第7話
父カルドスが帰ってくるまで、俺はどうやって親を説得するか考えていた。
考えがまとまった頃には、もう空が茜色に染まっていた
風呂からあがり(今日もカルドスと入った)夕飯を食べている途中、俺はタイミングをはかって話を切り出した
「父さん、母さん。話があるんだ」
なにやら真剣な雰囲気を感じ取ったのか、2人は食事の手を休める
「なんだい?」
「俺、旅に出たいんだ」
ナナリーが驚きの表情を浮かべる。カルドスは表情一つ変えていない
「な、なにを言っているの?」
「だから、旅に出たいんだ。今すぐとは言わない。お父さんに剣の稽古をつけてもらうつもりだし、カナリアに魔法を習う約束もした」
「ふむ。カナリアから魔物の話を聞いたのか?」
カルドスが冷静な声で聞いてくる
「うん。俺は人々を助ける旅がしたい。お父さんみたいに騎士団に入るのもいいと思って
る」
カルドスはしばらく俺の目を真っ直ぐに見つめていたが、やがて頷いた
「わかった。稽古をつけてやる」
「なっ──」
ナナリーが息を呑む
「アナタ、何を言ってるの?この子はまだ7歳なのよ⁈あまりにも若すぎるわ!」
「俺も7つの時には剣の稽古をしていた。親が傭兵はぐれだったからな」
「でもっ──」
「ナナリー、ソーヤの事が心配なのはわかる。だが、今すぐに旅に出るわけじゃないんだ。俺が稽古をつけて、素質がなければ旅にはださない。いいよな?ソーヤ」
俺は頷く
「でもっ──」
ナナリーはまだ何かを言いたそうだ
「俺は14になったら旅に出るつもりです。これから7年、修行を積みます」
「……もう何を言っても無駄みたいね」
ナナリーは呆れたように呟いた
「よし、なら俺は寝る。ソーヤ、明日は朝早くに起こすからな。早く寝ろよ」
カルドスはそう言い放って部屋に戻っていった
「…これもカルドスの血かしらね。ソーヤ、ここ数日でずいぶんと大人になっちゃって…」
ナナリーが窓の外を見ながら憂げに呟く
「おやすみなさい」
独り言のようだったので、無視しておやすみの挨拶をして部屋に戻った
「オラァッ!さっさと起きんかぁッ‼︎」
大声が聞こえたと同時に、布団をひっぺがされる
何事かと慌てて飛び起きると、ベッドの横にはカルドスが立っていた
「シャキッとせんかッ!戦士の朝は早いぞ!さっさと顔を洗って家の外に来いッ‼︎3分以内にだ!」
そうまくし立て、カルドスは部屋から出て行った
家の外から「はい、いーち!はい、にーぃ!」と魔のカウントダウンが始まったので、慌ててベッドから飛び起き、顔を洗って外へ出る
「2分18秒。遅いッ!」
えぇー。なにそれ、3分以内じゃん、遅くないじゃん
「これより、早朝訓練を始める!村を一周走ってこい!時間は、朝ごはんができるまでだ。さあいけっ!」
渋々俺は走り出す
なんてこった。スパルタだった。村一周ってなんだよ。朝ごはんができるまで⁈お母様、ゆっくり作ってください‼︎
走り終わって、息を切らしながら家にたどり着いた時には、すでにカルドスは朝食を済ませていた
「遅いぞッ!まあ、走り切ったことは褒めてやる。では早朝訓練はここまでだ。飯食ってこい」
「はぁ、はぁ、はぁー。し、死ぬるっ」
「そんくらいでへばるようじゃ、旅なんてまだまだ先だな」
そう言い残し、カルドスは畑へと向かっていった
勇者になるためだ。がんばれ、俺
自分自身を応援しなければ、もう心が折れそうだった
朝食後から夕方までは、自由時間だったが、俺は寝ていた。朝の疲れがまったく取れる気配がなかったからだ
夕方、カルドスが帰ってきてからは、まず薪割りをさせられ、そのあと、風呂が沸くまで筋トレと柔軟
風呂が沸いたら、カルドスと一緒に入る
大変不本意だが、疲れで寝てしまうかもしれないと考えると仕方ない
夕飯を食べ終わると、俺は布団にダイブした
「つ、疲れた──」
意識が深い眠りへと引きずられて行った
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