資金調達
頭が割れるような頭痛に見舞われ目が覚めた
外はまだ暗い。部屋に差し込む光は月光だろう
「痛い、痛い痛い痛い!」
ベッドの上でのたうちまわる俺
なんなんだこれは
時間が経つに連れ、痛みは全身に広がっていく。成長痛の10倍痛い
痛みに耐えきれず、俺の意識が飛んだ
気がつくと、夜は明け日が昇っていた
「なんだったんだ…?」
顔を洗いに洗面所に向かい、鏡を見ると、俺の耳がすこし尖っていた
「あれ?なんか尖ってないか?これ」
撫でたり触ったり引っ張ったりして確認する。うん、夢じゃないな
どうやら意外と早くエルフ化してきたらしい
この世界はなんでもありだな
食事はパンと牛乳で済ませた。メイドさんは俺の耳を見て、首をかしげたが聞いては来なかった
問題はここで起きた
お金が、あと4日間ここで暮らせるだけのお金がないのだ
思った以上に消費が激しく、明後日には底を突くだろう
というわけで、情報収集&資金調達である
受け付けに立っている従業員に聞いてみる
「そうですね。お客様が背負ってらっしゃるものから伺うに、それなりに腕が立たれるのでは?」
「まあ、それなりに」
「でしたら、貴族街と奴隷街との境目にある闘技場などどうでしょうか」
「闘技場…ですか」
「はい。魔物と闘い、勝利すればそれなりに賞金も手に入りますので」
賞金かぁ。まともに働くよりは楽そうだな
道を聞いて、俺は宿を出た
闘技場まで行くには、貴族街を通った方が近いので、貴族街へとむかったのだが、そこでもまた手続きを踏まなければ貴族街には入れなかった。めんどくさっ
闘技場は、ローマのコロッセオのような形をしていて、いかにもといった感じだった
受け付けで、参加の手続きをする。これで死んでも自己責任です。みたいな誓約書を書かされた
「ソーヤ様ですね。それではソーヤ様、敵のレベルが選べます。レベル1が、ゴブリン10匹。レベル2はダイア・ウルフ20匹。レベル3がゴブリン・ロード1匹とボブゴブリン5匹。ここから格段に敵の強さが上がりますが、どうなさいますか?」
「レベル4の相手は…?」
「トロルです」
「3でお願いします」
トロル⁉︎なんで急にレベル上がるの?
「承りました。それでは控え室へどうぞ」
控え室で出番を待つ
「普段は誰が闘ってんだろう。俺は飛び入り参加扱いだったし…」
5分ほど待つと、出入り口から体全体を鎧に包んだ人が入ってきた
「おい、お前。次はお前の番だぞ」
案内されて、ドームへと向かう
ドームは歓声に満たされており、観客もたくさんいた。あれの半分以上は貴族らしい
目の前の出入り口からは、ボブゴブリン5匹とゴブリン・ロード1匹がでてくる。ボブゴブリンの武器はメイス、ゴブリン・ロードはショートブレードだ
出てきたということは、試合は始まっているということか?
前列にいる2匹が先制攻撃してくる
コボルトより速いな
一気に俺との間合いを詰めてくる
俺も駆け出し間合いを詰める。すれ違いざまにロングソードで一撃をいれ、1匹の右腕を切り落とす
「ギルルッ!ニンゲンメ!コロス、コロスゾツ。ギルルル!」
ボブゴブリンって喋れるのかよ
片腕を無くしたボブゴブリンは傷口を抑えて倒れた。時期に死ぬだろう
「ギルッギルルル!」
今度は残りの3匹も合わさり、4匹で攻撃してきた
手数で押すつもりのようで、攻撃するごとにスイッチするヒット&アウェイ戦法を使ってくる
しかも、それぞれ違う方向から攻撃してくるので、防戦一方になってしまう
このままじゃもたないな。しゃあない、使うか
能力強化。マナをつかい身体能力を無理やり上昇させる俺の奥義だ
もって5分といったところか
「いくぞっ!」
ボブゴブリンがスイッチした瞬間、退く奴に向かって突進する
身体能力が上昇している俺の動きは、さっきより格段に速い
体当たりして吹っ飛ばした奴にロングソードを突き刺す
「ギルルルルァ!」
「残り3匹ッ!」
別のボブゴブリンに狙いを定めてロングソードを投げつける
飛んできたロングソードを受け止めようとメイスを構えたはいいが、ロングソードはメイスを砕き敵の体を貫く
「残り2匹ッ!」
死体へ駆け寄りロングソードを引き抜く
「ギルルルルルッギルッギルルル!」
ようやくゴブリン・ロードが敵に加わる
あと3匹か
ボブゴブリン2匹が二手に分かれ、俺の左右から同時に攻撃してきた。さらに前方からはショートブレードを掲げてゴブリン・ロードが迫ってくる
ここは後ろに避ければいいのだが──そんなんじゃつまんねぇよな
3匹が俺のロングソードの届く範囲に入ったのを見計らい、その場で回転斬りを放つ
ズバババッと3匹同時に切り裂いたとき、観客席から歓声が響く
弾き飛ばされた3匹のうち、ボブゴブリン1匹はぐったりと横たわり動かない
残念ながら、ゴブリン・ロードとボブゴブリン1匹は仕留め損なった
「ヨクモ、ヨクモッ。ギルルル、ニンゲンメ、ニンゲンメッ」
「黙れッ、先に人間に手を出したのはお前らだろうが!」
この闘技場は昔、貴族が雇っている私兵達を闘わせていたという。しかし、魔物が獰猛化し、国を襲ってくるようになってからは、その襲ってきた魔物を生け捕りにし、私兵と捕らえた魔物を闘わせるようにしたらしい
つまり、この闘技場にいる魔物は全て、ここサルベスを襲ってきた魔物なのだ
唇に生暖かいものが流れてくる。鼻血だ
そろそろ終わらせてやる
「うおおおおお!」
雄叫びをあげ、ボブゴブリンに斬りかかる
メイスとロングソードが重なり合う
「こんのっ!」
押し切りメイスを弾き飛ばす。返す刀で斬り上げを放つ
体を真っ二つに裂かれ、ボブゴブリンは絶命した
「ほらほらっ!あと1匹!」
「コロス」
大地を蹴り、ゴブリン・ロードに向かって突進する
ゴブリン・ロードに叩きつけた斬撃は、奴のショートブレードに阻まれる
剣と剣が重なり合い、摩擦音が響く
「おらっ」
蹴りをいれ、ゴブリン・ロードを吹っ飛ばす
尻餅をついたゴブリン・ロードへ飛びかかり、上段からロングソードを振り下ろす
「ギルルルルァァァァ‼︎」
その醜悪な顔を切り裂かれ、断末魔をあげる
ゴブリン・ロードの体から力が抜け、地に倒れ伏せた
ドーム内は歓声に包まれた
* * * *
賞金1イークスを手に入れた俺は、上機嫌で帰途についた
貴族街を見物しながらのんびり帰る
どこもかしこも高級住宅。すごいな
「ん?」
怒鳴り声と、何かを打ち鳴らす音が聞こえてきた
「なんだなんだ?」
すぐ近くの道を音のする方へ曲がる
そこでは、全身を着飾ったデップリと太った男が、地面に土下座する5人のボロボロの服を着た男たちを鞭で打っていた
「何度言ったらわかるのだっ!この辺で我が愛するキューティーちゃんがいなくなったのだ!見つからないわけないだろうがっ!いいか!日が落ちるまでに見つけ出せ!さもなくば貴様ら全員殺すぞ!」
怒声を浴びせながら男たちを交互に鞭で打っている
思わず斬りかかりそうになるのをぐっと堪える
ここで騒ぎを起こしたら、奴隷競売会が中止になるかもしれない。自己中心的な貴族なので、競売会が中止になることはないだろう。しかし、わずかな確率だとしても、競売会が中止になる可能性があるのなら、ここは堪えるべきだ
もし競売会が中止になったら、ミーリの行方が分からなくなる。それだけは避けねば
「ごめんなさい…」
小さい声で謝罪し、俺はそこを後にした
宿に戻り、風呂に入る
「くぁ〜、極楽極楽」
そうは言いながらも、俺の脳内にはさっきの光景がずっと映し出されていた
「くそっ!」
水面を叩く
風呂から上がり、バスローブではなく平服を着る
「この服、そろそろ小さいな」
戦闘にはならないと思うので、レザーアーマーは着けず、マントを羽織る
宿から出て、俺は奴隷街へ向かう
1話1話が短かいと友人からクレームが来ますが、これも僕の個性かなと割り切っております
誤字脱字、おかしな文のご指摘承ります




