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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第124話 コロネ、精霊に料理を頼まれる

「それにしても、今日だけで色々な料理の作り方をお教えいただいて、本当にありがとうございます」


 改めて、カウベルが頭を下げてきた。

 本当、慈愛の人というか、母性の人というか。

 別に胸が大きいからってわけじゃないよ? うん。


「いえ、むしろ、今日に関しては、こちらの都合に合わせてもらったという感じですよ。おかげさまでプリンもいっぱい作れましたし。助かっちゃいました」


 元々、リリックとふたりがかりでやろうと思っていた作業が、大体終わってしまったのだ。後は、アイスクリームの仕上げくらいだものね。


「でも、こうしてみると、アイス作りも大変だよね。今、それに対応した器具を作ってもらっているところなんだけど、手作りだと、どうしても他の作業の合間を縫って作る感じになっちゃうし」


「器具ですか? そんなものも作っているんですか、コロネ先生」


「うん。まあ、発注しているのはオサムさんだけどね。パコジェットっていう器具で、これがあるともう少しアイス作りが簡単になるの。短時間で、凍結させられるって感じかな。あれがあると、この待ち時間はゼロになるんだよね」


「え? すぐに凍らせることができる器具ってことですか?」


「まあ、そんな感じだね。そもそも、すぐに作れるのかも、正直、わたしも半信半疑なんだけど、できたらうれしい機械だね。凍結の際に撹拌するから、空気もしっかりと含んでくれるし」


 そこまで説明して、ふと思う。

 キンキンに冷やしたお鍋とかボールで、水魔法と土魔法の『ワールプール』を使えば、同じことができるんじゃないのかな。

 まあ、ネックは土魔法の使い手の問題か。

 誰か手伝ってくれる人が見つかったら試してみようか。

 それにしても、小麦粉作りといい、アイス作りといい、もしかすると料理と土魔法って相性がいいのかな?

 たぶん、小麦粉系のこねる作業にも使えるよね。

 聞いた感じだと印象が薄かったんだけど、土魔法ってすごいのかも。


「それにしても、お菓子作りって楽しいですね。パンナも最初はどんなことをするんだろうとドキドキしてましたが、今は面白くて仕方ないです。ちょっと大変ですが、今まで見たこともないことばかりです」


「自分たちでも美味しいものが作れるって知れたのは嬉しいですね。特に牛乳が大活躍なのは驚きです。教会以外では人気が今ひとつでしたので」


 新しいシスターのふたりにも、そう言ってもらえるとうれしいね。

 こうして、お菓子作りにはまってくれる人を増やせるといいなあ。


「そうですね、これでホルスンたちも喜んでくれますよ。せっかくのミルクですので、やはりバターとチーズだけではもったいないですから」


 毎日、牛の世話をしているカウベルもうれしそうだ。

 そうだよね。酪農の中でも生き物の命を奪わない食材のひとつなんだから、大事にしないといけないよね。

 その点、アイスやプリン作りが始まれば、大量に食べられることになるだろうし。

 ふむ。

 そっち関係でえらいことにならないといいけど。


「まあ、最初のうちは基本のアイス一本から初めて、慣れてきたらフレーバーを加えていくって感じかな。バニラを使っていないから、この基本形はミルクアイスだね。牛乳を使っていることを打ち出して、まず、味を見てもらうといいと思うよ」


 これを機会に、牛乳が美味しいものだってことを広めていこう。

 まずは、腐りやすいとか、美味しくないっていうイメージを壊していかないとね。


「わかりました。では教会ではミルクアイスを売り出しますね」


 にっこりとほほ笑むカウベル。

 うん、後は彼女に任せておけば、大丈夫かな。


「ところで、コロネさん、今後もシスターのお仕事の合間に、お菓子作りを教わりに来てもいいですか?」


「わたしが何か作ろうとしているときなら大丈夫だよ、パンナ。基本、今までもピーニャに調理法を教えるついでに、手伝ってもらっていたようなものだしね。やっぱり、いっぱい作る時はひとりだと大変なんだ。だから、手伝ってくれるなら、むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」


 この町の場合、何を作るにしても、ある程度数が必要になるみたいだし。

 まあ、お菓子の競合店がないから当然のことなんだけど、オサムのお店の営業でも、リディアとかがいるし、何となく、味を気に入ってもらえれば、いっぱい作っても完売しそうなイメージがあるんだよね。

 いや、これはダメな発想だ。

 こういう環境に甘えていたらダメだろう。

 しっかりと、需要と供給のバランスを見極めていかないと。


 ……でも、リディアが満足する量ってどのくらいなんだろ?

 結局、いくら作っても需要量に満たない気がするよ。


「ホントですか!? ぜひ、お願いします!」


「はい! 自分もいいですか!? お菓子作りを覚えて、休日にでも、孤児院のみんなにも振舞ったり、教えたりできたらと思いまして」


 あ、そっか。ふたりとも、孤児院のことも考えていたんだ。

 そういうことなら、ぜひ協力しないとね。


「うん、大丈夫だよ。わたしが教えたレシピについては、他で教えても構わないからね。まあ、設備とか道具が必要なものも多いだろうし、教会で販売するものについては注意が必要かも知れないけど、わたし的には問題なしだよ」


 となると、手軽に作れる料理も教えたほうがいいかな。

 専門職のではなく、家庭で親子で作れる感じの方が、孤児院でも作れそうだし。


「「ありがとうございます、コロネさん!」」


「コロネさん、本当によろしいんですか? このような、いわゆる料理のレシピは料理をされる方にとっては大切なものだと聞いていますけど」


 王都などでも、美味しい料理に関する情報は、ほとんどが秘密にされているとのこと。

 とは言っても、そもそもコロネの知っている料理も、向こうではけっこうオープンにされているものが多いしね。自分で開発した料理なんて、ほとんどないのだ。

 これで、特許権とか専売権とか主張するのは、ずうずうしいにもほどがある。

 何か、自分の手柄でもないのに利用してるみたいだし。


「まあ、本当にまずいものは別にして、わたしのいたところで、一般的に広まっていた料理については、別に権利を主張するつもりはないですよ。いわゆる、知識の共有財産って感じですかね」


 ぶっちゃけ、本当は教会から乳製品をどうこうって話も申し訳ないレベルなのだ。

 とは言え、現状ではそれに頼らざるを得ないので、ちゃっかり利用させてもらっているけどね。そのうち、アイスとプリンが普通に広まってきたら、それもやめることになるだろう。

 きっちりと対価を払って購入しないとね。


「そうですか。教会と孤児院へのご協力、重ねて感謝いたします。たぶん、コロネさんのその姿は見届けられていると思いますよ。あなたにも世界の祝福がありますように」


 どことなく、聖句っぽい感じでカウベルが祝福をくれた。

 ほんと、カウベルがそう言うと神聖というか、説得力があるというか。

 まあ、コロネにとってはこの世界に来たこと自体が良いことなんだけどね。


 と、そんなことを思っていると、調理場の呼び鈴が鳴った。

 誰かお客さんかな?

 今は、オサムがいないので、コロネが対応しないといけないだろう。


「はーい、どちら様でしょうか……あ、『あめつちの手』の皆さん、いらっしゃいませ」


 やってきたのは、アルルとウルル、シモーヌの三人組だ。

 あ、そういえば、食材を採りに行くとか言っていたかな。

 たぶん、明日のための材料を持ってきたのだろう。


「あれ? 何々? コロネだけじゃなくて、シスターがみんなおそろいで。あれ、もしかして何か料理を作ってるの?」


「これはあれだよ、アルルー。今、町で噂の教会のお菓子だよー」


「おおお! ほら、コロネ! 白状しなさい! 何を作っているのよ!?」


「今は作っているというか、今後教会で売り出すアイスの作り方を教えていたんですけどね……って、アルルさん、痛い痛い。ウルルさんもしがみつかないでー」


「アイス!? 今、アイスって言った!? いよいよ、売り出すの!?」


「食べるー! アイス食べるー! 今はないのー!?」


「ちょっと、あんたたちいい加減にしなさいよ。はいはい、コロネからまず離れる離れる。ほら、コロネも痛がってるじゃないの……コロネ、ごめんなさいね。このふたり、本当にアイスのことが気に入っちゃったみたいなのよね」


 すごい。アイスの名前を出した途端に、この騒ぎだ。

 というか、これだとプリンを出したときのプリムと変わらないね。

 シモーヌが止めてくれなかったら、どうなってしまうんだろ。

 まあ、それだけ、楽しみにしていてくれてるってことだよね。ありがたい話だよ。


「というか、ここに来た本題はどこに行ったのよ? あんたたちもコロネにも料理を頼みに来たんでしょうが。アイスは、じきに教会で売り出すんだから、少しは自制しなさいよ、まったくもう」


「あ、そうだったそうだった。やっぱり、アイスって聞くと本体が騒いじゃうんだよね。いけないいけない。じゃあ、気を取り直して、コロネにお願いがあるの」


「太陽の日の料理依頼だよー。オサムにもお肉を持ってきたけど、コロネにも甘い物を持ってきたんだー。ほらこれー」


 そう言いながら、アルルとウルルがそれぞれのアイテム袋から食材を取り出した。

 うわ、ひとつは大きいね。

 こっちは豚かな。コロネは見たことがないタイプだけど、何となく向こうでいうところの豚っぽい感じのものが、一体まるまる姿を現した。

 そして、もうひとつは、イチゴ……いや、ちょっと違うけど、ベリー系の何かであることは間違いなさそうだ。もしかするとこっちの世界のみの食材かな。

 赤みがかった木の実がいっぱいだ。


「ところで、コロネ、オサムはいないの?」


「あ、そうなんですよ、シモーヌさん。ちょっと用事があるって町の外へ出かけているんですよ。一応、夜までには戻るって言ってましたけど」


「そう。それなら、コロネに預けておくわね。一応、説明すると、私たちも週一で食材を定期的に納めているのよ。で、それを渡す代わりに、それに応じた太陽の日のメニューを好きに頼んでいいって契約になっているのね。ほら、このお肉、はぐれモンスターのジュージュートンって言うんだけど、これが食べられるようになるのには、けっこう時間がかかるじゃない。だから、物々交換みたいな感じね」


 なるほど、冒険者の場合、そういうケースも多いのだとか。

 リディアのように同じ種類のモンスターを狙って倒せるものばかりではないので、どちらかと言えば、そのようなやり方が主流なのだそうだ。

 もちろん、すぐに調理できる食材は別だけど。

 ちなみにジュージュートンは、その名の通り肉汁たっぷりの豚なのだとか。

 うん、何というか、そのまんまだね。


「で、コロネに持ってきたのはこっちね。サンベリーよ。この手の木の実にしては、秋に採れるめずらしいタイプなの。果樹園で作っているベリー系よりも、ちょっと酸味がある感じよ」


 へえ、やっぱりベリー系の果物で間違いないんだ。

 というか、果樹園でもベリーに関しては作っているんだね。

 これは一度行ってみないといけないよ。


「それで、コロネ。これ使って料理を作ってよ! あんまり時間がないから大変だろうけど!」


「うん! 別に全部使わなくていいからー、一人前ずつで大丈夫だよー。だから、お願いー」


「まあ、可能ならって感じね。いきなりだから、難しいようなら、無理は言わないわ。コロネに余裕があったらって話よね」


 ふむ。

 いや、そういうことなら、ぜひとも頑張りたいよね。

 ちょうど、この三人が喜びそうなメニューも作れそうだし。


「わかりました。ベリーでしたら、何とかできると思います。ちょうど今、仕込んでいるものを使うこともできますしね」


「おおお! 言ってみるもんだね! ダメもとで頼んで良かったー!」


「わーい! お菓子っ! お菓子っ!」


 うわ、すごい喜びようだね。こっちもうれしくなるよ。

 その場でくるくると回ってはしゃいでいるふたりをほんわかした感じで眺めつつ。

 頭の中で、明日のためのメニューを整理するコロネなのだった。

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