第4話
朝起きてリビングに行くと、父と母が誰かと話していた。客人かな?
「──そうか。それで君は東の森へと警告に行く道中でここに寄ったわけか」
「ええ。命の恩人の住んでいる村と知りながら通り過ぎることはできませんし」
誰だ?
そんな俺の心の声が聞こえたように、客人はタイミングよく後ろを振り返った
「おや、この子は…?」
客人はなんとエルフだった。
Q.なぜわかるのか?
A.耳が尖っているから
「ああ、そいつは息子だよ。ほら、ソーヤ、挨拶しなさい」
慌てて頭を下げる
「こ、こんにちは」
すると、エルフの女性も椅子から立ち上がり、頭を下げて挨拶してきた
「こんにちは。カナリア、と申します」
「カナリア?苗字はないの?」
「 エルフに苗字はないのですよ、少年」
カナリアは鈴のなるような綺麗な声をしている
「なんで?」
「もとは皆、同じエルフだからです。私たちの血を遡れば、行き着く先は二人の男女のエルフです。なら、全員家族も同然ではないですか。それをなぜ区別する必要があるのですか?」
どうやらエルフは人間とは少し違う価値観を持っているようだ
あらためて、カナリアの容姿を観察する
ポニーテールのように後ろで結った美しい金髪と深い碧色の瞳、顔の黄金比って本当にあったんだなぁと思ってしまうほどパーツが完璧な配置の顔。上半身のラインを強調するかのようなグレーのコルセットに身を包み、これもまた細さを強調するかのように脚にフィットした黒のズボンに、膝まであるブーツを履いている
全体的に細いイメージを持たせる服装をしているが、出るとこは出ている
椅子にかけてある白いマントもおそらくカナリアのものだろう
「何しにここに来たの?」
「東の森の集落への伝令の道すがら、昔命を助けて頂いたカルドスさんに挨拶をしようと思いまして」
「お父さんが?」
確かに強面だし体中傷だらけだけど、命を助けた?農民だぜ?
「聞いていないのですか?カルドスさんは昔、聖都サクライの騎士団長をしておられたのですよ?」
初耳だった。すごいじゃんお父様
「でも、お父さんは毎日畑仕事をしているよ?」
その質問にはナナリーが答えた
「それはね、お父さんが遠征でこの村に寄ったとき、私に一目惚れしちゃったのよ」
「おいおいナナリー、その話はしないと言ったろう?」
カルドスが顔を赤くしてナナリーの言葉を遮ろうとする、が、ナナリーは話続ける
「それでね、父さんが遠征の帰り道でまた村に尋ねてきて、私と一緒に聖都で暮らしませんか?ってプロポーズしてきたのよ」
カルドスは机に頭を伏せているのだが、見えている耳が赤い
「それからどうされたのですか?」
と、カナリアが合いの手を入れる
「私が、村から出るつもりはありませんって断ったのよ。この村ののどかなところが私は好きだったから。そしたらお父さん、素直に引き下がって帰って行ったと思ったら、1ヶ月後にまた村にやってきて、『騎士団長の座は譲ってきました。僕と結婚してください』って!」
母ナナリーは夢見る乙女の顔で昔の事を思い返しているようで、ぼーっと宙を見つめついる
父カルドスは、耳を真っ赤にして顔を上げようとしない。再起不能のようだ
「カルドスさん、一度決めたことは曲げようとしない人でしたからね」
それにしても驚いた。両親ともに農家の出かと思っていたが、まさか父親が元騎士団長だったとは
グーッと俺の腹の虫が鳴いたのを聞いて、ナナリーの意識が過去から戻ってきた
「はっ、朝ごはん作らないと!」
「それでは、私はこれで」
席を立って、帰ろうとするカナリアをナナリーが呼び止める
「朝ごはんくらい食べて行ったら?まだなんでしょう?」
「しかし、迷惑では?」
「食べて行けばいいじゃないか」
いつの間にか復活したカルドスも食事を勧める
「そこまで言われるのでしたら‥。料理、手伝います」
「いいのよ、待っていて」
「では、少し散歩をしてきます」
カナリアがマントを羽織って言った
「少年、君もどうだい?」
えっ?俺ですか
「いく!いいでしょ?お母さん」
エルフと話す機会なんて滅多にないだろうし、着いて行くことにする
「ええ、いってらっしゃい。ご飯ができるまでには戻ってね」
「わかりました」
人生ではじめて女性と散歩する。
デ、デートと思っていいのだろうか
「一つ聞きたいことがある」
家から少し離れると、カナリアが俺のことを見つめ、話しかけてきた
すごく綺麗な顔だ。
「少年、君はいったい何者なんだ?」
え?