奴隷競売会
お待たせしました
奴隷競売会当日。俺は今日のためにしっかり二日間休養をとった
今日失敗したらシャレにならないからな
競売会が始まるのは10時からだが、早めにスタンバイしておくに越したことはない。備えあればなんとか
貴族街に入るためには、入口で手続きを踏まなければいけないのだが、そこで誰かが言い争う声が聞こえてきた
ん?なんだ?
「だーかーらー、今日は貴族街には平民は立ち入りできないんだって!」
「だーかーらー、俺は客だって言ってんだよ!客!」
「だーかーらー、あんた貴族じゃないでしょーが!」
さっきから、だーかーらーしか聞こえてこないな。なに?喉渇いたの?
「というかこの声聞いたことあるような……」
野次馬を押しのけて門番君と言い争っている人物とは
「なんでここにいるのトーマスさん」
ミーリの父親、トーマスさんだった
俺の声に気づいて振り向くトーマスさん
「おお、ソーヤ!何日ぶりだ?」
「8日。ていうかほんとなんでここにいるの?」
「そんなの決まっているだろう。ミーリを助けに来たんだよ」
腕を組み、トーマスさんは憎々しげに門番を睨みつける
「なのにこいつが通してくれんのだ」
「あーはいはい事情はわかりましたから、とりあえずこっちに」
「あ、おい待て──」
俺は問答無用でトーマスさんを引きずりながら宿に戻った
「俺に任せてって言いましたよね?そんなに信用ありませんか、俺」
「しかしだなぁ、居ても立っても居られなくてだな……」
申し訳なさそうに項垂れるトーマスさん。まあ、わからなくもないけどね
「いいですか?後のことは俺に任せて、トーマスさんはここにいてください。絶対に連れ帰ってきますから」
「しかし……いや、わかった」
俺はトーマスさんを置いて、また貴族街入口に向かう
しっかし、知らなかった。まさか競売会の日は貴族街に平民立ち入り禁止とは。べつに俺は跳んで侵入できるし問題ないか
今日はマントのしたにはレザーアーマーとロングソードを装備している
ひらりと貴族街に侵入し、家などの屋根をつたって大広場に向かう
ステージにはすでに奴隷の入れられた檻が置かれていて、広場にいる貴族たちが奴隷を眺めていた
ゴミどもが
俺は屋根の上から大広場の様子を観察していた
思ったよりも私兵の数が多いな
雇い主1人につき護衛1人と思っていたが、この様子だと1人につき10人ほど護衛いるんでねーの?
すると、1人の男がステージ上に現れた
「皆様!お静かに‼︎」
しん、と静まり返った。競売会が始まる
「お待たせしました。年に4度の奴隷競売会。ルールは例年通りとなっております。少々時間が押しておりますので、早速始めさせていただきます」
ふむ、あいつが司会か
「まずは、ゴドリー氏が出品された奴隷たちです。おい、連れてこい」
ステージの傍に控えていた兵が檻から男3人女2人を引っ張り出す
五人とも首にゴドリーと書かれた札を下げている
「右から順に23、22、24、25、22歳と若手ぞろいです。働きてにいかがでしょうか、女なら夜伽の相手にでも……。ではまず右端の23の男!底値は200イークス!」
底値が発表され、貴族たちが210、220と値をつけていく
「350イークスより高値をつける方いませんか?……はい、では350イークスで落札となります!お名前は?」
ルドルフだ、と23の男を購入した貴族が言うと、兵がその男にかけられた札を裏返し、ルドルフと書き込んでステージ左の檻にいれた
「さて、次は22の男です!底値は先ほどと同じ200イークスから!」
210、220と値が上がっていく
んー、1デリムが100円だとして、1ケトム1000円、1イークスだと……20万ってとこか。ってことは、200イークスは……4百万⁉︎この世界では高いのか?安いのか?4百万
結局この男も次の男も350イークスで落札となった。女は25歳が底値350イークスで、600イークスで落札。22歳のほうは700イークスで落札となり、ゴドリーの出品した奴隷は全て落札された
「さて、いきなり今回の目玉!毎度毎度素晴らしい品揃えのネバドル氏の奴隷たちです!」
連れて来られた奴隷は三人とも女だった。そしてその中の一人に、赤髪の少女、ミーリがいた。ミーリは目に涙を浮かべていた
他の二人も特徴的だった。一人は、着物姿に黒髪、顔のパーツは完璧としか言いようのない配置だった。もう一人は、こちらも整った顔立ちをしていて、服装が若草色のコルセットにこげ茶の短パン、茶色の長い髪はそのまま流すように垂らしていて……耳がとがっていた
おいおいエルフなんで捕まってんねん。つか、あれ日本人だよね日本人
「まずはこちらの遥か東の島国から連れてきた倭国人から!21歳だそうです。どうですこの美しい顔立ちにキモノなる物の上からでもわかる発育のいい体!底値は2000イークスです!」
貴族たちはその倭国人の美貌に見惚れ、いっときの静寂が訪れ──爆発した
俺は2100だすぞ!わしは2500じゃ!俺は3000! 貴族たちものすごい形相である
「50000だ‼︎」
シーンと辺りが静まり返る
50000……100億⁉︎
「えーと、50000イークスより高値をつける方〜いらっしゃいますでしょうか……では50000イークスで落札となります」
すると、兵が司会に落札者の名前を聞いた、瞬間司会は兵に殴りかかった
「お前は馬鹿か!七貴族の方の顔と名前を覚えろと言ったろうが!レチェリー公爵様だ!」
す、すみませんと頭を下げて、倭国人の女性の札にレチェリーと書き記す
「た、大変御無礼をおかけしました!申し訳ありません!」
司会が地に頭をつけ謝罪する
「よい。はやく進めろ」
レチェリー公とはどんな奴だろうと司会の視線の先を見ると──
そこには、奴隷を鞭で打ちまくっていたあのデップリ太った男がいた
あいつがレチェリーだったのか
「そ、それでは次に参ります。とある農村からやってきました赤髪の妖精!歳はなんと4歳!可愛らしいですねぇ。将来美人間違いなし!まぁ、今楽しまれてもいいんですけどね。それでは!底値は1000──」
「50000だそう」
司会が底値を言い終える前に、レチェリーが値をつけた
「──50000イークスで落札です」
兵が札にレチェリーと書こうとミーリに近づく。ミーリはすでに泣いている
ここだな
一昨日買っておいた白いターバンを頭に巻き俺は立ち上がり叫ぶ
「待て!」
皆の動きが止まり、誰が言ったのかとキョロキョロと見回している
「おい、あそこ!」
誰かが叫び、大広場にいる全員の視線が屋根の上にいる俺の元へと集まる
「落札者の名前は……そうだな、勇者とでも書いてもらおうか」
「貴様、何者だ」
「お前は確か……チェリーだったかな?」
「お前!レチェリー公に向かってなんという口のきき方だ!」
レチェリーは叫ぶ司会を視線だけで黙らせ、再び俺の方へと向き直る
「顔を見せぬ勇者というのは始めてみたぞ。して、貴様は何をしにきたのだ?」
「決まっているだろう。無理矢理連れて来られた哀れな奴隷達を助け出しに来たのだ」
つい、奴隷達、と言ってしまった。いいさ、全員たすけてやらぁ
「おお、そいつは凄いな。だが──」
レチェリーはニヤリと下卑た笑みを浮かべる
「死んでしまっては救出できまい」
カチャっという音が背後でなった
振り返ると、一人の男が抜剣して今にも俺を斬り殺そうとしていた
「無駄だ!」
空気の腕をつくり、男を掴む
「な、なんだぁ?」
間抜けな声をだす男を無視してまた大広場に向き直る
「見てのとおり、俺は魔法も使える。謝るなら今のうちだ。奴隷達を置いてさっさと大広場から失せろ!」
大広場にざわめきがはしる
「おい見たか?杖がなかったぞ」
「杖どころか呪文さえも……」
ん?なんのことだ
「これはこれは、驚きましたな。勇者殿はエルフだったとは」
完全なエルフじゃないがな
「ふん。種族など関係ない。今すぐ奴隷達を置いて失せろ」
くっくっく、とレチェリー公は笑う
「勇者殿、いくら魔法が使えようと、この数の兵には敵いますまい」
いつの間にかレチェリー公を含んだ7人の以外の貴族は逃げていた
そのかわり、おびただしい数の私兵が俺を睨みつけている
ふむ、あの6人が残りの七貴族か
「誰も否定しないということは、これがこのサルベスを治める七貴族の意見ということで良いのだな?」
「無論だ。貴様のような奴に我々七貴族は屈せぬ」
筋肉隆々の無精髭を生やした男が答える
それにガリガリに痩せている男が続く
「お前のやっていることは偽善だ。弱いものは強いものに喰われる。それがこの世界のルールだ」
さらに、隣にいたロン毛が口を開いた
「それに、いくらあなたが強くても、私たちの私兵には敵わないわ。数こそ力なのよ」
なにこいつ、オネエかよ、キモッ
「そういうことだ。もしこの私兵を払いのけられるというのなら、そこから降りてきたまえ」
どうせ無理だろう?と付け加えるレチェリー
「いいだろう」
空気の腕で掴んでいた男を放り投げ、俺は屋根から飛び降りた
「これは警告だ。死にたくない奴は今すぐ退け。退かないのなら、命の保証はない。ここから先に、凡人の立ち入る余地はない」
警告はした
「ふん、とんだ虚言を。お前ら、やれ」
レチェリーの命令を受け、私兵達が一斉に俺に向かって突っ込んでくる
俺は不敵な笑みを浮かべ、宣言する
「救って見せるさ。俺は天才だからな」
そう、俺は天才で──勇者なのだ
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