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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第1章 はじめての異世界 ~食材探し奔走編
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第9話 コロネ、魔法に挑戦する

「危なかった。お金も持たずに、向かうところだったよ」


 魔法屋に向かおうとするコロネに、オサムが昨日の分の給金をくれたのだ。

 それに加えて、試しで出したチョコレートを買い取ってくれるということなので、昨日預けて保管してもらっていた分を売って、そのお金も受け取った。


 バイト代は半日なので、銀貨二枚。

 そして、何とチョコレートの買い取り金額は、ひとつあたり金貨一枚になった。


『今、この世界にはコロネが作る以外にチョコレートは存在しない。本当なら、値千金と言ってもいいんだが、魔法で作っていることを考慮して、この値段にしてある。この味なら、銀座とかの専門店にも引け劣らないから、ひとまずこのくらいだな』


 一個、一万円のチョコって、さすがに魔法で出したとなると申し訳ないのだけど。

 確かに向こうでは、技術料とブランド料込で、そのくらいで売っているところもあるけど、少しばかり気が引ける。

 とは言え、魔法屋の相場も聞いてなかったので、ありがたく受け取っておく。

 と、同時に、このスキルについてはあまり人に話さない方が良さそうだと、結論づける。

 なんだか面倒なことになりそうだから。


『あと、コロネ、そのチョコはあまりお金での取引はしないほうがいいぞ。いざ、自分の店で出そうと思ったとき、価値が上がりすぎて収拾がつかなくなるかもしれない。俺も明らかにまずいものは、物々交換以外はやっていないんだ』


 オサムの助言をしっかり心に留めておく。

 お金持ちしか食べられない味では、みんなが喜んで食べられない。

 それは、多分、コロネの望みとは別なものなのだ。


 しばらくは出したチョコを貯めて、オサムの保管庫の肥やしにしておこう。

 そうコロネは決意した。


 さて、改めて魔法屋だ。

 というか、もうお店の前なのだが。

 町の西側の区画で、レンガ作りの二階建ての一軒家だ。こっちの世界はレンガや石造りの建物が多いように思える。おそらく、日本ではなくヨーロッパの気候に近い。

 窓ガラスも普通に見られる。

 塔ではなく、普通の一軒家でもガラスが使われているということは、こっちの世界でもガラスについては普及しているのだろう。

 まだ、技術レベルについてはよくわからないので、ひとつひとつ把握していく必要がありそうだ。

 まあ、それはそれとして。


「ごめんください、お店やってますか?」


 ドアを開けて、魔法屋に足を踏み入れるコロネ。

 お店の中は、魔女がお鍋でぐつぐつと何かを煮ている、といったこともなく、普通にカウンターがあって、アンティーク小物を売っているお店と変わらない雰囲気だった。

 そう言えば、魔法屋ってどういうお店なのか、全く聞いていなかったかも。


 コロネが自分のイメージと食い違っていることに苦笑していると、店の奥から、ひとりの女性とひとりの女の子が現れた。


「あら、いらっしゃい。魔法屋に何か御用かね?」


「あ、コロネお姉ちゃんだ。いらっしゃい。お母さん、ほら、昨日からオサムさんのところで一緒に働くことになったって話した人間種の女の人」


 その女の子にはコロネも見覚えがあった。

 給仕で一緒だったエルフのサーファちゃんだ。

 なるほど、この魔法屋が彼女のお家だったのか。


「サーファちゃんのお家って、魔法屋だったんだ。知らなかったよ」


「あれ? 言ってなかったっけ? うん、そうだよ。うちのお母さんが魔法の先生をやってるの。わたしはその助手」


「ああ、サーファが昨日言ってた新しい料理人さんかい。それは、うちの娘も世話になったね。そうかい、そうかい。そういうことなら話が早い。どんな魔法が入り用か知らないけど、ちょっとだけ割安で請け負うよ」


「あ、ありがとうございます。ええと」


「フィナだよ。お嬢ちゃん。これだけ恰幅が良いと誰も信じちゃくれないかもしれないけど、一応はエルフって種族だよ。ふふふ」


 そう言って、どこか楽しそうに笑うフィナ。

 確かに、サーファは可憐なイメージで耳がピンととがっているからエルフって感じがするけど、フィナの方はというと、どちらかと言えば、威勢のいい女将さんといった風情の体格だ。もちろん、耳を見ればエルフだとわかるが、確かに少しイメージとは違うかもしれない。

 まあ、これはフィナの持ちネタのようなものなのだろう。

 ひとまず、頷きもせず、コロネは棚上げすることに決めた。


「で、どんな魔法が覚えたいんだい? まあ、迷い人なら、基礎四種がお勧めだね。あとはまあ、適正によるから、試してみないとわからないねえ」


 基礎四種とは、火・水・土・風のそれぞれ最初に習う基礎魔法をまとめた通称なのだそうだ。

 火魔法はともし火を出す『ファイアライト』、水魔法は水玉を発生させる『アクアボール』、土魔法は足元に土枷を作り出す『アースバインド』、風魔法は風を生み出す『ウインド』、以上が基礎四種と呼ばれる魔法とのこと。


「いえ、欲しいのは身体強化の魔法なんですけど」


「ああ、モンスターと戦いたいとか、かっこいい魔法が使いたいとか、そういうわけじゃないんだね。うん、確かに身体強化の魔法は地味だけど、冒険者としても、普通に暮らすだけにしても、覚えておいて損はない魔法だね……うん、気に入ったよ! じゃあ、身体強化の魔法を教えよう。金貨一枚だよ。それにサービスして、ただで、基礎四種もつけてあげようかい」


 ちなみに、横でサーファが教えてくれたが、普通はどんな簡単な魔法でも、その十倍以上はかかるらしい。確かに十万円で魔法が覚えられるといったら、それほど高い買い物ではないだろう。

 まあ、コロネは内心で冷や汗をかいていたのだが。

 予算が金貨三枚とは、言いづらい空気である。


「じゃあ、地下室の方へ移ろうかね。一通り、実践しないといけないからね」


 フィナに連れられて、地下室へと移る。

 そこはちょっとしたテニスコートくらいの広さがある部屋だった。

 四方の壁には、文字のような模様のようなものが全面に刻まれていた。魔術的な処置が施されているのだそうだ。

 この部屋の外には、どれほど強力な魔法を使っても漏れ出ることはないのだとか。


 部屋の中央にフィナが立つ。

 少し離れた場所に、コロネが立たされる。

 サーファは入ってきた扉の前に立ったままだ。


「まずは、身体強化の魔法からだね。これは簡単だよ。いわゆる付与魔法と呼ばれるもので、一度、誰かから身体強化の付与を受けると、自分に対しては魔力がもつ限りは身体強化をかけることができるようになる」


 その説明にコロネは少し驚く。

 それなら、身体強化を使える誰かに頼めば、可能なように思えたからだ。

 だが、世の中そこまでは甘くないらしく。


「まあ、他者に付与を与えるようになるためには、相応の魔力と高レベルの身体強化が必要になるから、そこまでが長いんだけどね。何せ、このあたしも百五十年以上は費やしているんだから、簡単じゃないよ」


 納得。

 いやいや、フィナの年がいくつかの方が気になってしまう。

 女性には聞きづらいから、尋ねないけど。

 ただ、その視線だけで、フィナには気付かれてしまったらしい。


「あたしはこう見えて、百七十五歳だよ。ちなみにサーファは十五歳。二十代で成長が緩やかになる種族だから、うちの子たちは見た目通りだよ」


 ちなみに、サーファの兄は十七歳なのだという。

 今はこの町にいないが、もうしばらくで帰ってくるとのこと。


「じゃあ、始めるよ。力を抜いて楽に立ってみな。うん、そう、それでいい。じゃあ、行くよ――――『付与:身体強化』!」


 その瞬間、淡い光がコロネを包み込む。

 今朝、パン工房で見た光をさらに強くはっきりさせたような感じだ。

 なるほど、これが本職の身体強化らしい。


「はい、これで大丈夫だよ。これは付与魔法の系統だから失敗はないよ。後はひたすら訓練あるのみだね。慣れてくると、常時使用できるようになる」


 注意点としては、訓練は仕事が終わってからしなければいけないとのこと。

 限界を超えて、使用すると魔力切れと同時に『枯渇酔い』の状態になるのだそうだ。


「まあ、ヘロヘロの状態で仕事したいっていうのなら止めないけどね」


「わかりました。気を付けます」


 さすがにそれはコロネも御免こうむるので、心の手帳に記録しておく。

 ということは、早番の間ずっと使っていられるアルバイトのみんなはすごかったのか、と今更ながら痛感する。

 コロネはまだまだのようだ。


「じゃあ次、基礎四種だよ。これも簡単って言えば簡単。『属性花』を食べるだけで、反発属性のない属性の魔法は覚えられる。ただ、これは失敗する属性も出てくるのが普通だね。属性特化と呼ばれる体質持ちは、特化した属性以外のものは反発してしまうしね」


 『属性花』というのは、四種の属性のエッセンスを凝縮したマジックアイテムのことで、花びら一枚食べるだけで、基礎四種を覚えることができるそうだ。

 この花自体が希少性が高いのと、栽培には相応の魔力が必要になってくるため、場所によっては花びら一枚で金貨百枚にも相当するらしい。

 この町では、フィナが栽培可能なため、彼女の気分価格なのだとか。


 と、フィナが近づいてきて、コロネに花びらを手渡す。


「はい。そのまま食べてみて。心配しなくても毒じゃないから」


「わかりました。では……うわ、この味……」


 美味しくない。

 そう、コロネが思っていると、身体から赤・青・黄・緑の光が現れ、その直後、茶色の光によって包まれて、そのまま消えてしまった。


「あれ……?」


「光が出たってことは反発属性はない……と思うけど。おかしいねえ、こんな反応今まで見たことがないよ」


 サーファとフィナ、親子ふたりが首をひねっている。

 聞けば、普通はそれぞれの属性に対応した光がしばらくは出続けるのだそうだ。

 『属性花』は四種の属性しか含んでいないため、茶色の光が発動することはあり得ないのだそうだ。


「『ファイアライト』! 『アクアボール』! 『アースバインド』! 『ウインド』! ……やっぱりダメですね」


 念のため、とフィナに言われて試してみたが、すべての魔法が発動しない。

 もともと積極的に覚えたいと思ってはいなかったが、こうなると少しショックではある。

 基礎四種は失敗ということだ。

 念のため、ステータスを見たが、スキルで追加されているのは『身体強化』のみだ。

 フィナも慰めるように、頭を撫でてくる。


「まあ、魔法だからこういうこともあるよ。あたしの余計なお節介だったねえ。ごめんよ。お詫びに身体強化の方もただでいいよ」


 そう言われたが、さすがに申し訳ないので、半額にしてもらった。

 よくよく考えれば、本来の十分の一以下の値段で、欲しい魔法は手に入ったのだし、ここは気持ちを切り替えて喜んでおこう。

 

 そう思い、コロネは笑顔でふたりに感謝の意を示した。

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