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異世界で勇者になる  作者: 風美 佑
奴隷奪還編
20/26

資金調達

頭が割れるような頭痛に見舞われ目が覚めた


外はまだ暗い。部屋に差し込む光は月光だろう


「痛い、痛い痛い痛い!」


ベッドの上でのたうちまわる俺


なんなんだこれは


時間が経つに連れ、痛みは全身に広がっていく。成長痛の10倍痛い


痛みに耐えきれず、俺の意識が飛んだ


気がつくと、夜は明け日が昇っていた


「なんだったんだ…?」


顔を洗いに洗面所に向かい、鏡を見ると、俺の耳がすこし尖っていた


「あれ?なんか尖ってないか?これ」


撫でたり触ったり引っ張ったりして確認する。うん、夢じゃないな


どうやら意外と早くエルフ化してきたらしい


この世界はなんでもありだな


食事はパンと牛乳で済ませた。メイドさんは俺の耳を見て、首をかしげたが聞いては来なかった


問題はここで起きた


お金が、あと4日間ここで暮らせるだけのお金がないのだ


思った以上に消費が激しく、明後日には底を突くだろう



というわけで、情報収集&資金調達である


受け付けに立っている従業員に聞いてみる


「そうですね。お客様が背負ってらっしゃるものから伺うに、それなりに腕が立たれるのでは?」


「まあ、それなりに」


「でしたら、貴族街と奴隷街との境目にある闘技場などどうでしょうか」


「闘技場…ですか」


「はい。魔物と闘い、勝利すればそれなりに賞金も手に入りますので」


賞金かぁ。まともに働くよりは楽そうだな


道を聞いて、俺は宿を出た



闘技場まで行くには、貴族街を通った方が近いので、貴族街へとむかったのだが、そこでもまた手続きを踏まなければ貴族街には入れなかった。めんどくさっ


闘技場は、ローマのコロッセオのような形をしていて、いかにもといった感じだった



受け付けで、参加の手続きをする。これで死んでも自己責任です。みたいな誓約書を書かされた


「ソーヤ様ですね。それではソーヤ様、敵のレベルが選べます。レベル1が、ゴブリン10匹。レベル2はダイア・ウルフ20匹。レベル3がゴブリン・ロード1匹とボブゴブリン5匹。ここから格段に敵の強さが上がりますが、どうなさいますか?」


「レベル4の相手は…?」


「トロルです」


「3でお願いします」


トロル⁉︎なんで急にレベル上がるの?


「承りました。それでは控え室へどうぞ」


控え室で出番を待つ


「普段は誰が闘ってんだろう。俺は飛び入り参加扱いだったし…」


5分ほど待つと、出入り口から体全体を鎧に包んだ人が入ってきた


「おい、お前。次はお前の番だぞ」


案内されて、ドームへと向かう


ドームは歓声に満たされており、観客もたくさんいた。あれの半分以上は貴族らしい


目の前の出入り口からは、ボブゴブリン5匹とゴブリン・ロード1匹がでてくる。ボブゴブリンの武器はメイス、ゴブリン・ロードはショートブレードだ


出てきたということは、試合は始まっているということか?


前列にいる2匹が先制攻撃してくる


コボルトより速いな


一気に俺との間合いを詰めてくる


俺も駆け出し間合いを詰める。すれ違いざまにロングソードで一撃をいれ、1匹の右腕を切り落とす


「ギルルッ!ニンゲンメ!コロス、コロスゾツ。ギルルル!」


ボブゴブリンって喋れるのかよ


片腕を無くしたボブゴブリンは傷口を抑えて倒れた。時期に死ぬだろう


「ギルッギルルル!」


今度は残りの3匹も合わさり、4匹で攻撃してきた


手数で押すつもりのようで、攻撃するごとにスイッチするヒット&アウェイ戦法を使ってくる


しかも、それぞれ違う方向から攻撃してくるので、防戦一方になってしまう


このままじゃもたないな。しゃあない、使うか


能力強化アビリティオーバーライド。マナをつかい身体能力を無理やり上昇させる俺の奥義だ


もって5分といったところか


「いくぞっ!」


ボブゴブリンがスイッチした瞬間、退く奴に向かって突進する


身体能力が上昇している俺の動きは、さっきより格段に速い


体当たりして吹っ飛ばした奴にロングソードを突き刺す


「ギルルルルァ!」


「残り3匹ッ!」


別のボブゴブリンに狙いを定めてロングソードを投げつける


飛んできたロングソードを受け止めようとメイスを構えたはいいが、ロングソードはメイスを砕き敵の体を貫く


「残り2匹ッ!」


死体へ駆け寄りロングソードを引き抜く


「ギルルルルルッギルッギルルル!」


ようやくゴブリン・ロードが敵に加わる


あと3匹か


ボブゴブリン2匹が二手に分かれ、俺の左右から同時に攻撃してきた。さらに前方からはショートブレードを掲げてゴブリン・ロードが迫ってくる


ここは後ろに避ければいいのだが──そんなんじゃつまんねぇよな


3匹が俺のロングソードの届く範囲に入ったのを見計らい、その場で回転斬りを放つ


ズバババッと3匹同時に切り裂いたとき、観客席から歓声が響く


弾き飛ばされた3匹のうち、ボブゴブリン1匹はぐったりと横たわり動かない


残念ながら、ゴブリン・ロードとボブゴブリン1匹は仕留め損なった


「ヨクモ、ヨクモッ。ギルルル、ニンゲンメ、ニンゲンメッ」


「黙れッ、先に人間に手を出したのはお前らだろうが!」


この闘技場は昔、貴族が雇っている私兵達を闘わせていたという。しかし、魔物が獰猛化し、国を襲ってくるようになってからは、その襲ってきた魔物を生け捕りにし、私兵と捕らえた魔物を闘わせるようにしたらしい


つまり、この闘技場にいる魔物は全て、ここサルベスを襲ってきた魔物なのだ


唇に生暖かいものが流れてくる。鼻血だ


そろそろ終わらせてやる


「うおおおおお!」


雄叫びをあげ、ボブゴブリンに斬りかかる


メイスとロングソードが重なり合う


「こんのっ!」


押し切りメイスを弾き飛ばす。返す刀で斬り上げを放つ


体を真っ二つに裂かれ、ボブゴブリンは絶命した


「ほらほらっ!あと1匹!」


「コロス」


大地を蹴り、ゴブリン・ロードに向かって突進する


ゴブリン・ロードに叩きつけた斬撃は、奴のショートブレードに阻まれる


剣と剣が重なり合い、摩擦音が響く


「おらっ」


蹴りをいれ、ゴブリン・ロードを吹っ飛ばす


尻餅をついたゴブリン・ロードへ飛びかかり、上段からロングソードを振り下ろす


「ギルルルルァァァァ‼︎」


その醜悪な顔を切り裂かれ、断末魔をあげる


ゴブリン・ロードの体から力が抜け、地に倒れ伏せた


ドーム内は歓声に包まれた



* * * *


賞金1イークスを手に入れた俺は、上機嫌で帰途についた


貴族街を見物しながらのんびり帰る


どこもかしこも高級住宅。すごいな


「ん?」


怒鳴り声と、何かを打ち鳴らす音が聞こえてきた


「なんだなんだ?」


すぐ近くの道を音のする方へ曲がる


そこでは、全身を着飾ったデップリと太った男が、地面に土下座する5人のボロボロの服を着た男たちを鞭で打っていた


「何度言ったらわかるのだっ!この辺で我が愛するキューティーちゃんがいなくなったのだ!見つからないわけないだろうがっ!いいか!日が落ちるまでに見つけ出せ!さもなくば貴様ら全員殺すぞ!」


怒声を浴びせながら男たちを交互に鞭で打っている


思わず斬りかかりそうになるのをぐっと堪える


ここで騒ぎを起こしたら、奴隷競売会が中止になるかもしれない。自己中心的な貴族なので、競売会が中止になることはないだろう。しかし、わずかな確率だとしても、競売会が中止になる可能性があるのなら、ここは堪えるべきだ


もし競売会が中止になったら、ミーリの行方が分からなくなる。それだけは避けねば


「ごめんなさい…」


小さい声で謝罪し、俺はそこを後にした



宿に戻り、風呂に入る


「くぁ〜、極楽極楽」


そうは言いながらも、俺の脳内にはさっきの光景がずっと映し出されていた


「くそっ!」


水面を叩く


風呂から上がり、バスローブではなく平服を着る


「この服、そろそろ小さいな」


戦闘にはならないと思うので、レザーアーマーは着けず、マントを羽織る


宿から出て、俺は奴隷街へ向かう



1話1話が短かいと友人からクレームが来ますが、これも僕の個性かなと割り切っております


誤字脱字、おかしな文のご指摘承ります

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