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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第1章 はじめての異世界 ~食材探し奔走編
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第11話 コロネ、青空市に行く

 魔法屋を出た後で、コロネは来た道とは違う道を歩いていた。

 この町に来てから、町の中をゆっくりと歩いたことがないことに、今更ながら気付いたからだ。

 町の西側は、魔法屋を始め、冒険者ギルドや商業ギルドなどが立ち並んでいる。

 コロネはその通りから、北へと延びる路地の方へと行ってみた。

 少し離れたところに、開けた場所があるのが目についたからだ。


「これは、広場かな? あ、何かやってる」


 広場のような場所。

 そこには、たくさんの露店が並んでいた。

 だが、残念ながら、多くのお店が引き上げる準備をしているようだ。今が夕方に差し掛かる時間帯であることを考えると、少し来るのが遅かったようだ。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。この町じゃ見慣れない顔だな。もう市も店じまいの時間だが、ちょっと見ていかないかい」


 コロネが興味深げに露店の様子を眺めていると、横から男の人が声をかけてきた。

 ねじり鉢巻きにランニングシャツのようなものを着ている、中年の男性だ。見るからに威勢の良さそうな雰囲気を醸し出している。


「おじさん、ここは市場なんですか?」


「ああ。知らないのかい? ここはサイファート名物『青空市』だ。町で取れた農作物だったり、森で取れた果実だったり、それらで作った加工品だったり、ま、色々と売り出されているな。町の東側に職人街があるのは知ってるか? そこの職人が自分の作品を売りに出したりもしてるな。なかなかの掘り出し物もあるそうだぞ」


 そうなのか、知らなかった。

 おじさんは、ボーマンさんという名前らしい。

 一応、市場の管理や、訪れる人の案内などをやっているのだとか。


「もう終わりなんですね」


「ああ、一番繁盛するのは午前中だからな。朝食の後ぐらいから人が集まり出して、午後もそこそこに店じまいだ。ほら、あそこの時計を見てみな。午後三時ともなれば、いつもこんな感じだぞ」


 なるほど、とコロネが頷く。

 ちなみに青空市は、毎日開いているのだそうだ。

 たまにイベントのようなものもあり、定期的にお祭りのようなこともやっているのだとか。冒険者が大型のモンスターを仕留めたときなどは、ここで臨時の宴会をしたりしているのだそうだ。


「市に参加したければ、商業ギルドに申し込めばいい。まあ、この町で料理されたものを露店で売るのは難しいかもしれんがな。大体は、町の住人が自宅で料理できる素材が喜ばれるぞ。お嬢ちゃんも何か売るものがあるのなら、利用してみるのも手だ、とはおじさんからの宣伝だ」


 そう言って、ボーマンが豪快に笑う。

 料理はさておき、町やその周辺で取れた食材は、手頃な値段で手に入るので、町に住む者はみんな、この市場を活用しているのだそうだ。買う側でも、売る側でも。


「ボーマンさんは何を売っているんですか?」


「おじさんが売ってるのは情報だな。どこの店で何が売っているか、今日はこんな面白い店があったぞ、とか。売っているとは言っても、もちろんプライスレスだぞ。おじさんの笑顔とおんなじだ」


 また、豪快に笑う。

 それにしても、情報か。


「ボーマンさん、まだやってそうなお店で果物を売っている店って、あります?」


「おお、果物なら、ほら、あそこのエミールの店で売っているぞ。町の東側の森に住んでいる木こりのカミさんだな」


 ボーマンが指差した方向を見ると、こちらに気付いたらしく、お店を開いている女性がにこやかに手を振っている。

 ちょっと行ってみよう。


「ボーマンさん、ありがとうございます」


「いやいや。楽しんでいってくれれば、こっちもうれしいぞ」


 ボーマンにお礼を言って、お店へと向かう。

 牛の後ろで引っ張るような荷車が置かれており、そこに商品を並べるタイプのお店のようだ。荷車の上には、かごに入った果物などが並べられている。まだ、半分くらいの物が売れ残っているようだ。


「いらっしゃい。良かったら見て行ってね」


 エミールと呼ばれた女性は、スラリとしたモデルのような細身の人だった。半袖からのぞく腕などは引き締まっていて、鍛えられた感じを受ける。木こりの奥さんということなので、力仕事などもしているのだろう。

 髪はグレイで、ふんわりとしている。カッコいいという言葉が似合う女性だ。


 さて、並べられているものを見ていく。

 かごの横には果物の名前が書かれているようだ。

 そういえば、今更の話だが、コロネもこちらの世界の文字が読めるようになっていた。正確には、見覚えのない文字のはずなのに、意味が認識できるのだ。一応、書くこともできた。書こうとすると、対応する単語や文法が頭に浮かんできて、意識せずにも手が動くのだ。正直、修行先で最初のころは言葉に苦労していた思い出があるコロネにとって、この『自動翻訳』のスキルは本当にありがたかった。


「ええと、やまぶどう、おばけりんご、こっちのビンはハチミツか……なるほど」


 翻訳はされているのだが、ぶどうもりんごも向こうの世界のそれとは、少し大きさなどに違いがある。やまぶどうは、ぶどうというよりもむしろ。


「これは……もしかして」


「うん? やまぶどうが欲しいの? 今の時期は美味しい時期だから、食べごろよ。もう引き揚げなきゃいけない時間だから、安くしとくわよ。一かごで銀貨一枚のところを銅貨五枚でいいわ」


「それなら、やまぶどうを一かご買います」


 そう言って、コロネは銀貨一枚をエミールに渡す。


「はい、まいどあり。袋は持ってるかしら? なければ、普通の袋で良ければ、銅貨一枚になっちゃうけど?」


「袋もお願いします。わたし、アイテム袋は持っていませんから」


「わかったわ。じゃあ、はい、先におつりの銅貨四枚ね。はい、そしてこっちがやまぶどう」


 エミールが差し出した袋を受け取るコロネ。

 そして、受け取った袋から、やまぶどうを取り出して、ひとつかじってみる。


 間違いない。これは、ぶどうじゃなくて、プルーンだ。

 つまりスモモの一種である。


「あら、試食したいなら、買う前でもよかったのに。それで、どう? このやまぶどうは?」


「美味しかったです。ところで、お聞きしたいのですが、このやまぶどうの干したものって、売っていたりします?」


「ええ。今はシーズンだから、果実のままが一番だけど、ちょっと前から仕込んでいるものがあるわ。こっちのビンに入っているのがそうね」


 今は秋口に差し掛かっている時期で、ちょうど完熟したやまぶどうが美味しい季節なのだそうだ。冬に向けて、乾燥させておけば、冬場もやまぶどうを楽しめるため、当然、干したものも仕込んでいるのだとか。

 コロネの目がキラリと光る。

 今日、残っているのは、三ビンだ。


「それ、全部ください! あと、りんごを一かごと、そっちのハチミツも」


「あらあら、よかったわ、買ってくれて。干したやまぶどうはビンも一緒だから、ひとつあたり銀貨二枚、りんごは半額で銅貨五枚、ハチミツは一ビンで銀貨三枚。しめて、銀貨九枚と銅貨五枚ね。袋はサービスしとくわ」


 そうして、コロネはお金を支払い、商品を受けとった。

 その表情には、笑みが浮かんでいた。


 探していた食材のひとつ、それが手に入ったのだから。

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