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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第107話 コロネ、召喚術について教わる

「つまり、ここに描かれている妖怪はみんな、普段は眠っているってことなのね」


 すぐ横でリズムに乗りながら踊っているポン太を眺めつつ、コノミがこの部屋について教えてくれた。壁に描かれた妖怪たちはひとつひとつが、生きている、というか、存在しているのだそうだ。

 それらは、妖怪によって異なり、絵の形で眠っているものもいれば、本体はその場にはおらず、コノミたちの呼びかけによって、その都度、召喚に応じるものまで、様々なのだという。この絵、それ自体も妖怪の能力によるものらしい。


「この絵を描いた、というか、ぼくたちを絵の形でまとめたのは、ひとりの妖怪の仕業なんだ。絵筆のつくもがみのサクラ。彼女のスキル『鳥獣戯画』。妖怪の世界をひとまとめにして、疑似的なフィールドを作り上げる能力だね」


「要するにね、条件付きではあるけれど、こことコトノハは繋がっているってことなの。もちろん、お互いに行き来できるわけじゃなくて、あくまで、そういうものだってことだけど。ただ、その妖怪の存在レベルが条件にあっていれば、どちらの町にある絵からも現出できる子もいるってこと。このポン太もそうよ。茶釜たぬきのポン太。つくもがみのサクラちゃんの世界を渡る、『絵渡り』が可能な妖怪なの」


「まあ、ぼくの属性が『渡り』だからね。ぽんぽんぽんって感じかな」


 そう言って、楽しそうに踊るポン太。

 ちなみに、絵を描いたサクラという妖怪は、今ここにはいないらしい。

 コトノハで芸術に関するお仕事をしているそうだ。

 そっか、つくもがみか。

 本当、妖怪種にも色々な人がいるんだね。

 向こうの方にある神棚とか、祭壇もそれらの召喚と何か関係しているようだ。


「それじゃあ、改めて、ポン太にも紹介するわね。このお客さんがコロネさん。甘いものを作るのが得意な料理人さんよ。たぶん、一部の子たちからコトノハにも伝わっているかもしれないけど、念のため、ね」


「おおお、知ってる知ってる! オサムの知り合いだからって、コトノハでも期待している妖怪が多いんだよね。向こうでは栗とか、果物くらいしか甘いものがないから。改めて、よろしくね、コロネ」


「はい。よろしくお願いしますね、ポン太さん」


 甘いもの、甘いもの、と楽しそうに踊っているポン太に挨拶を返す。

 それにしても、栗とかもあるんだ。

 妖怪の国、コトノハの甘いものかあ。


「ちなみに、コトノハの甘いものって、どういうものがあるんですか?」


「そうねえ、今、ポン太も言ったけど、栗を加工したものとか、柿なんかの果物が多いかしらね。あとは、豆をあまづらを使って、炊いたものとかかしら」


「豆とあまづら、ですか?」


「ええ。あまづらっていうのは、植物から採れる樹液のことね。それらを煮詰めて作る、甘い汁のことを、あまづらって呼んでいるの。まあ、こっちだとハチミツみたいな感じかしらね。量はたくさんは取れないから、向こうでも貴重だけど、そうやってできたお汁粉は人気が高いわ。コトノハでは、お祭りなんかの際に食べられる季節のものって感じかしら」


 樹液かあ。なるほど、あまづらに関してはまったく知らなかったから、こっち由来の甘いものなのかもしれないね。

 いや、それよりも気になることがあった。

 もしかして、コトノハで採れる豆って。


「コノミさん、もしかして、コトノハでは小豆が採れるんですか?」


「ええ。お汁粉の豆よね。たぶん、他の地方ではほとんど見かけないはずよ。小豆に関しては、コトノハの内部で消費する分しか作ってないから」


「ああ、そうなんですか。ということは、小豆を融通してもらうのって難しいってことですか?」


「そうねえ、少なくとも、他の国へと回したっていう前例はないはずよ。そもそも、コトノハ自体が、国内ですべての食料自給をまかなっているから、他の国との交流そのものをしていないの。教会関係にしても、当初はあくまでも監視対象のひとつだったくらいなのよね。私とお父さん、あ、マックスさんのことね。その一件があったから、教会との関係は改善されているけど、それでも、小豆を回すようなことはしていないわ。将来的にはわからないけどね。だから、ごめんなさい。私の力じゃどうしようもないと思うの」


「そうですか……」


 残念。せっかく、小豆の可能性が見えた気がしたんだけど。

 いや、原産地が特定できただけでもよしとしよう。

 ちなみに、コノミとマックスの一件というのは、ふたりが結婚することになった経緯とも関係しているらしい。その時のことがなければ、未だに、コトノハは教会に対しても、態度を硬化させたままだったろう、とのこと。

 へえ、やっぱり、この町の人って色々な背景を持っているよね。


「ただ、可能性はゼロじゃないわ。まず、コロネさん自身が、コトノハに入ることを許されるのが条件として、そこから進んでいけば、食材を得ることはできるかもしれないわよ。他の国には回したことはないけど、あくまで個人ということなら、ちょっとだけ話が別だものね」


 そう言って、コノミが悪戯っぽく笑う。

 ヒントはなぜ、この町に妖怪種がいるのかってことらしい。

 うん。

 そこまで言われると、何となく、誰のことを言っているのか予想がつくけど。


「というか、コロネが、ここでのトレーニングで、式神や妖怪召喚に目覚めたら、それだけでもコトノハの敷居がグッと低くなるよ。そういう召喚ができるものは、同類扱いだから、少なくとも、話は聞いてもらえるようになるはずだよ」


「ポン太の言うとおりですわ。親和性が高いっていうんは、何よりの証になりますわ」


「そうだな。仲間意識が強いってことは裏を返せば、仲間として認められれば、問題ないということだ。まず、コロネが妖怪種に認められるような、何かを示すこと。それが大事だ。悩んでいる暇があったら、精々頑張ることだな」


「はい、そうですよね。わかりました」


 そうだよね。

 何事もやってみなくちゃわからない。

 世界一のパティシエになるためにも、やれることは全部試していこう。


「ふふ、それじゃあ、トレーニングの方を始めましょうか。確か、コロネさんはメイデンさんからも訓練を受けているのよね? 昨日、そういう話は聞いたから」


 あれ、もうメイデンとの話が出回っているんだ。

 コロネが積極的に触れ回っていたわけじゃないから、ちょっと驚きだ。どうやら、この町の噂の伝達速度を軽く考えてはいけないらしい。

 プリンやアイスの件といい、そういうものだと意識した方がよさそうだ。


「はい。昨日から始めたばかりですけどね」


「うーん、それじゃあ、その時、召喚術について、何か習ったかしら? もし重複して教えてしまっても悪いから、その辺りについて教えてほしいのね」


「いえ、メイデンさんも召喚術に関しては、詳しいことはわからないって言っていました。ほとんどの召喚系のスキル持ちがコトノハに集中しているって、そう聞きましたよ」


「そうなのね。わかったわ。そういうことなら、一から説明した方が良さそうね。まず、召喚術について、大まかな分類について、説明しましょうか」


「分類、ですか?」


「そうよ。コロネさんにとって、召喚って聞いて、どんなことをイメージするのかしら? 何となくでいいから、答えてみて」


 召喚、だよね。

 ふむ。

 あんまりゲームとかやったことがないから、そもそもイメージがわかないけど。

 今まで会った例を見ていると、式神の三人と狗神のアラが召喚っぽいかな。


「こちらの呼びかけに対して、答えてくれたものを呼び出すって感じですか。遠くから、突然、ポンっと現れるような、そんなイメージですね」


 言葉の響き自体がそんな感じだよね。

 まあ、向こうの世界でも、悪魔召喚とか神おろしとか、自分より優れた存在を儀式などで呼ぶようなイメージもあるかな。

 そう、コノミに伝えると、彼女が真剣な顔で頷いた。


「ええ。そういうイメージで大きくは間違っていないわ。それじゃあ、召喚について、いくつかの分類に沿って、説明していくわね。まず、一つ目の分類法が『彼我の力量差による分類』ね。まあ、簡単に言えば、私みたいな術師と召喚に応じた存在の力関係で、いくつかに分類されるってわけなの」


 例えば、とコノミが説明を続ける。


「ここにいる式神の楽鬼と活鬼。このふたりは私と対等な関係にあるの。一応、今までの積み重ねで私のことを立ててくれるけど、関係自体はあくまでも対等。だから、このふたりの場合は、自由意志も持っているわ。術師が式神を行使するのではなく、手伝って、支援してもらう関係。そういう関係がまずひとつね」


「あ、対等なんですか」


 ちょっと意外だ。

 ふたりとも姐さんとか、姐御とか言っていたから、コノミの方が上なのだと思っていたけど、違うんだね。


「ええ。だから、私もちょっと申し訳なくなることがあるのよね。で、今度はこっちのポン太の場合ね。ポン太は式神じゃなくて、妖怪だけど、契約によって私たち家族に、この場合は私とお母さんやお父さんのことね、それに従うことが定められているの。使役の関係ね。もちろん、押さえつけて命令するわけじゃないけど、分類としては、術師が上で使役される側が下、という感じね。たぶん、召喚術の場合、このケースが一番多いと思うわ。元から明確な存在として生まれた妖怪や、それ以外の召喚に応じるものたちにとって、対等での関係では、普通は言うことを聞いてくれないもの」


「まあ、ぼくもこう見えていたずら好きだからね。その点は仕方ないかな。それに、コトノハの場合、強制召喚のケースはあんまり多くないから、そんなに嫌じゃないよ。姐さんを始め、みんないい人だもの。この町で召喚されるようになってから、ごはんが美味しいしね」


 そうなんだ。

 やっぱり、使役の関係でも、術師の対応によって、協力関係か、強制関係かに分かれるのだとか。協力関係を築けている時は、術師が弱っていたりして、関係を解消できるような状況に陥っても、召喚された側が助けてくれることも多いのだとか。

 結局、信頼関係の積み重ねは大事だということだろう。

 逆に、強制関係の場合、関係を解消された直後に、術師が襲われることもあるのだそうだ。そういった状態を暴走と呼ぶとのこと。


「暴走については、最初の召喚の時に起こることも多いから、後で説明するわね。では、この分類では最後のひとつね。術師よりも上位の存在を召喚するケースについて。そういう場合、相手は龍だったり、悪魔だったり、妖怪の中でも特に力の強い者だったり、そういう感じの相手を召喚するの。かなり、条件や制約があるけど、それがどうしても必要な状況っていうのも存在するのよね」


「ちなみに、姐さんの場合、コトノハの上層部の連中ともつながっているから、彼らを呼び出す時がそれにあたるよね」


「ええ。一応、ミケノジ長老も私よりは上になるの。だから、長老さんに頼む時は、私の場合、儀式みたいなことが必要になるわ。お母さんの場合はそうでもないけどね。たぶん、長老さんとの関係でも上になっていると思うけど」


 そう言って、コノミが苦笑する。

 やっぱり、コズエは本当にすごい人らしい。人の身で妖怪上位と渡り合えるのは、それだけ力があるからに他ならないとのこと。

 いや、普段は本当に穏やかなおばあちゃんなんだけどなあ。


「これが、力量差による分類ね。今度は別の分類について説明するわね」


 まだ実践の前に説明することは多いとのこと。

 そんなこんなで、コノミによる召喚術講座は続いていくのであった。

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