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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第128話 コロネ、竜の牙にプリンを渡す

「すみません、お恥ずかしいところをお見せしまして」


 ちょっとだけ頬を赤らめたミストが謝ってきた。

 口論の方もひと段落したみたいだ。

 その間にこちらは、冷蔵庫からプリンを持ってきたんだけどね。


「いえいえ。で、こちらが持って行ってもらうプリンです。皆さんの分も合わせて少し多めに入ってますので、どうぞ」


「はい、コロネさん、ありがとうございます」


「ただ、これも乳製品使用してますので、アイテム袋は使わない方がいいみたいですね。そのため、おいしく食べられる期限も短めですから、なるべくお早目にという感じです」


 それこそ、クーラーボックスでもあれば確実だったんだけど、あれはオサムがいないとどうしようもないし。まあ、持ち運び一時間くらいなら大丈夫かな。

 今のところ、使い捨ての保冷剤とかもないしね。


「でも、コロネさん、これ、少し冷やしておけば大丈夫なんですよね?」


「え? ええ、冷蔵庫でしたら、もう少し長持ちしますけど……」


「アイ、袋周辺に結界を張れる? できれば冷蔵庫くらいの温度で」


「うん、ちょっとはなせば、だいじょうぶ。『氷結結界:微弱』。これでいい?」


「そうだね。このくらい大きめに張っておけば、いいんじゃないかな。ありがとう、アイ」


「うん、やっぱり、スライムさんたちといっしょに、おいしいもの食べたいしね」


 あ、すごい。アイが魔法で結界を張ったんだね。

 へえ、氷魔法って、こういうこともできるのか。

 今、コロネが渡した普通の袋の外側を包み込むような感じで、淡い青白い光がほわほわと発光した状態になっている。

 なるほど、これが結界か。


「これって、もしかして、低温保存ができるってことですか?」


「うん、もうちょっと広げれば、暑いときも便利だよ」


「すごいですよね、アイの『氷結結界』。まあ、さじ加減が難しいみたいなんですけどね。私たちと会ったときは、冬の雪山って感じの温度でしか使えなかったみたいなんですけど、大分、弱めの使い方もできるようになったみたいで。歩く冷蔵庫って感じです」


「うーん、なんか、ほめられてないよね」


 どうも、アイ自身が冷たさに関して耐性があるそうで、部屋が凍り付いた状態でも、へっちゃらで過ごせるのだそうだ。

 たぶん、そのせいで、制御がおざなりになっていたんじゃないか、とのこと。

 アランやミストに言われて、制御のトレーニングをして、今くらいの微弱な使い方ができるようになったのだとか。

 そっか、微弱で冷蔵庫並みか。

 でも、すごいなあ、氷魔法。

 これは冗談抜きで、使えるようになりたいよ。

 アイテム袋が使えない食べ物の輸送がすごく楽になるもの。


「そんなことないって、いつも感謝してるもの。それじゃ、コロネさん、プリンの方はお預かりしますね。このお礼は、新しい焼き物を作ってから、ということで」


「ああ、俺たちの分まで用意してくれたからな。こちらも、ダンジョンで何か食材を見つけたらお礼に持って来よう。ありがとう、コロネさん」


 ミストを始め、アランや他のメンバーたちからも改めてお礼を言われた。

 やっぱり、プリンはあんまり出回っていないから、うれしいみたいだね。


「いえ、こちらこそ、です。あと、もし差し支えなければ、食べたあとの感想も教えてください。味の方を微調整しますので」


 特に、スライムさんたちの味覚について、かな。

 モンスター系統の人の好きな味っていうのはちょっと興味があるし。

 まあ、サイくんとか見てると、大きく味覚が異なるって感じでもないのかな。

 ダークウルフさんもチョコレートで喜んでいたしね。


「了解だ。では、俺たちはすぐにスライムの村に向かうとしよう。お早目に、なんだろ? それじゃあ、仕事中に邪魔したな。失礼する」


「それでは、コロネさん、また」


「はい、わざわざありがとうございました」


 そんなこんなで、『竜の牙』の人たちは行ってしまった。

 おっと、そうそう、他のみんなにプリンを食べてもらう途中だったっけ。

 いけないいけない。


「ごめんね、ちょっと待ってもらっちゃって。それじゃあ、改めて、プリンを味見しようか。せっかく、自分たちで作ったのに、食べないともったいないものね」


「コロネ先生、残個数は大丈夫ですか?」


「わからないけど、いざとなったら、後日引き換えてもらう感じにするよ。パン工房でも、そんな感じにしているんだって」


 ピーニャが言っていたが、やむを得ず閉店した場合、来てもらったお客さんには、お詫びも込めて、引換券を渡しているのだそうだ。

 一応、ただ券ね。

 そうすることで、また来てもらえるし、とりあえずは納得してもらえるとのこと。

 そのため、パン屋の引換券を流用して、コロネのサインを入れた引換券も用意はしてある。あくまでも念のため、だ。

 さすがに、今日作った分、以上の人がクエストに集まっているとは思えないけどね。


「まあ、数のことは気にせず、二種類一個ずつ味見してみてよ。やっぱりね、作り立てのプリンって美味しいからね」


 改めて、次のアイスを混ぜるまでの間の、プリンの試食会が始まった。





「うわあ! すごいです。アイスも美味しかったですけど、私はこっちの方が好きですね。ぷるぷるしたのが何とも言えないです」


「本当、これが、ほとんど乳製品のみで作れるのは驚きです。ハチミツも含めて、教会で作るのに申し分ないものですね。なるほど……ちなみにコロネさん、こちらが美味しく食べられる期限はどのくらいですか?」


 リリックが興奮している一方で、カウベルは食べながらも今後のことを真剣に考えているみたいだ。やっぱり、乳製品はあしが早いから、その辺りは気がかりなのだろう。


「そうですね。冷蔵庫に入れていれば、多少は持ちますけど、可能でしたら、当日中。生クリームを使ったものは翌日まで。使っていないものは二日後ってところですかね。さすがに冷所保存なら、すぐには腐りませんけど、味が落ちるのは早いです。特に、生クリームを使った方は。基本は当日中ですね」


「わかりました。生クリーム入りの方が、味が落ちやすいということですね」


「確かに、この生クリームの方がふわふわしていますものね。ぷるぷるの方よりも繊細な感じがします。わたしはこっちの方が好きですね。ふわふわとろっとしていて、甘さにも層がある感じです」


「自分は、生クリームを使っていない方が美味しいです。特に、下のカラメルでしたか? こちらとの組み合わせがいいですね。生クリームの方は、カラメルと混ぜると、ちょっと味が変わる感じがしますし」


 おっ、パンナとシズネもしっかりと味を見ていてくれるみたいだね。

 特にシズネの指摘はなかなか鋭い感じだ。


「そういうことなら、シズネは今度カラメルソースを作る時は、ちょっと、ハチミツの量を工夫してみてね。ひょっとすると、シズネの味覚に合わせた方が、町の人の好みの味付けになるかもしれないし」


「えっ!? コロネさんの分量ではダメなのですか? 自分の意見はあくまで、何となく、ですが」


「うん、だからね。わたしの味付けの方が好きな人もいるだろうし、シズネの好みの味付けの方が好きな人もいるってこと。だから、わたしのいたところでは、お菓子のお店がたくさんあったの。お店によって味がちょっと違うから、比べて、自分に合った味を探すのもひとつの楽しみだったんだよ」


「そうなのですか?」


「コロネ先生、ということはお店によって味を変えた方がいいってことですか?」


「そうだね。同じお店の支店とかは別だけど、個性があってこそ、選ぶ楽しみがあるわけじゃない? それがうまくいけば、相乗効果でお店同士が味を高め合うようになるって感じかな。大事なのは、自分の味が絶対だと思わないことかな。『本当の美味しさは、常に、努力した更にその先にある』ってね。これはわたしに色々と教えてくれた店長の言葉なんだけど。どこまでも、美味しさを追求することが必要って感じだね。今の状態に満足して、歩みを止めてはいけないんだよ」


 シンプルで当たり前のことなんだけど、人の好みや味覚は日々変化する。

 安心できる味が、変わらない味だとすれば、日々変化する味覚に対応するのが、変えていく味ってことだ。

 この、変わらないと変えていく、その両立が大事だと店長は教えてくれた。

 言葉自体は矛盾しているけど、その意味は何となくわかるような気がする。


「まあ、結局は、自分の味を見つけないと、ぶれぶれになっちゃうから、注意が必要なんだけどね。最初は基本が大事かな」


 偉そうなことを言っても、コロネもまだまだ経験不足だし。

 店長の言葉をそのまま引用しているだけに過ぎない。

 それでも、だ。

 お弟子さんをとった以上は、自分がまっすぐ立たないといけないとは思っている。

 たぶん、そのこと自体が、自身の成長にもつながるだろうから。


「すごいですね、コロネ先生。お菓子作りって奥が深いんですね」


「まあ、料理全般に言えることだけどね。ふふ、みんなにとって、お客さんにとって、すごく身近なことだから、それぞれのこだわりがすごいんだよ。料理人も真摯に応じないと、あっさりとお客さんは離れちゃうよ」


 こわいこわい、と笑いながら。

 改めて、気を引き締めなおす。

 こっちの世界はお菓子に対するハードルが低めだから、その状況に甘えないようにしなければいけないだろう。

 たぶん、そうなった時が自分がダメになる時だ。


「はい! 私も頑張ります!」


「うん、それじゃあ、そろそろプリンの味見は終わったかな? 時間になったから、最後のアイスクリーム作業に行くよ。これを混ぜ終わったら、アイスのできあがりね」


「「「「わかりました」」」」


 プリンの後片付けをした後で、保管庫の方へと向かう。

 何とか、ここまで来れたかな。

 思わず笑顔になるコロネなのだった。

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