情報収集
お待たせしました
冷たい夜風に身を震わせながら、俺は奴隷街へ足を運ぶ
奴隷たちに情報を聞くためだ
しばらく進み、奴隷街の入口が見えてきた
あそこには勝手に出入りできないように鉄の門と、その前に門番が2人立っているはずだ
俺は足元に空気を圧縮して球をつくる
それを思い切り踏みつけ破裂させ、その勢いで高く飛び上がる
アニメで得た知識は、こういう状況だととても役に立つ
俺は放物線を描きながら門の遥か上を通り越し、見事奴隷街へ侵入した
着地するときも、同じ要領で空気の球をつくり、それで自身を受け止める
ちょろいな
周りを見渡す。あるのは何棟かの石造りの長屋だった
とりあえずその中の一軒の扉を開ける。鍵はかかっていなかった
中には、床に直接引かれた布の上に薄い毛布をかぶって寝ている男が2人いた
2人の足には枷がついていて、そこから伸びる鎖を目で辿ると、部屋の端にある鉄杭に辿り着いた
音をたてないようにして中に入る。そして、片方の男を起こす
何回か頬を軽く叩いていると、目を覚ました
俺を見るなりすぐに跳ね起きて土下座をした
「な、何事でございますか」
「そんなことしないで。俺は貴族じゃない。あなたを傷つけにきたわけじゃない」
男は恐る恐る顔を上げ、俺の表情をうかがって尋ねる
「それでは、あなたはいったい?」
「俺は旅人だ。少し話を聞きたい」
男は、土下座はやめたが正座のまま俺に向き合う
「そうでしたか。ここにいるということは、レジネス公爵の御親族かご友人?」
「俺は貴族じゃないし、レジネスなんて友達もいない」
「ではどうやってここまできたのですか?」
「普通に不法侵入」
「な、ななな、なんてことをっ!」
男は目を見開いて口をパクパクさせている
いきなり俺に飛びかかり襟首を持ち俺を揺さぶる
「あなたはご自分が何をしたのかわかっているのですか⁉︎ここは貴族の国ですよ?貴族に逆らうとどうなるかわかっているのですか?」
「痛いし目が回るからやめてってば」
男は俺を揺さぶるのをやめた
「聞きたいことがある。この国の代表の貴族のことと、奴隷競売会のことだ。頼む」
男は居住まいを正し、語り始めた
「この国を治めているのは七人の貴族です。七人の名前は、エアガンス公、ジェルシー公、レイジ公、レジネス公、グリード公、グラトニー公、レチェリー公。彼らが先頭に立ってこの国を治めています」
なるほど
「奴隷競売会のこととは、どんなことを話せばよろしいのですか?」
「行われる場所と、その時の奴隷の場所を」
「行われるのは貴族街の中心にある大広場です。あそこにはステージがありまして、そのステージの右側にまだ売られていない奴隷が入れられる檻が置かれます。そして、順番に檻からだされて競りにかけられます。そして、落札したら、その購入した貴族の名前が書かれた札を下げさせられ、左にある檻へと移されます」
男は居住まいを正し、また話し始めた
「そして、全員買われたところで、買った貴族へと引き渡しが行われます。その時にお金が払われます。それと、言い忘れていましたが、広場のあちこちに貴族の私兵が配置されていますよ」
「わかったよ。辛いことを聞いたかもしれない。すまなかった」
男に礼をいって、俺はその部屋からでた
敵の親玉の名前と競売会が行われる場所は抑えた
あとはどうやって助け出すか、だ
考えながらウロウロと奴隷街をうろつく。たまに長屋の一軒を覗いたりするのだが、どこもかしこも男ばかり。いや、邪な考えはないよ?
「ん?あれは…」
見つけたのは、広場に止められた数十台の馬車だ
窓のない馬車。間違いない
俺は駆け出して馬車に近づこうとして、気づいた。 御者台に人がいる
慌てて忍び足にして、こっそり近づく
御者台で何枚もの毛布をかぶって寝ているのは見張りだろうか
まったく見張れていない。熟睡中だ
馬車の扉に向かうと、何重もの鍵をかけられていた。南京錠に鎖に鍵に閂と、よりどりみどりだ
魔法を使っても、御者台にいる奴にバレない保証は無い
残念だが今は助けられないよ
心の中で呟いて、俺は門へ向かう
入った時と同じ要領で奴隷街から脱出し、宿に戻る
途中すれ違ったメイドさんにホットミルクを注文して部屋に戻る
届いたホットミルクを飲みながら、作戦を考える。
とりあえずは明日貴族街の大広場を見てみなければ細かいところまでは組めないな
ホットミルクを飲み干してからもう一度シャワーを浴びて俺は寝た
* * * *
今日もパンとミルクで朝食をすませて、貴族街へ向かう
貴族街はここサルベスで1番広い街で、その中には住宅地区、ショッピング地区、ホテル地区に夜のアレ地区などがある
その中心にあるのが、ここ大広場。名称「貴族のへそ」
名前の意味にそこまで深い意味はないらしい
ここは周りを建物で囲まれていて、確かに広場の奥にはステージがあった
大広場に繋がった道を脱出ルートにするなら、逃げ道は4つ
広場に面している建物を使えば楽に逃げられるのだろうが、それはミーリ1人を助けた場合だ
だが、目の前にたくさんの奴隷がいる中、ミーリだけを助けるなんてのは少し気が引ける
というか、全員助けるだろ勇者なら
てなわけで、奴隷を解放するには、貴族の排除しかない
まあ、その七人の貴族を脅して奴隷を解放させるのも一案だ
できるだけ犠牲は出したくないので、やはり七貴族の1人を人質にとって奴隷を解放させようそうしよう
……
こういうことしたことないから、よくわかんない
そんなアニメやマンガの主人公みたいにすごい作戦なんかたてられるわけがない
天才科学者でも、科学以外のことはまったくわからない。分野が違うから
てなわけでだ。
結局、アニメやマンガの主人公みたいに行き当たりばったりでいいんじゃね?
とりあえず被害は極力少なめに、ということで
やろうと思えば、檻を守ってその周りにいる貴族全員を殺すことだってできるのだし
無闇な殺生は嫌いだが、そんな目にあっても仕方のない生き方をしている奴らだ
昨日の光景が脳裏に浮かぶ。醜い身体を豪勢に着飾った男が、奴隷を鞭打つ光景が
「──あんなやつらに生きる資格なんてない……」
作戦?そんなもの必要ない。どれほどの被害が出ようとも、俺はミーリを助ける
* * * *
そのあと憂さ晴らしに闘技場に向かう。さっきから昨日の光景が脳裏に浮かんで消えないのだ
ダイア・ウルフと対峙し、俺は能力強化を使う
それから大地を蹴って一気に距離を詰め、次々に攻撃を繰り出す
一撃一撃に貴族への怒りを込めてロングソードを振るう
10匹倒し、のこり半分となった
「くそっ、くそっ。人間が人間を物のように扱うだと?」
飛びかかってきたダイア・ウルフを横薙ぎに切り払う
「ふざけるな、人の命をなんだと思ってやがる!」
足に噛み付いてきたやつの首根っこを掴み、骨をへし折る。傷はすぐ治った
「お前らだってそうだ!なんで人間を襲うんだ!俺たちはなんもしてねーだろうが!」
さらに2匹を殺す
「……わかってんだよ。俺の言い分が矛盾してることくらい。理不尽なこと言ってることくらい。もう頭の中がぐちゃぐちゃだよ…」
俺だって今まさに魔物を物のようにあっさりと殺しているではないか
そして、貴族が金で奴隷を買うように、俺も魔物を殺して金を手に入れているではないか
ぐらぐらと、俺の視界が揺れる
この異世界で、俺のもといた世界の常識は通用しない
俺は何を考えている?
命とは尊いものであり、それは魔物の命であっても同じはずだ──
異世界にきてから7年。ここまできて俺の中の命の定義が崩れて行く──
かき混ぜられぐちゃぐちゃになった思考の中、俺は葛藤する
そして俺は決意する
「謝るよ。お前らを殺すこと。だけど俺は人間だ。なんでお前ら魔物が人間を襲うのかは知らない。だけどさ。お前らが人間を襲う限り、俺はお前ら魔物を殺すよ」
ロングソードを構え、俺は謝罪する
「ごめんな」
残ったダイア・ウルフをロングソードで瞬く間に切り裂く。痛みはなかったはずだ
「…たけど、貴族はどうだ?奴隷は貴族に何か危害を加えたのか?」
ロングソードをしまいながら俺は呟く
また脳裏にあの光景が浮かぶ
あいつら貴族は、命をなんだと思っているのだろうか
俺の心の靄はまだ晴れない
宿に戻り、風呂に入る
浴槽に張られた湯の水面を眺めながらぼーっとする
「カナリア、今頃なにしてるのかなぁ」
はい。よくわかりません。自分でも、ソーヤの心情を描写している途中からよくわからなくなりました
作家としてまだまだですね




