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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第111話 コロネ、白パンに喜ぶ

「あ、コロネさん、やったのですよ! 白いパンがちゃんと焼けたのです!」


 コノミたちにお礼を言って、塔へと戻って来たコロネを待っていたのは、喜びいっぱいのピーニャだった。

 手に持っているのは、焼きたての白い食パンの数々だ。

 おー、いっぱい焼いたみたいだね。


「ただいま、ピーニャ。良かった。無事、パンができたみたいだね。というか、うわあ、随分作ったんだね。食パンがすごい量だよ」


 さすがに小麦粉全部を使ったわけじゃないだろうけど、結構な数の食パンがある。

 もう、これは試作って感じじゃないね。

 ちょっとびっくりだよ。


「なのです。今日は、ピーニャひとりで頑張れる限界まで、この白パンに挑戦してみたのですよ。ほら、コロネさんも取っておいてほしいって言っていた分なのです。リディアさん用の料理と言えば、量を確保するのが基本なのですよ」


 まあ、コロネさんが何を作るのかわからないのですが、とピーニャが苦笑する。

 あ、そうか。

 コロネが確保してほしいって言ったから、この量なのか。

 そうだよね。リディア用となると、数は多い方がいいものね。そうしないと、お店で並べる分が確保できなくなっちゃうのか。それはこっちが浅はかだったかも。

 ごめんごめん。


「というわけで、必要なら、この半分量はコロネさんが使っても大丈夫なのです。残りの白パンで十分、みんなの試食分とかは確保できるのですよ」


「ありがとう、ピーニャ。あー、これなら、リディアさんだけじゃなくて、明日の太陽の日はお試しメニューの提供ができるかな。うん。想像以上だよ」


 ただ、数が多いかな。今のうちに仕込みを始めた方が良さそうだ。

 ちなみに、今日のパン工房は、ピーニャの気合が入り過ぎていたせいか、もう、朝のパン焼きは終わってしまったのだそうだ。というか、他のアルバイトのみんなも新しいパンが食べたかったらしく、巻いて仕事を終わらせてしまったとのこと。

 すでに、ピーニャ以外のスタッフは朝ごはんを食べているそうだ。


「すごいね。今、まだ八時前だよ? 普段よりかなり早いよね」


「なのです。これが、新しいパンの力なのですよ。今日に限っては、皆さん、規定量に達したら、お仕事終わりと決めていたのです。もうすでに、向こうでこのパンを主食に、朝ごはんを食べているのですよ。評判も上々なのです」


「ピーニャも味見したの?」


「なのです。前に食べた『ヨークのパン』に比べると甘味は控えめなのですが、食感はこっちの方がふんわりしているのです。こんなに柔らかいパンは初めてなのです。嬉しいのですよ。このパンなら、色々なソーザイとよく合うのです」


 味わいがシンプルなだけに、他の食材と一緒に食べると、その食材の味を受け止めてくれる。そんな感じのパンに仕上がったのだそうだ。

 そうだよね。挽きたての小麦粉に天然酵母を使っているんだし。それを石窯で焼いているわけだから、向こうのパン屋さんと比べても、なかなかのレベルだよね。

 基本の食材さえ、しっかり入手できれば、かなりの質が期待できるのだ。

 うん。

 これはいい感じだよ。


「ところで……今気付いたのですが、コロネさんの肩に乗っている茶色い生き物は何なのですか? スライムさんっぽいのですが」


 あ、そうだ。

 白パンの話がうれしくて、そのまま、喜んでいたよ。


「あ、ごめんごめん。こっちがわたしの召喚した子だよ。チョコレートモンスターのショコラ。新しい家族って感じかな」


「ぷるるーん!」


「なのですか。ショコラ、なのですね? 初めましてなのです、ショコラ。私の名前はピニャンタ。種族はハーフフェアリー。半妖精なのです。ピーニャって呼んでほしいのですよ」


「ぷるるっ! ぷるぷる!」


 ショコラが頭を上げたり下げたりして、あいさつしているみたいだ。

 さっきまで、コロネやコノミの仕草を見て、覚えたみたいだね。

 生まれたばかりなのに、結構頭がいいのかな。


「コロネさん、かわいい家族なのですね。ショコラはコロネさんの召喚獣なのですか? ピーニャもあんまり召喚術については詳しくないのですが」


「うん。コノミさんの見立てだと、チョコレートモンスター……フードモンスターの一種じゃないかって。一応、たまごから生まれたんだけど、その殻も取っておいたんだ。ほら、これもチョコレートでできているの。どうやら、わたしのチョコ魔法って、このショコラを召喚するためのものだったみたいだね」


 別れる前に、コノミにも聞いてみたのだが、ショコラを常時召喚している時は、チョコ魔法がどういう風になるのかまでは、コノミにもわからないとのこと。

 少なくとも今日は、もう限界に達しているため、試すことすらできないので、確認するのは明日以降の話になるけど。

 ただ、仮にそうだとすれば、もうチョコ魔法が使えなくなる可能性もあるから、少し心配でもある。

 今までは、一日八個はチョコが召喚できていたけど、その辺りはどうなるんだろうか?

 正直、これから、試してみないとよくわからない。


「まだ、わたしもショコラもわからないことだらけだよ。とりあえず、コノミさんから言われたのは、この子は常時召喚型だから、ずっと一緒にいる感じになるみたい。まあ、もっと成長するまでは、わたしの肩とか頭とかに乗ってもらってる感じかな」


「ぷるっ!」


「なのですか。すごいのです。身体がチョコレートでできているのですか……おいしそうなのです」


「ぷるるるる!?」


 一瞬だけ、ピーニャの目がキランと光ったような感じがして、それに気づいたショコラがちょっと怯えてしまう。


「いや、冗談なのですよ。ショコラ、ごめんなさいなのです。いくら、ピーニャでもコロネさんの家族は食べないのですよ」


「ぷるっ! ぷるるーーー」


 あ、ショコラがほっと一息ついている感じだ。

 というか、意外とこっちの言葉はわかっているみたいなんだよね。

 逆に、ショコラの言葉がまったくわからないのは、少し残念だよ。


「まあ、チョコレートでできていると言っても、普通のチョコレートとは違うみたいだけどね。こんなにぷるぷるしていないもの、普通のチョコレートは」


 チョコレートと言えば、もうちょっとドロッとしているものだ。

 ショコラの身体は何というか、ぷにぷにしているのだ。

 茶色い葛まんじゅうみたいな感じだ。

 それに、パン工房に入る際、水に触れてみたけど、まったく溶ける気配とかも無かったし、せっけんで洗うみたいなことも、おそるおそる試してみたけど、大丈夫だったし。

 ショコラ自身、水やそういうものをまったく怖がっていなかった。

 要するに、普通のチョコレートとはちょっと違う物質ではあるようだ。

 何かって聞かれると、何だかよくわからないけど。


「なのですか。ピーニャも普通のチョコレートはよくわからないのですが、確かソルトモンスターも倒した後で純粋な塩になったような気がするのです。おそらく、フードモンスターは食材でできていると言っても、普通の食材とは少し違う生態を持っているのかもしれないのですよ」


 なるほどね。

 ショコラの場合、チョコレートに加えて、スライムの身体って感じかな。

 いや、コロネも本物のスライムには会ったことがないので、想像でしかないんだけど。


「まあ、そもそもがユニークスキルだし。まだまだ謎だらけって感じかな」


「それにしても、すごいのです、コロネさん。フードモンスターが人に懐いているんなんて、たぶん、今までに例のないことなのですよ。普通はダンジョン以外で見かけることはほとんどない、謎の生物なのです」


 ピーニャが言うには、そもそも意思疎通がとれるのかが怪しいとのこと。

 ネゴシエーター、いわゆるモンスター交渉人と呼ばれる人たちでも、フードモンスターとの成功例は話としてあがってきていないとのこと。

 そのため、フードモンスターの生態はほとんどわかっていないらしい。


「ネゴシエーターって、『竜の牙』のピエロさんって人もそうなんだよね?」


「なのです。この町でも、その手の専門家としては、なかなかの腕前らしいのです。まあ、このサイファートの町の場合、専門職以外の人でも、そういうことをこなせる人がいっぱいいますので、第一人者かどうかまではわからないのですが」


 へえ、そうなんだ。

 意外と、モンスターとコミュニケーションを取ることができる人は多いらしい。

 ああ、そういえば、ロンさんとかもモンスターを従えているって言ってたものね。ピーニャも把握していない人で、そういうことが得意な人もいるかもしれないとのこと。


「そもそもが、サイくんなんかは、そのまま、モンスターとも会話できるのです。逆に人との会話はあまり得意ではないのですが。たまに、ダークウルフのうーさんとかと話をしたりしているのですよ」


「あ、そうなんだ」


 巨人種の料理人のサイくん。

 コロネも何度か会ったことがあるけど、無口だけども、気は優しくて力持ちな感じの人だ。人というか、サイクロプスなんだけど。

 人化スキルは持っていないらしく、そのため、この町の中でも結構、目立つ容姿をしているのだ。料理人の服装をした一つ目の巨人だもの、目立つよね。

 でも、その目が優しそうなのだ。

 何というか、見つめられていると、ほんわかしてしまうというか。

 その辺は不思議なんだよね。結構、迫力がある顔つきなのに。

 案外、何かのスキルなのかもしれないね。


 ちなみに、名前が『サイくん』なのだそうだ。

 最初に、オサムからそう呼ばれたことを本人が気に入って、そう名乗るようになったのだとか。その響きが好きなのだそうだ。


「ところで、ピーニャはもう朝ごはんは食べたの?」


「いえ、コロネさんが帰ってくるのを待っていたのですよ。こっちの食パンの仕分け作業とかも残っていたのです。だから、片付けなどをしながら、なのです。ちなみに、コロネさんはもう朝ごはんにするのですか?」


「うーん、せっかく食パンがあるから、明日の仕込みだけでもしちゃおうと思って。ピーニャも良ければ、作り方を見ておく? どっちかと言えば、パティシエの料理っていうより、パン屋さん併設のカフェとかの料理だしね」


「食パンを使った料理なのですよね? でしたら、ピーニャもお手伝いするのですよ。そして、レシピを覚えて、お店で出すのです!」


 朝ごはんは後で問題ないのです、とピーニャが笑う。

 うん、それなら、先に仕込みをしてしまおう。


「大丈夫。じっくり仕込むだけで、美味しい料理になるから。ただ、ひと手間かけるだけ。それが大事なメニューだよ」


 普通に作れば家庭料理。だが、じっくり仕込むのと、焼き加減に工夫すれば、立派な一品料理と変化する。シンプルかつ人気の朝食メニューだ。


「ちなみに、その料理は何て言うんですか?」


「うん。フレンチトーストだよ。それじゃあ、早速、仕込みの方を始めようか」


 そんなこんなで、ふたりは明日の料理の仕込みに取りかかった。

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