第6話
「遅くなって…すみませんでした」
家に帰ると、カルドスはとっくに食事を終えて畑に向かったらしく、家にはナナリー1人だけだった
恐る恐る謝る俺と、その後ろで気まずそうに視線を泳がせているカナリアを尻目で見つつ、ナナリーは黙々と食器を洗い続ける
しばらくの沈黙
食器を洗い終わったナナリーが口を開く
「早く戻ってねって言いましたよね?」
「ごめんなさい」
「すみませんでした」
シュンとする俺とカナリア
「はぁ、まあいいわ。ソーヤは罰としてご飯はそこにあるパンだけ。カナリアちゃんには、スープあるけど?」
ナナリーの指差した先には、一本のフランスパンみたいな長いパンが置いてあった
「いえ。私も少年と同じ罪を犯しました。ので、少年と同じ罰を受けます」
カナリアさん、パン、一つしかないよ?
「そう…真面目なのね。それなら、ソーヤと半分こしてね」
おいぃぃぃ!俺の飯減ったぞ!
「わかりました」
わかるなぁっ!お願いします!スープを頂いてください‼︎
「さぁ、少年。半分こだ。私がちぎってあげよう。安心しろ、ちゃんと均等にするから」
えー。少し俺の方大きめにするとかしないの?
「では食べようか、少年」
カナリアから渡されたパンは、きっちりと半分こされていた
「あんがと」
受け取ってかじりつく
ふとカナリアの方を見ると、目があった。カナリアが微笑む
なんとなく気まずくなって顔をそらした
なぜか、いつもの料理より美味しかった
食事を終えると、カナリアは荷物を整え始めた
「あら?もう行っちゃうの?もうすこしいればいいのに」
残念そうにナナリーが言う
「いえ。一刻も早く魔物の凶暴化のことを東の森へ伝えなければならないので」
「そう。もし帰りに通りかかったら、また寄ってちょうだいね」
「そうさせていただきます。では、カルドスさんによろしくお伝えください」
玄関で頭を下げ、出て行こうとするカナリア
「じゃあ、僕見送りにいくよ!」
と言って俺はカナリアと外へ出る
「なあ、カナリア、魔物の凶暴化ってどういうことだ?」
「つい先週、私の住む南の森の集落が、ゴブリンの群れに襲撃を受けたのだ。被害は皆無だったが、今までに無い行動だったので、南の森の長が調べたところ、ゴブリンだけでなく、他の魔物達も人間を襲ったりとしていることがわかった」
「ん?ていうことは、魔物は今まではおとなしかったってことか?」
「そうだな、人間を襲うことはあったが、それは人間で言うところの狩りのようなものだ。要するに食料調達だな。しかし、凶暴化した魔物は、ただ人間を虐殺しているだけ。わかるか?行動原理が今までとは全く違うのだ。この現象が、南の森周辺だけのものなのか、それとも他の地域も同じ現象が起こっているのかわからないが、どちらにせよ、情報の伝達・収集のために東の森へ行かなければ」
魔物の凶暴化によって人間に被害が出ているという言葉を聞いた時点で、俺の考えは決まっていた
「なあ、カナリア。頼みがあるんだが」
「なんだ?少年」
カナリアが足を止める。いつの間にか、門の前についていた
「その伝達と収集が終わって、南の森に帰るとき、この村に寄って俺に魔法を教えてくれ」
「なぜ?」
「魔物による被害は、人間にも出ているんだろう?それを無視しちゃおけない。この世界で、俺の第二の人生で何をしようか考えていたとこだったけど、今決まった」
少し間を置いて、カナリアの瞳をじっと見据え、宣言する
「俺、勇者になる」
「そうか、わかった。私が戻ってくるまでの間に、カルドスさんと、ナナリーさんを説得しておけ。旅に出たい、と。剣の修行もつけてもらっておけ」
「わかった」
俺が頷くと、カナリアを身を翻し、門の外へ歩きだした
その背中が見えなくなるまで見送った後、俺も家に戻る
さて、まずは両親の説得からだ
なあに、やってやるさ。俺は天才だからな