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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第122話 コロネ、プリンを教会に伝える

「はい、後は、冷蔵庫で冷やすだけね。アイスと違って、プリンの場合は、何度もかき混ぜたりしなくてもいいから、もう少し置いたら食べごろだよ」


 アイスをみんなで保管庫の冷凍区画へと運んだ後で、コロネとピーニャで手分けして、シスターの四人へとプリンの作り方を伝授した。

 一応、コロネがふわとろプリンを、ピーニャが普通のプリンをという感じだ。

 これで、今作れる材料での基本のプリンは大丈夫かな。

 ちょうど、生クリームがもう少し残っていて良かったよ。


「ありがとうございます、コロネさん。プリンの作り方もよくわかりました」


 嬉しそうにしているのはカウベルだ。

 教会にもオーブンはあるので、これで大丈夫とのこと。

 一応、念のため、湯煎のみで作る方法についても伝えておいた。

 鍋でお湯を沸騰させた後、火を止めて、プリン容器を並べて、ちょっと弱火で加熱、という感じのやり方だね。教会には大きめの鍋もあるそうなので、そっちも試してもらえるといいかな。


「いいえ。こちらもおかげさまで、いっぱいプリンが作れましたので助かりましたよ」


 いや、バナナプリンとの交換で、プリムが山ほどたまごを置いて行ってくれたおかげなんだけどね。もう、器があるだけ作ったという感じだ。

 百や二百じゃきかないよ。

 さすがに、こんなに作って大丈夫かな、という量なんだけど。


「ねえ、ピーニャ。言われた通りに作ったけど、さすがにこれは多くないかな?」


「いえ、大丈夫なのですよ。多めなくらいの方が、手遅れにならないのです。それに数が余っても、必ず買って行ってくれる人がいるのですよ。物がプリンなら、売れ残る心配はないのです」


 まあ、それもそうか。

 たぶん、プリムに渡すプリンが増えるだけだものね。

 そして、それがたまごに化ける、と。

 それにしても、プリムの抱えているたまごの在庫ってすごいね。実際、アキュレスが卸せる限界ってどのくらいなんだろうか。かなりの大規模な養鶏場でもあるのかな?

 全然、困った様子もないし。


「でも、何だか不思議な感じです。噂に聞いていたアイスとプリンを、わたしも自分で作れるなんて、夢みたいです」


「本当ですよ。ほら、自分らは、一昨日シスターとして町に来るまで、孤児院にいたじゃないですか。コロネさんのお話は、エミールさんとか、シスターカミュから聞いておりましたが、そのたびに悔しい思いをしていたわけです」


 そう言って、パンナとシズネのふたりが笑う。

 ようやく甘いものが食べられるのが嬉しくて仕方がないそうだ。

 さっきまで、あんまり感情を表に出していなかったシズネもすっかり笑顔という感じだしね。


「ということは、孤児院まで話が伝わっているんだね」


「もちろんですよ! と言いますか、ピーニャさんとコロネさんの大量発注のおかげで、孤児院の方がてんてこ舞いになってましたよ。ハチミツを作っても作っても売れていくんですから」


 パンナ曰く、ここまでハチミツが求められたことはないそうで、嬉しい悲鳴を通り越して、ちょっとまずい状態になっているのだそうだ。

 主に、人手不足という問題で。

 おそらく、新しい孤児がやってきたら、すぐにハチミツ作りに回されるだろうとのこと。


「ですね。今日作ったアイスも、シスターカミュに孤児院まで持って行ってもらおうと思っています。やはり、自分たちが作ったハチミツで料理が作られているという実感があると、子供たちのやる気も変わってくると思いますのでね。いえ、どちらかと言えば、子供たちよりもエリさんの機嫌が、という感じですが」


「エリさん、ですか?」


「はい、そうです。ハチミツ作りの責任者ですね。さすがに、ここ数日の出荷数は、ちょっと彼女にとっても予想外だったようですので、まあ、その、その辺りにも配慮して、といった感じでしょうか」


 カウベルも苦笑しながら、教えてくれた。

 教会としても、頼りになる人なのだが、かなり子供っぽいところがあるらしい。

 むしろ、仕事が忙しくなった子供たちよりも、ぶーぶー文句を言っているのだそうだ。


「ですので、コロネさんに差しつかえがないようでしたら、今日作ったアイスについて、購入させていただけないでしょうか。それと、プリンの製法に関してのご相談もそうですね」


「あ、それでしたら、問題ないですよ。購入と言いますか、乳製品と物々交換という感じで大丈夫です。と言っても、今日の分の材料費とかぐらいですけどね」


 商品というよりも、たまごとかハチミツの分の費用という感じかな。

 元々、牛乳とかについては、教会からもらったものだし。


「わかりました。それでしたら、プリンの製法のお礼分も含めまして、今後の交換レートの上乗せという形を取らせていただきたいと思います。シスターカミュの話ですと、元々、アイスの売り上げの一部を乳製品として還元するという形だと聞いておりますが、それで問題ないでしょうか?」


 要するに、アイス分の還元率に、プリンの分も上乗せするってことだね。

 こちらとしては、作り方を教えただけで、定期的に乳製品が手に入るのはありがたいので、本当に助かるのだ。

 むしろ、ちょっと悪いくらいだよ。


「はい、問題ありません。こちらも助かります」


「それと、もう一点、確認なのですが、これはすぐに、という話ではないのですが、もし他の支部の方でも、販売させていただくような形になりそうでしたら、改めて、ご相談したいと思いますので、よろしくお願いします。どうも、たまごの入手の件で、そちらの可能性もゼロではなさそうですので」


「いいですよ。そもそも、プリンやアイスのみで勝負するつもりもありませんしね。お菓子の裾野が広がってくれるのは、ありがたいことですし」


 結局、教会が乳製品を握っている以上は、そちらのさじ加減になってしまうからね。それならば、最初からいい関係になっておいた方が無難だろう。

 いや、別に打算だけじゃなくて、カウベルやカミュの困っている人を助けたいというところに共感したっていうのも大きいんだけどね。

 さすがに、それを独占したいっていう感じの人とは組む気はしないし。


「コロネ先生、今日のところはアイスとプリンを作って、終了という感じですか?」


「あ、リリック、ちょっと待って。ほら、たまごの白身がいっぱい余っちゃったでしょ? ついでだから、この間、お店でも味見で出した料理の作り方も教えちゃうね」


「メレンゲクッキーなのですね? コロネさん」


「そうそう。ふわとろプリンとアイスで余ったたまごの白身を使ったレシピね」


「なのです。お店でも味見してもらったら、評判も上々だったのですよ。サクサクと軽い食感がクセになるお菓子なのです」


「へえー、そういうものもあるんですか」


 パティシエってすごいんですね、とリリックが感動している。

 いやいや、リリックさんや、弟子になった以上は、他人事ではなく、あなたにも一通り覚えてもらいますからね。

 ふふふ、少し覚悟していただこうか。


「あ、あの、コロネさん、今更で、申し訳ないのですけど、ひとつ聞いていいですか?」


「うん? どうしたの、パンナ?」


「さっきから、コロネさんの肩とか、後ろのテーブルとかの上でぷるぷるしている、その生き物は何なのですか? パンナは見たことがなかったもので」


「あ、自分も気になっておりました。他の方々が気にしていないようですので、あえて触れませんでしたけど」


「えと……コロネ先生、恥ずかしながら、私もそうです。茶色いスライムさん、ですよね? アイスの説明の方に集中するのが先で、何となく、見て見ぬふりをしていました」


 あ、そうかそうか。

 そういえば、ショコラについての説明が一切なかったような気がするよ。

 そうだよね。

 普通は厨房に茶色いスライムがいると何事かと思うだろうね。

 忘れていたというか、紹介するタイミングを見失っていたというか。

 そもそも、リリック以外がやってくるのが予想外だったから、そっちに気を取られていたよ。


「ごめんごめん、紹介が抜けていたよね。この子はショコラって言うの。種族は粘性種みたいだね。色々あって、わたしが育てることになったんだ。新しい家族といったところかな。あ、もちろん、厨房に入る時に消毒はしてもらっているよ? その点は問題ないからね」


 基本、ショコラは厨房内の床歩きは禁止だ。

 テーブルの上で葛まんじゅうみたいにぷるぷるしてもらっている。

 まあ、たまに、構ってほしいのか、肩に乗ってくることはあるけどね。


「そうなんですか。コロネ先生が育てるんですか?」


「うん、色々あってそうなったのね。こう見えて、かわいいの。ぷにぷにしていて、触り心地もいいしね」


「ぷるるーん!」


「へえ。ちょっといいですか? ……うわっ! 何ですか! この触り心地。なでているだけなのに、何だか癒されますよ」


「ほんとだ! すごーいショコラちゃん。パンナもびっくりですよ!」


「これは……魅惑の感触、です。すごいです」


 あっという間に三人を魅了してしまったショコラ。

 うん、ショコラの触り心地は、本当に絶妙なんだよね。

 触れているだけで、気持ちよくなっちゃうもの。

 ある意味、魔性の子だね。

 ひとりだけ、カウベルがショコラを見ながら首をかしげているみたいだけど。


「どうかしましたか? カウベルさん」


「いいえ、ショコラさんから乳製品のような感覚があったような……いえ、たぶん、気のせいですね。すみません」


 そのカウベルの言葉に少し驚く。

 乳製品の感覚なんてわかるんだ。

 コロネもショコラ自体を食べたことがないので、向こうのお店のどのチョコレートにあたるのか、確信は持てないけど、生クリームとかバターを使うタイプのものもあったからね。もしかすると、それを感知したのかもしれない。

 というか、すごいね。牛の獣人のスキルって。

 本当に、この世界にはコロネが知らない驚きのスキルが色々とあるのかも知れない。


「まあ、そんなところで、ショコラについてはいい? そろそろ、メレンゲクッキーの作り方の説明に入るね」


 話を逸らすわけじゃないけど、そろそろ次に取り掛からないとね。

 アイスの混ぜ混ぜ作業も残ってるし。

 そう、ショコラについては、棚上げして、次へと進むコロネなのだった。

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