第110話 コロネ、家族が増える
「うわあ、すごいすごい! いいね、ショコラ!」
この姿でどうやって歩くのかと思ったら、ぎゅーっと縮まったかと思うと、その反動でぽーんと飛び跳ねる感じで歩いているのだ。
ある程度は、変幻自在なのかな。
どことなく、動きに愛嬌があって、意外とかわいいんだよね。
大きさ的には思いっきり伸びても四十センチくらいかな。
普段は、二十センチくらいの丸状の身体になっている。コロネの肩とか頭なら乗れそうな感じだね。
「ふふ、良かったわね、コロネさん」
「はい。ありがとうございます、コノミさん。これが召喚獣ですか」
さすがはコノミ、召喚術のプロだ。
ちょっとしたことで、あっさりとショコラの誕生まで持って行ってしまった。
やっぱり、専門職の知識ってすごいよね。
「ぷるるーん」
「お、なかなか愛嬌のあるやつやなあ。感触もなんや、うどんをこねてるような感じやね。これは人気が出るかもしれませんわ」
「まあ、あんまり強そうじゃないがな。さすがに手合せを願うという感じではないか。その辺りは使い手に似るのだろうな」
「うん。結局、暴走しなかったしね。人懐っこい感じだよね、モンスターにしては」
あ、そういえば、妖怪種や式神の召喚とは違うタイプなんだね。
ポン太に言われて気が付いたよ。
ということは、これだけでコトノハと仲良くなるのは難しいかな。ちょっと残念だ。
「コノミさん、この場合、モンスターを召喚したってことになるんですか?」
「まあ、そんな感じよね。そうなると、それに関する専門は私よりも向いている人がいるの。聞いたことがあるかしら? ギルド『竜の牙』の交渉担当でもあるピエロさんよ。彼が確か、モンスター召喚については詳しいと思うわ」
「ピエロさん、ですか?」
初めて聞く名前だね。
とりあえずは、『竜の牙』の六人のうちのひとりってことかな。
それにしても、ピエロって名前もすごいね。
「ええ。職業はサモンワーカー。モンスターと話をしたり、仲良くなって、仲間にしたりする人のことね。結構、冒険者の中では一目置かれるスキルなのよ。モンスターとの交渉スキルが高いと、長いダンジョンとかでも、簡単に休息を取れたりするから、たぶん、難易度の高いダンジョンに挑むギルドにとってはなくてはならない存在のはずよ」
「まあ、見た目はまんま道化師って感じのスタイルですわな。わしとは何となく、気が合いそうなタイプですねん」
「まあ、その辺はな。一見、お調子者のようだが、俺の見立てでは根は真面目なやつだぞ。それに何と言っても、なかなかの使い手だ。この辺りのモンスターの攻撃を笑いながらかわしつつ、交渉に入ったりするからな。まあ、『竜の牙』の連中はどいつも一癖も二癖もある連中ばかりだ」
戦い甲斐がある、と活鬼が笑う。
へえ、そうなんだ。コロネが知っているのはミストラルだけだから、詳しくは知らないけど、やっぱり、この町でも頼りになるギルドだけあって、かなりすごいみたいだね。そういえば、そのうち、スライム村に持っていくプリンを取りに来てもらうんだっけ。その時にでもあいさつしておこう。
「ふふ。まあ、色々と人によって評価は違うと思うけど、とにかく、サモンワーカーは仲間になってくれたモンスターの召喚術も使えるのね。だから、たぶん、コロネさんのショコラちゃんも、ピエロさんに相談した方がいいかもしれないわ。召喚術としての理屈はほとんど同じだけど、モンスター召喚に関する知識なら、それこそ専門の人の方が詳しいでしょうからね」
コトノハでは、ほとんどモンスター召喚は見ないのよ、とコノミが苦笑する。
たまごの話など、基本的な知識は共通だけど、やっぱり網羅していない部分も多いそうだ。特に、モンスターの言語の問題などについては。
あ、なるほど。
モンスター特有の言語っていうのもあるんだね。
確かに、コロネの『自動翻訳』でもダークウルフの言葉はわからなかったしね。
このスキルとモンスター言語の翻訳は別のものなのだろう。
それとも、使い方が悪いのかな?
自動だから、どう使っているのか、コロネにもわからないんだよね、このスキル。
「ぷるるーん。ぷるぷる」
うん、ショコラがこっちを見て、何かを話しているけど、やっぱり意味がわからない。いや、何となく、表情と言うか、感情のようなものはわかるけどね。
まあ、生まれたばかりだから仕方ないよね。
「あれ、コノミさん。ショコラって、成長していくんですか?」
確か、ドロシーの使い魔のルナルも成長に伴って、森を大きくしていったんだよね。ということは、このショコラも成長するのかな。
「ええ。もちろん、そうよ。常時召喚型の召喚獣は、術師とつながっているの。だから、術師の成長によっても育つし、そうでなくても時間経過によって独自の成長をたどるようになっているの。もちろん、ごはんも食べるし、眠ったりもする。そういう意味では、普通の生き物と変わらないわ。あえて違うところを言うのなら、術師と離れている場所にいた時とかに、召喚術で呼び寄せることができたり、もしその命が絶たれてしまっても、たまごからやり直すことができたり、とかかしら」
「たまごから……ですか」
「ええ。ただ、成長によって、次の時のたまごはもっと大きくなったりするし、その記憶に関しては引き継がれたりはするみたいよ。ほら、コロネさんとパスがつながった状態だもの。たぶん、コロネさんとショコラ、それが同時に亡くなってしまった場合は助けられないでしょうけどね」
何より、一度死んだあと、復活できる保証もない、とのこと。
それができるかどうかは、そうなってみないとわからないので、今までそういうケースがあったからといって鵜呑みにするのは危険なのだそうだ。
当然だよね。
結局、この世界でも、やっぱり命はひとつってことだ。
一度、失われた命は戻ることはない。
それは、改めて、肝に銘じておこう。
「ぷるるーーん」
そんなコロネの表情に気付いたのは、ショコラがぴょんとコロネの肩に乗って来た。まるで、『あんまり心配しないで』と言っているかのようだ。
そんなショコラの身体をゆっくりとなでる。
ああ、やっぱりこの感触は気持ちいいかも。
何となく、なでていると心が落ち着いてくる感じがするよ。
「うん、頑張ろうね、ショコラ」
「ぷるるっ!」
「ふふふ、それじゃあ、こんな感じかしらね。以上で、私の召喚術講座はおしまいね。また何か困ったことがあったら、いつでも相談に来てね。ああ、そうね。相談もだけど、今日頂いたうどんがうまくいったら、メニューに載せるから、また味見に来てもらえるかしら? コロネさんにもぜひ味を見てもらいたいしね」
「わかりました。ぜひ、お店の方にもうかがわせていただきますね。この間のうどんでも十分美味しかったですものね。お店の味がどういうものなのか、わたしも楽しみです」
「ほな、新しい小麦粉で頑張ってみましょうか。早速、とりかかりますわ」
「ああ。コロネよ、数日待つがいい。もらった小麦粉で最高のうどんを食わせてやろう」
「今日のところはぼくも味見要員ね。食べ終わったら、帰るよ」
「ポン太、貴様! ふむ……貴様はそういうやつだったな。いいだろう、今日は嫌というほど、味見に付き合ってもらうぞ。さあ、来い! さっさと始めるぞ!」
「いや……ぼく、そこまでの量は……って、活鬼! 引っ張らないで! ちゃんとついていくから! 心配しなくても逃げないってば!」
もう興味の対象がすっかりうどんへと移ってしまったらしく、ポン太を引きずりながら、楽鬼と活鬼がお店の方へと戻っていってしまった。
後に残ったのは、コノミだけだ。
そんな式神と妖怪を愛おしそうに見つめながら、コノミが笑う。
「ふふ、ね? 家族っていいものでしょ? コロネさんもショコラちゃんを大切にね」
「はい、ありがとうございました!」
「ぷるるーん!」
それじゃあ、私たちももどりましょうか、とコノミ。
そんな彼女に促されて、一緒に上のお店へと戻るコロネとショコラ。
こうして、召喚術の講義は終了となったのだった。




