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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第104話 コロネ、遠足について聞く

「それでは、こちらのアイテム袋はお返ししますね」


 パン工房で使うための小麦粉を準備していると、ブランがアイテム袋を渡してくれた。

 油絞りの機械を運ぶ時、オサムが貸し出したものだね。

 そう言えば、そんなものもあったっけ。

 ちょうどいいので、小麦粉を持っていくのに使わせてもらうことにする。

 やっぱり、アイテム袋は便利だね。

 ほんと、重さを気にせず、荷物を持ち運びできるのはありがたいよ。


「コロネさん、残りの小麦は粉挽きが終わり次第、袋詰めしておきますね」


「あ、助かります、バドさん。ありがとうございます、遅くまで」


 何だかんだで、もう夜の十時くらいだ。

 向こうの世界で慣れているコロネには、普通の時間だが、こっちの世界の人たちにとっては夜中の仕事のようなものだろう。遅くまで付き合わせてしまって、申し訳ない。

 だが、バドは笑顔で首を横に振って。


「いえいえ、新しい小麦粉の作り方もわかりましたし、うちとしてもうれしい限りですよ。子供たちも喜んでますし、お役に立てて何よりです。この小麦粉から『ヨークのパン』のような白いパンが作れるのですね」


「そうですね。後は、お菓子とか、うどんなどの麺類とかですかね。今までの小麦粉より、パンも膨らみやすくなりますし、見た目だけではなくて、ふっくらした感じになりますよ。小さい子供とかにはそっちの方がいいかもしれませんね」


 まあ、全粒粉のパンで慣れていると、必ずしもそうじゃないかも知れないけど。

 ただ、お菓子に関しては、こっちの方が口当たりの良さが段違いだし、うどんも今まで以上のものが作れるようになると思う。


「なるほど。それにしても、ちょっとした工夫が大事なのですね。白いパンと言えば、製法については門外不出と聞いていましたので、よほど特殊な作り方をしていると思っていたのですが、思っていた以上にシンプルな作り方でしたな」


「ええ。ただ、これもオサムさんの機械がなければ、かなり手間がかかりますよ。皮と芽の部分を取り除く。言うのは簡単ですが、やってみるとなかなかに面倒くさい製法ですから。そもそも、これでも粒の大きさはバラバラですので、まだ、改善していかないといけませんしね」


 とりあえず、小麦粉ができました、というレベルだ。

 最初の一歩としては申し分ないけど、美味しいお菓子作りとなると、更なる高みを目指す必要がある。頑張らないとね。


「とは言え、この小麦粉まで来れたのは、バドさんたちのおかげですよ。本当にありがとうございます。ご家族みなさんでお手伝いいただきまして。特に、セモリナちゃんの能力はすごかったですね。おかげで、分離工程の可能性が見えてきましたし」


 もしかすると、風魔法や土魔法など、それらが得意な人なら、その工程を大幅にショートカットできる可能性が出てきたのだ。

 そうであるなら、専属で雇うという形も検討できるかな。

 小麦粉の加工職人といった感じだね。


「まったく、セモリナには驚かされますよ。いや、この町の教育法に、と言った方が良いかもしれませんね。正直、王都よりも教育のシステムについては充実していると言っても過言ではありませんよ」


 そう言って、バドが笑顔を浮かべる。

 自分は魔法については、簡単なことしか学べなかったが、子供たちはすでにその先を行っている、と。


「そういえば、この町の教育はすごいって聞きましたけど、学校とかってどうなっているんですか?」


 町の規模の割には、子供たちもいっぱいいるみたいだしね。

 けっこう、町を歩いていると子供が遊んでいるところを目にするし。


「学校、という形ではありませんね。基本的な、読み書きや計算、一般常識などについては各家庭や、教会、孤児院などで教えている感じです。そこまでは、王都とそう変わりません」


 バドが言うには、基礎学習については、教会で教わることができるのだそうだ。そのため、教会がある場所については、読み書き計算ができる者が多いとのこと。

 なるほど。

 教会が簡単な学校のような機能を担っているんだね。


「ですから、基礎学習から先が、王都と異なっているわけです。王都の場合、そこから先の教育機関となりますと、貴族学校ですね。貴族の子弟が通うための学校はありますが、一般市民は通うことができません。後は、才能を見出された者が『学園』の入学試験に合格することで、南の島の『学園』へと進学できる、といった感じでしょうか。どちらにせよ、狭き門ですね」


「あ、やっぱり、『学園』ってレベルが高いんですね」


 ということは、ドロシーってすごいんだね。

 一応、『学園』を卒業しているって言っていたし。

 コロネが感心していると、バドが苦笑して。


「ただ、『学園』の場合、子供のため、という形での教育機関ではありませんからね。魔法を極めたいとか、戦闘のためのスキルの研究をしたいなど、熟練の冒険者が学生として通うような機関ですから。当然、その年齢も様々です。実際、魔法などの才能を見出されて入学することもないとは言いませんが、王都の場合、基礎教育のみで、そこまで魔法など、一芸に精通する者はまれですので、どうしても、貴族学校から進学するケースがほとんどだったと思いますよ。あくまでも、その可能性がある、というだけですね」


 『学園』はその性質上、どうしても、子供が通う学校という感じではないそうだ。

 向こうでいうところの大学みたいな位置づけになるみたいだね。

 教育と研究が混ざっている感じだ。


「話を戻しますと、この町の場合、各専門分野に秀でている人が多いですからね。そのため、基礎教育の後については、それぞれが教師となって教え合うようなシステムになっています」


「教え合う、ですか?」


「はい。それがこの町のいいところですね。教えを請われたら、先生として、その知識や経験を伝えていくこと。それはこの町での勤めのひとつです。必要経費については、一部は町でも負担してくれるようになってますね。その代わり、頼まれたら教師となって、その責任を果たすこと。それが決まりになっています」


 例えば、コロネが魔法を習いたいと思って、フィナに相談すると先生になってくれる、という感じなのだそうだ。

 ちなみに、この例のようなケースは多いそうで、フィナは魔法学を教える教室のようなものを持っているそうだ。これは、魔法屋としての商売とは別の話になるらしい。


 ということは、魔法屋でお金を払わなくても、教えを乞うことはできたってことなんだ。いや、知らなかったよ。もちろん、高価なアイテムを使っての、簡易的な習得法はちゃんと魔法屋としてお金を払わないといけないらしいけど、逆に言えば、基礎四種も手順を踏めば、ひとつひとつ順番に習得していくこともできたらしい。

 ああ、なるほどね。

 アイテムを食べるだけでお手軽に覚える方法じゃダメってことか。

 いや、聞いていたら、コロネもそっちの方が良かったんだけど。


「逆に言えば、頼まれたら誰もが先生になり得るということですね。私の場合も、剣術や農業について、教えたりしていますよ。そのうち、コロネさんにも料理を教えてほしいという人がやってくるかと思いますが、その時は受け入れるようにしてくださいね。そういう形でシステムが循環していっていますから」


「はあ、わかりました」


 まあ、今もピーニャに教えたり、お弟子さんを取ったりしているしね。

 将来的には、料理教室みたいな感じでお菓子作りを教えていく感じになるのかな。

 まだ、どうなるかまでは、よくわからないけど。


「このシステムのいいところは、大人でも、自分が不勉強な分野については教わることができることですね。専門家は、得意なことだけしていればいいという考え方では、進歩がありません。色々な経験を積むことが大切とされています。まあ、私の場合も、たまに職人街へと学びに行っていますよ。親として、学ぶという姿勢を子供たちに示すのも勉強のひとつですかね」


 バドの場合、生産職としての技術の習得を頑張っているのだそうだ。

 自分でも新しい農耕具の開発などができるようになれば、結果として、自分の仕事の幅も増えるし、そういう交流を通じて、何か機械や道具についての相談があった時、協力を仰ぎやすくなるとのこと。

 うん、面白いシステムだね。

 何でもこいに名人なしという言葉はあるし、自分が何でもできないといけないわけじゃないけど、それでも職業同士の横のつながりは大事だし。何より、自分の専門分野と違うことを学ぶことは視野を広げるという意味でメリットも大きい。

 発想の足し算ができるようになるからね。


「つまり、個別教育が充実しているって感じですか。みんなで集まって勉強するって感じではないんですね」


「ええ。ですが、一応、学校という形ではありませんが、ロンの商隊で似たようなことはしてくれていますよ。定期的な『遠足』とか『合宿』ですね」


「そうなんですか?」


「はい。『遠足』は冒険者教育の一環です。ロンの商隊が付き添う形で、町の外へ出て実戦に近い形での訓練を行ないます。まあ、遊びの要素も大きいですが、一応、町の外ですから、訓練という形をとっている感じですね。『合宿』の方の目的は、共同生活の重要性、ですかね。ロンの商隊が寝泊まりしている宿舎に、同世代に人間が寝泊まりして、交流を深めたり、イベントを通して人間関係を養っていくとか、そんな感じですね」


「僕も参加してますけど、楽しいですよ。やっぱり、そういう機会がなければ、あまり自由に外には出られないですしね」


 バドの説明に、ブランも補足してくれる。

 一応は子供向けの催しなのだそうだが、コロネのような迷い人や、冒険者として経験が不足している人も参加可能なのだとか。

 あ、それはいいことを聞いたね。


「それなら、『遠足』に参加すれば、わたしも町の外に行けるってことですか?」


「ええ。これらの催しはロンの商隊が全力でサポートしてくれるので、大丈夫ですよ。まあ、もちろん、万が一もありますので、油断はできませんよ、とだけは、参加する子供たちにも毎回言っています。いざという時はロンたちの指示に従うように、と」


「でも、今までそこまで危険な状態に陥ったことはないですよ。さすがにロンさんたちの周辺警戒はすごいですから。プロフェッショナルですね」


 なるほど。

 まあ、そのあたりは大人としての脅し文句みたいなものか。

 そんなに危険な催しなら、子供たちを参加させないだろうしね。

 ともあれ、この手のイベントにはとても興味があるよ。今度、バーニーやラビに会ったら聞いてみよう。まだ、そのロンさんとは会ったことがないしね。


 さてと、さすがに夜遅いし、そろそろお暇した方がいいみたいだね。


「コロネさん、残りはあと少しですし、こちらは僕の方でやっておきますよ」


「うん、じゃあ、お願いしてもいいかな? 明日、プリンができたら、すぐ持ってくるからね」


 最初のクエスト発注かあ。

 ちょっと、どのくらい人が集まるのか、想像できないけど、楽しみではあるね。


「はい。今日のおかげで、要領はつかみましたので、うちの家族にも手伝ってもらえば、何とかなりそうですよ」


「うん、それじゃあ、また明日ね。バドさんもご協力ありがとうございました」


「いえいえ、今日はお疲れ様でしたね」


 改めてふたりにお礼を言って。

 新しい小麦粉を手土産に、コロネはその場を後にした。

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