第5話
「少年、君は一体何者なんだ?」
え?
「どういう意味ですか?」
「もし演技ならやめろ。お前の魂、子供のものではない」
魂⁉︎カナリアの言うことが本当なら、魂だけタイムスリップしたという仮説が正解だったか。いやまて、なんで魂見えるの?エルフすげー
「それはどういう意味だ?」
カナリアはやはり、と言った顔で応じる
「少年。君の魂から湧き出るマナは、この世界のものとは異質なものなのだ。それ以前に、子供のものではなく大人のマナだ」
マナ?なんぞやそれは
「マナとはなんだ?」
「全てのものの力の源。マナによってあらゆる生命は育まれるし、魔法もマナを使って発動するのだ」
なるほど。さっぱりわからない。それに、この人俺に敬語じゃないな
「悪いが全くわからない。俺たち人間が生きているのは心臓があるからだ。他の生物だってそうだ。違うのか?」
マナなんてもの、俺は信じない。腐っても科学者
「植物はなぜ成長する?植物には心臓がないが生きている。それに、君は意識的に心臓を動かしているのか?違うだろう?腕や足などは意識して動かすことができるし、呼吸は意識的に止めることができる。なら心臓は?」
ふっ。説明してやろう。長くなりそうなので、道端に腰を下ろすと、隣にカナリアも座った
近い!近い近い!ドキドキする!いい匂いがするっ!
心を落ち着け、説明を、始める
「心臓は主に筋肉で出来ている。その筋肉を作っている細胞が縮んだり緩んだりする事と、全身を回って戻ってきた血液の圧力で動いているんだ。縮む仕組みは腕や足の筋肉と同じであり、ATPという物質の分解をエネルギー源としている。腕や足の筋肉と異なる点は、意思では直接コントロール出来ないところだな。「動かそう」と意識しなくても、主には心臓自体に備わった「刺激伝導系」と呼ばれるペースメーカー的な仕組みにより自律的に収縮を繰り返していて、あ、ペースメーカーってわかる?ペースメーカーってのは
──────☆省略☆───────
というわけだ」
ふっ、わかったか?
「では、その細胞はなはぜ動くのだ?」
そこまでは俺は知らない
「マナが関与しているからだよ」
もうわかった。受け入れよう。マナ最高!
「わかったか?」
「はっ。カナリア様」
カナリアは急変した俺の態度に首をかしげる
なにその仕草。かわいい
「さて、本題へ戻るとしよう」
カナリアが切り出す
「俺が何者なのかって事だったな。正直言って、俺もよくわからんのだが、ここに至るまでの事を全て話すよ───」
それから俺はカナリアに過去全てを語った(2話、3話参照)
以前いた世界のこと、科学者だったこと、タイムスリップに失敗したことなどなど
カナリアはとても聞き上手で、時々合いの手をいれてくれて、とても話しやすかった
「──というわけだ」
今までのことを全て語り、俺は地面に寝そべった。久々に長く喋ってしまった
「なるほど。さっぱりわからんな」
今までの時間返せ!
「冗談だよ」
カナリアが笑う。とても綺麗な声で
「君は別の世界から魂だけでこちらの世界にやってきて、ソーヤ=ウィルシードに取り付いた、というか、一体化したというべきかな?または、体を奪い取ったか」
まあそんなところだろう。奪い取ったという線はあまり考えたくないが
「つまり、この世界が俺のいた世界と同じルートを通っていたのなら、このソーヤ=ウィルシードが鷹谷創也になっていたってことなのか?」
だから俺の魂はこいつの体にはいった。何の関連もない体に魂が入り込むなんてことはないだろうし
「そうか。それで、君はこれからどうするつもりだ?」
「まだ考えてない。このまま農家として暮らすつもりはない。せっかくの第二の人生、無駄にしたくはない。というか、カナリアさんはなんで俺の正体を聞いたんだ?」
「ただ気になっただけさ。この世界のものではない、異質なマナがね」
なるほど。これで、実は俺は選ばれし者だった説は消滅した。いやあ、魔王倒すために召喚されたとか期待したんだけどなぁ
ぐるるるるる
『あ』
俺の腹の虫の鳴き声で、俺とカナリアは慌てて家に戻った
いつ旅立つんでしょうかね