったく話が違ってくるからな。そういう無謀なことはしねえさ」


 何となく、すみません、という感じだ。

 もっとしっかりしないといけないのだろうけど、何せ、こっちはようやくパティシエの修行がひと段落したばかりの身だ。

 向こうの店長がどういうことに気を配っていたとか、そういう経営に関する話については、本当にさっぱりなのだ。今は何とか、ひとつひとつ学んでいくしかないよ。

 それにしても、他国と対抗できる戦力か。

 結局のところ、うさぎ商隊ってどのくらいの規模なんだろ。


「ギムネムさん、うさぎ商隊の人ってどのくらいいるんですか?」


「えーとだな、正確な数については、教えることができないんだ。すまねえな。ま、少なくとも五千はいるって思ってくれればいい。それが、この町に来た時の人数だぜ」


「えっ!? 五千人!? そんなにいるんですか?」


 それだけで、たぶん、町の人口には匹敵するよね?

 すごいなあ。師団ってそんなに人がいるんだね。

 まあ、コロネも町の全容がわかっているわけじゃないし、サイファートの町の人口がどのくらいなのかもさっぱりなんだけど。

 それに、少なくともってことは、今はもっと多いかも知れないんだ。


「普通に、町の人口より多そうですよね」


「まあ、この町の実情を知る者にとっては、これでも取るに足らない戦力だがな。藪をつついて蛇を出すようなまねは、こっちとしても願い下げだ。わたしらもデザートデザートを離れて以来、のんびりと気楽に暮らしたいってのが本音だぞ」


 真剣な表情でブリッツが言ってくる。

 そうなんだ。

 相変わらず、この町の事情ってのがわからないけど、それだけの人員を抱えているブリッツたちでも、シャレにならないものが、この町にはあるらしい。

 うん、何なんだろうね、この町。


 周りにいる、隊員の人たちも真面目な顔で頷いているし。


 調理部隊一班、さそりの獣人のビスカ。

 在庫管理部、小麦色の肌が魅力的な人間種のカレンデュラ。

 調理部隊二班、カモシカの獣人、ルイボス。

 調理部隊三班、オアシスの人魚種、マレイン。

 とある戦闘部隊の隊長、ベルガモット。

 調理部隊四班、蛇人種のリコリス。

 偵察部隊でブリッツの副官、砂の群人、バイア。


 彼らは一応、各部署の中枢の人たちらしいのだが、その彼らをしても、この町は敵に回したくないという考えで一致しているのだとか。

 他の役職なしの隊員たちにとっては、なおさらの話だろう。

 なお、群人っていう聞き慣れない紹介があったので、ブリッツに聞いてみたところ、サンドヒューマンと呼ばれる種族なのだそうだ。

 生きている砂の集合体。群体生物というやつらしい。


「まあ、あれだ。ふわわの砂バージョンだぞ」


 そう、ブリッツに言われて、すごく合点がいった。

 いわゆる砂状生命体って感じらしい。

 そのため、偵察任務には向いているらしいね。


「ま、堅苦しい話はそのくらいにして、だ。もうプリンを食べようぜ。お前らも自由にしていいぞ。わたしも食べるから……うわっ! いいなあ、この甘さ。あー、たまにこういう楽しみがないとやってらんないぞ」


 プリンを一口食べて幸せそうなブリッツ。

 これを食べ終わったら、もうひとつを入院中のチャトランに持っていくのだそうだ。

 本当は、ここで食べてほしいところだけど、ブリッツは一瞬で届けられるっていうし、すぐ食べてもらうことを条件に了承した。

 さすがにお見舞いって言われると、断りにくいしね。


「でも、一瞬で、っていうのはすごいですね。『高速移動』ですか?」


「ああ、メルの魔法のか? いや、それよりも速い。雷の精霊ってのは伊達じゃないぞ。だから、偵察部隊の長をやってるんだ」


 そういう特殊スキルがあるらしい。

 雷に、砂の偵察部隊かあ、それは一目置かれるはずだよね。


「ふぅ、美味かった。それじゃ、さっさと行ってくるぞ。一瞬だけ、アイテム袋を使うのを勘弁してくれな。それじゃ、食べさせたらすぐ戻る」


 言うが早いか、残ったプリンをアイテム袋に入れてすぐに、ブリッツの身体がピカッと光ったかと思えば、その場からいなくなってしまった。

 どういう風に動いたのか、その軌跡を追うことすらできなかった。

 さすがは雷だね。

 それに、思ったよりも衝撃が少ないみたいだ。

 そういうところも『高速移動』とは違う感じだよ。


「それじゃあ、コロネの嬢ちゃん、ブリッツが戻るまでの間に交渉をさせてもらってもいいか? この小麦粉の購入権についてだ」


 他の連中もまだ食べてるしな、とギムネムが笑う。

 小麦粉の購入権かあ、それってブランとも相談しないといけないよね。


「あの、ギムネムさん。後で、ブラン君に確認して、それから返事ってことでいいですか? 製法とかはわたしによるものですけど、小麦自体はブラン君の家のものを使ってますし、さすがにそちらを確認してからでないと返事はできませんよ」


「ああ、急ぎってわけじゃないぜ。それで構わない。一応、こっちから頼みたいのは、製法のたぐいは漏らさないし、商隊の方でも、小麦から小麦粉を作るようなことは一切行わない。その代わりに、白い小麦粉を売ってほしいって感じだ。いや、あくまでもここまでは前置きだ。交換条件は別にある。小麦粉を作るための定期的な人材派遣だ」


「人材派遣ですか?」


「そうだ。クエストって形を取るのは悪いことじゃないが、そのやり方だと効率が悪い。人件費もかかるし、結果的に小麦粉の値段に上乗せされてしまうだろ。プリンを提供したいっていう目的なら別だが、純粋に小麦粉を作るなら、経費を抑えるのが基本だろ」


「確かにそうですよね」


 ギムネムの言う通りだ。

 結局、今日のクエストでたくさん小麦粉は集まったけど、その分、プリンとか、子供たちへの給料とか、そういう出費が増えているのだ。

 そのあたりに上手な方法がないか、考えてはいたのだ。


「そこで、俺たちの出番となる。商隊の中でも、この作業に適している連中を、人材として派遣する。そっちに関しては、俺たちの仕事として組み込むから、給金については考えなくていい」


「え、でもそれだと、悪くないですか?」


「あのな。優しいのは結構だが、もう少しコロネの嬢ちゃんは、白い小麦粉の価値ってやつを理解した方がいいぜ。購入権を得て、商隊でこの小麦粉を使えるってだけで、その程度の人件費とは釣り合わないんだぜ。これでもまだ、こっちが借りてる状態だ」


 なるほど、そういうものなのか。

 細かい価値基準について、もうちょっと冷静に見ていかないといけないかな。

 みんながみんな、ギムネムみたいに親切ってわけじゃないだろうし。


「だから、商隊でできることがあったら、言ってくれ。その辺は融通するぜ。ま、返事に関しては焦らなくていいから、そういう提案があったってことを検討してくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 ギムネムの話を真剣に考えつつ。

 今の状況が落ち着いたら、ブランと相談しようと心に誓うコロネなのだった。

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