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家族同級生  作者: アニッキーブラッザー


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第五話「俺たちの青春はこれからだ」

一旦終わらせます。

 春也は目覚めていつもと変わらぬ自分の部屋の天井を見た。体を起こそうとすると、体の痛みが襲い掛かった。その痛みが、昨日の出来事全てを思い出した。

 

 突然過去から高校生の時の両親が現れた。

 ついでに、未来から高校生の自分の娘も現れた。

 

 傷の痛みから察するに、夢ではなさそうだ。それだけで少し憂鬱になった。

 清々しい朝日がカーテンの隙間から入り込んでいるが、憂鬱な気分と体の痛みや疲れから、春也は普通に二度寝をしようとしてシーツを頭から被って目を閉じる。

 しかし……


「さっさと、起きろってんだよ!」 


 二度寝しようとしていた春也の頭がフライパンで殴られた。激痛で目を覚ました春也の視界には、ロングスカートのセーラー服を着たスケ番がそこにいた。


「春也、いつまで寝てんだい? さっさと行かないと遅刻するよ? 入学式だろ?」


 コブのできた頭を押さえながら、春也は女を睨む。


「若葉樹夏……テメエ……」


 その瞬間、フライパンが再び春也の顎にヒットした。


「呼び捨てにすんじゃねえよ。あたしはあんたの母ちゃんなんだろ?」

「誰が母ちゃんだ、コラァ!」


 ブチッと音を立てて、春也が枕や布団など手当たり次第に投げつける。

 すると枕が顔面にヒットした樹夏も、青筋立てて春也に枕を投げ返す。

 朝早くからうるさい部屋。それをさらにうるさくする人物が部屋の扉を開けた。


「おう、春也! 樹夏! 朝から楽しそうじゃねえか! 俺も混ぜろや!」


 扉を開けたのは、長ラン着込んだリーゼント頭のヤンキーだった。


「勝手に人の部屋入ってくんじゃねえ、獅貴冬望也!」

「呼び捨てにすんじゃねえ! 俺はテメエの父ちゃんなんだろ?」

「誰が父ちゃんだコラァ!」


 冬望也の乱入で、枕どころか本に机にベッドまで狭い室内で投げ合いとなる。


「やっほほーい! おとーさん、おじーちゃん、おばーちゃんも! 朝からお盛んですな!」


 騒ぎを聞きつけ、サムズアップしながら秋桜まで便乗する。


「誰が、おとーさんだァ!」

「ちょっと待て! じーちゃんは流石に無理があるぞ!」

「誰がババアだ! この脳みそおめでた女!」


 獅貴家始まって以来の騒がしすぎる朝が始まるのだった。




「「「いただきます」」」


 丸い卓袱台を囲んで一斉に「いただきます」を言ってゴハンを食べる。この光景に帆斗は涙を流して食事を詰まらせる。


「うう……こんな賑やかな朝飯は何年振りか……」


 息子に息子の嫁に孫にひ孫に囲まれての食卓。ここ数十年は、なかなか家に帰る機会の少ない春也以外と自宅で食事をしたことのない帆斗は、歓喜の涙を流した。


「おやじ……」

「ふふ、おじさん。おかわりはまだあるよ。いっぱい食べてもらうからね」


 冬望也と樹夏は帆斗の涙に少し照れくさそうにしながら笑う。秋桜もニコニコとしている。

 だが、春也だけはブスーッとしていた。


「おい。老い先短いジジイの感動は別にして、テメエらはいつになったら帰るんだよ」


 感動の光景を春也が一気にぶち壊す。


「おバカりーな!」

「はぐわ!」


 秋桜が投げた茶碗が、春也の顎に命中した。


「まーったく、この拗ねちゃま! スーパー空気読めない人ですね、ハルちゃんは!」

「こ、このガキがァ! つーか、ハルちゃんだと?」

「ガキじゃないです、タメですよう! それに、おとーさんって呼んじゃダメなんだから、他の呼び方をするしかないじゃないですか!」

「ああん?」

 

 今すぐにでも取っ組み合いのはじまりそうな春也と秋桜。


「食事中は静かにしな!」


 そんな騒がしい二人の頭をエプロン姿のスケ番がオタマで引っぱたいた。後頭部に直撃したために相当痛かった二人は、同じような体勢で頭を押さえながら悶えた。


「ったく、春也、秋桜。今日からは同じ学校に通うんだから、仲良くしようじゃないか」


 樹夏のその言葉に全員がピタッと箸を止める。


「そーそー。昨日の夜、秋桜が居なくなってどこ行ったのかと思えば、まさか俺たちの入学手続きをしてやがるとはな」


 ケラケラと笑う冬望也。しかし次の瞬間、春也は「ウガー」と叫んだ。


「つーか、なんなんだよそれは! 受験だってとっくに終わって、ましてや戸籍も住民票もよく分からねえお前らが、何で俺と同じ高校に入学出来んだよ!」

「それはー、秋桜ちゃんの未来技術で♪ 大変でしたよ~、この家はコンピューターも無いので、全部ネットカフェでの作業でしたから。色んな物の偽造や裏金……」

「犯罪じゃねえのかよ! 大体、金ってなんだ!」


 漫才のようなボケとツッコみを繰り返す春也と秋桜。傍目で見ると息がピッタリである。

 だが、春也がどれだけツッコみを入れようと、現実は変わらない。

 そうだ。何と昨晩行方をくらませた秋桜は、たったの一晩で冬望也と樹夏と自分自身の必要なモノを手に入れ、全員で春也が入学する予定の高校にねじ込んだのである。「どうやって」としきりに聞いても、帰ってくる答えは謎と犯罪じみた言葉だけ。しかもその事を気にしているのは春也だけ。残りの連中はむしろ秋桜の所業に親指突き立てて賛同しているのであった。


「だーいじょうブイ! 何十年も昔のシステムや法律で私を捕らえられませんよ! お金に関しましてもチョイと先物買いで♪」

「だからって高校に入学までするこたーねーだろうが! 何で元の時代に帰らねーんだ!」

「だって~、帰れって言われてもどうやって帰るんですかー?」

「……」

 

 そこでまた沈黙になる。そう、流星群の起こした奇跡は一晩だけで終わらなかった。

 なんと、次の日になっても冬望也たちは居たのだった。昨晩の出来事で春也もそこまで冬望也たちに憎しみを抱かなくは無かったが、それでもこれとこれは別問題だった。


「ハルちゃ~ん。私は良いんですよ~? むしろお父さんとタメになれるなんて、激烈ファザコンの私には願ったり叶ったり? むしろバッチ来い? 同級生なんて青春は爆発だ!」

「吐き気がする! つーか、腕を回してんじゃねえ!」

「ノォ! 照れるなでござりまする」

「……おい、離せ……」

「ご、ごめんなさい。やり過ぎましたのでそちらも離してください」


 低い声で春也は秋桜の顔面を掴んで脅す。秋桜も汗をダラダラ流しながら反省した。

 まったく、これからどうなると言うのだ? 真剣に考えているのは春也一人だけで、冬望也も樹夏も帆斗も誰もが悩むどころか、この状況を満喫していた。


「ほら、春也もさっさと制服に着替えろ!」

「いやー、過去から着てきた制服がそのまま使えて良かったよ」


 そして、冬望也と樹夏も春也と同じ高校に入学する気満々であった。二人は二十年前に一度高校入学を体験しているために、二度目の入学式となるのだが。


「……って、ちょっと待て! テメエらマジで入学するにしてもその制服使う気か!」

「変か? お前が入学する崎川高校と同じ制服だろ?」

「どこの世界に入学式当日に長ランで行く奴が居る! 応援団長のつもりか! クソ女もロングスカート履いて、何考えてやがる!」

「なっ、ロングスカートの何が悪いってんだい。それより私は秋桜の短いスカートの方が問題あると思うよ。下着が見えるじゃないかい」

「えっ? かわゆいでしょー? それにパンツは見えませんよ? 私のスカートの下はまるでアニメの規制が掛かっているかのように黒いモヤモヤが発生してパンチらを防ぐシステムになっているんですから。ハルちゃんだって、見えそうで見えないでドッキドキになるっしょ?」

「くそ……タメなのに時代の差を感じるぜ……」


 前途多難。やりたい放題で生きてきたはずの春也は、初めて自分以外の人のことで頭を悩ませた。

 だが、まだ気づいていない。それが幸せな悩みだということを。


「ふふ~ん、ハルちゃん」

「ああ?」

「楽しいですね」

「楽しくねーよ」

「でも、楽しみですよ。それに~、学校に行ったら、高校時代のお母さんにも会えるわけですし~」

「……え?」

「あっ、あれ? あっ、そっか。お母さんは小学校の頃からお父さんのこと好きだったけど、高一の頃はお父さんはまだ……」

「おい、今、スゲー怖いこと言ってなかったか?」

「にひひひ~、なんでもないですよ~。っていうか、お母さんとお父さんを取り合うってのもおもしろそ……よし、私は学園のマドンナ、綾瀬舞雪のライバルになります! ってことで、シクヨロ!」

 

 絶対にありえぬ光景。

 両親と娘と一緒に学校へ通うこと。クラスメートになること。

 そして、共に青春時代を過ごすこと。


「「「「いってきます」」」」


 獅貴家の青春時代が、今日から始まった。

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