第3話
──状況を把握、記憶を整理しよう
一つ、ここは今までいた世界とは違う
二つ、俺は子供になっているが、記憶を引き継いでいる
三つ、今俺は知らないおじさんとおばさんと一緒に食事をしている
四つ、彼らは俺の親らしい
おかしいな、整理できてないぞ
実験は失敗した。これは間違いない
そして、俺は前の世界の記憶を引き継いでいるし、現在の年齢は7歳らしいので、生まれ変わりってこともなさそうだ
前の世界の俺はどうなったんだ?死んだのか?意識不明の重体か?
いやまて、何故記憶がある?人気の記憶は脳に刻まれている。ということは、この子供と俺の脳が入れ替わった?まさか、そんなことはないだろう
タイムマシンはどこへいった?気がついた時、空をみたので、空中に浮いていないのは確認している
頭が痛い。非科学的すぎる
タイムスリップには諸説ある。その時代に別の自分がいるタイプ、その時代の自分が、タイプスリップした自分になるタイプなと、様々だ
その中にパラレルワールドという説がある
タイムトラベルで行き着いた先は実際は現実に酷似したパラレルワールドであり、どの時間軸で歴史を変えようとしても、自分がいた元の世界には影響しない。あるいは、多世界解釈的に、パラドックスを生じさせるような事態が起こった時点でパラレルワールドが発生する、もしくは元から時間が経過していくごとに別のパラレルワールドが随時無限に発生していく
という話だ
簡単に説明すると、ギャルゲーの分岐ルートみたいなもので
── キスしますか? はい/いいえ
ここで『はい』を選んだ場合、『いいえ』を選んだルートが、『はい』のルートのパラレルワールドというわけだ
しかし、この世界は元いた世界と酷似どころか、全く似ていない。どちらかというと、現実ではなくゲームの世界に似ている
先ほどのこの女性の口から発せられた、『コボルト』という単語から、この世界には魔物がいると推定される
あの心配の仕方だと、犬の顔をもつ毛むくじゃらの小鬼の方だろう。妖精ではないはずだ
そこまで考えて、ため息をつく
ずいぶんとファンタスティックな世界に来てしまったようだ
「ソーヤ、どうしたんだい?さっきから黙っているが」
父親?が話しかけてくる。黒い髪を短く刈り上げていて、目が鋭い。怖い顔だ。なんとなく親父の面影があるのは気のせいか
「少し怒りすぎたかしら」
母親?が心配そうな顔をする。こちらは金髪を後ろで結って、ポニーテールのようにしている。優しそうな翠色の目をしている。こちらも、おふくろの顔になんとなくだが似ている
「そんなんじゃねーよ」
しまった。今の言葉遣いは明らかに7歳児とは思えない
というか、7歳ってどんな喋り方するんだ?
母親?は一瞬いぶかしむ仕草をするが、すぐに微笑む
「ソーヤったら、お父さんの真似をしていたのね」
なるほど、やはり父親と母親のようだ
「にてた?」
勘違いに漬け込む
「とぉっても似てたわよ、こっちがお父さんかと思っちゃったわ」
「おいおいナナリー、それはひどいじゃあないか」
父親が笑いながら言う。笑うと怖くないな、顔
母親の名前はナナリーっと
「冗談よ、アナタ」
父親の名前がわからん
夕飯を食べ終わると、父親に抱き上げられた
「久しぶりに俺が風呂に入れてやろう」
うわぁい、30歳過ぎているであろうおっさんと27歳の俺が一緒にお風呂にはいるぞお!
風呂から上がり、寝巻きに着替えさせられた後、ベッドに連れて行かれた
自分の部屋がどこかわからなかったので、親に怒られるまで起きておき、まだ寝ない!作戦を、つかった
作戦は上手く行き、結果お父さんに担ぎ上げられ、部屋まで連行された
明日はこの家の間取りを調べることにしよう
ベッドに寝かされ、父親におやすみのキス(ほっぺたにされたので、俺のファーストキスは守られた)をされたあと、俺は眠りに落ちた
翌日、食事の匂いで目が覚めた
ベッドから起き上がり、リビングへ向かう
「おはよう、お父さんお母さん」
母親、ナナリーは台所で料理を作っていた。
父親は席に座って何かを飲んでいる。匂いからするにコーヒーだろうか?
「今ミルクをあたためているから、待ってね」
と言われた。「うんっ」と返事をして席に着く
昨日の夕飯のメニューで、この世界には、以前いた世界と同じ野菜があることはわかった
ミルク、ということは、牛も存在するのだろうか
「はい、お待たせ」
俺の前に湯気が昇る白い液体の入った木製のコップが置かれた
ふーふーと息をかけて、冷ましてから一口飲む
うん、牛乳の味がする
それから、朝食が出てきて、みんなで食べた
食後は、母親とのお勉強の時間だった。
内容は文字を、書くことと足し算引き算をすることだった
とても難易度が高かった。子供が書いたような字を書くことが
文字の練習はひらがなとカタカナだった
そのあとは自由に動いていいようで、とりあえず家の外へ出ることにした(村からは出るなと釘を刺された)
太陽の位置で方位を確認し、自分の家が村の最南端にあることがわかった
村はとても小さく、家の数はなんと14軒しかなかった
村の周りには木製の塀があり、村に入るには、西側にある門を通らなければならないようだ
門から外を見ると、花畑がみえた
村の真ん中に井戸があったので、覗き込んで自分の顔を確認する
黒い髪、翠色の目。幼いが、整った顔立ち。将来イケメンになれるかもっ!いや待てよ?この顔あれだ、俺の小学生の時の顔に似てるな
村の北側にある畑で作業している大人の中に、父親の姿を見つけたので走り寄ると、父と一緒に作業していたおじさんが、「この子は確かウィルシードさんの息子さんでしたな。とても可愛らしい顔をしていますな」と言っていた。
なるほど、苗字はウィルシードと言うのか。文字は日本語なのに、名前は外国人みたいだ
一通り村を探検したところで、空が茜色に染まり始めた
そろそろ帰ろうか
家に帰ると、母が待っていて俺の頭を撫でて、「暗くなる前に帰ってきたわね。偉い偉い」と言った
「ずいぶんと泥だらけになったわね、今日は先にお風呂に入りましょうか」
ナナリーは俺を風呂に連れて行き、俺の服を脱がせたあと──自分も服を脱ぎ始めた
慌てて目を逸らす。30歳は過ぎているはずなのに、しわや、たるみが全くない、ボンキュッボンな体をしていた
これは母親、これは母親と自分に暗示をかけるが、興奮してしまい顔が熱い
子供だったのが幸いし、息子は勃たなかった
風呂から上がり、寝巻きに着替えると一直線に部屋へ向かい布団に入る
美人なお姉さんに体を洗われたせいか、頭に血が上って意識が朦朧とする
父が帰ったあと、食事をとって寝た
今日は精神的にも肉体的にも、参ってしまった